され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第四十話 ビオガラドの試練その一?
緑竜ビオガラドは、七つある瞳を俺たちに向けた。
その顔は幾星霜の時を経た荘厳な趣があった。見た目だけは。しかしニドヴォルクを見た時の動揺や、エニンギルゥドがいると知った時の卑屈ぶりを思い返せばさすがに騙されない。
『もし我が縄張りを欲するというのであれば、我を倒してからにせよ』
ビオガラドは無理のある演技を続ける。まぁ試練を受ける身だし、この際ツッコミは無しにしよう。
『あの、倒してからというのは、どういうことでしょうか?』
『なに、取って食おうとは言わぬ。力試しをやってやろう。二頭同時にかかってくるがよい』
ビオガラドは胸を逸らし、右手でドンと自身の胸を叩く。
百歳級の竜が、五百歳級の竜と力試しを挑む。例え二対一でも勝負にならないだろう。
通常であれば、
『あの、その……本当にいいんですか?』
俺はエニンギルゥドと目を見合わせた後、ビオガラドに確認をとった。
『遠慮せずにかかってくるがよい。この世に超えられぬ壁があることを教えてやろう。エニンギルゥド様も、手加減を期待されぬように』
先ほどの平身低頭を一切感じさせず、ビオガラドが鷹揚に話す。まぁそれならばと、俺とエニンギルゥドは互いに頷く。
『じゃぁヨギ、俺が先に行くから、君は上な』
『了解』
軽く打ち合わせをした後、俺たちは低く身構えた。
『では、行きますよ』
『来るがよい。幼き竜たちよ』
エニンギルゥドの言葉に、ビオガラドはゆっくりと頷く。どうやらだいぶ調子を取り戻しているらしい。まぁ、ニドヴォルクを見た時の顔は絶対忘れないけど。
泰然自若と構えるビオガラドに対し、エニンギルゥドがみを低くして突進する。そしてその後を俺が続く。
一直線に並ぶ俺たちに対し、ビオガラドは動かずに迎え撃つ。
ビオガラドの目の前まで来た時、前を走るエニンギルゥドがわずかに速度を緩める。逆に俺は速度を上げ、飛び上がってエニンギルゥドの背に乗り、さらに蹴って宙を舞う。
空中で一回転しながら、俺はビオガラドに飛びかかった。ビオガラドは驚きながらも、すぐに首を跳ね上げて空中の俺に噛みつこうとした。しかし空宇宙で俺は身を捻り、ビオガラドの牙を回避する。そしてそのままビオガラドの体にのしかかった。
俺に肩に乗られ、ビオガラドの体が一瞬沈む、だが沈んだ体はまた上がった。ビオガラドの体の下に潜り込んでいたエニンギルゥドが押し上げているからだ。
エニンギルゥドはビオガラドの右胸を押し上げ、左へと倒そうとする。ビオガラドは体勢を立て直そうとするも、俺が肩に乗っているため重心が崩れている。さらに俺はビオガラドの体を左へと蹴って跳躍する。
蹴られた反動を殺しきれず、ビオガラドが倒れる。
宙に飛んだ俺は倒れたビオガラドの首の前に着地し、すぐにビオガラドの首に噛み付いた。
相手を倒し、首に噛み付けば力試しは勝ちとなる規則だ。
『これでいいですかね?』
俺はすぐに牙を離し、ビオガラドに確認を取る。
負けたビオガラドは、七つある目を何度も瞬かせていた。自分が負けたことが信じられないのだろう。
混乱するビオガラドに、またしてもニドヴォルクが笑声を浴びせかける。
『ビオガラドよ。その二頭をただの幼竜と思わぬ方が良いぞ。旅の最中に時折相手をしているのだが。二頭が相手だと私でも後手に回ることがあってな』
ニドヴォルクがどこか自慢げに笑う。
『マジで⁉︎ こいつらお前相手にして、いいとこまで行くの?』
驚くビオガラドの顔が固まる。
俺はエニンギルゥドと目を見合わせた。互いに問うような目となっていた。
勝ったのだから、これで試練は終了ということになる。だがこれで終わっていいのだろうか?
