され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第三十六話 荒野の修行

 第三十六話 荒野の修行

 

 縄張りを譲ってもらうための四つの試練。その最初の試練に挑もうとした俺たちだが、試練を出すジョジサムローンはまだ試練の内容を決めていなかった。

 俺とエニンギルゥド。そしてニドヴォルクはジョジサムローンから少し離れた場所で会議を行うことにした。

 

『なぁヨギどうする?』

 エニンギルゥドがやや苛立ち気味に尋ねる。彼はこの旅を楽しみにし、試練も心待ちにしていた。それだけに肩透かしとなったのだろう。

 

『このままだと、いつ試練を受けられるかわからないぞ』

 エニンギルゥドは背後を振り返った。視線の先にはジョジサムローンが甲羅に陽の光を当てていた。すぐに考えると言っていたが、あれはどう見ても昼寝をしているな。

 

『たしかに、甲竜のすぐは当てにはならんぞ。数百年前のことでも、彼らにしてみればついこの間のことだからな』

 ニドヴォルクも頷く。

 

 確かにジョジサムローンの言うことは、あまり信じられないだろう。ムブロフスカがジョジサムローンの元を訪れたのは、もうずっと前のはずだ。それでも決めることができなかったのだから、あと数日で試練を思いつくとも思えない。

 

『なぁ、今から別の竜に元を訪れて、最後にここに戻ってくると言うのはどうだ? その頃には思いついているだろう』

 エニンギルゥドの問いに俺は悩んだ。試練を受ける順番は特に指定されていない。どこから挑んでもいいし、試練の途中で別の試練を受けてはいけないと言う決まりもない。

 

『う〜ん。いや、ここは少し滞在して様子を見よう』

『だが、数日で思いつくとは思えんが』

『俺も数日でカタがつくとは思ってないよ。ただいくら時間をかけても無意味かもしれない』

 俺は甲羅干しをしているジョジサムローンを見た。

 

『何十日もかけて思い付かなかったんだ。俺たちが他の試練を受けている間に、思いついてくれるとは思えん。いや、十年かかっても無理かもしれない』

 俺の予想を聞き、エニンギルゥドが口元を引き攣らせる。隣で話を聞いていたニドヴォルクも目を瞑り否定しなかった。

 

『時間を与えても無理なら、そばでせっつくしかないと思う。毎日顔を合わせていたら、いやでも考えてくれるだろう』

『時間がかかりそうだな……』

 エニンギルゥドが、暗い先行きに肩を落とす。

 

『まぁのんびり構えていこうじゃないか。時間もあることだし少し修行に付き合ってくれ』

 俺はかねてより考えていた修行を、そろそろ実行したかった。

 旅は俺に大いに刺激を与えてくれたし、その途中でエニンギルゥドと力試しをして新たな気づきがあった。そしてニドヴォルクには咒式の基礎を教えてもらい、こちらも実験をしたかったのだ。

 

 予定外の足踏みとなるが、今の状況は修行を行うには最適だ。修行相手のエニンギルゥドはいるし、はるかに格上のニドヴォルクが監督してくれる。そしてこの岩とサボテンばかりの場所なら、どれほど暴れても周囲に迷惑をかけることもない。

 

 食事場所には少々困るが、来るところに立ち寄った森には、大きな獲物がいたのでそこまで戻ればいい。往復は面倒だがそれも修行だ。

 

『全く、前向きなやつだな』

 エニンギルゥドはため息をつきながらも笑った。

 

 

 灰色の荒野を、俺は高速で駆け抜けていた。

 俺の体は帯電し、紫電を放っている。その速度も早く、音速に迫ろうと言うほどだった。

 竜の全力疾走でも、これはかなり早い部類だ。〈電加〉の咒式で、自分の体を電磁加速させているからだ。

 

 以前大河を渡るときに使った方法だ。俺はこのやり方に手応えを感じていた。しかし使用するには問題が一つ。俺の体がこの咒式についていかないことだ。

 今でもすでに足がもつれそうなほどだった。全力疾走をすれば、筋肉が断裂し足が絡まる。まずは体を慣らすべく、電磁加速を行いながらの走り込みをしていた。

 

 土煙を上げながら快調に飛ばしていると、行く手に一列に並んだ石の柱が見えた。走り込みの道程には、いくつもの障害が設置されている。

 等間隔に並ぶ柱に対し、俺は直進して接近する。そしてぶつかりそうになったとき、足をたわめて左へと跳躍した。もちろん電磁加速も使用して。

 

