され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第三話 竜として生きる覚悟を決めた

 第三話 竜として生きる覚悟を決めた

 

『なぁ、こういう名前はどうだ? マグマゴネン』

『あら、そんなのダメよ。これはどうラドマンデル』

 俺の頭上では赤い竜と黄色い竜が俺を挟んで話し合っていた。二頭の竜が話しているのは、俺の名前だった。だが今の俺には、自分の名前を気にしている余裕はなかった。

 なぜならここが《されど罪人は竜と踊る》通称《され竜》の世界であるということを、ついいましがた知ってしまったからだ。

 

 まずい。非常にまずい。

 竜に転生してこれで勝ち組と思ったが、ここが《され竜》の世界であるというのなら話は違った。

 《され竜》の世界では、咒式と呼ばれる魔法と科学が融合した力が存在し、モンスターの様な姿の〈異貌のものども〉と呼ばれる怪物も存在する。

 

 俺のような竜はその〈異貌のものども〉の一種とされていた。

 《され竜》の世界では、竜は数ある〈異貌のものども〉の中でも特別な存在とされていた。千年以上の寿命をほこり、最強の存在〈異貌のものども〉の王とすら言われていた。

 

 強いことには変わりないのだが、《され竜》の世界ではほかにも強い存在がたくさんいる。

 〈古き巨人〉と言う〈異貌のものども〉は、体が機械でできており、見た目は巨大ロボットだ。そして〈禍つ式〉と呼ばれる存在は、別次元からこちらの世界にやってきている情報生命体で、神話に語られる悪魔の様な存在だった。

 

 〈古き巨人〉に〈禍つ式〉は、竜とこの星の覇権を賭けて争い合っていた。

 他に竜を超える存在として、人類も忘れてはならない。

 

 人類はそのほとんどは弱いが、中には竜を倒す力を持つものがいる。

 《され竜》の主人公であるガユスとギギナは、作中で何度も竜や〈古き巨人〉に〈禍つ式〉と戦い勝利している。また作中に登場するライバルキャラたちはガユスたちよりも強いことが多い。これらのことを考えると、竜は決して最強無敵の存在ではなかった。

 

 どうする、俺?

 俺は自問自答した。

 チート能力でヒャッホウする予定だったが、ここが《され竜》の世界となると話は別だ。たとえ最強の竜と言えど、いつ死んでもおかしくはなかった。

 

 安全な場所にこもり、危険な存在と会わないようにすると言う方法もある。だが《され竜》という作品を考え得ると、それも良い手とは言えなかった。

 

 《され竜》という作品がどの様な結末を迎えるのかは、作品が完結していないのでまだ明かされていない。しかし惑星を揺るがすほどの大戦争が起きても不思議はない。いや、俺の予想ではおそらくその大戦争はきっと起きる。安全な場所などどこにもなく、最悪惑星ごと滅びる可能性すらある。

 

 逃げても隠れても無意味。むしろいつ来るかわからない死の恐怖に怯えることとなる。

 ならば方法は一つ。

 

 強くなる。

 

 生き残るには、強くなるしかなかった。幸い俺は最強種とも呼べる竜としての生を受けた。こうなれば強くなって、生き延びる方法を模索するしかない。

 第二の生を受けた一日目にして、俺は決意を固めた。

 俺のそんな覚悟を知らず、両親は俺の名前をどうするかをまだ話し合っていた。

 

 強くなると決めた俺は、すぐに行動を開始することにした。しかし強くなると言っても、現在のところやれることは少なかった。

 竜は咒式という、科学と魔法が融合したような不可思議な力を使うことができる。とはいえ咒式を使用するには咒力と呼ばれる力が必要らしく、さらに咒式の効果を決定する組成式と呼ばれる魔法陣の様なものも必要となる。

 

 生まれたての俺には、そのあたりのことがよくわかっていない。それより今は体を鍛えるべきだろう。

 竜は百年で体が二十メルトル(メルトル され竜の世界の長さの単位)の大きさにまで成長すると言われている。

 それからは百年ごとに一メルトルほど大きくなっていき、体の大きさで竜の年齢がわかると言われている。

 まずは体を鍛えるところから始めるべきだろう。体を作るにはまず何よりも食べることだ。

 

