され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第十二話 黒竜との出会い
残された俺はどうしようかと思案する。まずは力試しをやってみたいが、対戦相手をどうするかが問題だった。俺が今いるグループは、百歳クラスの竜が集まっている。しかしどの竜も体調が二十メルトルを超えており、俺は周囲と比べて一回りも小さい。
明らかに年下と戦うとなると、対戦相手もやりにくかろう。同年代ぐらいの竜がいるといいのだが……。
俺はちょうどいい対戦相手を探したが、五十歳で力試しをするのは、なかなか少ないらしい。対戦相手が見つからず困っていると、うずくまる一頭の黒竜を見つけた。
黒竜は他にもいたが、その竜は鱗に艶があり何より佇まいに品があった。
俺の目はその黒竜に吸い寄せられた。なんともいえぬ貴賓もさることながら、竜の大きさが俺と同じだったからだ。
うずくまってはいるが、体の大きさ測るには問題はない。体長が十五・一九メルトルということはすぐにわかった。つまり年齢的に俺とほぼ同じということになる。怪我をしている様子はなく、対戦相手を待っている様子でもない。周りに誰もいないので、話を邪魔することもないだろう。
俺は黒竜に話しかけることにした。話したことのない相手だが、ここにいる竜の全てが俺にとっては初対面だ。
『やぁ』
俺は一頭で佇む黒竜に歩み寄った。俺が声をかけると、黒竜は目をギョロリと動かし、俺を捉える。
『いま話しかけてもいい?』
『……いいけど、見ない顔だね』
『ヨギストラという。今日初めてここにきたんだ』
『ふぅん』
黒竜は大して興味もなさげに声を返す。
俺は黒竜が名乗ることを期待したが、黒竜は名乗らなかった。これが竜の礼儀なのか、それとも黒竜が無礼なのかは、今の俺にはわからなかった。
『……ところで、今時間は空いている?』
『だったら何?』
黒竜の声はそっけない。もう俺に興味をなくしたみたいだ。
『年も近いみたいだし、力試しをしてみないかい?』
俺が対戦を申し込むと、黒竜は驚いたように目を丸めた。そして次の瞬間目を蛇のように細め口を歪ませて笑った。
『へぇ……いいよ。やろうじゃないか』
黒竜は笑みを浮かべながら、立ち上がった。俺はなんだか嫌な予感がした。だが自分から申し込んだものを、辞めるとは言えない。
『こっちが空いているから、そこでやろう』
黒竜が促すので、俺もついていく。
俺と黒竜が対峙すると、周りにいた竜たちが集まり始める。他の竜の戦いを観戦していた者まで加わり、何故か多くの注目を集める。
観戦する竜たちの視線は気になったが、俺が集中すべきは目の前の黒竜だった。気持ちを切り替え、相手を見据える。
黒竜は気負いもなく、首を曲げてリラックスしている。戦い慣れているのもあるだろうが、相手の俺を舐めてかかっているのだ。とはいえ、俺はこれが初戦だ。舐められても当然と言える。胸を借りるつもりで、全力でぶつかっていこう。
俺は地面を踏み締め、足場を確認する。
『初めてだろうから、一応戦いの規則を確認しておこう。咒式の使用は無し、ただし体内に作用する恒常咒式の使用は許されている。押し倒され、首に噛みつかれたら負け。この場合はすぐに降参すること。相手が降参したらすぐに噛むのをやめること。あと場外はないけれど、背を見せて逃げたら負けだ。いいかい?』
黒竜が規則を確認する。
俺は頷き身構えた。黒竜もゆっくりと頭を下げ、前傾姿勢となる。
俺は威嚇の雄叫びを上げなかった。呼吸を読まれることを嫌ったからだ。一方同じ理由かわからないが、黒竜も威嚇をしない。
俺はじっと身構え隙を窺う。対する黒竜がニッと口の端を歪ませると、突進してきた。
黒竜の突進は速い。気づいた瞬間には懐に潜り込まれ体当たりを受けていた。黒竜はそのまま俺を押し倒そうとする。
俺は足に力を入れ踏ん張った。腰に、背筋に、肩に、腕に、全身の力を入れて対抗した。それでも俺の体は黒竜に押され、地面には俺の爪痕が轍となって残る。
黒竜は俺を押し倒そうと、押して押して押しまくる。俺は必死に耐えるが、黒竜の前進を止めることができず、観戦している竜たちの前まで押し込まれた。
竜はもう一息と力を込める。俺は倒されまいと全力で争った。
押し込む黒竜に対し、俺の力が拮抗して黒竜の前進が止まる。
ギリギリ耐えた俺に対し、周りの竜たちが歓声をあげる。黒竜も倒しきれなかったことに驚く。驚いたことで、黒竜の力が一瞬だけ弱まった。俺はここが反撃の時と足に力を込めて黒竜を押し返す。
『なんだと!』
黒竜が踏ん張るが、この時ばかりは俺に勢いがあった。どんどんと押し返し、開始位置にまで戻る。黒竜が驚いていたが、俺も力には自信があった。
竜は無意識に咒式を使用している。体を鍛え続けていれば、恒常的に発動している身体強化咒式が鍛えられて筋力は上がっていく。そして俺は生まれてこの方、毎日のように崖を上り、降っている。筋トレを休んだ日は一度としてない。
『簡単に負けるかよ』
俺は牙を剥いて笑った。