され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第十六話 卑怯竜
『さぁ、やろうじゃないか』
余裕の笑みを浮かべるジャザベジドに、俺は対峙した。改めて見るとジャザベジドはでかい。二十三メルトルを超えており、堂々とした体格だ。
俺の背後には、ザボネストとボーンダムが陣取る。これで逃げ道はなくなった。
『よし、始めるぞ』
ジャザベジドが身構える。俺も同じく身構えて相手の出方を見る。
ジャザベジドは動かない。ただ背中の向こうに見える尾だけがゆらゆらと揺れていた。
揺れるジャザベジドの尾がピッと伸びる。次の瞬間ジャザベジドが体当たりをおこなってきた。
その動きは早い。気がついた瞬間にはもはや目の前にいて、回避することもできなかった。
俺はジャザベジドの巨体に吹き飛ばされ、空中に弾き飛ばされて地面に落下した。
全身に痛みが走り、口からは血が吹き出る。
今の一撃で右の鎖骨が砕け、肋骨が何本か折れている。肺にも損傷が出ていた。
痛みに動けない俺に対し、ジャザベジドは首を噛み付いてこない。
『立て、首に噛まれていない以上、まだ終わりじゃないぞ。噛まれてすぐに降参するなど、本物の戦いとは言えないぞ』
ジャザベジドが一丁前のことを言う。もっともそれらしい言動は建前でしかなく、本心は俺をいたぶりたいだけだろう。
俺は体内で治癒咒式を発動し、肺の傷だけを急いで治療する。
『よし、いいぞ』
愉悦に顔を歪めるジャザベジドが、地につく右手をわずかに引く。次の瞬間ジャザベジドの尾が鞭の様にしなり、俺の体を打つ。
エニンギルゥドにもされたが、竜の尾の一撃は凶器だ。
鱗が弾け飛び、皮が裂けて肉が千切れる。傷口からは血が吹き出し、衝撃は骨まで響く。
『おら、どうした、まだ終わりじゃないぞ』
ジャザベジドが四つある目のうち、二つの目で俺を見つつ、残りの二つは目まぐるしく動き、連動して尾も動いて俺を打ち据える。
俺は牙を噛み締めて耐えた。
ファラ兄に教えてもらったことだが、尾の攻撃は力試しでは半分禁止らしい。相手を過剰に傷つけ血を出す行為が、無作法であるとされているのだ。
『ん〜。なんだ、その目は。尾の攻撃が規則に反するとか言うなよ。尾は牙や爪と同じ体の一部。自分の五体を使いこなすことが、力試しの本質だ』
ジャザベジドが俺を尾で打ち据えながら叫ぶ。
『甘っちょろい連中は、そこがわかってねぇ。力試しってのはな、殺し合いの練習なんだよ。規則とか言ってる時点でぬるいんだよ!』
ジャザベジドが語りながら、両足の爪が地面に食い込む。次の瞬間右腕が振り抜かれ、緑竜の爪が俺の体を引き裂いた。
三百歳級の爪に俺の鱗は破られ、肉が切れて血が吹き出る。さらにジャザベジドの腹部がわずかに膨らんだかと思うと、ジャザベジドが俺の背中に噛みつき鱗ごと肉の一部を噛みちぎった。
その後も俺はジャザベジドの攻撃にさらされ続けた。打たれ、切られ、齧られ、体は次々に傷ついていく。治癒咒式を発動して死に直結する負傷だけでも塞ごうとするが、次々と攻撃を加えられるため、傷の修復が間に合わない。
嵐の様に降り注いでいた攻撃が突然やんだ。俺は血に塗れた顔でジャザベジドを見上げた。
すでに左目は潰れて見えず、右目だけが無事だった
ジャザベジドは俺を見下ろしながら、嗜虐的な笑みを見せる。口も爪も俺の血で赤く染まり、緑の体がまだらとなっている。
『おら、反撃ぐらいしねぇか。こい!』
