され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第二十四話 天才

 第二十四話 天才

 

 エニンギルゥドとエクノクア、二頭の竜が対峙して今まさに戦いが始まろうとしていた。

 エクノクアが軽快に左右へと飛び、身軽な姿を見せる。対するエニンギルゥドは悠然と構えて動かない。

 小刻みに動くエクノクアが、タイミングを見計らいエニンギルゥドに噛み付く。その動きは鋭い。そろそろ二百歳になろうかというエクノクアは、このところさらに素早さに磨きをかけてきている。

 

 疾風のように鋭いエクノクアの攻撃。だがエニンギルゥドは身を翻し、後ろに一歩下がって牙を避けた。その回避は紙一重、互いの距離は数センチメルトと離れていない。二十メルトルの巨体を誇る竜からしてみれば、紙一枚分にも等しい距離だ。

 

 最小限の動きで回避したエニンギルゥドは、前に踏み出す。反撃の予兆を察知したエクノクアは、後ろに飛んで距離を取った。

 

 仕切り直しをしたエクノクアは、身を低くしてじっとエニンギルゥドを見上げて距離を測る。

 エクノクアが仕掛ける。電撃のような噛みつきの三連撃。しかしその全てをエニンギルゥドは軽やかな足捌きと、しなやかな身のこなしで回避する。

 

 その動き、まさに宙に舞う一枚の羽根。どれほどエクノクアの攻撃が鋭くとも、エニンギルゥドはスルリスルリと最小限の動きで避けていく。

 

 二頭の距離は限りなく近いため、反撃も容易。エニンギルゥドが一歩前に踏み出そうとすれば、エクノクアは下がる他ない。

 

 俺は二頭の攻防を見て唸った。

 戦いの全体を見れば、果敢に攻撃を繰り出しているのはエクノクアの方だ。エニンギルゥドは回避ばかりで手が出ていない。しかし……。

 

 エクノクアがエニンギルゥドを見ながらも、背後を気にする。エクノクアの後ろには、戦いを見守る竜たちの姿があった。

 攻撃を仕掛けているエクノクアの方が、エニンギルゥドに追い詰められていた。

 

 力試しに場外はない。しかし観客が見守る輪の内より、外には出ないことが不文律となっていた。

 これ以上後退すれば逃走と見られかねない。それに後退したところで解決の策は無い。力試しにおいて解決策はただ前にしかないのだ。

 

 エクノクアも覚悟を決め、後ろではなく前を見据える。エクノクアが現状を打破する方法は一つだけ、さらに強く踏み込みエニンギルゥドに攻撃を当てることのみ。

 

 エクノクアは頭を下げ、伏せるように身を低くする。一見すると降伏したようにも見えるが、エクノクアに降参の意識はない。その双眸は闘志に燃え、撓められた四肢は引き絞られた弓のように力をためている。

 

 エクノクアが矢のように突進し、エニンギルゥドに飛び掛かる。その踏み込みは強く、後ろに下がっても詰められる。さらにエクノクアは両手を広げ、左右への逃げ道も塞ぐ。

 

 エニンギルゥドは後や左右にも回避できず、エクノクアの突進を受ける。

 エクノクアの両手がエニンギルゥドの肩にかかった。だがその時だった、エクノクアの死角から地を這うようにエニンギルゥドの尾が放たれる。尾はエクノクアの体を支える両足を払い、さらにエニンギルゥドはエクノクアの体を掴み、払われた足とは反対側に倒す。

 

 エクノクアは見事に倒され、エニンギルゥドは倒した動作のままエクノクアの首に噛み付いた。

 

「まっ、まいった」

 エクノクアは呆気に取られながらも、自らの敗北を認めた。

 周囲にいた竜からも歓声よりも唸る声が上る。

 見事な勝ち方だった。エクノクアも弱くはないのだが、動きを完全に見切られていた。

 

