され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第二十五話 帰郷と両親の惚気

 第二十五話 帰郷と両親の惚気

 

 俺は咒式で翼を作り、空を飛行して実家への道を急いでいた。最初の頃は父上様に咒式を分けてもらっていたが、今では自分で組成式を覚えた。最近では飛行も慣れたものだった。

 

 しばらく飛んでいると、太陽が夕日となる前に生まれ故郷が見えてきた。巣穴の前では赤い鱗をした大きな竜が寝そべっている。亀の甲羅干しのように、鱗に陽を当てているのは、我が父上様ことヨギルググだ。

 

『父上様! 今戻りました』

 俺は眠る父上様の隣に、翼をたたんで降り立つ。

『おお……、ヨギか』

 目を開けた父上様は、大きな欠伸をしながら俺を見た。

 

『早かったな、もっと遅くなるかと思った』

『はい、飛ぶのにも慣れてきましたので』

 俺が答えると父上様はうんうんと頷く。

 

『ところで、母上様は?』

 俺は巣穴を覗き込むように首を伸ばした。巣穴は奥に長いため、外から内部の全てを見通すことはできない。しかし巣穴には誰の気配もなく、母上様がいないことは明らかだった。

 

『ああ、あいつは狩りに行っている。今日はお前が帰ってくるから、ご馳走を用意したいと言っていてな』

 父上様の説明を聞き、俺は自分の食い扶持ぐらい自分で取ってくるのにと思った。だが母上様の心づくしなので、ここは素直に受け取っておこう。

 

『まぁあいつが戻ってくるまで、ゆっくり話を聞かせてくれ』

 父上様は立ち上がり、俺と一緒に巣穴の中へと入る。そして入り口を背にして座る。俺も座って落ち着く。

 

『さて、今年はどうだった?』

『はい、充実した日々でしたよ』

『そうか、で可愛い雌の竜はいたか? 声ぐらいかけて一緒に狩りに行ったりしたか?』

 父上様が下世話な笑みを浮かべる。

 

『いえ、そう言うことは全然』

 俺は笑って首を横に振った。

 エニンギルゥドはかなり女性にモテ、よく雌の竜に声をかけられたりしている。だが俺にはさっぱりだ。なぜか誰も声をかけてこない。まぁ俺はまだ恋愛に興味がないので、特に困らないが。

 

『まったく情けない。俺がお前くらいの頃は毎日雌の竜に声を掛けて、遊びに行っていたものだぞ』

 父上様が俺の不甲斐なさを叱る。うん、うざい。

 

『ああ、でもお前には彼女がいたな。彼女とはどうだった?』

『彼女?』

『ニドヴォルクのことだ。試しの谷には彼女に会いに行っているのだろう?』

『ああ、それでしたら、今回はいいところまで行きましたよ』

『ほぉ! どんなふうにだ!』

 父上様が俺に顔を近づける。

 

『戦いで彼女の尾を回避して、体に触れるところまで行きました。大きな進歩です!』

 俺は戦いの成果を告げた。

 

 もちろん結果を見れば惨敗である。だがこれまで触れることもできなかったのだから、これは大きな進歩だろう。

 俺は今年の成果を報告したが、なぜか父上様は顔を顰めた。

 

『聞きたかったのはそう言う話ではないのだが……。まぁいい。しかし彼女に触れるとは、やるじゃないか』

 一度渋い顔をした父上様だが、気を取り直して俺を褒めてくれた。

 

『しかし、ニドヴォルクか……俺も若い頃は、彼女に何度か挑戦したんだ』

 父上様が過去を振り返った。そう言えば父上様は、ニドヴォルクとは同世代ぐらいだ。対戦経験があったとしても不思議ではない。

 その時入口の方で何か動く影が見えた。しかし入り口に背を向ける父上様は、影の存在に気づかない。

 

『昔彼女に惚れていてな、求婚したことがあったんだ。だがまるで相手にされなくてな』

 父上様が豪快に笑う。その背後では巨大な影が足音を殺し接近する。父上様は後ろから近づく相手をまるで気付かない。

 

『あっ、ち、父上様』

『戦いを挑んでも、これもまるで相手にならなくてな、触れることすらできなかった。あの漆黒の鱗。一度ぐらい触れてみたいと思っていたんだ。まさかお前が触るとはなぁ』

 俺は止めようとしたが父上は気づかず、下世話な笑みを浮かべたまましゃべるり続ける。その背後では、巨大な影が父上様を見下ろす。

 

『で、どんな触り心地だった?』

『あの……』

『いいじゃないか、教えろよ? どうだった?』

『その……』

 俺は父上様というか、その背後にある影が見ていられず視線を逸らす。すると父上様がハッと目を見開き、下世話な笑みを凍りつかせた。

 

『あーっと、もしかしてだけど、いる?』

 父上様の顔は、鱗すら青ざめているように見えた。俺は目を瞑り、顎を引く。父上様が錆びついた機械のように、ぎこちない動作で首を背後へと回した。

 

 父上様の背後には、金色に輝く鱗を持つ竜がいた。我が母上様ことハレルストラだ。母上様は目を細め、父上様を見下ろしている。

 

『や、やぁお前。帰りを待っていたよ』

 父上様は引き攣った笑みを浮かべ、甘い声を出す。だが母上様はにこりともしない。その目には絶対零度の蔑みを宿している。

 