 急角度で左に飛んだ俺は、即座に方向転換して今度は右に跳んで柱の間を抜ける。そして着地した瞬間に左、右、左、右と柱の間をくぐり抜けていく。

 左右に跳ねながら前進する俺の姿は、まるで稲妻にも見えただろう。

 

 高速で柱の列を抜けた俺は、さらに走る。すると今度は一筋の坂道が天へと伸びていた。

 俺は全力で加速を行いながら、坂道を一気に駆け上る。坂は途中で途切れている。俺は速度を緩めず全身の力を使って跳躍、大空へと飛び上がった。

 

 空へと舞い上がりながら、俺は地面に目を走らせる。大地には陥没したような跡が、縦にいくつも並んでいた。俺が着地した跡だ。

 俺は一番遠くにある穴に目を向けた。これまで飛んだ中での最高跳躍地点だ。

 

 落下する俺の体が、どんどん地面に迫ってくる。〈電加〉の咒式を使用すれば、空中でも減速することも可能だ。だが俺は減速せず、そのままの速度を維持して地面へと超手を伸ばした。

 

 地面を見据えながら両手をついた瞬間、首を曲げて頭を胸に隠す。頭を守りながら前転し、転がって着地の衝撃を分散する。そして一回転したのち、足で地面を蹴り再跳躍。落下速度をそのまま前進へと変換する。

 

 前へと跳びながら、俺は視線だけ後ろに向けて落下地点を見た。

 これまでの最高跳躍地点より三・五六メルトル伸びている。俺は口の端に笑みを浮かべ、前へと走った。

 

 向かう先には黒い影が見えた。灰色の大地の一部が、黒く染まっている。

 遠目には洞窟の穴にも見えるが、さにあらず。あれは黒竜ニドヴォルクの漆黒の鱗だ。

 

 俺は彼女目指して追い込みをかけた。〈電加〉の咒式を限界まで連続発動して、体を一気に加速する。

 普段感じることのない空気分子が粘度を帯び、まるで分厚い膜のように体にまとわりつく。

 

 これぞいわゆる音速の壁だ。

 俺は物理法則が用意した障害を破らんと、全力を振り絞ってとにかく手足を動かした。

 

 ある瞬間、俺はついにその壁を突破した。直後体に衝撃が走り、遅れて落雷のような轟音が鳴り響く。

 音が衝撃よりも遅れてきた。音速の壁を、俺はついに超えたのだ。

 

 俺はそのままの速度を維持し、衝撃波と轟音を伴ってニドヴォルクの前を駆け抜けた。

 俺は走るのをやめ、地面に爪痕を刻んで減速する。そして振り返りニドヴォルクを見ると、彼女は退屈そうにあくびをして、赤い口内を見せる。

 

『昨日より二・九一秒早い』

 ニドヴォルクが走った時間を告げてくれる。

『でも今日の目標は三秒の短縮。もう一度やり直し』

 昨日よりもいい数字を出したのに、ニドヴォルクは褒めてもくれない。

 

『早くいけ』

『いや、ちょっと待ってくれ。さっき限界を超えた走りをしたせいで、体中の筋繊維がズタズタだ。休まないと走れない』

 俺は弱音を吐いた。正直立っているのもやったのなのだ。

 

『仕方ない、五分休憩』

 ニドヴォルクは休憩を許可してくれたが、その時間はあまりにも短い。

『せ、せめて十分』

『五分といったら五分』

 ニドヴォルクは一切の延長を認めない。鬼より鬼ですかあなたは。

 

 俺は急いで体の修復に取り掛かった。とにかく走れるところまで体を持っていかないと、ニドヴォルクにしごき殺される。

 

 俺が体を治癒していると、少し離れたところで青い光が灯る。

 光の発生源にいるのは、艶のある黒い鱗のエニンギルゥドだった。彼の前には巨大な岩塊の如き甲羅を背負う甲竜ジョジサムローンがいる。

 

 エニンギルゥドの体の前に、複雑な組成式が浮かび上がり量子散乱の青白い光が放たれる。次の瞬間、エニンギルゥドの体を青白い光の膜が覆った。

 光の幕はゆらゆらと揺らぎながらも、エニンギルゥドの周りに留まり続ける。

 