『うん、あいつはまさに天才だな』

 戦いの一部始終を見ていたファラ兄が頷く。俺もその評に異論はなかった。

 エニンギルゥドはこのところ力をつけてきていて、同年代ではほぼ敵がおらず、三百歳級の竜と戦っても互角以上の戦いを見せる。そして先ほど見せた軽やかな身のこなし。奴ならばニドヴォルクと戦っても、いい勝負ができるだろう。

 

 戦いを終えたエニンギルゥドの周りには、同年代や年下の竜たちが集まる。若い竜にとって、エニンギルゥドは憧れなのだ。

 

 竜たちはこぞってエニンギルゥドの教えを請おうとする。その数は膨大だったが、エニンギルゥドは嫌な顔ひとつせず、返事をする。良い奴だ。

 

『やっぱりあいつは特別ですね』

 俺は嫉妬する気も起きなかった。

 白銀龍様の直系というだけでなく、才能もあって人柄もいい。まさに完璧だ。

 

『ああ、だが俺はあいつがここまで伸びるとは思わなかった』

『へぇ、そうなんですか?』

 俺はファラ兄を見上げた。エニンギルゥドが天才であることは、広く知られていたと思っていた。

 

『確かにあいつは天才だった。五十歳ごろにこの谷に来たが、連戦連勝の負け知らずだ。だがそれがあんまり良くなかった。初めの頃は可愛いところもあったんだが、途中で増長し出してな。正直鼻持ちならないところがあった。最近じゃぁそういうところがなりを潜めた』

 ファラ兄がうんうんと頷く。

 

『だから年上連中もあいつを可愛がって色々教えるし、元がいいからすぐに覚える。だがそれもこれも、あいつが丸くなったからよ』

 ファラ兄の言葉に、俺はエニンギルゥドの急成長に納得が行った。しかしわからないことがひとつ。

 

『でも丸くなった原因ってなんですかね? 何かあったんですか?』

 俺が問うと、ファラ兄がポカンと口を開けた。そして赤い尾を俺の頭の上へと掲げて軽く一振り、俺の頭を打ち据える。

 

『痛っ、何するんです!』

『間抜けなことを言っているからだ』

 ファラ兄はそれ以上答えず、負けたエクノクアの元に行く。

 

 俺は叩かれた頭をさすっていると、年下の竜と話していたエニンギルゥドがこちらを見て俺に気づいた。

 

『ヨギ! 戻っていたのか!』

 エニンギルゥドは話していた竜にまたあとでと一言声をかけてから、俺に元にやってくる。

 

『おう、エニン』

 俺はエニンギルゥドに声を返す。俺とエニンギルゥドは四十年前のあの日から友となり、今では互いに呼び捨てにし合う仲となっている。

 

『ニドヴォルクには勝てたかい?』

『いや、負けたよ。また来年挑むさ』

 俺は敗北を告げると、エニンギルゥドは笑いもせずに頷いた。

 

『そうか、そうするといい。ところで、今からやるか?』

 エニンギルゥドが力試しを持ちかけてくる。

 俺は試しの谷にいる間、エニンギルゥドとは毎日力試しを行っている。今日はまだだ、しかし……。

 

『いや、やめとこう。お前と戦いたがっている奴はいっぱいいるし』

 俺は周囲に集まる竜達を見た。エニンギルゥドは人気者だ。誰もが彼と戦いたがり、順番となるほどだ。その中で俺は優先的に時間を割いてもらい、毎日戦わせてもらっている。俺一人で独占してはいけない。

 

『しかし、今日でもう実家のほうに帰るんだろう?』

『うん、昼にはここを立つよ。夕方には実家に帰りたいからな』

 俺が答えると、エニンギルゥドは口を閉じ俯いた。

 

 俺は一年の内、三十日を試しの谷で過ごし、残りは実家にいることにしていた。そして実家にいる間に、ニドヴォルクに勝つための修行を行なっているのだ。

 

