され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第十八話 黒竜の名

 第十八話 黒竜の名

 

 黒竜はジャザベジドたちが完全にいなくなるまで、その背中をずっと見つめていた。そしていなくなるのを見届けてから、ようやく俺を見た。

 

『酷い目にあったわね、傷を見せなさい』

 黒竜は俺に歩み寄り、傷を治療しようとする。だが俺はその治療を拒否し、無理やり立ち上がった。

 片腕は完全にちぎれており、いくつもの骨が折れ、内臓も損傷している。体中から血が流れて激痛が走るが、痛みなど無視して立ち上がった。立たねばならなかった。

 

『治療はいらない。自分で治す』

 俺は黒竜を見た、いや睨んだ。

『私はあなたに助けてくれとは頼んでいない。だから礼は言わない』

 無礼であったが、俺は礼を言わなかった。

 

 黒竜の言動を思い返せば、黒竜はかなり早い段階から俺とジャザベジドとのやりとりを見ていたはずだ。しかし黒竜はエニンギルゥドが割って入るまで、助けに来なかった。

 黒竜が助けたのはエニンギルゥドであり、俺は成り行きで助かっただけだ。

 

『ふん、可愛げのない子供だ』

 黒竜は目を細めて俺を見下ろすと、息を一つ吐いて首を返した。去ろうとする黒竜をエニンギルゥドが呼び止める。

 

『待ってくれ、助けてくれてありがとう。ニドヴォルク』

 エニンギルゥドが礼を言うと、黒竜は静かに頭を垂れた。そして飛行咒式を発動し、空の彼方へと飛んでいった。

 去って行く黒竜を見て、俺は言葉を発することもできなかった。

 

 ニドヴォルクといえば《され竜》にも登場した竜の名だ。しかもただの竜ではない。宙界の瞳と呼ばれる指輪を賢龍派から持ち出し、主人公であるガユスたちが指輪を手に入れる遠因となった竜だ。

 

 あれがニドヴォルク……まさか、こんな出会い方をするとは。

 

 俺はただただ驚いた。《されど罪人は竜と踊る》という作品は、主人公であるガユスがエニンギルゥドとニドヴォルクを倒したところから始まったと言える。

 

 礼を言わなかったのは失敗だったかなと一瞬思ったが、もうどうしようもなかった。

 そこまで考えた時、俺は立っていられなくなりその場に倒れた。

 

『大丈夫か! ヨギストラ!』

 エニンギルゥドが俺に駆け寄る。俺はなんとか首だけをエニンギルゥドに向けた。

『ああ、大丈夫だ。死にはしない』

 俺は答えながら全力で治癒咒式を発動した。幸いこれまでの人生で無茶ばかりしていたので、怪我の治療には慣れている。だが傷が多く深傷も多いので治療には時間がかかる。

 

『それより、エニンギルゥド。助けてくれてありがとう』

 俺はエニンギルゥドに礼を言った。ニドヴォルクには礼を言う気にはなれなかったが、助けてくれたエニンギルゥドには簡単に礼を言うことができた。

 

 地に伏す俺の顔の前に、二筋の水滴が落ちる。見上げるとエニンギルゥドの顔から涙が溢れていた。

 

『なぜ泣く?』

『違うんだ、ヨギストラ。僕は、初めから見ていたんだ。でも助ける勇気が出なかったんだ。許してくれ』

 エニンギルゥドが涙を流して告白する。俺はなんだそんなことかと息を吐いた。

 

 エニンギルゥドがすぐに動けなかったのは当然だ。エニンギルゥドは、ニドヴォルクという護衛がついていることを知らなかった。

 相手は三百歳級の竜が三頭。いくらエニンギルゥドでも負ける。自身の敗北が目に見えていて、すぐに勇気は出ない。

 

『でも助けに来てくれたじゃないか』

 俺は目だけをエニンギルゥドに向けて笑いかけた。

 エニンギルゥドは最後には勇気を出した。それが大事だった。

 

『ヨギストラ……』

 エニンギルゥドは顔をくしゃくしゃにして涙をこぼす。

 泣き止むことのないエニンギルゥドを前に、俺は立ち上がった。まだ体は痛むが、両腕がつながり左目も再生した。

 

『大丈夫なのか』

『ああ、なんとかな。ところでエニンギルゥド、君が試しの谷に来たら、ニドヴォルクはくるかな?』

『あ、ああ。多分彼女もくると思う』

『……そうか。なら頼みがある。三日後、三日後に試しの谷に来てくれるか? 君やニドヴォルクに見せたいものがある』

 俺が頼むと、エニンギルゥドは首を傾げた。

 

『見せたいもの?』

『頼む、三日後に試しの谷に来てくれ』

『わかった。必ず行く』

『頼んだよ』

 俺は念を押すと、痛む体を引きずり歩いた。そして寝床としている洞窟に向かった。

 

 山裾にある洞窟に到着すると、俺は身を寝床に横たえた。そして体の治療を開始する。三日後にまで、体を完全な状態に戻さなければならなかった。

 

 治療咒式を発動すると、体の痛みがゆっくりとだがとれていく。心地よい感覚に加え疲労も相待って眠くなってくる。だが寝るわけにはいかなかった。

 俺は睡魔を振り払い、組成式を自分の前に浮かべた。

 

 俺は両親や他の竜の前では、咒式らしい咒式を使用していない。しかしずっと研究は続けていた。

 独学でやるには随分と苦労した。だが竜の頭脳と咒力を用いることで、《され竜》で使用されていたいくつかの咒式の開発に成功していた。

 

 だが三日後に必要な咒式は、研究が途中で止まっていて、完全な再現には至っていない。この三日で完璧に仕上げなければいけなかった。ジャザベジドを倒すためには。

 

 

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