『楽しそうな話ね』

『いや、違うんだ、これは』

『ニドヴォルクね。うん、知ってる。可愛い娘よね。ふーん。ああいう娘がいいんだ』

『いや、あれは若い頃の話で』

 

『鱗を触ってみたかったんだ〜。あっ、私は別にいいんですよ? どうぞ、好きなだけ触ってきたら? 私のような年増より、若い子の方がいいと思うし』

『いや、違うんだ、あれは言葉のアヤというか、愛しているのは君だけだ』

 父上様は必死に弁明するが、母上様は視線を外して壁を向いて座り込む。

 これは長くなるなと、俺は立ち上がった。

 

『あっ、すみません。自分の巣穴を見てきますね』

『おっ、おい待ってくれ、ヨギ』

 父上様が助けを求めるような目で見るが、俺にできることは何もない。

 

『頑張って下さい、父上様』

 俺はそれだけいうと、巣穴を出た。

 

 外に出ると、巣穴の前には巨大な猪の死体が横たわっていた。

 母上様がとってきてくれた獲物だろう。確かになかなかのご馳走だ。しかし母上様の怒りが解けるまで、食べることはできない。

 

 この獲物がいつ食えるかは、父上様の頑張り次第にかかっている。だが俺はそれほど心配していなかった。おそらく日が暮れた頃には、母上様の怒りも解けるだろう。

 

 なんだかんだ言って仲のいい夫婦だ。それに惚れているのは母上様の方で、父上様が謝れば割とすぐに許す。それに俺がいない時などは、ベッタリとくっつき父上様に甘えたりもする。

 仲睦まじいのはいいことだが、子供としては見ていられない光景だ。

 

 俺はさっさと自分の巣穴へと向かった。もっとも自分の巣穴といっても、父上様の縄張りの内部にあるので完全に独り立ちしているわけではない。独り立ちのための、前準備のようなものだ。

 

 父上様や母上様がいる巣穴から、少し離れたところにある山に到着した。土色の山肌が露出しているが、一箇所だけ土の色が濃い部分が存在した。

 俺はその土に爪を立てた。すると土がボロボロと崩れて空洞が現れる。これが俺の巣穴だ。試しの谷に向かう前に咒式で土を操作し、入り口を埋めておいたのだ。

 

 中を覗くと、平らな床に垂直の壁。そして同じく平らな天井が見えた。奥には四角く切り取られた通路が見え、部屋が続いている。

 

 俺は真っ平らな床を見回す。床に獣のフンや足跡などはなかった。入り口を塞いで置いたおかげで、不在の間に虫や獣が勝手に住み着くことは防げたようだ。

 

 巣穴の中に入ると、平らな床に爪が当たって耳障りな音がする。

 こう言った平らな床は、竜にとっては住みにくい環境だった。こんなふうに床を整形している竜は、きっと俺ぐらいだろう。咒式の研究と練習のためにやったのだが、元に戻してもいいかもしれない。

 

 俺は奥へと足を運んだ。奥の部屋には幾つもの石板が積み重なり、山となっていた。石板には竜の言語で文字が刻まれ、図形が描かれている。

 これは俺が研究している咒式の記録だ。

 

 竜は咒式の研究を必要とせず、ほぼ無意識に咒式を使用できる。遠い場所に目を凝らせば、勝手に望遠咒式が発動する。また吐息を吐こうと思えば、雷竜の俺は口から電撃が漏れ出す。

 

 故に殆どの竜は咒式の研究などしない。そんなことをしなくても、竜の膨大な咒力と演算力が、咒式を成立させてくれる。

 

 だがこれは竜だからこそできる力技であり、何より効率的とは言えない。咒式は組成式として正確に頭に思い描くことで、より少ない咒力でより強力な効果を得ることができる。強力な咒式を使用するためには、咒式の研究は欠かせなかった。

 

 それに咒式の研究は、咒式の幅を広げるためにも必要だった。

 竜は生まれついた種類により、得意な系統が分かれている。

 ファラ兄のように火竜であれば、炎を生み出す咒式が得意となる。雷竜の俺は電撃を生み出す電磁系が得意系統だ。しかし得意系統以外の咒式が、使用できないわけではない。例えばニドヴォルクは黒竜であり、これは強酸などを生み出すことを得意としている。だが彼女は重力系咒式を自由自在に操っている。

 

 生来の特性もさることながら、努力や才能で幅広く咒式を使用することも可能なのだ。

 

 積み重ねられた石板には、さまざまな系統の咒式の組成式が描かれている。刻まれた石板は今や膨大な数となり、部屋を埋め尽くしていた。

 

 ここも手狭になってきたな。

 

 俺は積み上げられた石板を見た。独学とは言え、毎日少しずつ研究した成果だ。俺はそろそろ百歳であり、竜としてはようやく子供を脱した時期だ。しかし人間ならば一生分の時間が経過している。だがこれだけ研究しても、まだいくつかの系統の基礎を朧げに理解したに過ぎない。

 

 得意系統である電磁系を軸に、生体系や化学系の研究をしているが、数方系はまだ基礎が終わったところ、重力系は入り口に差し掛かったぐらい。超定理系に関しては手も足も出ないのが実情だ。

 

 自由自在に咒式を操るには、まだまだ時間がかかるだろう。問題はそれがいつになるかだ。最強への道は遠い。

 

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