 俺は頭上で話し込む両親に声をかけた。

 まだ俺の声は言葉にならない。しかし両親はすぐに俺に気づき、俺の名前をどうするかという話を中断して顔を近づける。

 

『あら、どうしたの、坊や。お腹がすいたの?』

 母上様は俺がなにを欲しているかを察し、口を開いて例の白い物体を口から出してくれる。

 俺は差し出された食事をもりもりと食べた。

 

『あら、元気ね。たくさん食べてね』

『うん、大きくなれよ』

 よく食べる俺を見て、両親はことのほか喜んでくれた。親にとって食べてくれる子供というのは、それだけでありがたいものなのだろう。

 

 俺は腹一杯食べると体を寝床に横たえた。

 両親は俺の寝床のために、ふかふかの羽毛を用意してくれている。温かく、実に気持ちいい。

 食べたら寝る。これもまた体を大きくする大事な要素だった。

 

 どれぐらい寝たのか、目を覚まして上を見上げると、両親はまだ俺の名前で話し合っていた。

 まだ決まらないのかと俺はあきれたが、そのうち決まるだろうと気にしないことにした。それよりも体を鍛えねばならなかった。

 よく食べよく寝てよく動く。これが体づくり三大要素だ。

 早速運動すべく、俺は羽毛の寝床を這い出して歩こうとした。

 

『あら、坊や、外に出たいの? でも駄目よ』

 寝床から這い出た俺を、母上様が見とがめ、優しく口で咥えると寝床の上に戻す。

 俺はあきらめきれず再度寝床を出ると、今度は父上様が止めて寝床に戻す。

 

『こらこら、お前に外はまだ早い。踏みつぶしてしまうといけないからな』

 寝床に向けて、父上様が右手をかざす。すると手の前に光の魔法陣のようなものが一瞬だけ浮かび上がった。光が消失したかと思うと寝床の周囲の土が盛り上がり、円筒形の壁ができあがる。これぞ咒式の効果だ。

 

 初めて咒式を見られたことに俺は感動したが、しかしこれでは寝床の外に出ることは出来なくなった。とはいえ致し方ない。父上様のいう事にも一理ある。

 ならばと、俺は寝床を覆う壁の周りを歩いて回ることにした。

 

 俺が寝床を周回するのを、両親は奇妙な目で見ていた。しかし子供特有の遊びであろうと、すぐに気にしなくなった。そして俺の名前をどうするかと、また話を再開した。

 

 だが母上様、父上様。あなたたちは甘い。俺はこの様な狭い世界で満足する様な男ではないのだよ。

 その日の夜だ、俺は両親が寝静まった頃に行動を開始した。

 

 まず寝床にあるフカフカの羽毛を集めて、壁際に寄せた。そして羽毛の上に登り、壁を見上げる。

 寝床を覆う壁は土で作られているらしい。咒式を用いて作り上げられた壁は陶器の様に硬く、表面はツルツルしている。しかし俺も竜の端くれ、その指には鋭い爪がついている。

 

 俺は壁に爪を立て、四肢に力を入れてよじ登った。最初はまったく登れず、すぐに羽毛のクッションの上に落ちた。だが何度も繰り返しているうちに登れるようになり、ついに頂上に到達した。

 

 壁の外を見れば、そこは無限の世界が広がっていた。

 俺は壁の外へと飛び降り……たりはしなかった。

 

 今の自分は、控えめに見ても弱い存在だ。巣から出ることは死を意味する。それに寝床の外は危険がいっぱいだった。

 巣穴は洞窟の様な作りで、小さな穴があちこちに開いている。その中の一つに落ちれば、俺は穴にはまって死んでしまうかもしれない。それに寝床の近くでは、俺の両親が眠りについている。両親の体は見上げるほど大きく、寝返りに巻き込まれればプチっと潰されるのがオチだ。まずは潰されない程度に大きくならないといけない。

 待っていろよ、外の世界。すぐに行ってやるからな。

 

 俺は壁の上でうそぶくと、体を寝床へと向けて羽毛の上に飛び降りた。落下する浮遊感が体を駆け抜け、一瞬だけゾワっとする。しかしそれほど高い場所でもなかったので、すぐにボスンと羽毛の中に体が埋まる。

 壁を登り飛び降りる訓練を、俺は日々のメニューに加えることとした。

 

 

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