され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第四十三話 変わり者の仲間たち

 第四十三話 変わり者の仲間たち

 

 鉛色の空に一陣の風が吹いた。吹き荒ぶ風は、枯れた木の葉を枝から引きちぎり攫っていく。

 空を舞う枯葉が俺の前に落ちる。そこには何枚もの枯葉が積み重なっており、もはやどの葉が落ちてきた枯葉なのか判別がつかない。その落ち葉の絨毯に、巨大な足が下ろされる。

 

 踏みつけたのは、緑の鱗に覆われた緑竜だった。顔には七つの目があった。父上様ことヨギルググの友でもある、七眼のビオガラドだ。

 

 ビオガラドは、自身の前に大きな組成式を浮かび上がらせる。そして身振り手振りを加えて、組成式の構造と意味を説明した。

 

 俺の左には艶のある鱗を持つ黒銀竜エニンギルゥドが、一心不乱にビオガラドの話に聞き入っている。さらにその左では漆黒の鱗を持つニドヴォルクがいた。彼女の美しい瞳もまた、ビオガラドの組成式に注がれていた。

 

『〜と、言うことになるわけだ』

 ビオガラドが言葉を切り、七つの目がある顔で空を見上げた。鉛色の空には、雲の上でうっすらと光る太陽が見えた。太陽は真上に差し掛かり始めている。

 

『そろそろお昼だね、午前中の講義はこれぐらいにしておこう』

 ビオガラドが締めくくり、講義を終えた。

 授業が終わり、俺は一息をつく。だが俺の隣にいたエニンギルゥドはすぐに立ち上がり、ビオガラドの元に行く。講義の疑問点を尋ねにいくためだ、頭のいい優等生は違うね。

 

 俺は周囲に積もっている落ち葉に目を向けた。ビオガラドが住む樹海は、葉を落として冬支度を始めている。降り積もった落ち葉に、俺は息を漏らす。

 

『どうした、ため息などついて』

 闇を切り取った様なニドヴォルクが声をかける。

『いやなに、落ち葉を背に物憂げなため息をしていたら、女の子が勘違いして俺に好意を持つかもしれないと思って』

 その場の思いつきを口にすると、ニドヴォルクが喉を鳴らして笑う。やはり彼女はくだらない笑いが好きらしい。

 

『残念なことにここには君しかいないけれど、俺のことを好きになってもいいよ?』

『くだらん』

 切り捨てる様な言葉とは裏腹に、ニドヴォルクは笑っていた。

 

『しかし、もう冬だな。確かここに来たのは初夏ぐらいだったか?』

 俺は半年以上前のことを振り返った。当初は俺が〈反咒禍界絶陣〉を習得すれば、試練は終了ということだった。ただ〈反咒禍界絶陣〉はとうの昔に習得を終えている。しかし俺たちは未だここに残っていた。

 

『予定が随分変わってしまった』

『ビオガラドの講義が面白かったからな』

 ニドヴォルクの言葉に、俺は顎を引いた。

 

 ここまで俺たちが長居をしてしまったのは、一つにはビオガラドの持つ知識が、あまりにも深すぎたからだ。

 最初俺たちは、毒物に関する教えをだけを受けるつもりだけだった。だがビオガラドの知識はあまりにも高度すぎて、俺たちは全くついていけなかった。

 

 これは基礎から始めねば話にならないとなり、俺たちは生体系と化学系を一から勉強し直すことになったのだ。

 

『まさかここに来て、生体系を一から勉強することになるとはなぁ』

 俺は鉛色の空を見上げた。

 

 竜は生まれながらにして生体系に通じている。巨体を維持するためには、生体系での補強が必須だからだ。だがそれ故に何となくやっている部分が多い。

 

『俺は生体系が結構得意なつもりでいたが……』

 体を動かすことが好きなので、生体系には自信があった。だがビオガラドの教えを受けると、何もわかっていないことが判明した。午後にも講義があるのだが、ついて行くのがやっとだ。

 

『そう恥じることもない。ビオガラドの話は、私とて知らぬことがあった。エニンギルゥド様の護衛を任されていると言うのに、汗顔の至りである』

 ニドヴォルクは自嘲気味に笑う。

 

 ビオガラドの講義は、護衛役でもあるニドヴォルクも一緒に混ざって受けていた。

 彼女は化学系や生体系のみならず、扱いの難しい重力系すらも操る竜族の天才と呼ばれていた。しかしその彼女であっても、更新すべき知識をビオガラドは保有しているのだ。

 

『いやはや、すごいな』

 俺は感心しながら、ビオガラドを見た。七つ目の緑竜は、エニンギルゥドと話し込んでいる。

 