気まずい空気が流れる中、ビオガラドが口を開く。
『試練その一、終〜了! 続いて、その二!』
ビオガラドは言い切る。言い切った。なんて強い精神だ。
『一つの試練を乗り越えたからといって、簡単に縄張りをくれてやるわけにはいかん』
どうやら試練はまだまだ続くらしい。それはいいとしてキャラ設定がブレブレで、こちらとしてはどう反応していいのかわからない。
背後ではニドヴォルクが腹を抱えて震えていた。いや、爆笑するニドヴォルクってレアですよ?
『二対一で勝っても、勝ったことになどならん。やはりここは正々堂々一対一で……』
『一対一で決闘はかまわぬが、そこで負ければお前の立場がないが、それでいいのか?』
新たな試練を告げるビオガラドに対し、笑いを堪えながらニドヴォルクが忠告する。するとビオガラドの口が空いたまま止まった。
思うにビオガラドは、調子のいい竜なのだろう。迫力満点で出てきたのも、この試練にノリノリだからだ。そしてビオガラドは、俺たちに縄張りを渡す気でいる。
先ほどの力試しも、ビオガラドの予定では何日か戦ったのちに適当なところで負けて、試練を超えたことにするつもりだったのだろう。しかし俺たちが簡単に勝ってしまったことで、ビオガラドの予定は数秒で崩れた。
そして次は一対一の勝負をしようと考えていたのだろう。だがそうなると、今度は負けることが難しくなってくる。
ビオガラドにも体面がある。二対一で負けたというのであれば、ビオガラドの顔も立つ。しかし一対一で百歳の竜に負けたとあっては、笑い物になってしまう。
言葉に窮したビオガラドの、七つの瞳が彷徨う。目が沢山あって便利そうだが、内心が出過ぎだ。動揺しているのが俺たちにもわかる。
『あの、その……あれだ! 〈反咒禍界絶陣〉だ! 〈反咒禍界絶陣〉は使えるか!』
ビオガラドの七つの瞳が、閃いたと見開かれる。〈反咒禍界絶陣〉の習得を試練とするつもりなのだ。
『ああ、それでしたら使えますよ』
エニンギルゥドが空気を読まず〈反咒禍界絶陣〉を展開する。
『ジョジサムローンに教えてもらいまして』
エニンギルゥドは誇らしげに語るが、ビオガラドは顔を顰める。一方今頃になってエニンギルゥドは自分の失敗に気付き顔を歪める。
正直なのはエニンギィルドのいいところだが、時々空気を読まないところがあるよな。
年に似合わず〈反咒禍界絶陣〉を展開するエニンギルゥドを見て、ビオガラドも絶句する。そして縋るような目で俺を見る。
『あっ、俺はまだ使えません』
俺は正直に告白した。エニンギルゥドはジョジサムローンに教えてもらったが、俺はその間ニドヴォルクと〈電加操身法〉の特訓をしていたので覚えていないのだ。
『本当か! お前使えないのか!』
ビオガラドは、地獄から救われたように明るい声をだした。
『〈反咒禍界絶陣〉は竜にとって基本だからな! 使えないようでは立派な竜とは言えない! そんな奴に大事な縄張りは渡せない!』
一気に捲し立てるビオガラドからは、助かったという心の声が今にも聞こえてきそうだった。
『それはいいのだが、その方はこの歳で〈反咒禍界絶陣〉を使えていたのか?』
『さぁ! すぐ始めるぞ! 外野の声を聞いている暇はないぞ!』
指摘するニドヴォルクの声をかき消すように、ビオガラドは声を張り上げ、急かすように手を叩いた。
『なんていうか、ぐだぐだだな』
『これも旅の面白さと思っておこう』
呆れるエニンギルゥドに、俺も笑うしかなかった。