され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第二十話 勝ちへのこだわりと、勝ち方へのこだわり

 第二十話 勝ちへのこだわりと、勝ち方へのこだわり

 

 試しの谷に、俺の咆哮と四つ目の緑竜ジャザベジドの咆哮が交わる。

 先ほど俺に倒されたジャザベジドは、やや慎重になり身構えている。

 

 ジャザベジドの右手がわずかに動いた。次の瞬間、緑の鱗に包まれた尾が高速で振り抜かれる。だが尾が切り裂いたのは空気のみ。俺は身を伏せて尾の一撃を回避していた。

 

 ジャザベジドは次々に尾を繰り出してくるが、俺は前後左右と体を動かし回避していく。

 

『おのれ、ちょこまかと!』

 苛立つジャザベジドの腹部が、僅かに膨らむ。俺は左に身を捩ると、先ほどまで俺がいた空間を緑竜の牙が噛み砕く。ジャザベジドの足の爪が土に食い込む。次の瞬間、緑竜の爪が振るわれるが、こちらも空を切るのみ。

 

『なぜだ、なぜ当たらねぇ』

 ジャザベジドの顔に、焦りの色が浮かぶ。

 どうして俺がジャザベジドの攻撃をここまで回避できるかというと、俺がジャザベジドの癖を見切っているからだ。

 

 ジャザベジドの攻撃には全て予備動作があり、癖となって現れている。体当たりの時は尾が僅かに伸び、尾で攻撃する時は右手が動く。噛みつきを行おうとすると腹部が膨らみ、爪を振るえば足の爪が土に食い込む。そして攻撃を狙う場所は四つの目が教えてくれる。

 ジャザベジドの四つの目のうち、二つは対戦相手である俺の顔を見ているが、残りの二つは攻撃箇所を見ているのだ。

 そのためジャザベジドがどんな方法でどこを攻撃するかは、全て事前に読み取れるのだ。

 

『なんでだ、くそ!』

 攻撃を悉く回避されるジャザベジドが、苛立ちの声を上げる。

 

 なぜこんなわかりやすい癖があるのかというと、全てはジャザベジドの卑怯な行いのせいだ。もしジャザベジドが正々堂々と力試しに挑んでいれば、癖や弱点を指摘し合う仲間ができていただろう。しかしジャザベジドは勝ちたいあまり、卑怯な振る舞いをするようになった。卑怯者に助言をする者などいない。

 

 ジャザベジドはザボネストとボーンダムを取り巻きとして連れているが、この二頭も助言の役には立たない。

 おそらくザボネストとボーンダムも、ジャザベジドと同じく卑怯な振る舞いをするのだろう。卑怯な戦法を使えば、それだけで勝ててしまう。そのため癖や弱点を見抜くと言う、地道な努力をする必要がなくなる。

 

 ジャザベジドの今の状況は、すべて自身の行いが原因であった。

 

『ジャザベジド、お前は競う部分を間違えたのだ!』

『なんだと!』

 俺の声にジャザベジドが怯む。

 

『お前の言った通り、確かに力試しは殺し合いの練習だ』

 俺は三日前の、ジャザベジドの言葉を肯定した。

 この世界は弱肉強食。力試しはいつか訪れる死闘を想定した訓練と言える。そして殺し合いに卑怯もへったくれもない。

 原作でも主人公たちは詐術を使い勝利を収めていたし、俺も勝つことが、生き残ることがすべてだと思う。だがジャザベジドは根本の部分で間違えている。

 

『訓練だからこそ、勝敗ではなく勝ち方にはこだわるべきだったな』

 俺の言葉に、周りで観戦している竜たちの何頭かが頷く。

 

 訓練で重要なのは、実戦で生き抜く力があるかどうかだ。そして実戦となれば、当然相手も卑怯な手をいくらでも使ってくる。そうなればジャザベジドの有利はなくなってしまう。

 

 実戦で生き残るための卑怯なら俺も肯定するが、ジャザベジドの卑怯は違う。ただ目の前の勝負に勝ちたいだけの卑怯さだ。

 ジャザベジドは実戦を想定しているつもりだろうが、訓練の勝敗を気にしている時点でぬるいのだ。

 

『うるさい、黙れ!』

 ジャザベジドが俺に飛びかかり、両手で組み付く。ジャザベジドの顔には、必勝の笑みが浮かぶ。即座に手から強酸を生み出し、俺の鱗を溶かす。

 

 白煙が上がり、鱗が溶けていく。しかし俺は痛痒にも感じず、組みついたジャザベジドの体を下から押し上げる。

 予想外の反撃にジャザベジドの重心が崩れ、緑竜は再度倒れた。

 

『馬鹿な、なぜだ?』

 起き上がったジャザベジドが、溶けた俺の鱗を見る。すると四つの目が驚きへと変わる。

 

 俺はジャザベジドに対して笑みを向けた。ジャザベジドの目には、俺の鱗の下にある透明な樹脂の膜が見えることだろう。これぞ俺が三日かけて完成させた咒式、化学錬成系第一階位〈樹脂膜〉の咒式だ。ポリエリレン樹脂(され竜でのポリエチレン樹脂の表記)を鱗の下に合成しておき、強酸から身を守ったのだ。

 