『我ら竜は成長と共に体が大きくなり、自然と咒力や演算力も増大する。何もしなくとも強くなれるから、研究や勉強をする必要がない。試しの谷で力比べや技比べをするのがせいぜいだ。そして谷を出て独り立ちすれば、あとは縄張りでのんびり過ごす』

 ニドヴォルクの言葉に俺は頷く。父上様や母上様も同様だ。

 

『ビオガラドの様に、咒式の研究をする者は稀なのだ』

 ニドヴォルクに教えられ、意外に思いつつも一方で納得が行った。

 

 竜は高度な知性だけではなく、人間以上の知能を持つ。さらに万年にも及ぶ寿命がある。もし竜がビオガラドの様に研究にその一生を費やせば、竜はこの宇宙の全てを解き明かしているはずだ。神秘と秘密は白日にさらされ、この宇宙に未知なる部分は何一つ残っていないことになる。しかし実際にはそうはなっていない。

 

『なぜだろうな? 研究して強い咒式を生み出せばいいのに』

 俺がつぶやくと、ニドヴォルクが笑った。

『言っておくがヨギストラよ。ビオガラドの教えを受けようとする其方が例外なのだぞ、普通の竜は、この様な考えをあまり好まない』

 ニドヴォルクに指摘され、内心動揺した。

 

 俺は前世が人間であるという意識がある。それゆえに人間的な価値観を捨てきれない。自分では当たり前と思うことでも、竜にとっては違うことがあるのだ。

 

 もしや前世のことに気づかれたのか、俺は内心ドギマギしていた。

 糾弾されるのかと思ったその時、ニドヴォルクの顔が柔らかに微笑む。

 

『其方は、父であるヨギルググに良く似ている』

『俺が? 父上様に?』

『うむ、自分で言うのもなんだが、私の世代、つまりヨギルググ達の世代は、ちょっと変わった竜が多かったのだ』

 自嘲気味の笑みを、ニドヴォルクは浮かべた。

 

『雄の中で秀でた力を持っていたのは、其方も知っているムブロフスカだ。だが彼の者は寡黙で、強いのだが孤立気味だった』

 ニドヴォルクに教えられて驚く。ムブロフスカが若い頃は今とは少し違っていたのだ。

 

『ほかにも甲竜ジョジサムローンが谷に来ていたのだが、誰が見ても百歳の竜には見えなかった。多くの竜はジョジサムローンを受け入れなかった』

 ニドヴォルクは少し前に世話になった竜の名前を出す。ジョジ爺ことジョジサムローンは良い竜だが、若い竜は受け入れがたかっただろう。

 

『そしてビオガラドも、以前からあんな様子だった』

 ニドヴォルクがエニンギルゥドと話すビオガラド目を向ける。俺もつられて見ると、質問され気分が良くなったビオガラドは自慢げに胸を逸らす。だが胸を逸らしすぎて後ろに倒れ、エニンギルゥド助け起こされていた。

 

 格好をつけたがるくせに決まらない。なんとも残念だ。当時は仲間外れにされていたという話だが、なんとなくわかる気がする。

 

『お前の父ヨギルググは、誰とでも親しく付き合う気質があった、孤立していたムブロフスカやジョジサムローン、ビオガラドとも仲良くして輪を取り持ったのだ。あの者は竜としての力は平均程度だが、懐が深いところがある』

 ニドヴォルクの意外にも高い評価に、俺は驚いた。

 父上様は普段は巣の前で、亀の様に日向ぼっこばかりしている。あの父上様にそんな一面があるとは知らなかった。

 

『私を導いてくださったハレルストラ様がヨギルググと番うと聞いた時、多くの竜が意外に思っていた。しかしハレルストラ様は、ヨギルググのその様な点を見ていたのだろう』

 ニドヴォルクが頷く。しかし自分の親が褒められると、嬉しいやら恥ずかしいやら照れるものがある。

 

『父上様にそんなところが……あれ、でも待て』

 俺は呟きながら、あることに気づいてしまった。

『今の話を整理すると、父上様の仲間は全員が変わり者揃いということになる』

 俺たちは現在ムブロフスカの縄張りを継承するため、父上様の昔の仲間の元を訪ねて回っている。現在は二つ目であり、あと二つ残っている。

 

『となると、この後の試練を課す竜も、変わり者とされていた竜たちと言うことか?』

『……そうなるな』

 ニドヴォルクの肯定に俺は顔を顰めた。

 

 これまでの試練は、驚きの連続だった。事前に想像していたものとまるで違っていた。だがそこには、父上様の仲間が軒並み変わり者揃いという理由があったのだ。

 

『楽しい試練が待っていそうだな』

 ニドヴォルクが半笑いの顔で言うので、俺はさらに顔を顰めた。

 




ヨギルググ、ちょっといいやつ
ちなみにヨギルググのググはゲルググのググ

ではまた来週
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