され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
では第二部連載開始
第二部終了するまで、またお付き合いください
第二十二話 ニドヴォルクとの戦い
試しの谷から少し離れた荒野で、俺は口を大きく開けて咆哮を放った。
気合いの声をあげた俺は、大地に手をつき身構える。俺は九十歳を超えており、体格は二十メルトルに迫っていた。今や立派な大人と言っても過言ではない。俺は四肢に力を入れて前を睨みつけた。
俺の視線の先には、一頭の竜がいた。全ての光を吸収するような、漆黒の鱗を持つ竜だ。
体は大きい。体長は俺を遥かに超える二十六メルトルの巨体であり、六百歳級の堂々たる竜であった。
『行くぞ、ニドヴォルク。今年こそは勝たせてもらう』
俺はニドヴォルクに向けて言い放つ。するとニドヴォルクの口がわずかに開いた。
『毎年そう言っているけれど、今年こそ勝てるといいな、ヨギストラ』
ニドヴォルクは輝く瞳で俺を見下ろし、赤い口を広げて笑う。目の虹彩と口だけが、彼女の中で色彩を帯びていた。
ニドヴォルクの言い様に、俺は歯噛みした。彼女に最初に戦いを挑んでから、すでに四十年以上が経過している。それから俺は年に一度、毎年ニドヴォルクに戦いを挑んでいた。しかし勝てたことは一度もなく、この四十数年間連敗を喫している。
『去年までの俺と思うなよ!』
俺は叫びながら、ニドヴォルクへと突進した。対するニドヴォルクは全く動かず、余裕の笑みを見せている。
俺の体がニドヴォルクに接近した瞬間、彼女の尾がわずかに動いた。差し伸ばすように尾が俺の体の下へと伸び、下から上へと跳ね上げられる。
俺は瞬時に大地を蹴り、跳ねあげられた尾を回避して着地する。
『へぇ、やるじゃない』
『もう最初に会った頃のようにはいかない』
感心した声を上げるニドヴォルクに、俺は言い返す。
思い返されるのは四十年以上前、最初にニドヴォルクに挑んだ時のことだ。あの時、気がつけば俺の体は大空に放り出されていた。当時は何をされたのかさっぱりわからなかった。だがじっくりと考えてみれば、答えは明らかだ。
俺はニドヴォルクの前で、波打つように動く長い漆黒の尾を見た。この尾こそ、俺を大空へと放り投げた犯人ならぬ犯尾だ。
ニドヴォルクは原作《されど罪人は竜と踊る》では、〈轟重冥黒孔濤〉や〈重爪〉という重力力場系の咒式を使用していた。
おそらく重力や力の向きを操ることは、彼女の得意分野なのだろう。彼女はその長い尾で俺に触れた瞬間、俺の力のベクトルを支配したのだ。そして突進の方向を前ではなく真上へと、
方向転換させた。
俺はニドヴォルクに突進しているつもりで、自分で真上に飛び上がっていたのだ。そこにさらにニドヴォルクが尾で俺を上に押し上げ、気が付けばはるか上空にいたというわけだ。
説明すれば単純な話だ。しかし実際にやるとなれば、簡単などとはとても言えぬ難問だ。
まず俺の重心や突進の方向、歩幅を完璧に読み切らねばならない。そして寸分違わぬ繊細さで尾を操り、微細な力加減で俺の進行方向を上へと変換。さらに何十トーンもある俺の巨体を、跳ね飛ばす筋力も必要となる。
大胆にして繊細、まさにニドヴォルクにしかなし得ない神技だ。だが見切った!
『もうその手は食わないぜ』
『へぇ、そうかしら』
ニドヴォルクが尾を伸ばし、先端を小刻みに動かす。まるで猫をあやすような動作だが、尾に触れた瞬間投げ飛ばされるだろう。
ニドヴォルクが尾を繰り出す。俺は必死に体を動かし、伸ばされる尾を回避する。
尾を回避するだけだが、これが難事だった。ニドヴォルクの動きは総じて視認しにくい。原因は彼女の体を覆う漆黒の鱗にある。
ニドヴォルクの鱗は、光をまるで反射しない。おそらく彼女の鱗の表面は、ナノサイズの筒が外に向けて並んでいるのだろう。光に照射されても筒の中に光が入り込み、外に反射されることがない。長いトンネルが暗いのと、同じような原理だ。
ほとんどの光を吸収してしまうため、ニドヴォルクの手足は体に溶け込み輪郭が見えない。そのため体のわずかな動き、予備動作も見分けられなかった。それに電波の返りも悪い。
俺は雷竜であるため、電波を放出してミリメルトル単位で相手との間合いを図ることができる。しかしニドヴォルクの鱗は光だけでなく電波を吸収する性質もあるのか、動きを捉えることができなかった。
必然、ニドヴォルクの尾の攻撃は見てから回避するしかない。しかも縦横無尽に動く尾を回避することは簡単なことではなかった。だが俺とてこの四十年で成長した。特に体の神経系を光ファイバーに置換し、光速での反射を可能としている。視神経も同じく強化されており、複雑に動く尾であっても視認可能だ。
見えた!
俺は尾の動きを見切り、体を光速で伝わる反射神経で回避する。そしてニドヴォルクの懐に入り込み、漆黒の右手に左手をかけた。
届いた!
俺は会心の笑みを浮かべた。この四十年の間、毎年勝負を挑んでいた。だがニドヴォルクの尾以外の場所を触れたのは、今日が初めてだった。
あとはこのまま力勝負に持ち込んで押し倒す!
俺が左手に力をかけたその時だった。ニドヴォルクがつまらなそうな顔で右手を払った。次の瞬間ニドヴォルクの体が反転した。いや、違う。俺の体が回転していた。
空、地面、空、地面、空、地面。
目まぐるしく視界が入れ替わり、何度も高速で回転していた。ただ右手を振るわれただけで、俺の体は宙を漂う落ち葉となっていた。
地面が迫る。このままでは激突すると、俺が受け身を取ろうとしたその時だった。ニドヴォルクが払った右手を振り下ろす。回転する俺の体が急降下し、地面に叩きつけられた。
巨大な激突音が響き渡り、俺の体を強烈な衝撃と激痛が駆け抜ける。衝撃と痛みは一瞬では治らず、体の内部を乱反射するように居座り続けた。
『ほらほらどうした、早く立たぬと負けてしまうぞ?』
ニドヴォルクが嘲の目で俺を見下ろし、首元を噛もうとする。だが立ちあがろうにも、俺は激痛により身動き一つできない。
『ほれ、首を噛んだぞ。降参せぬか』
ニドヴォルクがカプっと俺の首筋を噛む。倒されて首を噛まれれば、降参して負けを認めるのが力試しの作法だ。だが俺は降参できなかった。声が出なかったからだ。
投げられた衝撃で俺の肺からは全ての酸素が搾り出され、わずかなりとも残っていなかった。呼吸のために息を吸い込もうにも、肺は痛みのあまり収縮はしても膨張はしない。激痛に酸欠の苦しみが加わるが、それでも酸素を吸えない。
『降参せねば終わらぬぞ』
喋れぬ俺に対し、ニドヴォルクが首に牙を立てる。
鱗や皮が破れ、血が出るほどの力は入れない。しかし痛みを感じるギリギリのところを狙って甘噛みしてくる。
まるで猫が鼠をいたぶるような光景は、俺が息を吸いこみ、喋れるようになるまで続いた。
明日も更新します
所で皆さん23巻は買われました?
私は電子書籍で速攻で買って読みます
あとで紙本も購入して本棚に揃えます