され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第三十五話 気の長すぎる竜
ちょっとした丘とも言えるほどの巨大な体を持つ甲竜ジョジサムローンは口を大きく広げた。
人間ならば洞窟と間違えるほどの巨大な口であり、目の前に立つ俺やエニンギルゥドは、何をされるのかと身構えたほどだった。しかし空いた口から出てきたのは、間の抜けた大きな息だけだった。
『ふぁ〜っ、よく寝た。どれぐらい寝ていたかなぁ〜』
ジョジサムローンが眠たげに目を瞬かせる。どうやらただの欠伸だったらしい。
『あの、ジョジサムローン』
『ジョジ爺でいいよ〜。ヨギルググやムブロフスカも、儂のことをそう呼んでいたしなぁ〜』
おずおずと尋ねる俺に、ジョジサムローンは気さくに返す。
『ではジョジ爺。父であるヨギルググとは同い年なのですよね?』
初対面の相手に年齢を聞くなど失礼かもしれないが、聞かずにはいられなかった。
竜は体長で年齢を判別できる。だがこれは俺やエニンギルゥドのような、体つきの竜に限る。
竜の中には蛇のような体つきの竜もいるし、種類によっては当てはまらない。甲竜もおそらく体の大きさと年齢は一致しないだろう。
ジョジサムローンは自分でもジョジ爺と呼んでいるし、その容貌は千年どころか万年生きているような風格がある。しかし父上様と同世代とすれば、彼の年齢は五百歳ほどで、ニドヴォルクと変わらないはずだ。
『ん〜? そのはずだよ〜』
間延びした声が返ってくる。だがそののんびりした姿は、とても五百歳の竜には見えない。
『ジョジサムローンの言葉は、鵜呑みにせぬ方が良いぞ』
背後からニドヴォルクが口を挟む。
『甲竜はのんびりというか、とてつもなく気が長くてな。彼らの言うことはあまり当てにならん。個体数が少ないせいで彼らの生態はよくわかっていないし、当の彼ら自身も自分たちのことに興味がない』
ため息をつきながら、ニドヴォルクは説明を続ける。
『私は四百年前に試しの谷で、ジョジサムローンと出会った。だが当時から彼はこのような姿だった。ムブロフスカたちが受け入れて同世代ということにしたが、実際のところは誰にもわからん。千歳を超えているかもしれんし、あるいは本当に私と同い年かもしれん』
ニドヴォルクは言葉を区切り、ジョジサムローンを見た。
『久しぶりだな、ジョジサムローンよ。ニドヴォルクだ。覚えているか』
『おお〜、ニドヴォルク。覚えている覚えている〜』
『そうか。ところで今、年齢はいくつだ?』
『ん? 確か前に歳を聞かれた時は、百歳って答えたよぉ〜』
ジョジサムローンの言葉にニドヴォルクも苦笑いを浮かべた。
『ということだ。一事が万事この調子でな』
ニドヴォルクの言葉に、俺やエニンギルゥドも呆れるしかなかった。
百歳という数字が明らかになったが、そう答えたのがいつなのかわからなければ意味がない。四百年前父上様たちと会った時なのかもしれないし、何千年前に百歳だと答え、そこから時間の感覚が止まっているのかもしれない。
父上様やムブロフスカがジョジサムローンをジョジ爺と呼んでいたのも、本当に年上の可能性を考慮していたのだろう。
俺たちが頷いていると、ジョジサムローンが身じろぎをしたかと思うと、立ち上がり移動を始めた。
『すまんが寝起きで腹が減ってなぁ〜、少し食事をさせてくれ〜』
ジョジサムローンは言いながら近くに生えていたサボテンに歩み寄ると、岩のような口を開きサボテンを丸齧りしていく。
その姿を見て、俺は口の中が痛くなるのを感じた。
サボテンは太いとげがびっしりと生えている。俺があんなことをしたら、口の中が血だらけになってしまうだろう。しかしジョジサムローンは痛くないのか、バリバリと棘ごとサボテンを食べていく。
ジョジサムローンはサボテンを半分ほど食べると、全て食べ切ることはせずに次のサボテンに向かう。ジョジサムローンはどんどんサボテンを食べていく。
『サボテン、お好きなんですか?』
俺としては美味しいようには見えない。それにしょせんサボテンだ。竜の巨体を賄える栄養があるとはとても思えなかった。
草食にしても森や山なら、もっと食いでのある植物があっただろう。
『うん、好きだ〜。逃げないし、ここならいくらでも生えているからなぁ〜』
答えながらジョジサムローンはムシャムシャとサボテンを食べる。
『この縄張りはお前の父である、ヨギルググが儂のために見つけてくれた場所でなぁ〜』
『父上様が?』
『ああ〜。儂はこの体だからな〜。他の生き物の巣を潰さない場所で、食べられるものが豊富にある場所を探していたんだ〜。そしたらここを探してきてくれた〜。感謝しているよぉ〜』
なるほどと俺は頷く。ジョジサムローンは他の生き物のことも考えて、ここに住んでいるのだ。
ジョジサムローンは何本ものサボテンを食べた後、ようやく食事を終えた。
やはり栄養は少ないのか、かなりの量を食べた。しかし荒野は広く、サボテンはいくらでも生えている。それにジョジサムローンは完全に食べ尽くしはせず、必ず半分ほど残している。食べられたサボテンたちもその内また生えてくるだろう。
『ふぅ……、食った食った〜』
ジョジサムローンは満足そうに目を細める。俺たちは行儀良く彼の食事が終わるのを待った。ジョジサムローンがじっと待っている俺たちに目を向ける。
『それで、ヨギストラよ。今日は何しに来たんだぁ〜?』
俺はズッコケそうになった。
『ムブロフスカからお聞き及びと思いますが、縄張りを譲ってもらうための許可を得にきました』
仕方がないので、俺は一から全てを説明した。
『許可を得るためには、試練があると聞いています』
『ああ、そうだったそうだった。この前ムブロフスカが来て言っていた。覚えている覚えている』
俺の話を聞いてジョジサムローンが何度も頷いたが、絶対に忘れていたと思う。
『それで我らが挑むのは、どのような試練でしょうか』
『うむ、それはなぁ〜』
口を開くジョジサムローンに、俺とエニンギルゥドは息を呑んだ。
ムブロフスカから試練の内容は知らされていない。おそらくムブロフスカ自身、試練の内容を知らないのだろう。俺たちとしても今回が初めてであるため、どんな試練かは予想もつかない。
一体どんな試練が課されるのか。俺たちは不安と期待に胸を膨らませた。
『それは……まだ決めとらん』
ジョジサムローンの言葉に、俺は再度ズッコケそうになった。
『あの……ジョジサムローン』
エニンギルゥドが一歩前に出る。
『名乗るのが遅れました、私はヨギストラと共に旅をしているエニンギルゥドと申します。私も試練を受ける予定だったのですが……』
『うん、すまん。まだ考えておらんのだ~。この前、ムブロフスカが来て試練のことを話していった。そのうち思いつくだろうと思っていたら、決める前にお前たちが来てしまってな〜』
呵呵と笑うジョジサムローンを前に、俺とエニンギルゥドは呆気に取られた。
ジョジ爺ちゃん……。
俺たちの隣では、ニドヴォルクが苦笑していた。なるほど確かに一事が万事この調子のようだ。
エニン「なぁ、これって作者が試練の内容を思いつかなかっただけじゃないのか?」
ヨギ「その可能性は否定できない」
作者「そんなことないよ、ちゃんと考えてるよ。考えてる考えてる」
ヨギ&エニン「……」