され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第十七話 漆黒の竜

 第十七話 漆黒の竜

 

 ジャザベジドにいたぶられる俺を助けるため、黒竜が割って入ってくる。

 艶のある黒い鱗を持つこの竜を、俺は知っていた。

 

『エニンギルゥド?』

 俺はなんとか声を絞り出した。

 やってきたのは間違いなく黒銀竜エニンギルゥドだった。

 

『これこれは坊ちゃん』

 ジャザベジドはエニンギルゥドの登場にも動じず、笑みを見せる。

 

『邪魔しないでもらえますか、これはこいつを鍛える力試しです』

『何がだ! こんなもの力試しでもなんでもない。ただの暴力じゃないか!』

 非難するエニンギルゥドの声と足は震えていた。しかし瞳には決意があった。

 

『それ以上するって言うのなら、僕が相手だ!』

 エニンギルゥドは息を吸い込み、腹から声を出す。

 

『へぇ、本気ですかい。坊ちゃん』

 エニンギルゥドの宣言に対し、ジャザベジドは笑った。

 

『駄目だ、エニンギルゥド』

 俺は声を振り絞って、エニンギルゥドを止めた。

 エニンギルゥドは確かに天才かもしれない。奴ならば三百歳級の竜が相手でも勝てるかもしれなかった。だがそれは正々堂々の勝負の時だけだ。

 

 規則の隙をついてくるジャザベジドの悪辣さに、若いエニンギルゥドでは対抗できない。卑怯な手を使われ、叩き潰されるのが目に見えている。それに例え勝ったとしても残りの二頭が控えている。

 

『逃げ……』

 俺は逃げる様に言おうとしたが、俺の前にいたザボネストが俺の顔を踏み、言葉を遮る。

 俺だけでなく、エニンギルゥドもこいつらの標的だったのだ。

 

 エニンギルゥドとジャザベジドが対峙する。エニンギルゥドは息が浅い。勝ち目のない戦いに緊張している。一方ジャザベジドは余裕がある。エニンギルゥドが正攻法でくると読んでいるのだ。

 

 やはり両者の間には、大きな戦闘経験の開きがある。このまま二頭を戦わせてはいけなかった。

 俺はなんとしてでも止めるべく、起きあがろうとした。だがその背中をボーンダムが踏みつける。

 

『おっと、邪魔するな』

『じっとしてろ、あいつの後はお前だ』

 ザボネストが俺の頭を踏み躙り、ボーンダムが背中に体重をかける。傷ついた体では跳ね返すこともできなかった。

 

 身構えるエニンギルゥドが、四肢に力を入れて飛びかかる。対するジャザベジドも踏み込む。その時だった。

 

『その戦い、それまで!』

 エニンギルゥドとジャザベジドが激突しようとしたその瞬間、落雷の如き声が空から降り注いだ。突然の声に飛び出しかけた二頭は体を急停止させ、声がした頭上を見上げる。

 

『なっ』

 俺もザボネストとボーンダムに抑えられながら頭上を見上げると、そこには一頭の黒竜が宙に浮いていた。

 

 黒い、どこまでも黒い竜だった。

 エニンギルゥドの鱗は艶のある黒だが、宙に浮かぶ黒竜は光すら吸い込み、まるで夜の闇を切り取ったかのような漆黒の姿をしていた。

 黒竜の体長二十五メルトルを超えており、五百歳級の竜であることがわかる。顔がやや丸みを帯びていることから雌のだと思うが、確信は持てない。漆黒の鱗が光をまるで反射せず、四肢や体の起伏が溶け込んでしまっているからだ。

 

『戦いをやめよ』

 黒竜が万華鏡のように光を放つ目を開き、赤い口を開く。漆黒の竜の体で、色彩を帯びているのはこの二つだけだった。

 

 誰だ?

 これほどの黒竜は初めて見た。

 

『なっ、あいつは』

『なぜこんなところに』

 俺は初めて見る竜だったが、ザボネストとボーンダムは相手を知っているらしく驚き、いや、怯えていた。

 

 空中に浮かぶ黒竜が飛行咒式を停止し、エニンギルゥドとジャザベジドの間に自由落下して着地する。

 

 地に降り立った黒竜を見て、その場にいた誰もが驚く。着地音がまるでしなかったのだ。どの様な方法を用いたのか、黒竜は二十五メルトルという巨体の重量を消し去ったのだ。

 

『おっ、お前、なぜ』

 ジャザベジドが黒竜を見る。黒竜は流し目でジャザベジドを一瞥して黙らせる。ジャザベジドを黙らせた黒竜はエニンギルゥドに視線を向けた。

 

『エニンギルゥド様、お友達を助けようとするお心は立派と思いますが。あまり無茶はされぬように』

 黒竜が静かな声でエニンギルゥドを諭す。

 

『しかし、これは……』

『ご自愛を』

 エニンギルゥドが反論しようとするも、黒竜が一言で黙らせる。

 おそらくこの黒竜は、エニンギルゥドの護衛かお目付役なのだろう。

 黒竜の視線に、エニンギルゥドが力無く首を下げる。黒竜はエニンギルゥドから視線を外し、ジャザベジドに首を向けた。

 

『なっ、一体なんの用だ。俺たちはただ力試しを行っていただけだぞ』

『ふぅん……力試しねぇ』

 黒竜が不思議な光を放つ目を細め、赤い口を薄く開いて笑う。

 

『なら私も混ぜてくれる? あなたがいう本物の力試しというものに、私も興味がある』

 黒竜の言葉に、ジャザベジドが首を下げて怯む。

 

『あらあらどうしたの? 以前あなたが私に番になれと言ってきた時、私に力試し勝てたら番になってあげると言った。あの時の約束は今も有効よ? 試してみたら?』

 黒竜が挑発するが、ジャザベジドは動かない。

 

 黒竜の視線が、俺を踏みつけたまま固まるザボネストとボーンダムの二頭に向けられる。黒竜の視線を受け、二頭はようやく俺から足を外し身構える。

 

『そうだ。そこの二頭も加えて、三対一でやってみる? 私はそれでもいいわよ?』

 黒竜の提案に、ザボネストとボーンダムの二頭が顔を見合わせる。その顔には怯えがあった。三対一ですら勝てないとわかっているのだ。

 

『どうする?』

 黒竜が凄む。ジャザベジドは一歩後ろに下がると首を返した。

『へっ、やってらんねーよ』

 ジャザベジドは捨て台詞を残しその場を去っていく。ザボネストとボーンダムはあわてて緑竜の後を追っていった。

 

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