『おっ、ついにやったな』

 俺は感心した声をあげた。

 エニンギルゥドが使用している咒式は〈反咒禍界絶陣〉という、咒式を無効化する防御咒式だ。

 

『できました! ジョジサムローン。あなたのおかげです!』

 エニンギルゥドは破顔すると、甲竜はうんうんと頷く。

『君が〜努力したからだよ〜。エニンギルゥド〜』

 ジョジサムローンが穏やかな笑みを見せた。

 

『ありがとうございます!』

『うん~。でもここからだよ〜。いろんな咒式に対応できるように〜、結界を強化することが〜、大事だからね〜。まずは〜、式を補助するところから始めようか〜』

『はい!』

 ジョジサムローンの間延びした言葉に、エニンギルゥドはハキハキと声を返す。

 

『しかし百歳で使えるようになるなんて、あいつ天才だな』

 俺は青い結界に包まれたエニンギルゥドを見た。

 

 原作の《され竜》では、〈反咒禍界絶陣〉を多くの竜が使用していた。しかしこれはかなり高度な咒式で、たいていの竜は三百歳ぐらいになってようやく使用できる。才能がある竜でも二百歳からと言われており、百歳ほどのエニンギルゥドが使えるのは、まさに天才のなせる技だろう。

 

『それだけではない』

 俺の言葉を断じたのは、そばにいるニドヴォルクだった。

 

『甲竜の〈反咒禍界絶陣〉は、竜族でも飛び抜けている。私も彼らには及ばぬ。まぁ強力な結界がなければ、彼らは生き残れなかったのだろうな』

 ニドヴォルクの解説に、なるほどと俺は頷く。

 

 甲竜ジョジサムローンは巨大な甲羅を背負い、いかにも頑丈そうだ。しかし核融合の炎に超超音速の砲弾、高温のプラズマを用いればどんな防壁も突破できる。さらに数法系や重力系の咒式であれば、防壁を無視した攻撃も可能だ。

 

 巨大な咒式の前には防御は無意味であることが多く、回避することが最適解だ。しかし甲竜は分厚い甲羅を背負っているため、素早くは動けない。

 甲竜は生き延びる手段として、咒式を無効化する強力な〈反咒禍界絶陣〉を習得するに至ったのだろう。

 

『それにジョジサムローンは教え方がうまい。褒めてやる気を引き出している』

 ニドヴォルクが頷くが、同じように俺を褒めてやる気を引き出してくれてもいいんですよ? 俺、褒めて伸びるタイプですから。

 

『エニンも初めはここに残ることに、難色を示していたのにな』

 俺は、ハキハキとジョジサムローンの言葉に返事をするエニンギルゥドを見た。

 

 エニンギルゥドは旅が楽しかったのか、すぐに旅立ちたがっていた。だが数日もすればジョジサムローンにベッタリだ。

 

『それはあれだろうな。ジョジサムローンがエニンギルゥド様の血筋を知らぬことが原因だろう』

『血筋?』

『うむ。のんびり者のジョジサムローンは、エニンギルゥド様が白銀龍様の直系であることにまだ気づいておらん。また知っていたとしても、彼らにとってはさほど重要なことではない。よって他の竜と接するように、エニンギルゥド様と話をする。エニンギルゥド様はそれが嬉しいのだろう』

 ニドヴォルクがエニンギルゥドの内心を予想する。

 

『そんなものか?』

『白銀龍様の直系という事実は大きい。たとえどれほど努力して成し遂げたとしても、さすがは白銀龍様の直系。と言われてしまうからな』

 ニドヴォルクの言葉を聞き、俺はあることを思いついた。

 

『そうなのか……しまった。俺も以前に似たようなことを言ってしまった。ちょっとエニンに謝罪してくる』

 俺はエニンギルゥドに向かって歩き出そうとする。だがその俺をニドヴォルクが呼び止める。

『待て、それは後にしろ。そろそろ五分経つ。謝罪にかこつけて休憩時間を伸ばそうとするな』

 ちっ、バレたか。俺は内心舌打ちをした。

 

『まぁ、どうしてもというなら構わんが。その場合、今日の目標を三秒短縮ではなく四秒とする。それでもいいなら……』

『あっ、五分たった。それじゃぁ、行ってきます!』

 俺はエニンギルゥドの元へは向かわず、もう一周すべく走り出した。

 

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