され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

30 / 66
戻ってまいりました


 第三十話 出発

 第三十話 出発

 

『さぁ、出発だ!』

 俺は号令の声をあげて巣穴を出た。地平線の彼方からは朝日が顔を出し、大地は光り輝いている。空にはまばらに雲があるだけで快晴。絶好の旅日和であった。

 

 俺は振り返ると、そこには同じく巣穴から出てきた二頭の黒竜がいた。

 艶のある鱗を持つのは黒銀竜のエニンギルゥド、闇を切り取ったような漆黒の鱗を持つのはニドヴォルクだ。

 二頭とも体調に問題はないらしく、元気そのものだ。問題なく出発できるだろう。

 

 二頭の背後にある巣穴からは、さらに二頭の竜が出てくる。

赤い鱗の火竜は父上様であるヨギルググ。黄色い鱗の雷竜は母上様ことハレルストラだ。

 

『ヨギ、しっかりやれ! 頑張るんだぞ!』

 父上様が力強く俺の背中を叩く。うん、痛い。

『ヨギ、慎重にね。怪我のないように』

 俺を見つめる母上様の顔は、憂を帯びていた。息子の独り立ちが嬉しいと思いつつも、やはり心配で寂しくもあるのだろう。

 

『はい、必ず元気に戻ってきます』

 俺は頷くと、母上様はエニンギルゥドを見た。

 

『エニンギルゥド様。この子はそそっかしいところがあるので、よろしくお頼みします』

『はい、お任せください!』

 エニンギルゥドは力強く答える。

 

『ニドヴォルク、お役目しっかりね』

 母上様はニドヴォルクにも声をかけた。

『はい、お任せください。ハレルストラ様』

 ニドヴォルクが頷く。しかし俺を心配してくれるのはわかるが、両親のこう言う態度は息子としてはこそばゆいものがある。

 

『よし、それじゃぁ行こう』

 俺は早くこの場から立ち去るべく、出発をせかした。そして意気揚々と旅立った。だが途中一度だけ振り返り、巣穴を見る。巣穴の前では父上様と母上様が、旅立つ俺をずっと見ていた。

 

 俺は元気よく手を振った。そして俺はもう振り返らないぞと前を見る。するとエニンギルゥドとニドヴォルクが俺を見ていた。少々恥ずかしかったが、二頭は少し口の端を歪ませただけで何も言わなかった。

 

 

 俺たちは森の中をどんどんと進んだ。歩みは軽快だった。三頭の竜が連れ立ち歩いているのを、遮る馬鹿はいない。俺たちが歩めば、森に住む〈異貌のものども〉は向こうから逃げていく。さらに進むと大きな山に行き当たり、その山を登り峰に到着した。

 

 俺は山の峰で足を止めた。眼下にはさらに広大な森が広がっている。

 

『ここまでは父上様の縄張りだったが、この先は違う』

 俺は森の先を見据えた。ここからが本当の旅立ちと言えるだろう。

 

『ところでヨギストラよ、そなたここから目的地への地図は知っているのか?』

 ニドヴォルクに問われた。

 竜は知識を文字で残すと言う文化がほとんどない。代わりに必要な情報は、咒式で伝達可能すると言う方法をとっている。

 

『うん。それなのだが、何も知らん』

 俺は自信満々に答えた。俺が知っている地形の情報は縄張りの内側と、試しの谷への行き方ぐらいだ。

 

『そう言う君は知っているのか?』

『もちろんだ。賢龍派の勢力圏内の情報は貰っている。また実地を確かめるべく、各地に飛んで回った時期もある。空から見ただけだが、おおよその情報は把握している』

 ニドヴォルクの返答に俺は頷き、次にエニンギルゥドを見た。

 

『エニン、君は?』

『こんな話になるとは思わなかったから、何も知らない。君のところに訪問するため、多少の情報は得ているが、ここから先のことはさっぱりだ』

 エニンギルゥドの答えに、俺も頷いて返す。

 

『行くことは決めていたのだろう? なぜ事前に調べておかなかった? 準備不足は失敗を準備しているようなものだぞ』

 ニドヴォルクが俺を咎める。確か《され竜》でギギナも似たようなことを言っていた。竜の間でも似たような言葉があるのだろう。

 

『うん、それなんだが、この旅の目的は失敗することだと思っている』

 俺はムブロフスカが出した、試練の真の目的を予想した。

 

 試練といっても賢龍派の勢力圏内を行ったり来たりするだけだ。派閥が異なる黒龍派の竜と出会うことはまずないだろうし、〈古き巨人〉や〈禍つ式〉と言った凶悪な〈異貌のものども〉と遭遇することもない。

 

 試練とは言っても、その内実は安全が約束されたピクニックだ。この上で入念な準備をして挑めば、まず間違いなく予定通りに旅が進むだけだろう。

 

『旅が順調に進んだら意味がないんだ。困難に遭遇していかに乗り越えるか、失敗して次にどうやって生かすか。それがこの試練の真の意味だと考えている。もちろんどうしようもなくなり、遠回りをすることもあるだろう。でもそれもこの試練の一環だ』

 俺が自説を述べると、二頭は異論を挟まなかった。

 

『わかった、そなたがそう言うのなら、何も言うまい』

 ニドヴォルクが頷く。しかし言っていてなんだが、百歳を超えた竜が立ち往生するような事態が、そうそうあるとは思わなかった。

 

 と、そんなふうに考えていた時期が私にもありました。

 

 さらに半日ほど進んだ頃だった。俺たちは見事に立ち往生していた。

 




明日も更新します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。