され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第三十七話 新咒式

 第三十七話 新咒式

 

 太陽が地平線へと傾き、灰色の荒野を茜色に染め上げていた。

 俺の前にはエニンギルゥドが立っている。彼の艶のある鱗は夕日に反射し、黄金の如く輝いていた。

 少し離れたところでは、夕日を浴びてなお黒いニドヴォルクと、地層の如き甲羅を背負うジョジサムローンが俺たちを見ている。

 

『行くぞ、ヨギ』

『おう、いつでも来い』

 俺が頷くとエニンギルゥドが体の前に組成式を生み出し、咒式を発動する。組成式からは無数の火花が放たれ、俺に向かってくる。黒色火薬を噴射して火花を飛ばす〈噴矢〉の咒式だ。

 俺は猫のように身を捻り、飛び上がり、伏せ、火花を回避していく。

 

『よし、そろそろ数と速度を上げるぞ!』

 エニンギルゥドが一声かけると、使用する火薬の量を増やして速度を上げる。さらに数も増えており、回避がだんだん難しくなる。

 火花が鱗を掠め、俺は顔を顰めた。

 

『そこだ!』

 エニンギルゥドが俺の動きを予想し、先回りをして〈噴矢〉を放つ。火花が上下と右から殺到する。回避するに左に逃げるしかないが、体勢が悪く左へと跳べない。このままでは直撃を受けることは明白だった。

 

『まだだ!』

 俺は組成式を生み出し、咒式を使用する。直後、俺の体が左へと動き、火花の群れを回避した。エニンギルゥドがさらに火花を放つも、俺の体は手足の動きに縛られず、前後左右上下に動き、火花を次々に避けていく。

 

『ほぉ、ついにものにしたか』

 エニンギルゥドが感心した声を上げる。

 これぞ俺が作り上げた、電磁電撃系第四階位〈電加操身法〉の咒式だ。

 原理は単純で〈電加〉の咒式の効果と作用時間を長くし、自分の体を自在に加速するというものだ。

 

 手足の動きに縛られないため、不規則な機動も可能。もちろん四肢の動きを連動させれば、さらに複雑かつ高速に動ける。

 

『では、これはどうだ』

 エニンギルゥドが〈噴矢〉の咒式を放ちながら、別の咒式を使用する。直後、俺の体が金縛りになったように動けなくなる。

 

『これは!』

 俺は混乱しながらも、エニンギルゥドが使用した咒式の正体を理解した。

〈電加操身法〉の咒式は俺自身の体を電導体として、周囲に磁場を生み出して動きを加速、補助するものだ。

 エニンギルゥドは同じく電磁系の咒式で強力な磁場を発生させ、俺の〈電加操身法〉を妨害し、さらに動きを止めにきたのだ。

 

 エニンギルゥドの放った〈噴矢〉が迫る。俺は〈電加操身法〉を解除して後ろへと跳ぶも、回避が間に合わず火花の直撃を受けた。

 

『ゲホ』

 何発もの火花を受けた俺は、黒い煙を吐いた。

 竜の鱗に黒色火薬で作った火花は通用しない。ただ黒色火薬はその名の通り黒い煙が出るので、吸い込むと喉に悪い。あと体が煤まみれだ。

 

『油断大敵だよ、ヨギ』

 エニンギルゥドに指摘され、俺は渋面を作った。ようやく完成した〈電加操身法〉だが、まさかこんな欠陥があるとは思わなかった。

 

『うむ、全くだ。術者たるもの、己が咒いに依存してはならない。自分の咒式に自信を持つのはいいが、頼りきりではいかんぞ』

 ニドヴォルクがいつものダメ出しをする。

 ぐぅ、悔しい。だがこれは至言だった。《され竜》では強大な咒式を使用する敵が幾つも出てきた。だが彼らは必殺咒式を主人公たちに見切られ、弱点を突かれて敗北した。

 

 完全無欠な咒式は存在しない。同じ咒式を何度も使用していれば、いずれ足元を掬われる。むしろ今回〈電加操身法〉の弱点がわかってよかった。これが実戦なら死んでいた。それに弱点をわかっていれば、その対策も可能だ。

 

『さて、そろそろ夕食にしよう』

 ニドヴォルクが訓練の切り上げを促す。確かに空を見上げれば、そろそろ日没間近だった。獲物は朝のうちに大きな蜥蜴と巨大鳥をとってきてある。しかもニドヴォルクは鮮度が落ちないようにと氷漬けにしてくれたので、今から食事が楽しみだった。

 

『よし。獲物は二頭が取ってきてくれたし、料理ぐらい私がしてやろう』

 ニドヴォルクが立ち上がると、俺は笑みを浮かべた。

『マジか』

『おお、やったな。ヨギ』

 俺とエニンギルゥドは喜んだ。

 

 竜はほとんど料理というものをしない。生のまま丸齧りが主流で、時々火で丸焼きにするぐらいだ。だがニドヴォルクは獲物の血を分解して塩や各種アミノ酸を抽出。旨み成分であるグルタミン酸をはじめ、酢や砂糖などを合成して調味料を生み出す。どうやら彼女は生体系もかなりやれるらしい。

 

 さらに得意の重力咒式で高圧力をかけながら、じっくりと火を通す。この工程により骨まで柔らかくなる。

 こうしてできた料理が実にうまい。見た目はただの丸焼きなのだが、一口齧り付いた瞬間に口の中で肉がとろける。

 ニドヴォルクが時折振舞ってくれる料理は、俺とエニンギルゥドの間でちょっとした楽しみとなっていた。

 

『じゃぁ〜、儂もサボテンを食べてくるよ〜』

 ジョジサムローンがのっそりと立ち上がり、首を伸ばす。

『いってらっしゃい』

 俺は引き止めなかった。これまでも何度か食事に誘ったのだが断られた。どうもジョジサムローンはサボテンが好きらしい。

 

『しかし、ここに来てどれぐらいになるかなぁ』

 俺はニドヴォルクの料理に舌鼓を打ちながら、ふと気になった。

 修行が思いのほか楽しく熱中していたので、時間の経過が気にならなかった。だが随分と経っているような気がする。

 

『そろそろ百日と言ったところだな』

 ニドヴォルクが教えてくれる。もうそんなに経ったのかと改めて言われると驚く。

『そういえば試練はどうなった?』

 エニンギルゥドが思い出したように呟いた。

 

 言われてみればそうだった。本来なら修行をしながらジョジサムローンをせっつき、試練の内容を決めさせるという話だった。しかしジョジサムローンと一緒に過ごしていると、どうも気分がのんびりしてしまう。修行も楽しいし明日でもいいかとなってしまい。気がつけば百日だ。

 

『まぁ、ジョジサムローンが戻ったら言ってみるか』

『そうだな』

 俺の言葉にエニンギルゥドが同意する。だが言っておいたなんだが、これあとで絶対忘れるやつだと自分でも思った。きっとエニンギルゥドもそう思っているだろう。

 まぁ竜の人生は長い。もうしばらくここにいてもいいだろう。

 




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