され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第十五話 三頭との出会い
試しの谷に来て五日。今日も一日が終わり、太陽が地平線に隠れようとしていた。
世界が茜色染まりかけている中、俺は試しの谷の西にある深い森に来ていた。
獲物が豊富な森であり、自由に狩りをしても良いという場所だ。
俺は昼間のうちは試しの谷ですごし、夕刻に狩りをして食料を手に入れる。そして山裾にある洞窟を寝床として晩飯を食べて眠り、朝は晩飯の残りを朝食にして、試しの谷に行くというルーティーンを取っていた。
さてと、自分だけでうまくやれるかな。
森を歩く俺は、少しだけ不安だった。
これまではファラ兄やエクノクアといった竜が森を案内し、一緒に狩りをしてくれた。しかし今日は二頭の予定が合わず、俺一頭となった。
不慣れな場所での仮に多少不安でもあったが、竜は一日や二日は食べなくても平気だった。獲物がとれなければ明日でもいいと、俺は気楽に考えていた。
俺が森を歩んでいると、遠くに巨大蛾が木に止まっているのが見えた。
蛾は大きいが食いではない。しかし俺は蛾から目を離さなかった。巨大蛾を狙う者がいたからだ。
そいつは三角の頭を持ち、手足のない体を木に巻きつけ、音もなく木を上り蛾に接近していた。
口からチロチロと赤い舌を見せるのは、巨大蛇だ。巨大蛾は蛇の接近にまるで築いていなかった。蛇は温度のない瞳で蛾を捉えると、体の動きをピタリと止めた。
巨大蛇が動きを止めた次の瞬間、その体が電光の如き速さで動いた。巨大蛇は一瞬にして距離を詰め、次の瞬間には巨大蛾は蛇の口に収まっていた。
口の端から蛾の羽を覗かせる蛇を見て、俺は狙いを見定めた。今日の晩御飯発見である。
俺はそろりそろりと足音を殺し、巨大蛇に向かって接近した。
巨大蛾を仕留めた蛇は、先ほどの木から動かず体を休めている。ただし口からは赤い舌を覗かせていた。
蛇の舌には多くの感覚器官が集まり、周囲の臭いをかぐという。
俺は蛇の風下にいるので臭いを嗅がれる心配はない。だが念のために消臭咒式を発動し、体から流れ出る汗や匂いを分解する。俺はさらに鱗の下をキチン質でできた発泡剤で多い、体の熱を遮断した。
蛇にはピット器官と呼ばれる、熱を探知する感覚器官をもっている。これで熱を感知される心配もない。
音と臭いと熱を消して、俺は巨大蛇に忍び寄った。
木に巻きついて休む巨大蛇は、まだ俺の存在に気づいていない。彼我の距離は迫っており、今の俺ならば一足飛びに到達できる。
仕留める!
俺が身をたわめ、飛びかかろうとしたまさにその時だった。木々を薙ぎ倒す大きな足音が背後から聞こえてきたのは。
巨大蛇は音に驚き、飛び上がって逃げていく。俺もすぐに後ろを振り返り、騒音の発生源を確認した。すると俺の背後から、赤い竜と青い竜。そして緑の竜が木々を薙ぎ倒し向かってくる。
三頭は体も大きく、三百歳級の竜であることがわかる。三頭の中でも緑の竜がひと際大きく、顔には四つの目があった。
俺は緑の竜に見覚えがあった。試しの谷で見た四つ目の緑竜ジャザベジドだ。
愉悦の笑みを浮かべる三頭の竜は、足音を響かせまっすぐにこちらに向かってきていた。
俺はまずい状況であることを直感した。
竜たちのあの笑みは獲物を狩る肉食獣の笑みだ。彼らの視線は俺に向けられている。
何をするつもりかまではわからないが、何かをするつもりであることは間違いない。
逃げるべきかと思ったが、俺はすぐにその考えを捨てた。
俺は飛行咒式を使えない。だがおそらくあの三頭は使用できるだろう。相手が空を飛べるとなれば逃げきれない。最終的に追い詰められて、まずい状況となるだけだ。
ならばここで迎え撃つほかない。
俺は逃げも隠れもせず、やってくる三頭を見た。三頭は俺の元にやってきて、取り囲む。
『よう、坊主』
緑の鱗を持つジャザベジドが気安く話しかける。
『蛇なんか狙ってんのか、ショボい獲物を狙ってるな』
ジャザベジドの言葉に、周りにいる赤い鱗の火竜と青い鱗の青竜が笑う。
『それはどうも』
俺はそっけない返事を返す。
『おい、なんだその態度は!』
『ガキのくせに!』
火竜と青竜が怒鳴るが、俺は涼しい顔をした。そして三頭の竜の顔を見回したあとその場で軽く跳躍。飛び上がった瞬間に両手両足を体の下に収め、その場に座り込む。
『おっ、なんだ? 怯えて立っていられなくなったのか?』
笑う火竜に対し、俺も笑みを返す。
『怯える理由が一体どこにあるんですか? それとも、自分より年下の竜を怯えさせたかったのですか?』
『なんだと!』
『こいつ、調子に乗りやがって!』
青竜が怒鳴り火竜も牙をむく。
『やめろ、ザボネスト。ボーンダム』
ジャザベジドが二頭の竜を静止する。
ザボネストと呼ばれた火竜とボーンダムと呼ばれた青竜がすぐに止まる。
『子供の竜を相手に凄むな。悪かったな、こいつらは気性が荒くてよ。ヨギストラ君だろ、俺はジャザベジドという。まぁよろしく頼むよ』
ジャザベジドは急に猫撫で声をだす。
『初めまして、ヨギストラです』
俺は気を許さず、慎重に返事をした。
ジャザベジドが急に甘い声をだしたが、前世の経験がある俺としては、不良がよくやる手口だとわかった。
ちょっと甘い顔をして、油断したところをバクリと行くつもりだろう。
『エニンギルゥドとの対戦を見てたぜ。いや、大したもんだ。だがあまり調子に乗るなよ。お前がこれまで勝ってきたのはよちよち歩きのガキに、ガキにしか相手にされねーファランガンドの馬鹿だけだ。あんなのは本物の力試しとは言えない』
ジャザベジドの話を聞き、俺は頭の中で計算した。
ジャザベジドがどういう方向に持っていきたいのかは、今の話で理解できた。そしてそれは、俺にとっても悪い話ではなかった。
『本物の力試しとはどんなものなのです』
『それはお前、実際にやってみないとな。どうだい、俺と力試ししてみるか?』
『……いいですね、やりましょう』
俺は勝負を受けて立ち上がった。
力試しを受諾した俺に対し、ジャザベジドが口をニッと広げて笑う。ザボネストとボーンダムの二頭も狙い通りだと、小さく歓声を上げる。
ファラ兄にはジャザベジドとの対戦は避けろと言われていたが、これが最善なのだから仕方がなかった。
ジャザベジドの思惑は見え透いている。目立つ俺を痛めつけて、今のうちに順位づけを行っておきたいのだろう。しかし私闘をすれば、周りから非難されるかもしれない。だから力試しという試合の中で俺を痛めつけるつもりなのだ。
本来なら勝負を避けるべきなのだろうが、勝負を避ければ三頭が襲いかかってくるかもしれない。そして三頭同時となれば、エスカレートして俺を殺すまで痛めつける可能性がある。力試しという範囲内であれば、殺すまでは行かないはずだ。
俺は大きく息を吐き、深く息を吸った。
何とかしてこの場を切り抜けねばならなかった。