され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第三十九話 樹海の覇者
甲竜ジョジサムローンから、俺たちは縄張りを受け継ぐ許可を得た。しかし俺たちはすぐに旅立たなかった。
修行がまだ途中であったし、ジョジサムローンと別れにくかったからだ。とは言え、ずっとここにいるというわけにもいかない。修行に区切りがつくと、俺たちは新たな試練を目指して旅立つことにした。
ジョジサムローンは俺たちとの別れを惜しんでくれた。そして旅立つ俺たちを、ずっと見送ってくれた。俺たちも何度も振り返り、別れを惜しんだ。ちなみに一番振り返っていたのはエニンギルゥドだった。
最初エニンギルゥドは、ジョジサムローンののんびりした態度を嫌がっていた。だが今では誰よりも別れを惜しんでいる。なんだかんだ言って、この中で一番情が深いのはエニンギルゥドなのだろう。
次の座標までの旅は、特に足止めを受けることなく順調に進んだ。いくつか難所と呼ばれるところはあったのだが、ジョジサムローンの元で修行した俺たちには障害になりえなかった。そして二十日ほど歩き、二つ目の座標に到達した。
到着した場所は、深い森が海のように広がる所だった。
鬱蒼と覆い茂る森の中を歩き、座標に示された場所に到達する。すると地面には大きな穴が斜めに掘られていた。
穴を前にする俺の背後には、艶のある黒い鱗のエニンギルゥドと闇のように黒い鱗のニドヴォルクがいた。
『ここかな?』
俺は穴をそっと覗き込んだ。
深く掘られた穴は、奥まで見通せない。俺が穴に向かって声をかけようとしたその時、穴の奥から小さな振動が伝わってくる。振動は次第に大きくなり、大きな足音が穴から聞こえてきた。
何かが上がってきている。
俺は穴から下がった。エニンギルゥドも油断なく身構えている。
俺たちが穴を凝視していると、轟音と共に一頭の竜が姿を表した。
その竜は深緑の如き緑の鱗に覆われ、堂々とした体は二十五メルトルを超えていた。
五百歳級の立派な竜だ。
鱗の色から分かる通り緑竜であろう。竜の顔には左右に三つずつ、さらに額にも目があった。
現れた緑竜が、七つの瞳で俺たちを見下ろす
『我こそは樹海の覇者、七眼のビオガラドなり』
現れた緑竜が、はるかな高みから低く響く声で名乗る。
『よく来たな、ヨギルググの息子とその仲間よ。だが盟友ムブロフスカの縄張りは、我が揺籃の地でもある。貴様らのような小童が、軽々に手を伸ばしていい地と思うな!』
ビオガラドが、七つの目で俺たちを睨め付けながら一喝する。
俺もエニンギルゥドも息を呑む。しかし緊張する俺たちの間を、鈴を転がしたような笑い声が響いた。
笑っていたのはニドヴォルクだった。彼女は漆黒の鱗から赤い口をわずかに覗かせている。
『少し見ない間に、随分と偉くなったもんだなぁ。ビオガラド』
ニドヴォルクが薄ら笑いを浮かべながら、ビオガラドを見る。一方ビオガラドは、ニドヴォルクを見るなり口と七つある目を大きく見開いた。
『げっ、げぇ。ニドヴォルク⁉︎』
ビオガラドは先ほどまであった威厳はどこに行ったのか、七つの目を点にして声を振るわせる。
『知り合い?』
俺はニドヴォルクに顔を向けた。
『ああ、昔しつこく言い寄られたことがあってな。あんまりにもしつこかったので、思いっきりやり返したことがあるのだ。私に力試しで勝てたら番になるという話も、こいつがしつこかったから始めたのだ』
ニドヴォルクが目を細めながら頷く。
ニドヴォルクは美しい竜と評判で、番になりたいという竜は多い。だが彼女は自分より強い竜でなければ相手にしないと公言していた。
ニドヴォルクが力試しをするようになった原因が、目の前にいるのだ。
『ニ、ニ、ニドヴォルク! な、な、な、なんでお前がここに⁉︎』
『ああ、エニンギルゥド様の護衛だ』
『え? エニンギルゥドって、あの白銀龍様の直系の? え? いるの? ここに?』
ビオガラドの七つ目が、それぞれ上下左右に揺れる。
『今お前が小童と怒鳴りつけた、黒竜がエニンギルゥド様だ』
ニドヴォルクに教えられ、ビオガラドは緑の鱗すら青ざめさせる。
『も、申し訳ありません! エニンギルゥド様! 知らなかったんです〜!』
ビオガラドはエニンギルゥドに対し、地に頭を擦り付けて謝罪する。
うわぁ、この竜。権威に弱い。
『もちろん! 縄張りは差し上げますので!』
ビオガラドは放っておけば腹を見せそうなほど遜る。
『いや、あの、その……私はヨギストラと試練を受けに来ただけですから』
『そうだぞ、ビオガラド。ちゃんと試練を課せ』
エニンギルゥドが辟易しながら話し、ニドヴォルクも嗜める。
『え? でも、怒られない?』
『白銀龍様は、このようなことは感知なされぬ。むしろ公平さを欠くお前の態度こそ、賢龍派として問題になるぞ。年上であろう、しっかりせぬか!』
ニドヴォルクに叱咤され、ビオガラドは平静を取り戻す。
『そ、そうか? そうだな、よし……』
落ち着きを取り戻したビオガラドは何度か深呼吸を行ったのち、小さく咳払いをした。そして崩れていた顔に力をこめる。
『よく来たな。ヨギストラとその仲間たちよ』
ビオガラドが低い声で話す。
いやいやいやいや、そこから立て直すのは無理ですから。
俺は呆れ、エニンギルゥドも苦笑いを浮かべていた。ニドヴォルクに至っては後ろで吹き出していた。
果たしてこの後どのような試練が課されるのか、もはや予想もつかなかった。