『今年もエニンには負け越したな』

 俺は今回行った、エニンギルゥドとの力試しを振り返った。

 戦績は二十九戦中、俺の十一勝、十三敗、五引き分けだ。特に最初の頃は四連敗を喫し、それが大きく響いている。

 

『何を言う、確かに最初の方は俺が連勝したが、最後の方はヨギの方が勝っていたじゃないか。最後の二回は時間制限で引き分けとなったが、続けていれば俺が負けていただろう』

 エニンギルゥドは自分に厳しい。

 

 俺たちはローカルルールとして、試合時間を一時間ほどと決めている。たしかに最後の二回は時間制限がなければ、俺が勝っていた可能性はあったかもしれない。だが勝ちきれなかったことが全てだ。ああしていたら、こうしていたらと言うのは意味がない。

 

 それに序盤の四連敗の後、俺は連敗を阻止すべく引き分けに持ち込んだ。あれこそ時間制限がなければエニンギルゥドが勝っていたので、引き分けに逃げたのは俺の方と言える。

 

『ところで、ヨギはそろそろ独り立ちの時期だろう。縄張りはどうするんだ?』

 問われ、俺は思案した。

 

 竜は百歳になると、親元を離れて自分の縄張りを持つ。だが一口に縄張りを持つと言っても、簡単ではない。土地が有限である以上、どうしても奪い合いとなる。獲物の豊富な縄張りとなれ、争奪戦はさらに激しくなる。縄張りは簡単には手に入れられない。

 

『それとも、この辺りに移住するのか?』

 重ねて尋ねられ、俺はさらに迷う。

 親元を離れたあと、すぐに縄張りを持たずに試しの谷で過ごす竜もいる。だが自分の縄張りを持つことは独り立ちした証であり、三百歳を超えて試しの谷に居着いている者はいない。

 

『う〜ん。やっぱりどこかに縄張りを持とうと思う』

 俺は両親の顔を思い浮かべながら答えた。

 親元を離れるのは寂しい。だが自立して生きていけるところを見せるのが、子供にできる最大の親孝行であろう。

 

 もちろん簡単ではないだろう。競争相手がいない場所を選べば、獲物が少なく食料探しに苦労する。

 逆に獲物が多い場所は先住者の竜がいるだろうから、彼らと戦って縄張りを勝ち取らねばならない。しかも勝ち取った縄張りを、他の竜に奪われないようにもしなければいけない。

 どちらも百歳になったばかりの竜には、簡単なことではなかった。

 

『そうか、なら一緒に縄張りを探しにいかないか?』

 エニンギルゥドに誘われ、俺はその方法もあったなと気づいた。

 

 竜が親元を離れても、完全に一頭で生きていく必要はない。何頭かの竜と小さな群れを作り、助け合って生きていくと言うのも一つの手だ。

 

 仲間がいれば獲物が少ない場所でも手分けしてやっていけるし、ほかの竜から縄張りを勝ち取ることもできるかもしれない。

 もちろん複数で一つの縄張りを共有していれば、いずれ手狭となるだろう。だがその時はこちらも年齢を重ねて、強くなっている。単独で縄張りを勝ち取り、維持することもできるだろう。

 

 試しの谷で若い雄の竜が集まっているのも、こうした仲間を探すためでもあるのだ。

 

『それもいいかもな』

 俺が頷くと、エニンギルゥドの顔が明るくなった。

『本当か?』

『ああ、悪くないな』

 俺としても、エニンギルゥドとの共同生活はメリットが多い。

 

 縄張りの維持もさることながら、修行環境としても最適だった。

 ニドヴォルクとの約束もあるし、そうでなくても俺は彼女に一度ぐらいは勝ちたかった。そのためには日々の修行は欠かせない。側に好敵手であるエニンギルゥドがいれば、日々の修行にも身が入るだろう。

 

『よし。ならしばらくしたら、君の住処に行くよ。それから縄張りを探しに行こう』

 エニンギルゥドの言葉に俺は頷き、約束をする。そして俺は仲間達に別れを告げ、三十日ぶりの実家に戻った。

 

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