され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第三十四話 甲竜

 第三十四話 甲竜

 

 俺たちの一路、ムブロフスカに伝えられた座標を目指して旅を続けた。

 旅のさなか俺はエニンギルゥドによく冗談を飛ばし、彼もよく笑った。時にはこの笑い話にニドヴォルクも加わった。彼女はお堅いようにも見えるが、意外にユーモアのセンスがあった。

 

 そしてある時は狩りの勝負をし、ある時はエニンギルゥドと力試しをして互いに高め合った。夜になるとニドヴォルクが咒式の講義をしてくれる時もあり、俺は苦手としていた重力系や数方系の基礎を学ぶことができた。

 

 時を忘れるほど充実した日々だったが、旅は楽しいばかりではなかった。ある時は長雨が続く中で湿原を渡り、ある時は草一つない荒野を歩いた。万年雪が積もる極寒の雪山を登り、深く険しい谷をこえた。

 

 湿原では底なし沼に足を取られ、荒野では飲み水の確保にさえ苦労した。極寒の雪山ではエニンギルゥドが雪崩に飲み込まれそうになり、谷では落石に遭遇して俺は瓦礫の下敷きになった。

 過酷な旅であったが、俺たちは互いに助け合って進んだ。

 

 沼に落ちそうになった時は互いに手を差し伸べ、荒野では朝露を集めて飲み水を分け合った。エニンギルゥドが雪崩に呑まれそうになったときは、鎖を伸ばしてエニンギルゥドを引っ張り上げた。あの時は俺も引きずられて雪崩に呑まれそうになったが、俺は鎖を決して手放さなかった。

 深い谷で瓦礫の下敷きになった時、俺は身動きが取れずどうしようもなかった。しかし必ずエニンギルゥドが助けてくれると信じて耐えた。

 

 苦難を通じて俺とエニンギルゥドの間には固い友情が結ばれ、誰よりも信頼できる仲間となった。ニドヴォルクはいつも見守り、挫けそうになる俺たちを時には導いてくれた。

 

 旅は苦難だけではなく、感動も俺たちに与えてくれた。

 

 足ばかり取られた湿原では、一面に咲き誇る蓮の花に目を奪われた。荒野に沈む夕日には、喉の渇きすら忘れさせる美しさがあった。

 雪山は雄大に聳え、谷底では太古の生物の化石を発見し、この星の悠久歴史に思いを馳せた。

 

 俺たち三頭は同じものを見て、同じことを感じた。この旅の間、俺たちは一つだった。

 

 そして長い旅の末、ようやく四つある座標の一つに到着した。

 そこは灰色の岩が転がる荒地だった。空気は乾燥し地面にも潤いはない。草もろくに生えておらず、棘の鋭いサボテンだけが自生していた。

 

『……なぁ、疑いたくはないのだが、本当にこの場所であっているのか? 座標が間違っていないか』

 艶のある黒い鱗のエニンギルゥドが、懐疑の目を向ける。彼の疑問ももっともだった。俺たちが目指しているのは、父上様やムブロフスカと縄張りを共にしていた竜がいる場所だ。

 

 彼らは二百年ほど共に生活し、その後独り立ちをして自分の縄張りを得るため旅立っていった。彼らがどこを縄張りとしたかは知らないが、そこは獲物が豊富な場所のはずだ。少なくともこんな何もない荒野ではない。

 

 俺は再度周囲を見回したが、やはり竜の姿はおろか、生き物の気配すらなかった。近くに俺の背丈を超える岩があったが、この後ろに隠れているとも思えない。

 

『ムブロフスカが間違えたとは思えないんだが……』

 俺は言いながら、岩に爪をかけて上まで登った。高いところから見回せば何か見えるかと思ったが、見えるのは岩とサボテンばかりだ。

 

『別に座標は間違っておらぬぞ、おそらくあの者がここにいるのだろう』

 漆黒の鱗を持つニドヴォルクが、つぶやくように話した。

 

『本当か? 誰の縄張りか知っているのか?』

『いや、知らぬ。だがこんなところに住める者など、あの者しかおるまい』

 断言したニドヴォルクは、非難の目を俺に向けた。

 

