され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第四十六話 第三の座標

 第四十六話 第三の座標

 

 ビオガラドの住む大森林を出発して、三十日ほどが経過した。まだ次なる目的地は見えてこない。俺はゆっくりと足を動かした。

 

『おおい、ヨギ。早くこいよ!』

 進む先では、光り輝く黒い鱗をもつ黒銀竜エニンギルゥドが振り返って俺を急かす。その隣には、漆黒の鱗をしたニドヴォルクが影のように付き従っている。

 

『ああ、すぐ行く』

『いったいどうしたんだ? 体の調子でも悪いのか』

 二頭が待っているので俺は少し歩みを早めると、追いついた俺をエニンギルゥドがジロジロと見る。

 

『大丈夫だよ。というか竜に体調不良なんてあり得ないだろ』

 俺はエニンギルゥドの心配を笑った。

 各種生体系咒式を使える竜に、体調不良はあり得ない。あったとしてすぐに治癒できる。

 

『じゃぁなんで遅いんだ? 旅をするのが嫌なのか?』

 エニンギルゥドが睨む。俺は言葉に窮した。

 このところ俺は少し歩みを遅くし、エニンギルゥドと離れているようにしていた。だが別に旅が嫌になったわけでも、エニンギルゥドが嫌いなわけではない。これには一つのわけがあった。

 

 かつて俺とエニンギルゥドは、四つ目の緑竜ジャザベジドと対立したことがあった。

 俺たちに敗北したジャザベジドは、黒龍派と手を組み、意趣返しを企んでいるかもしれないというのだ。

 

 エニンギルゥドは白銀龍様直径の子孫であり、守らなければいけなかった。一方でジャザベジドが一番恨んでいるのは、間違いなく俺だろう。

 

 俺が離れていれば、ジャザベジドはまず俺を狙うはずだ。そしてエニンギルゥドの側には、護衛であるニドヴォルクもいる。

 俺がジャザベジドに殺されたとしても、その次の瞬間ニドヴォルクがジャザベジドを殺す。俺が囮になれば、エニンギルゥドには鱗一つ傷つかない。

 

 全てはエニンギルゥドを守るためだった。しかしそのエニンギルゥドが、俺を責めるような目で見ていた。

 

『ああっと、それはだなぁ……』

『それは?』

 俺が言い訳を探して口を動かすと、エニンギルゥドが真っ直ぐな目で俺を見る。

 

 エニンギルゥドは、ジャザベジドに狙われていることを知らない。もし知れば俺が囮となることを許さないだろう。エニンギルゥドはそういう奴だ。

 

『それはその、ほら、あれだ!』

 俺は口を動かしながら、いい言い訳を思いついた。

『終わらせたくないんだよ』

『何を?』

『旅をだよ。俺たちが挑む試練は四つだ。もう二つ終わらせた。あと半分残っているわけだが、もう半分しか残ってない。前に進めば進むほど、終わりに近づいているんだ。そう思うと足が重くてな』

 俺の思い付きに、険しかったエニンギルゥドの表情が晴れる。

 

『なんだそうか、それなら早く言えよ』

 エニンギルゥドが笑いながら右腕を伸ばし、ドンと俺の胸を突く。

『ああでも確かにそうだよな。終わらせるのが勿体無いよな』

 朗らかな笑みを、エニンギルゥドは見せる。元々他者を疑うということを知らないので、俺の嘘を簡単に信じてくれた。

 

『じゃぁのんびりと道中を楽しむか』

 エニンギルゥドが歩調を落として歩み始める。

 ほっと胸を撫で下ろす俺を、側にいたニドヴォルクが刃のように鋭い瞳で見ていた。彼女はジャザベジドが俺たちを狙っていることを知っているし、俺の嘘に騙されるようなこともない。

 

 ニドヴォルクはエニンギルゥドがこちらを見ていないことを確認すると、小さな咒式を発動した。

 組成式から見て、音波に指向性を持たせて俺にだけ声を届ける咒式だ。

 

『ヨギストラよ、其方が何を考えているのかわかっている』

 ニドヴォルクは俺にだけ聞こえる声を向け、目を細める。

『だが私は其方を犠牲にするつもりはない。ハレルストラ様との約束もある。其方達は私が必ず守ってみせる』

 ニドヴォルクはそれだけ言うと咒式を切り、歩き出したエニンギルゥドの護衛に戻った。

 

 俺も守ると言ってくれたことは嬉しく思うが、ニドヴォルクの仕事は白銀龍様から与えられた大任である。あらゆる犠牲を払ってでも成し遂げねばならない。

 それにジャザベジドとの因縁の種を蒔いたのは、ほかならぬ俺自身だ。問題の芽が出たのなら、自分で摘み取らねばなるまい。

 

