され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第四話 ヨギストラ、俺の名前
俺が生まれて一月ほどが経過した。
その日、俺にとって重要なことが起きた。俺の名前が決定したのだ。
『きめた、決めたぞ!』
『坊や、あなたの名前が決まったわ』
両親が俺の元にやってきて、笑顔を見せる。両親は俺が生まれてからという物、あーだこーだと話し合い、ダラダラと名前を決めあぐねていた。
『ヨギストラ。お前の名前はヨギストラだ』
『いい名前ね、ヨギちゃん』
父上様が、俺の名を呼び、母上様は早速ちゃん付けで呼ぶ。
ヨギストラ。竜の名前として、いいのかどうかはわからないが、元の名前と似ているので、そんなに嫌ではなかった。
ただ俺としては一ヶ月も名前をつけないというのはどうかと思う。だが長い寿命を持つ竜ならば、これぐらいは普通なのかもしれない。
俺はこんなものかと納得して、食って寝て体を鍛える日々を繰り返した。
俺の名前が決まって翌日のことだった。一頭の竜が、俺たち家族が住む巣穴に訪れてきた。
『おい、ヨギルググ。いるか?』
巣穴の外から誰何したのは、頭に王冠の様な立派なツノをいくつも持つ、鈍色の鱗の竜だった。
訪れた竜を見て、寝そべっていた父上様が首を上げた。
『おお、ムブロフスカか。久しぶりだな』
父上様の声を聞き、俺は驚いた。
ムブロフスカといえば、《され竜》の原作にも登場した竜の名だ。ムブロフスカは白銀龍を主と仰ぐ賢龍派であり、会えたとしても不思議ではない。しかし父上様と知り合いとは思わなかった。
『あら、いらっしゃい。ムブロフスカ』
やってきたムブロフスカに対し、母上様も出迎える。
『少し遠出をしていて、来るのが遅くなったヨギルググ。ハレルストラ様にも産卵のお祝いにも来ることができず、申し訳ない』
ムブロフスカは深々と頭を下げる。
俺は並んで立つ両親とムブロフスカを比べた。ムブロフスカの体は父上様とほぼ同じ大きさだった。
体格を見れば、ムブロフスカは父上様と同世代で、母上様より三百から四百歳ほど歳が離れていることがわかる。
そしてムブロフスカが名を呼んだことで父上様の名前がヨギルググ。母上様の名前がハレルストラであることが判明した。
二頭の名前を察するに、俺の名前はおそらく両親の名前を分け合ってつけられたのだろう。
『なに、旅に出ていたのだから気にするな。それよりうちの子を紹介しよう。ヨギストラだ。つい先日名前をつけたばかりだ』
父上様であるヨギルググが、ムブロフスカに俺を見せる。
ムブロフスカは大きな頭を下げて、俺に顔を近づけた。
鈍色の肌はまるで金属の様に光り輝き、何本もある角は王冠の如く起立している。その顔にある瞳は銀河のような虹彩を放っていた。
『ヨギストラか。父と母の名を合わせた、良い名前をもらったな。良き竜となるのだぞ』
ムブロフスカは優しげな微笑みを見せ、ゆっくりと顔を上げていった。
『しかし先日名前をつけたと言っていたが、生まれたのはもう何日も前ではなかったか?』
『うむ。七百十三万五千百二十八の名前を考えて、選考に選考を重ねてついにようやく選ぶことができた』
ムブロフスカの疑問に対し、父上様が驚きの発言をする。なかなか名前がつかないと思っていたら、そんなに候補があったのか。というかそれだけ候補があって最終的に付けられた名前が、両親の名を半分ずつにした名前だったとは。それでいいのかと思ってしまう。
『それは……随分と長考したな』
ムブロフスカの控えめな表現に、俺は両親がやや普通でないことに気づいた。
『何を言う。我が子の大事な名前だからな。これぐらい普通だ』
『そうよそうよ、これぐらい普通よ』
父上様と母上様が口を揃える。
『まったく。似たもの同士だな』
『お似合い夫婦だってか? よせやい』
呆れるムブロフスカに対し、父上様が力一杯背中を叩く。
なんでも楽天的に捉える父上様に対し、前のめるムブロフスカと俺も呆れる。
それから父上様とムブロフスカは巣穴の奥に行き、何かを話し始めた。内容は遠すぎてわからなかった。
俺は自分の寝床から、ムブロフスカを見上げた。
《され竜》ではムブロフスカは最後に非業の死を遂げる。俺が忠告をすれば、もしかしたらムブロフスカは死なないのかもしれない。だがそれは原作を大きく変えることを意味する。果たしてそれが良いことなのかどうか、俺にはわからなかった。