され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第四十五話 ビオガラドの忠告
七眼の緑竜ビオガラドの卒業試験を合格した俺たちは、晴れて第二の試練を突破した。そして次なる試練を目指し、ビオガラドが住む樹海から旅だった。
『いや〜、こうして旅をするのも久しぶりだな』
黒い鱗を太陽の光で輝かせながら、一頭の龍が先頭を歩く。黒銀竜エニンギルゥドである。そのすぐ後ろには、太陽の下でも日陰のように暗い鱗を持つ黒竜ニドヴォルクが、文字通り影のように付き従っている。
俺は二頭のさらに後ろを歩いた。
『思いのほか、長逗留になったな』
エニンギルゥドが後ろを振り返る。俺もつられて振り返ると、遥か遠くに緑の森が見えた。ビオガラドの縄張りである樹海だ。
『まさか一年近くいることになるとはな〜』
エニンギィルドはのんびりとした声を出す。
確かにエニンギルゥドの言う通り、半年以上をビオガラドの樹海で過ごした。当初ここまで長居することは想像していなかった。
『しかしいい試練だった。試練を超えるたびに、強くなっている気がする。こう力がみなぎり、なんでもしてやるぞ。って気分だよ』
久しぶりの旅に興奮しているのか、エニンギルゥドはよく喋る。しかし実際に俺たちは、試練を超えるたびに強くなっていた。
ビオガラドのところでは、俺たちは咒式の勉強ばかりで体などほとんど動かしていなかった。しかし生体系と化学系の基礎を深く学んだため、体の機能が飛躍的に向上していた。
筋力に持久力に瞬発力。心肺能力に視力に嗅覚や聴覚。毒や病気に対する抵抗に、爪や鱗の硬度も上昇していた。
今の俺と一年前の俺が戦えば、確実に今の俺が、それも圧倒的な差で勝つだろう。それほどビオガラドの教えは俺たちの糧となっていた。
もっとも身体能力がいくら高くても、体の動きが最適化されていなければ全力を発揮できない。もう一度鍛え直さねばならないだろう。
『次の試練も楽しみだなぁ。ヨギ。どんな竜がいるんだろうな?』
エニンギルゥドは呑気だ。一方でその隣で侍るよう進むニドヴォルクは、口数が少なく四方に油断なく視線を送っている。
ニドヴォルクは警戒し、緊張していた。彼女がこれほどに気が立っているのにはわけがある。全ては昨夜伝えられたことが原因だった。
昨日の夜、こんなことがあった。
ビオガラドの卒業試験に合格し、試練もクリアした俺たちは、その日の晩にお祝いを催すことになった。
ビオガラドが俺たちを祝うために、巨大な獲物を四体も仕留めてくれた。
お目付役であるニドヴォルクも、俺たちを労うために料理の腕を振るってくれた。
ニドヴォルクの腕前は素晴らしく、俺たちは舌鼓を打ち大いに盛り上がった。
宴もたけなわ。料理もあらかた食い尽くし、もう骨しか残っていなかった。食べるだけ食べた以上、後は寝てしまうだけである。
すでにエニンギルゥドはうつらうつらと船を漕ぎ、瞼は今にも落ちようとしていた。
『ちょっと小便に行ってくる』
いちいち言わなくていいのに、ビオガラドが立ち上がり森の方へと歩いていく。
『さて、片付けでもするか』
ニドヴォルクが立ち上がる。彼女は食事の後始末を、明日に後回しにするという発想はないらしい。
『ああ、手伝うよ』
『かまわぬ、お前もゆっくりと休め』
ニドヴォルクが俺を見たあと、視線を別の場所に移す。彼女の視線を追うと、エニンギルゥドがいた。
エニンギルゥドは睡魔に屈し、眠りに落ちていた。
眠るエニンギルゥドを、ニドヴォルクは優しい目で見つめる。その柔らかな表情を見て、俺の胸に痛みが走った。
ニドヴォルクは美しい。だがそれ以上に厳しく気高い。まるで遠くに聳える銀嶺の如く、何物をも寄せ付けない。しかし彼女は時折、女性らしい柔らかさを見せる時がある。雪解けの春のように優しく暖かく、その胸を開くのだ。
気高いニドヴォルクは美しいが、決して近寄ろうとは思わない。だがたまに見せる女性らしさを前にすると、俺の心は落ち着かなくなってしまう。
ぼうっとニドヴォルクを眺めていると、視線に気づいた彼女が俺を見た。
『どうかしたか?』
『い、いや、なんでもない』
俺は二、三度頭を振り、浮かび上がりかけていた感情を振り払った。
『早く片付けよう』
俺は余計なことを考えないようにするため、地面に散らばる骨の残骸を集めようとした。しかしニドヴォルクは動かない。