ジャザベジドが攻撃の手を止め、自身の胸を右手で叩く。
どうやら力でも俺を屈服させたいらしい。
相手の思惑に乗る行為だが、俺はなんとか立ち上がった。
このままではやられる一方だし、それに一回ぐらい、やり返してやりたかった。
すでに体はボロボロだが、重要な骨や臓器と血管を修復し、動くのに必要な筋肉だけをつなげる。
皮膚の傷や鱗、左目の修復も後回しにした。
『休むな、早くこい!』
ジャザベジドが叫ぶ。グズグズしていればまた攻撃が再開するかもしれない。
やり返すなら今しかない。
俺は傷の修復を待たずに、頭から突進した。
三百歳級のジャザベジドの体は、当然だが五十歳の俺よりも大きい。体格差もあり俺の頭はジャザベジドの胸の位置となるほどだった。
ジャザベジドの胸に体当たりした俺だが、まるで岩を相手にしている様だった。あまりにも重く大きい。しかしそれでも俺は、ジャザベジドの体を下から持ち上げるように押した。
『おっ』
重心がわずかにぐらつき、ジャザベジドが半歩後退する。しかしジャザベジドの余裕の笑みは崩れない。
『力だけはまぁまぁ。だがな』
ジャザベジドが両手を俺の両肩に置き、体重をかける。俺は必死に支え押し返した。
修復が終わっていない筋肉が次々に断裂し、無理やりつなげた血管がちぎれ血が吹き出る。だがここで負けたくはなかった。
俺が必死に抗うと、突如両肩に激痛が走った。筋肉が断裂した痛みではない、体を蝕む強烈な痛みだった。
俺は慌てて右肩を見ると、ジャザベジドが置いた手の下から白煙が上がっていた。ジャザベジドの手の下を見ると、手から強酸が生み出され、俺の鱗を溶かして肉を焼いていた。
力試しで咒式の使用は禁止のはず。
俺は非難を込めてジャザベジドを見上げた。見下ろす緑竜の顔には嘲の色。
『俺は緑竜だ。汗は強酸なんだよ。体内で働く恒常咒式は咒式の内に入らねー』
ジャザベジドは詭弁を弄する。
汚い。
ファラ兄がジャザベジドとの対戦を避けろと言った意味を、俺はここで理解した。
『おらおら、もうおしまいか』
ジャザベジドが強酸を帯びた手を俺の肩に押し付ける。肩の肉が強烈な酸化作用により焼かれ、溶けていく。傷は骨まで達し、腕が半ばちぎれる。
俺は自分の体すら支えていられなくなり、その場に潰れる様に倒れた。
『けっ、もうおしまいかよ』
ジャザベジドが倒れた俺を見下ろし、ちぎれかけている右肩の傷を踏みつける。
俺の苦鳴を無視して、ジャザベジドが俺の肩を踏み潰し、肩が千切れた。
もはや動けない俺に、ジャザベジドが背中を向ける。そして戦いを見ていた火竜ザボネストと青竜ボーンダムに四つの目を向ける。
『おい、お前らも相手してやれ』
ジャザベジドが地に伏す俺を顎でさす。
サボネストとボーンダムは嗜虐的な笑みを浮かべて、俺に歩み寄る。もはや力試しでもなんでもない。このまま二頭の攻撃を受ければ下手をすれば死んでしまうかもしれない。
いや、今の状態でもすでに死の危険性があった。
右腕はちぎれ、左腕もちぎれかけている。内臓や骨にはいくつもの損傷があり、大量に出血したため血が足りない。脳に酸素が行き渡らず、治療咒式を紡ぐことすら難しくなってきた。
まずい……。
久しく感じていなかった、死の予感がよぎる。
ザボネストとボーンダムが迫るも、俺は身動きすらできず、残った右目で見ていることしかできない。
ザボネストとボーンダムが爪と足を俺に振り下ろそうとする。その時だった。
『もうやめろ!』
艶のある鱗をした黒竜が飛び込んできた。