され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第十一話 試しの谷

 第十一話 試しの谷

 

 真っ白な雲が俺の視界を覆い、俺は何も見えなかった。すぐ前を飛んでいるはずの父上様の姿すら、雲の切れ間に微かに見えると言う具合だった。

 いいところに連れて行ってやると言った父上様は、俺に飛行咒式を分け与えて空を飛んだ。そして飛行を開始して、すでに二時間が経過していた。

 

『父上様、どこに行かれるのですか!』

 俺は声のかぎりに叫んだ。

 

『なに、もうすぐつく』

 前から声が返ってくるが、父上様の言うことは信用できなかった。すでにこのやりとりは三度目である。そもそも俺は空を飛ぶのが初めてであり、上手く制御できない。それなのに父上様は視界の悪い雲の中を飛び、うっかりすれば逸れてしまいそうだった。

 

 一体どこに連れていくつもりなのかと、俺が再度叫びそうになったその時だった。

 長く続いていた雲が途切れ、外へと出ることができた。ようやくひらけた視界の先には、青い空を背景に幾つもの峰が連なる大山脈が聳えていた

 

 圧巻の光景に言葉もない俺に対し、父上様が山の麓に降下を開始する。俺が慌てて続くと、ひらけた山の麓には竜がいた。それも一頭や二頭ではない。何十頭もの竜が走り、寝そべり、そして飛んでいた。

 思い思いに過ごす竜たちに危機感は感じられず、誰もがのびのびと過ごしていた。ここはまさに竜の楽園であった。

 

『すごいです、父上様! あんなにたくさん竜がいます!』

 俺の声は弾んだ。俺はこれまで両親以外の竜を見ることがほとんどなかった。たまに両親の元に訪れてくる竜がいるが、それも数えるほどしかなかったからだ。

 父上様が山の麓に降り立ち、俺もその隣に着陸する。すると父上様は聳える山脈に向かって深々と頭を下げた。

 

『お前も同じように頭を下げよ』

 父上様が厳かに言うので、俺も言葉通りに従って山脈に向かい頭を下げる。

 

『あの山にはな、我らが主である白銀龍がおわす』

 頭をあげた父上様が、大山脈を見上げながら教えてくれる。その話を聞き、俺はなるほどと頷いた。ここにたくさんの竜がいるのは、白銀龍ギ・ナランハのお膝元であるからだ。

 

『さて、ついてこい』

 父上様が山裾の森を歩いていく。俺はついていくと森が途切れ、岩肌が剥き出しの荒地が見えてきた。さらに進むと大きな谷が見えてくる。

 

 谷の上には何十頭もの竜が屯していた。全て雌の竜だった。ただし年齢はまちまちで、体の大きさから見て百歳ほどから五百歳ほどの竜だ。彼女たちは思い思いに座り込み、谷底を見下ろしている。

 

 何を見ているのかと俺も見下ろすと、谷底にも多くの竜がいた。こちらは全て雄だ。若い竜が多く百歳から三百歳ぐらいの竜ばかりだった。

 

 谷底にいる雄の竜たちは、三つほどのグループに分かれていた。竜たちの大きさが大体揃っているので、年齢で分かれているのだろう。

 何をしているのかと見てみると、竜たちの中には取っ組み合いの喧嘩をしているものもいた。周りにいる竜たちは喧嘩を止めようとはせず、周囲を取り囲むように観戦している。

 

『ここは試しの谷と呼ばれている。いくぞ』

 父上様が斜面を下り谷底へと降りていく。俺もそれについて行った。谷底に降りた父上様は、一番若いグループに向かっていく。この中では一番小さい竜が集まる場所だが、それでも体長二十メルトルを超えており、どの竜も俺より一回り大きい。

 竜たちはやってきた俺たちを気にもせず、取っ組み合いをする竜に視線を注ぐ。俺も見ると、緑色の鱗をした竜と、白い鱗の竜が互いに咆哮をあげて威嚇しあっている。

 

 睨み合う二頭の竜たち。最初に動いたのは緑竜だった。白竜に飛びかかり牙をむく。対する白竜は身を伏せて牙を回避すると頭を勢いよく上げて回避した緑竜の顎に頭突きをする。

 頭突きを受けて体勢を崩した緑竜に、白竜が突進する。緑竜は倒れそうになるもなんとか踏みとどまり、白竜の体に手をかけ逆に倒そうとする。二頭の竜がせめぎ合い、骨が軋み筋肉が震える。

 

 観戦する俺も思わず手に力がこもる。

 先に根負けしたのは緑竜の方だった。白竜に押され後ろに倒れる。倒れた緑竜は起き上がろうとするも、白竜が体を押さえつけて首に噛み付く。

 

『まいった』

 緑竜が悲鳴のように叫ぶと、白竜は即座に口を離した。

 白竜は首を高らかに掲げ、勝利の咆哮をする。一方降参した緑竜は、起き上がると肩を落として下がっていく。

 

『父上様、これは……』

 俺はここで何が行われているのか、なんとなくわかってきた。

『うむ。これはな、力試しだ』

 父上様の答えに、俺はやはりと頷く。

 

 おそらくこうして若い竜同士が戦い合いあうことで、生き残る術を磨くと同時に集団での作法を覚えていく狙いがあるのだろう。

 

『力試しの場において、咒式の使用は禁止だ。己の力のみで戦うのが規則だ。いいな』

『お任せください。そもそも咒式が得意ではありませんから』

 俺は自信満々に頷く。五十を超えたが、俺がもっぱら使うのは〈剛鎖〉と〈斥盾〉だ。吐息もさほど得意ではない。むしろ力勝負は望むところだった。

 

『はぁ……まぁいい。そして勝敗だが、相手を倒して首に噛み付く。これで勝ちだ。首に噛み付けば相手は降参するから、その時はすぐに噛むのをやめろ。力試しはあくまで心身を鍛えるためのものだ、殺し合いではない。ここは白銀龍様のお膝元、同胞の血で汚すような真似はするな』

 父上様はきつく俺に言いつける。

 

『この地には十日ほど滞在する。俺は知り合いのところに顔を出すので、お前は好きにしろ。十日後に迎えにくる』

『食事はどうすれば?』

『ここから西に行けば獲物が豊富な森がある。白銀龍様の縄張りであるが、我々に開放してくださっている。腹が減ればそこで獲物をとれ』

 それだけ言うと、父上様は去っていった。

 

 




明日もお昼に投稿します
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