され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第二十九話 ニドヴォルクとハレルストラ
二頭を連れて巣穴を目指すと、巣穴の前で父上様が寝そべっていた。巣穴の前は父上様お気に入りの昼寝スポットなのだ。
俺たちが近づくと、足音で気付いたのか父上様が目を覚ます。
『ん? ヨギか、誰かいるのか……え? ニドヴォルク!?』
俺の背後にいるニドヴォルクを見て、寝ぼけていた父上様は飛び上がって驚いた。
『うん、久しいなヨギルググよ』
『どどど、どうしてここに?』
『こちらの方の護衛だ』
ニドヴォルクはエニンギルゥドを見た。
『父上様、こちらは友のエニンギルゥドです。エニン、こちらが俺の父上様ヨギルググだ』
俺は父上様にエニンギルゥドを紹介する。
『初めまして、エニンギルゥドと申します』
エニンギルゥドは礼儀正しく頭を下げる。
『あっ、これはどうもご丁寧に。私はヨギストラの父です』
父上様は慌てて頭を下げる。しかしニドヴォルクが気になるのか、チラチラと視線を送る。
『ハレルストラ様にご挨拶を申し上げたい。お取り継ぎ願えるか?』
ニドヴォルクが頼み込むと、父上様は首が取れるのではないかと思うほど何度も頷く。そしてニドヴォルクを見ながら、巣穴に入ろうとして壁に盛大に頭をぶつけた。父上様は頭を抱えながら、巣穴へと入っていく。
挙動不審な父上様の態度に、ニドヴォルクとエニンギルゥドが目を見合わせる。息子としては恥ずかしい限りだ。
父上様がこうも慌てふためくのは、おそらく俺が試しの谷から帰ってきた時、ニドヴォルクの話をしていて、母上様に聞かれたことだろう。
気まずい気持ちはわかるが、知り合いの前ではしっかりしてほしい。
しばらくすると父上様が戻ってくる。この時になると、少しは落ち着きを取り戻していた。
『妻は会うとのことだ。こちらへどうぞ』
父上様が招き入れ、俺は二頭を巣穴へと案内する。
巣穴の奥では母上様が座り込み、首を高く掲げていた。その姿勢には厳かさがあった。
いつもは陽気な母上様の、普段見せることのない姿に、俺も自然と身が引き締まった。
案内をした父上様が母上様の隣に座り、俺は前に進みでる。
『母上様、友を紹介します。エニンギルゥドです』
『初めまして、エニンギルゥドと申します』
俺が前に進み出て紹介し、エニンギルゥドが名乗りながら頭を下げる。
『よく来てくださいました、エニンギルゥド様。あなたのことは息子からよく聞いています。これからもヨギストラをよろしくお願いします』
母上様は深々と頭を下げる。そしてエニンギルゥドの傍にいるニドヴォルクに目を向けた。
『母上様、お知り合いかと思うが、ご紹介します。エニンギルゥドの護衛であり、今度の旅に同行することとなったニドヴォルクです』
俺が紹介すると、ニドヴォルクは深々と頭を下げた。
『お久しぶりです、ハレルストラ様。御産卵のおり、祝いに駆けつけなかった無礼をお許しください』
『構いません。エニンギルゥド様の守役を任されたことは聞き及んでいます』
『はい、私のような若輩者がかような大任を任され、身が引き締まる思いです』
ニドヴォルクはそう言うと立ち上がり、胸を張った。
立ち上がったニドヴォルクの鱗が漣のように波打ったかと思うと、漆黒の鱗が左右へと移動していく。そして黒い鱗の下から、白く輝く板のような物が出現した
それは鱗だった。巨大な一枚の鱗。自ら光を発し、神々しいまでの存在感を示している。
ニドヴォルクは輝く鱗を取り出し、両手で掲げた。
光り輝く鱗を見て、誰もが息を飲み唸る。俺が目を凝らすと無意識に探査咒式が発動し、鱗の成分を調べようとした。しかし探知咒式はなんの調査結果も示さない。鱗に秘められた咒力が、不躾な咒式を拒絶したのだ。
切り離された一枚の鱗。にも関わらずこれほどまでの光と咒力を称えている。このような鱗を持つ竜、いや龍となると賢龍派には一頭しかいない。
『こちらがお役目を賜った証、白銀龍ギ・ナランハ様の鱗であります』
ニドヴォルクは鱗を両手で掲げた。
俺は再度唸った。この鱗を見れば、ニドヴォルクが白銀龍の信任を受けていることは一目瞭然だ。賢龍派の竜であればニドヴォルクにあらゆる便宜を図り、その要請を断れないだろう。
『うん、これは良いものを見せていただいた』
母上様が頷き、ニドヴォルクは白銀龍の鱗を、胸の鱗の下にしまう。
『私が率いた群れから、このような大任を賜る者が現れるとはこれ以上ない喜びです』
母上様は穏やかな声を返した。ニドヴォルクは再度静かに頭を下げる。
母上様の言葉を聞き、俺は母上様とニドヴォルクの関係をおおよそ推測できた。
雄の竜は百歳を超えると、独り立ちして試しの谷で戦いの腕を磨き、自分の縄張りを持つ準備をする。では雌の竜はどうしているのかというと、こちらは親元を離れたのちは雌だけの群れを作る。雌はそこで竜の社会生活を覚えながら、伴侶となる雄を探すのだ。
この時に群れにいた最も年齢の高い竜が、長となって若い竜を導くと言う。おそらくニドヴォルクが若い頃、群れを率いていたのは母上様だったのだ。
ニドヴォルクにとって母上様は、教師であり母であり姉であるのだ。
『試練の旅には、私も護衛として同道することとなりました。エニンギルゥド様御一向は、私が命に代えましてもお守りし、必ずお返しいたします』
ニドヴォルクは深々と頭を下げて誓う。
『どのような犠牲を払っても構いません。必ずエニンギルゥド様をお守りするように』
『……はい』
母上様の言葉に、ニドヴォルクは頭を下げたまま返事をした。
明日は更新できるか、ちょっと分かりません