『あとヨギストラよ。他者の体の上に勝手に登るなど、失礼というものだぞ』

『他人の体?』

 俺が首を傾げたその時だった。突如岩が揺れた。

 

 地震かと、俺は驚き岩にしがみつく。揺れはさらに大きくなるが、地面にいるニドヴォルクとエニンギルゥドは揺れていない。この岩が動いている。

 

 俺はしがみついていられず、岩から転げ落ちた。どんと尻餅をついた俺は、岩の側で痛みに顔を顰める。すると岩の一部が動き、棒のように伸びて俺の頭に降ってきた。

 

 俺は地面を転がって回避し、起き上がって身構える。隣ではエニンギルゥドも身を低くし、戦闘体制となっている。

 俺の目の前では、岩から四本の棒が伸び地面に付く。

 

『これは……足か?』

 俺は岩から伸びたものが、棒ではなく大きな足であることに気づいた。

 

 四本の足から遅れて、岩の向こう側では細長いものが飛び出る。先端が尖った姿に、俺は尻尾であることを直感的に理解した。そして最後に、正面にある岩の一部が動いた。動いた岩は緩やかな曲線を描きながら、長く伸び、伸び、伸びていく。

 

 俺たちを見下ろすほどまで伸びると、ようやく止まり先端の岩の一部が動き、下から宝石のような輝きを放つものが見えた。

 目だ。この長く伸びたものは首であり、岩の一部と思ったのは生物の頭なのだ。

 

『こ、これは……生き物なのか!』

 隣にいるエニンギルゥドも驚いていた。

 俺が登った岩は、数十メルトルを超えている。この世界は巨大な生き物が多いが、竜の俺が小さく見えるほどの生き物はなかなか居ない。

 

 宝石のようにキラキラと光る目が、周囲を見回す。俺たちは目の前にいるが、首の位置が高すぎるので見えていないのだ。

 

『誰ぞ〜、おるのか〜』

 岩の顎が開かれ、洞窟の中で叫んだような間延びした声が発せられる。同時に咒力が放出された。その咒力の波長を感じ取り、俺とエニンギルゥドは顔を見合わせる。

 

『ヨギ! この波長は!』

『ああ、竜のものだ!』

 驚くエニンギルゥドに俺は頷く。

 咒力は多くの生物が持っているが、竜の咒力には一定の特徴があり、同族であるかどうかはすぐに判別がつく。つまり、この巨大な岩のようなものは竜なのだ。

 

『そうか、甲竜か!』

 エニンギルゥドがハッと目を見開きながら叫んだ。

 甲竜。俺も名前だけは聞いたことがある。亀のような甲羅を持つ竜らしい。ただし数が少ないらしく試しの谷には一頭もいなかった。

 

『え? じゃぁこれ、甲羅なのか?』

 俺は先ほど登った岩を見上げた。

 高さはゆうに俺の二倍はあり、横幅も同じほどある。頭や尻尾の長さを考えれば、五十メルトルを超えている。しかもその甲羅は溶岩のようにゴツゴツとしていて、動いているところを見ても岩にしか見えない。

 

 驚く俺たちの声に気付き、甲竜が長い首を下げて見下ろす。

 

『おお〜、そんなところにおったのか〜』

 甲竜が俺たちを見つめる。あまりに巨大すぎ、その質量だけで圧倒されそうだった。しかし怖くはない。宝石のように光る瞳には深い優しさが感じられた。

 

『私はヨギルググとハレルストラの子、ヨギストラ。あなたのお名前をお聞かせ願えますか!』

 俺は声を張り上げた。すると甲竜がゆっくりと口を開く。

 

『ああ〜、お前がヨギストラか〜。話は聞いている〜。儂はヨギルググの友、甲竜のジョジサムローンだ。ジョジ爺とでも呼んでくれ〜』

 ジョジサムローンは口を開けて笑った。

 




一応言っておくと、甲竜なんて竜はされ竜にはいません。この話だけのオリジナルです。

あとストックが尽きたので、次回更新は少し空きます。
最低でも週一で更新しようと考えていますのでどうかお付き合いのほどを
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