『まぁ、なるようになるか』

 俺は小さく呟いた。

 

 

 

 三つ目の試練を目指して旅をする俺たちは、岩石地帯に足を踏み入れていた。

 柱の様に切り立った岩山が無数に聳え立ち、その間には濃い霧が立ち込めている。まるで前世で見た水墨画の様な光景だった。

 

視界は白い紗幕で覆われ、近くにいるエニンギルゥドやニドヴォルクすら定かではない。だが霧の間を進む俺たちの足取りに、まったく乱れはなかった。

 確かに視界は悪いが、竜の目は各種電磁波を捉えることが可能だ。霧などは何の障害もなり得ない。

 

『そろそろだな』

 俺は今自分がいる場所と、ムブロフスカに渡された座標を確認した。

 事前に教えられた座標には、かつて父上様やムブロフスカと共に過ごした竜がいるはずだ。しかし周囲にそれらしい竜の姿は無かった。目の前には柱の様に巨大な山があるだけである。

 

『と言うことは、やはりこの上か』

 側にいるエニンギルゥドが、前に聳える巨大な岩山を見上げた。

 

『何もない様に見えるが……』

 俺もエニンギルゥドに倣って見上げる。

 ほぼ垂直に伸びる岩山の先は、深い霧に覆われ見通すことができない。だが各種電磁波を探知して見てみると、霧を越えるとすぐそこが頂上だった。竜の姿や気配はない。

 

『出かけているのかもしれないが、まぁ登ってみよう』

 俺は壁のように聳える岸壁に爪をかけた。試練では飛行咒式の使用が禁止されているため、空を飛ぶことはできない。岩山を登るには、ほぼ垂直の壁をよじ登らねばならなかった。

 俺は岩にしっかり爪がかかっていることを確認すると、腕に力を入れて登り始めた。

 

 俺の後にエニンギルゥドも続く。彼もまた軽々と岩山に爪をかけて登る。そして最後にニドヴォルクも登り始める。彼女は試練の参加者ではないため、飛行咒式を使用してはならないと言う規則には縛られていない。しかし俺たちの手前、飛行咒式を使用せず合わせてくれる。

 

 壁を登るニドヴォルクの足取りは軽やかだった。彼女は重力咒式の使い手であり、自分の重さを消すことができる。やろうと思えば足元に重力を生み出し、壁を平地の様に歩くこともできるだろう。

 

 俺たちは立ち込める霧に対し、頭から突っ込むように岩山を登った。

 視界の悪い中、俺たちはどんどん登っていく。だが妙だった。

 

『おい、ヨギ』

『ああ、エニン。わかっている』

 エニンギルゥドからの言葉に、俺は緊張を強めた。

 

 下から探知した時、岩山の標高はそれほど高いものではなかった。だがすでに頂上を超える高さを登っているのに、まだ岩山は続いている。

 どうやら電磁波の探知を妨害する隠蔽咒式が、岩山全体に張り巡らされていたらしい。となるとこの周囲を覆う霧も、自然に発生したものではないだろう。

 

 俺は警戒しながら岩山を登ると、霧を抜けて視界が一気に晴れた。すぐ先には岩山の頂上が見える。頂上によじ登ると、そこは数頭の竜が座れるほどの広さがあった。

 

 俺の後をエニンギルゥドとニドヴォルクが登り、頂上にやってくる。

 俺とエニンギルゥドは並び立ち、視線を上げた。目の前には聳え立つ大きな山が起立していた。どうやらこの岩山は指のように五つに枝分かれしていたらしく、俺たちが登ったのはその中でも一番低いものだった。

 

 俺たちは枝分かれした山の中で、真ん中にある一番高い山に目を向けた。

 天を突く山には、青い紐の様なものが絡まっていた。目を凝らせば紐には三角の、鱗の様な凹凸が刻まれている。紐を追って視線を上げていくと、その終点には竜の顔があった。

 

 枝分かれした二本の角が起立し、長く伸びた口の先には鯰のような髭が左右に伸びている。太い眉の下にある目は閉じられていたが、俺たちの存在に気づいたのかゆっくりと開かれる。

 開かれた双眸が、岩山に登った俺たちを見据えた。

 

『お前たちが試練の挑戦者。ヨギルググの息子ヨギストラ、そしてエニンギルゥド様ですね』

 岩山に体を巻きつけた竜が口を開く。

 

『我が名は五指山の青竜ゴウゼン。よろしくな』

 ゴウゼンと名乗った竜は明るい笑みを浮かべた。

 




ゴウゼンの名前の由来は西遊記から
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