され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第三十話 出発
『さぁ、出発だ!』
俺は号令の声をあげて巣穴を出た。地平線の彼方からは朝日が顔を出し、大地は光り輝いている。空にはまばらに雲があるだけで快晴。絶好の旅日和であった。
俺は振り返ると、そこには同じく巣穴から出てきた二頭の黒竜がいた。
艶のある鱗を持つのは黒銀竜のエニンギルゥド、闇を切り取ったような漆黒の鱗を持つのはニドヴォルクだ。
二頭とも体調に問題はないらしく、元気そのものだ。問題なく出発できるだろう。
二頭の背後にある巣穴からは、さらに二頭の竜が出てくる。
赤い鱗の火竜は父上様であるヨギルググ。黄色い鱗の雷竜は母上様ことハレルストラだ。
『ヨギ、しっかりやれ! 頑張るんだぞ!』
父上様が力強く俺の背中を叩く。うん、痛い。
『ヨギ、慎重にね。怪我のないように』
俺を見つめる母上様の顔は、憂を帯びていた。息子の独り立ちが嬉しいと思いつつも、やはり心配で寂しくもあるのだろう。
『はい、必ず元気に戻ってきます』
俺は頷くと、母上様はエニンギルゥドを見た。
『エニンギルゥド様。この子はそそっかしいところがあるので、よろしくお頼みします』
『はい、お任せください!』
エニンギルゥドは力強く答える。
『ニドヴォルク、お役目しっかりね』
母上様はニドヴォルクにも声をかけた。
『はい、お任せください。ハレルストラ様』
ニドヴォルクが頷く。しかし俺を心配してくれるのはわかるが、両親のこう言う態度は息子としてはこそばゆいものがある。
『よし、それじゃぁ行こう』
俺は早くこの場から立ち去るべく、出発をせかした。そして意気揚々と旅立った。だが途中一度だけ振り返り、巣穴を見る。巣穴の前では父上様と母上様が、旅立つ俺をずっと見ていた。
俺は元気よく手を振った。そして俺はもう振り返らないぞと前を見る。するとエニンギルゥドとニドヴォルクが俺を見ていた。少々恥ずかしかったが、二頭は少し口の端を歪ませただけで何も言わなかった。
俺たちは森の中をどんどんと進んだ。歩みは軽快だった。三頭の竜が連れ立ち歩いているのを、遮る馬鹿はいない。俺たちが歩めば、森に住む〈異貌のものども〉は向こうから逃げていく。さらに進むと大きな山に行き当たり、その山を登り峰に到着した。
俺は山の峰で足を止めた。眼下にはさらに広大な森が広がっている。
『ここまでは父上様の縄張りだったが、この先は違う』
俺は森の先を見据えた。ここからが本当の旅立ちと言えるだろう。
『ところでヨギストラよ、そなたここから目的地への地図は知っているのか?』
ニドヴォルクに問われた。
竜は知識を文字で残すと言う文化がほとんどない。代わりに必要な情報は、咒式で伝達可能すると言う方法をとっている。
『うん。それなのだが、何も知らん』
俺は自信満々に答えた。俺が知っている地形の情報は縄張りの内側と、試しの谷への行き方ぐらいだ。
『そう言う君は知っているのか?』
『もちろんだ。賢龍派の勢力圏内の情報は貰っている。また実地を確かめるべく、各地に飛んで回った時期もある。空から見ただけだが、おおよその情報は把握している』
ニドヴォルクの返答に俺は頷き、次にエニンギルゥドを見た。
『エニン、君は?』
『こんな話になるとは思わなかったから、何も知らない。君のところに訪問するため、多少の情報は得ているが、ここから先のことはさっぱりだ』
エニンギルゥドの答えに、俺も頷いて返す。
『行くことは決めていたのだろう? なぜ事前に調べておかなかった? 準備不足は失敗を準備しているようなものだぞ』
ニドヴォルクが俺を咎める。確か《され竜》でギギナも似たようなことを言っていた。竜の間でも似たような言葉があるのだろう。
『うん、それなんだが、この旅の目的は失敗することだと思っている』
俺はムブロフスカが出した、試練の真の目的を予想した。
試練といっても賢龍派の勢力圏内を行ったり来たりするだけだ。派閥が異なる黒龍派の竜と出会うことはまずないだろうし、〈古き巨人〉や〈禍つ式〉と言った凶悪な〈異貌のものども〉と遭遇することもない。
試練とは言っても、その内実は安全が約束されたピクニックだ。この上で入念な準備をして挑めば、まず間違いなく予定通りに旅が進むだけだろう。
『旅が順調に進んだら意味がないんだ。困難に遭遇していかに乗り越えるか、失敗して次にどうやって生かすか。それがこの試練の真の意味だと考えている。もちろんどうしようもなくなり、遠回りをすることもあるだろう。でもそれもこの試練の一環だ』
俺が自説を述べると、二頭は異論を挟まなかった。
『わかった、そなたがそう言うのなら、何も言うまい』
ニドヴォルクが頷く。しかし言っていてなんだが、百歳を超えた竜が立ち往生するような事態が、そうそうあるとは思わなかった。
と、そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
さらに半日ほど進んだ頃だった。俺たちは見事に立ち往生していた。
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