『テメェ、汚ねぇぞ』

『何がだ。体内で作用する恒常咒式は、使用してもいいのが力試しの規則。鱗の下は体内だ』

 俺の返答にジャザベジドが顔を歪める。周りで観戦している竜たちも、俺を非難しない。そもそも緑竜だから、汗が強酸と言い張る方がおかしいのだ。

 

『くそっ』

 ジャザベジドが顔を歪めて立ち上がる。しかしすぐにその顔が笑みに変わった。

 ジャザベジドは身構え、僅かに口を開く。しかし攻めてはこない。

 観戦している竜たちが訝しむ。その時ファラ兄がハッと気づき声を上げた。

 

『気をつけろ、無色無臭の毒ガス〈死哭燐沙霧〉の咒式だ! 幼い竜は下がれ!』

 ファラ兄の言葉に、観戦していた百歳級の竜たちが距離を取る。ファラ兄が〈反咒禍界絶陣〉を展開し、さらに三百歳級の竜も同じく結界を展開。無制限に放出される毒ガスを分解していく。

 

 周りを巻き込む行動をしたジャザベジドが笑う。

 サリンガスを生み出す〈死哭燐沙霧〉の咒式は凶悪だ。呼吸からだけではなく、皮膚からも浸透して神経伝達物質が破壊する。

〈反咒禍界絶陣〉を使えれば質量の軽い毒ガスは無効化できる。だが百歳に満たない俺には、まだ〈反咒禍界絶陣〉は使えない。取れる手は限られている。

 

 俺はジャザベジドに向かって突撃した。対する緑竜は毒ガスを口から放出しつつ、尾で俺を迎撃しようとする。

 

 ジャザベジドからしてみれば、俺の勝機は息を止めながら接近して攻撃するしかない。ならば息が切れるのを待てばいいと考えているのだろう。

 

 ジャザベジドは余裕の顔で迎え撃とうとする。しかし俺はジャザベジドの尾の射程に入る直前、前後左右に小刻みに跳躍して緑竜を惑わす。

 

 大量の酸素を消耗する陽動にジャザベジドが驚き、迎撃のために掲げられた尾も迷い揺れる。

 俺が一歩前に出る、ジャザベジドは俺の呼吸が限界なのだと予想し尾を放つ。だが俺は直前で急停止して尾を回避すると、即座に緑竜の顎に目掛けて頭突きを叩き込んだ。

 顎を撃ち抜かれたジャザベジドが、四つの目を剥いて倒れた。

 

 毒ガスの発生源であるジャザベジドの前に、俺は悠然と立つ。周りにいた竜たちが不思議そうな顔をしていた。

 

 俺が毒ガスの影響を受けていないのには、ちゃんとした理由がある。まずサリンガスは皮膚からも吸収されるが、こちらは鱗の下に形成した樹脂膜により遮断されている。そして最も注意すべき呼吸からの侵入だが、俺はジャザベジドが毒ガスを使ってくることを予想していた。

 

 卑怯なジャザベジドのこと、自分の呼吸は毒ガスなのだと言い張ることは容易に想像がついた。故に俺は毒ガス対策として、体内に液体酸素を貯蔵して呼吸に使用していたのだ。

 もちろん鼻は咒式で塞ぎ、目も瞬膜で覆い防御している。

 

 ただ予想外だったのは〈死哭燐沙霧〉を使用してきたことだ。毒を操る緑竜といえ、ここまで強力な咒式を使用できるとは思わなかった。しかも完全に無色無臭で、予想していなければ一撃でやられていた。

 

 俺は気絶しているジャザベジドを見下ろす。顎を綺麗に撃ち抜かれたため、ジャザベジドは脳震盪を起こしていた。気を失っている以上、首を軽く噛めば俺の勝利と判定されるだろう。だが……。

 

 俺は尾を掲げると、白目を剥くジャザベジドに向けて振り下ろした。俺が放った尾の一撃は、ジャザベジドの鼻先にある地面を打つ。気を失っていたジャザベジドは音と衝撃に意識を取り戻す。

 

『立て! まだ勝負はついていないぞ!』

 俺はジャザベジドを見下ろし、勝負の続行を促す。気を失っていた緑竜は、なぜとどめを刺さなかったのかと困惑を見せる。

 

『この勝負。俺はお前が降参するまで、終わらせるつもりはない』

 俺の宣言に、ジャザベジドをはじめ周りにいた竜たちが息を呑んだ。

 

 降参以外の敗北を認めないということは、決着の決定権をジャザベジドに委ねるということだ。しかしジャザベジドは降伏を選択できない。はるか年下の竜を相手に降参したとあっては、面目丸潰れとなる。

 

『どうだ、降参するか?』

 俺は降伏を問いかけた。俺はここでジャザベジドの心を完全に折るつもりだった。そうしなければいけなかった。

 

 もし半端な形で勝利すれば、ジャザベジドは必ず俺に復讐してくるだろう。無色無臭の毒ガス〈死哭燐沙霧〉は奇襲にはもってこいだし、そうなれば俺は生き残れない。

 今ここで、ジャザベジドの復讐心を完全に摘んでおかねばならなかった。

 

『テメェ、ふざけやがって』

 ジャザベジドが、牙と爪から毒液を滴らせながら吠える。まだまだやる気は十分だった。

 

『そうこなくっちゃ』

 俺も咆哮を返した。

 




今回はたくさんの咒式を使えて、書いていて楽しい回でした。
次回の更新で第一部完とします

第二部はされ竜二十三巻の発売記念にあわせて、更新を再開しようと思います
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