され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第十四話 モテ期到来

 第十四話 モテ期到来

 

 太陽の光が降り注ぐ試しの谷に、空気を切り裂く咆哮が響き渡った。

 牙を剥き雄叫びを上げるのは赤い鱗の火竜だった。体長は優に二十二メルトルを超え、二百歳級の竜であることがわかる。

 

 相対する俺も咆哮を放ち気合を入れる。周囲では赤や黄に緑、白に黒といった鱗を持つ竜たちが集い、俺たちの力試しを観戦していた。

 

 二百歳の火竜が巨体を揺らして突進する。対する俺も真っ向勝負で受けた。

 互いの肩がぶつかりあい、体で押し合う。だが火竜の体は俺よりもずっと大きく、体重はさらに重い。質量差に押され俺はズルズルと下がっていく。

 

 押される俺は全身の力を振り絞り対抗する。体中の筋肉が膨れ上がり、大地に爪を立てる。

 後退していく体が徐々に止まり、ついには停止した。

 周囲の龍が歓声を漏らす。火竜がなおも押そうとするが、俺の体は動かず火竜の足は地面を掻くのみ。

 

 押す火竜を支えながら、俺は苦しみに顔を歪めた。

 重い! 強い! 

 エニンギルゥドも強かったが、質量差からくる強さはまた違った重さだった。

 

 俺は重さに耐えながら息を吸い込み、背筋に力を込める。火竜がこのまま押し潰そうとするが俺はとにかく耐えた。

 

 押す火竜の口からブハッと大きな息が漏れる。息が堪えきれなくなったのだ。その瞬間火竜の押す力が弱まる。

 

 俺は好機を見逃さず、火竜の体に潜り込み持ち上げるように押し返した。息を吸い込んだ火竜が再度力を入れるも、腰が浮かされているため体勢が悪い。俺は一気呵成に押し返した。

 火竜の巨体がグラつき、後ろへと倒れる。地響きを立てて倒れた火竜に、俺は素早くのしかかり首に噛み付く。

 

『参った』

 火竜が降参すると、俺はすぐに牙を離した。

 

『いやぁ、負けた負けた』

 火竜は起き上がると朗らかに笑った。

『さすがエニンギルゥドに勝っただけのことはある。大したもんだ。お前は天才だよ、ヨギ』

 負けたというのに火竜の顔に悔しさはなく、負け惜しみの嫌らしさもなかった。

 

『いえ。そんなことはありません、ファラ兄』

 俺は火竜に向け手首を横に振った。

 この火竜の名はファランガンド。三日前エニンギルゥドと戦った後で、治癒咒式をほどこしてくれた竜だ。俺は彼に親しみを込めてファラ兄と呼んでいる

 

『こうしてご指導してくれる、ファラ兄のおかげですよ』

 俺はファラ兄に対して頭を下げた。

 先ほど勝った相手であるが、俺はファラ兄を見下したりはしない。そもそも先ほどの勝負は、勝たしてくれたようなものだ。

 

 ファラ兄は俺よりずっと体格があるだけでなく、力試しの経験も豊富だ。力や体格だけでなく、技や駆け引きの面においても優っている。ファラ兄が勝ちにこだわり技や駆け引きを使われれば、俺は手も足も出なかっただろう

 先ほど俺が勝てたのは、ファラ兄は俺が勝てるルールで勝負を受けてくれたからだ。

 

 年下相手に勝ちに行かない。ここにファラ兄の度量の深さが窺えた。

 

『また今度、戦い方を教えてください』

 俺が頭を下げて頼むと、ファラ兄が口を大きく広げて笑った。

 

『全くお前ってやつは、なんて可愛いんだ』

 ファラ兄が俺の首に右腕を回し、左手でぐりぐりと乱暴に頭を撫でる。

 手荒な愛情表現だが、嫌いではない。

 

『ん?』

 ファラ兄が視線を上げると、試しの谷の上に座る、雌の竜たちがこちらを見ていた。

 

『おい、みろ。ヨギ。女の子たちがこっちを見ているぞ』

 ファラ兄が俺の首を谷の上に向ける。確かに、幾つもの視線がこちらに向けられていた。

 力試しは雄の竜が力を比べ会い、競いあいながら竜の社会性を身につける場だ。だが他にも意味があり、自分が強さを雌の竜に見せる場でもあるのだ。

 

 もちろん強ければ強いほどモテる。若ければ尚更だ。

 

『おい、見ろよ、あの白竜のねーちゃんなんて、お前をうっとりした目で見ているじゃねーか』

 ファラ兄がいうので、目を凝らして見てみる。無意識に発動した望遠咒式により視界が拡大され、崖の上から見下ろす竜たちが見えた。

 

 確かにファラ兄のいうように、白竜がこちらを見ている。しかし……。

『あの白竜は四百歳を超えているじゃないですか。歳が違いすぎますよ』

 俺はいくらなんでも差がありすぎると顔を顰める。

『なにを言ってやがる。三百年ぐらい普通だろ? 大体お前のご両親も三百歳ぐらい離れているじゃないか』

 指摘され、確かにその通りだと俺は思い直した。

 どうやら俺は、人間だった頃のことをまだ引きずっているらしい。竜は長寿であるため年齢差があるカップルも多いのだろう。

 

『でもまだ私は百歳にもなっていませんから、まだ恋愛は早いですよ』

『お子様だなぁ、お前は』

 ファラ兄が俺を笑った後、崖の上の雌竜たちを見た。

 

