され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第十九話 対決
四つ目の緑竜ジャザベジドとの闘いから、三日が経過した。俺は巣穴から這い出して朝日を拝んだ。
体の傷は全て癒えていた。必要となる咒式の組成式も昨夜に完成し、その後たっぷり睡眠をとった。体調は万全、準備にも抜かりはない。
『よし、行くか!』
俺は気合を入れて試しの谷へと向かった。
試しの谷ではすでに多くの竜が集まり、いくつかのグループに分かれて力試しを行っていた。
俺は百歳級の竜が集まるグループに向かって歩く。すると俺の存在に気づいた竜が、観戦するのをやめて俺を見る。その中には大きな火竜の姿があった。ファラ兄ことファランガンドだ。
『おお、ヨギ』
ファラ兄が地響きを立てて駆け寄ってくる。その背後には青竜エクノクアもいた。
『最近来ていないから心配していた。何かあったのか?』
『ご心配をおかけして申し訳ありません。実はいろいろありまして』
『いろいろ? ……まさか!』
ファラ兄が背後へと振り向く。視線の先には三百歳級の竜たちが集まるグループがあり、その一角に四つ目の緑竜ジャザベジドがいた。その両脇には火竜ザボネストと青竜ボーンダムもいる。
『あいつら!』
何があったのかを察したファラ兄が、目を見開いて牙をむく。普段温厚なだけに、怒った顔はなかなか迫力がある。
『待ってください、ファラ兄』
俺は今にもジャザベジドに突進しそうなファラ兄の前に、首を伸ばして押し止める。
『俺に考えがあるんです。任せてもらえませんか?』
『考え?』
首を傾げるファラ兄の前で、俺はジャザベジドたちを見る。
連中が来てくれていて助かった。もしいなかったらどうしようもなかった。
俺は首を返して周囲を見回す。百歳級の竜の中には、艶のある黒い鱗の竜がいた黒銀竜エニンギルゥドだ。
エニンギルゥドを発見すると、向こうもこちらを見ており目が合う。
エニンギルゥドが顎を引き、そして谷の上を見た。俺は視線を追いかけると、谷の上には雌の竜たちが集まりこちらを見下ろしている。その中には五百歳級の黒竜が鎮座していた。
一切の光を反射しない漆黒の鱗を持つ彼女は、ニドヴォルクに間違いなかった。
これで役者は揃った。
あとは俺が描いた筋書き通りに、ことが運ぶかどうか。俺にそれだけの実力があるかどうかと言う話だ。
俺は緑竜ジャザベジドを見据えた。そして前へと踏み出す。ジャザベジドを目指してずんずんと歩き、三百歳級の竜が集まるグループへと向かう。ファラ兄とエクノクアもついてくる。
やってきた俺を見て、三百歳級の竜たちが注目する。
基本的に試しの谷では同じ年齢で集まり、他のグループとはあまり交わらない。ファラ兄の存在は稀有な方なのだ。
俺は三百歳級の竜たちの視線を無視し、まっすぐジャザベジドを目指す。
ザボネストやボーンダムと話していたジャザベジドが、俺がやってきたことに気づく。するとジャザベジドは四つの目に愉悦を浮かべた。
『よぉ、坊主』
『どうも』
気安いジャザベジドに対し、俺は軽く頭を下げる。
『今日はどうした?』
『ええ、実はジャザベジドさんにお願いが』
『んん? なんだ? 言ってみろ』
俺がさん付けで呼んだので、ジャザベジドは気分が良くなったのか大物を気取って頷く。だが俺は決してジャザベジドに恭順を示したわけではない。
『あなたに力試しを申し込む』
『ああ?』
『ですからこのヨギストラが、ジャザベジドに対して力試しを申し込む。と言っているのです』
俺の言葉を聞き、ジャザベジドの目に怒りが宿る。
『お前、俺に勝てるつもりか?』
『自信があるから挑んでいるのですよ。どうです、やりませんか?』
『……けっ、お前みたいな年下とやってられるかよ』
ジャザベジドは、三日前のことなどなかったようにそっぽを向く。
『まぁそうですね、年下に勝っても当然ですし、負ければ大恥をかきますからね』
『ああ?』
『なら他の竜の目がないところでやりますか? 立ち会いには二、三頭いれば十分です。これなら恥をかかなくて済みますよ?』
俺の挑発に、ジャザベジドが牙を剥く。
『てめぇ、舐めてんのか』
『ありていに言うと、そうです』
ダメ押しの挑発をすると、ジャザベジドの堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がする。
『いいだろう! やってやる!』
『場所はここでいいんですか?』
『ここでいい! だが勝敗がついても、ただで済むと思うなよ!」
ジャザベジドが怒鳴利ながら、広い場所へと歩き出す。これでもう後には引けない。
『おい、ヨギ。大丈夫なのか?』
ファラ兄が心配げな顔を見せる。
『大丈夫です』
『しかしジャザベジド、あいつは……』
ファラ兄がジャザベジドの手口を伝えようとしてくれる。だがそれは無用だ、すでに判明している。
『任せてください、勝算はあります』
俺が頷くと、ファラ兄は大きく息を吐いた。
『よしわかった! 行ってこい!』
止めても無駄と察したファラ兄は、俺の背中を力強く叩く。
『おら、いまさら臆病風に吹かれたのか! さっさとこい!』
広場の中心でジャザベジドが叫ぶ。俺は臆することなく進み、ジャザベジドと対峙した。
相対する俺とジャザベジドを、多くの竜が取り囲む。
どうやら注目の一戦となったらしい。他の竜たちは俺のジャザベジドとの因縁を知らないはずだが、ジャザベジドの普段の行いからある程度の事情を察したのだろう。誰も止めに入らず、観戦の構えとなる。
『おら! 行くぞ!』
ジャザベジドが叫び、そして身構える。
俺もいつでも動けるように身をたわめた。
目には怒りをたたえ、牙を剥くジャザベジドがジッと構える。その尾はゆっくり左右に揺れ、ある時わずかに伸びた。
次の瞬間、ジャザベジドの巨体が突進して体当たりを仕掛けてくる。だが俺は同時に後方へと身を捻りながら跳躍し、ジャザベジドの体当たりを回避した。
体当たりを回避されたジャザベジドがさらに体当たりを行うも、俺は次々に回避していく。
『ちょこまかと、逃げるだけか!』
ジャザベジドが叫ぶ。そしてその尾がまたわずかに伸びた。
俺はタイミングを逃さず右前に跳躍。着地と同時にジャザベジドの左肩に体当たりを行った。
ジャザベジドは俺へと体当たりを仕掛けようとした時であり、側面からの体当たりに体のバランスが崩れる。俺はジャザベジドの重心が崩れたことを感じ取り、全身の力で緑竜の体を押し上げた。
二十三メルトルを超えるジャザベジドの巨体が、ぐらつき左へと倒れる。大きな地響きを立てて倒れたジャザベジドを見て、周囲から驚きの声が上がる。
ジャザベジドも自分が倒されたことに驚き、目を白黒させていた。だがすぐに起き上がり叫ぶ。
『まだだ、まだ首を噛まれてはいない! 勝負はついていないぞ!』
『ああ、そうだな』
俺はジャザベジドの言葉を肯定した。
『戦いはこれからだ!』
俺の声が試しの谷に響き渡った。
『俺たちの戦いはこれからだ!』
ご愛読ありがとうございました。
ホイナン三兄弟先生の次回作にご期待ください。
うそうそ、明日も更新します。
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