もしや俺の内心に気づかれたのかと、焦ってニドヴォルクを見た。しかし彼女は俺を見ていなかった。その視線は地面に注がれている。何を見ているのかと俺も視線を追うと、そこには赤い点があった。
虫が地面を這うように、赤い点がクルクルと回っている。だがこれは虫ではない。かなり弱い光線だ。
俺とニドヴォルクは、光線の発生源に同時に目を向けた。するとそこには木々の間にビオガラドがいた。指先に咒式を灯してこちらを見ている。
何をしているのかと思うと、ビオガラドの七つの目がエニンギルゥドを見る。しっかりと眠っていることを確認すると、一本の指を口の前に掲げた。音を立てるなと言う意味だろう。そして手招きする。
俺とニドヴォルクは目を見合わせた。よくわからないが、音を立てずにこちらにこいと言う意味らしい。
俺たちは互いに頷きあい、足音を消してビオガラドの元に向かう。
ビオガラドの元に辿り着いた俺たちは、問うような視線をビオガラドに向けた。ビオガラドは俺たちを見ず、エニンギルゥドが眠っていることを再度確認する。そして消音咒式を発動した。これにより俺たちの声が外に漏れることはない。
『一体なんなのだ?』
ニドヴォルクが首を傾げながら問う。するとビオガラドが口を開いた。
『実はお前たちにだけ、話しておかなければならないことがあるのだ。ジャザベジドという竜を知っているか?』
意外な名前に俺たちは驚いた。
確かに俺たちは、その竜のことを知っている。かつて試しの谷でやり合ったことがあるのだ。
『知っていますが、どうしてビオガラドが知っているんですか?』
『奴は我が眷属でな、他の竜から噂を聞いているのだ』
俺の問いにビオガラドが答えると、ニドヴォルクが頷く。
そう言えばジャザベジドは四つ目の緑竜であり、ビオガラドも同じく多眼系の緑竜だ。眷属同士のネットワークがあるのだろう。
『ここ最近奴の素行が良くないらしくてな、おそらく「はぐれ」るだろう』
ビオガラドの言葉に、俺は目を細めた。
はぐれるとは、賢龍派の規範や規律に馴染めず、派閥から出ていく竜のことを意味する。
ジャザベジドは試しの谷で歳下の竜をいじめ、さらに俺と力比べに敗北した。
竜は体面に生きているところがある。歳下をいじめるなど賢龍派には相応しくないし、歳下に負けるなど不名誉極まりない。そのためジャザベジドは賢龍派に居場所がなくなってしまったのだ。
ジャザベジドの自業自得だが、俺の行動が彼を追い出す結果となってしまった。責任を感じてしまう。
『ふん、全ては奴自身が招いた結果だ。知ったことではないな』
ニドヴォルクの声は厳しい。彼女は弱さを許さない。
『それで、それがどうだというのだ? つまらぬ者が出ていく。当然の結果だ』
『まぁ、俺も色々と話は聞いている。ただ問題は、奴のはぐれ方でな』
ビオガラドが言葉を濁した。
はぐれ方と言われても、俺には意味がわからなかった。派閥に馴染めず出ていく。それだけではないのだろうか?
『まさか!』
ニドヴォルクが何か気付いたのか、表情を一変させる。
『ああ。奴は賢龍派を出ていくだけでなく、黒龍派と連絡をとっているらしい』
ビオガラドの言葉に俺は息を呑んだ。
黒龍派は賢龍派とは派閥が異なるだけでなく、敵対関係にあると言っていい。
はぐれとなって出ていくだけなら、誰も気にはしない。だが黒龍派に鞍替えするとなると、これは明確な裏切り行為だと言えた。
『ふん、馬鹿馬鹿しい。あり得ぬ。ジャザベジドのような小物、黒龍派が招き入れるとは思えぬ』
ニドヴォルクが切って捨てる。確かに黒龍派は竜族最強硬派を自認しており、とりわけ強さを尊ぶ。歳下の俺に負けたことは、黒龍派も知っているだろう。ジャザベジドが黒龍派で通用するとは思えない。
『俺もそう思う。だが一方で懸念もある。奴が賢龍派を裏切ってまで、黒龍派と連絡を取っている理由は一つしかない』
ビオガラドは七つの目を俺に向け、そして眠るエニンギルゥドへと移した。
ニドヴォルクが目を細める。
ジャザベジドが賢龍派を捨てる理由。それは奴を負かした俺とエニンギルゥド以外にない。
『ニドヴォルク、そしてヨギストラよ。ジャザベジドがエニンギルゥド様を狙っているかもしれん。必ずお守りするのだ』
ビオガラドが七つの瞳で俺たちを見た。
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