『はーい、雌竜の皆さん! ここにいるのが期待の新星、ヨギストラ君ですよ〜。その隣にいる私は、彼の親友のファランガンドです! 覚えてね』

 ファラ兄はブルンブルンと尻尾を振って、雌竜に愛想を振りまく。最低だ、この兄さん。年下の竜をダシに、雌に媚び始めた。先ほどの俺の敬意を返してほしい。

 

 その時、俺は背後に視線と咒力の波長を感じて振り返った。遠く離れた背後には、三百歳級の竜たちが集まり力試しを行っている。

 

 咒力を伴った視線は、その一角から注がれていた。俺は咒力の発生源を辿ると、そこには赤に青、そして緑の鱗を持つ三頭の竜がいた。それも体は大きく三百歳級。特に真ん中の四つの目がある緑竜は体の大きさから三百五十歳ほどと推定できた。

 

『四つ目の緑竜、ジャザベジドか』

 俺が振り返ったことに気づいたファラ兄が、緑竜を見て呟く。

『あいつは気をつけろ、もし力試しを挑んできても絶対に受けるな』

『強いんですか?』

『強い。だがあいつの戦い方は、なんというかな……』

 ファラ兄は言葉を濁す。するとそこに青い鱗をした竜が俺たちの下にやってくる。

 

『なぁ、ヨギ。こんどは俺としてくれよ』

 この青竜はエクノクアと言う。エニンギルゥドと戦った時に最初に声をかけてきた竜だ。

 

『いいよ、やろう』

 俺はエクノクアの対戦を受けた。ファラ兄が俺の元から離れ、俺はエクノクアと対峙する。

 

 エクノクアの体長は二十メルトルと百三十歳だそうだ。その体つきはスラリとしていて細く、年齢と体長は上でも、体重は俺と同じぐらいだろう。

 

 力比べをすれば俺が勝つ。だが……。

 

 戦いが始まると俺はエクノクアに向けて突進した。だがぶつかる瞬間、エクノクアはパッと身を翻し左へと飛ぶ。そして着地と同時に俺に飛び込み、側面から体当たりを仕掛けてくる。

 横からの攻撃におれは倒れそうになり、なんとか踏ん張って耐える。

 

 力試しは正面からのぶつかり合いだけではない。こうした技も認められている。

 俺は腕を伸ばしエクノクアを捕まえようとするも、エクノクアは素早く動き俺の手から逃れる。

 

 エクノクアは俊敏。さらに技巧派で知られている。俺の持ち味とも言える力は使えない。倒すには工夫がいる。

 

『どうした、もう終わりか?』

『まさか、ここからだよ』

 エクノクアに言葉を返しながら、俺は四肢を大地に食い込ませ、どっしりと構えた。一方で尻尾をブルンブルンと振り回した。

 

 俺の意図がわからずエクノクアは警戒するも、俺の左に回り込み、左側面に体当たりを仕掛ける。俺は左からの体当たりに備えるため、左に体を傾ける。だが体が当たる直前エクノクアが急停止し方向転換、右へと飛び右側面に体当たりを仕掛ける。

 

『かかったな』

 エクノクアが必勝の笑みを浮かべる。だがそれはこちらのセリフだ。

 俺は振っていた尻尾に力を入れぶるぶると細かく振るわせる。そして尻尾の反動を利用して体をくねらせ左に傾いていた体勢を右に修正、エクノクアの体当たりを正面から受ける。

 

 エクノクアの体は、ファラ兄と比べればずっと軽い。俺はエクノクアを押し倒し、首に噛み付いた。

 

『参った』

 エクノクアが降参し、俺は首から牙を外す。

 

『尻尾の反動で対応するとは、上手くやったな』

 ファラ兄が歩み寄り頷く。

『くそー、とっておきだったんだけどな〜。なんですぐに対応できたんだ? 俺の動きがわかっていたのか?』

 エクノクアが悔しがる。

 

『まさか、全然わかりませんでした。ですが予想はしていました。きっと俺の裏をかいてくるであろうと。それに備えていただけです』

『おいおい、お前本当に百歳未満かよ。末恐ろしいな』

『全くだ。さっきは冗談で言ったが、お前は本当に期待の新星となるかもな』

 ファラ兄が神妙に頷く。

 持ち上げられて妙に恥ずかしかったが、俺は気になることがあった。

 

『そういえば、今日もエニンギルゥドは来ていないんですか?』

 俺は試しの谷を見回した。そこに白銀龍直系の黒銀竜エニンギルゥドの姿はない。

 俺と対戦してからすでに三日が経過していたが、その間エニンギルゥドは一度も姿を見せていなかった。

 

『まぁ、あいつはお前と戦うまで、負け知らずだったからな。堪えているんだろう』

 ファラ兄の言葉は、俺に重くのしかかる。

 いつか原作キャラと会うことになるかもしれないと思っていたが、まさかあんな出会い方をするとは思わなかった。それに下手をすれば、これで原作が変わってしまうかもしれない。

 

『何気にするな!』

 ファラ兄はどんと俺の背中を叩いた。

『勝って得られるものもあれば、負けて得ることもある。問題は得たものをどう活かすかだ。それがそいつの器よ』

 ファラ兄は豪放磊落に笑う。しかしそれでも俺の気は晴れなかった。

 

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