され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第四十九話 宝珠作り

 第四十九話 宝珠作り

 

『一つお願いがあるのですが』

 俺はゴウゼンに切り出した。

『ん? なんだ? 言ってみろ。聞くかどうかはわかんねーけど』

 俺の言葉に対し、五指山の青竜ゴウゼンは気楽に声を返す。ゴウゼンは気どらないところがある。

 

『この宝珠の作り方なんですが? 教えてもらうわけにはいかないでしょうか?』

『ん? なんだ? さっきの俺の出まかせを真に受けたのか?』

 俺の願いに、ゴウゼンが眉間の鱗を寄せる。

 この宝珠作りは、今は亡きゴウゼンの祖先が行なっていたものらしい。ゴウゼンはその意思と文化を受け継いでいると言える。しかし俺にそんなつもりはない。

 

『いえ、そう言うわけでは、というか生きた証を受け継いでいくとか、そう言う重いのはちょっと』

『お前、言うね』

 俺が手を横に振ると、ゴウゼンが笑った。だがこれは本心だ。

 

 俺は百歳。普通の人間なら一生分生きたと言えるが、竜の感覚で見ればまだ子供だ。意思や文化を受け継ぐなんて大それた感情は持てない。

 

 先人たちの意思や文化を受け継ぐことの重要性はわかるが、今の俺には重いのだ。そう言うのはもっと歳食ってから考えよう。

 

『じゃぁなんでだ?』

『なんと言いましょうか、この試練の目的だなと思っていまして』

『目的?』

 ゴウゼンの問いに俺は頷く。

 

『ムブロフスカが課したこの試練の旅は、各地に住む竜のもとに赴いて、縄張りを受け継ぐ許可をもらうことです。ですがこれ、みなさん渡すつもり満々ですよね?』

 俺がゴウゼンに視線を向けると、青竜は口の端をあげた。

 

『まぁな。懐かしの古巣ではあるが、俺には自分の縄張りがもうある。二つもあっても意味はねーし、正直誰が受け継いでも気にもしねーよ』

 ゴウゼンがあっけらかんと笑う。

 

 竜は縄張りを持つが、これは食うためだ。必要以上の縄張りを持つことは竜の流儀に反する。そしてゴウゼンたちは良識ある賢龍派だ。過剰に縄張りを占有したりはしない。縄張りを受け継ぐ許可など、初めから出ることが前提なのだ。

 

『俺がムブロフスカの提案に乗ったのは、ヨギルググの息子を一丁揉んでやろうって思っただけだからな』

 ゴウゼンは試練の内幕をぶっちゃける。

 

『ムブロフスカが俺たちにこの試練を課したのは、いろんな経験を俺に積ませるためだと思うんですよ』

 俺はこの旅を始めた当初、エニンギルゥドやニドヴォルクにも語ったことを思い出した。

 旅を通して仲間と共に失敗や成功を積み重ねる。これこそがムブロフスカ狙いなのだ。

 

『まぁ、ムブロフスカが考えそうなことだな』

『で、その経験の一環として、旅で体験できることは積極的にしていこうかと思っていまして』

 俺は洞窟に並ぶ、宝珠の数々を眺めた。こう言った道具を作る竜は少なく、出会うことは稀だ。せっかく出会ったのだから、作り方を覚えてみたい。

 

『お前、気軽に言うね』

 ゴウゼンが非難めいた目を俺に向ける。

 確かに俺が言っているのは、旅先で陶芸体験教室があったから参加してみる。と言った感覚だ。気安いとすら言えるだろう。

 

『でもまーそう言うノリ、嫌いじゃねーぜ』

 ゴウゼンはニカっと笑った。

『やりたくなったからやる。それでいーんだよ。ムブロフスカの奴は、なんでも小難しく考えすぎなんだよ。あいつ絶対それで損すると思う』

 ゴウゼンが自分で言って頷く。俺もそれは思うところがあった。

 

 《され竜》の原作では、ムブロフスカは衝撃の最後をとげることとなる。その原因は様々あれど、ムブロフスカの生真面目な性格が、一つの原因ではないかと思う。彼がもう少し柔軟な選択をすることができれば、あの結末は避けられたのではないだろうか。

 

『まぁ、それはさておき。作り方を知りたいってんなら、教えてもいい。隠すようなもんでもないからな』

 ゴウゼンは気安い。俺は頭を下げてお願いした。

 

『ではよろしくお願いします』

『おう、まかせろ』

 ゴウゼンは鷹揚に頷く。

 

『じゃぁ、こっちへ来い』

 ゴウゼンが巣穴の奥へと案内する。洞窟の奥は少し開けており、広間となっていた。広間の外周部にも台座が置かれ、色とりどりの宝珠が並んでいる

 ゴウゼンが広場の奥でとぐろを巻き、俺にも座るように促すので腰を下ろした

 

『宝珠の作り方を教えるのは、俺としてもやぶさかではない。だがその前に一つ言っておくことがある』

 ゴウゼンは声を低くする。

『この宝珠だが、基本的な使用方法は組成式を書き込んで咒式の補助をするものだ。つくり方によっては、擬似的な演算装置としても使用できる』

 ゴウゼンの言葉に、俺は頷く。《され竜》でも主人公たちは小さな宝珠を演算装置として使用し、咒式を使う補助としていた。

 

『だがその効果はそれほど高くはない。竜の演算力と比べれば、補助にもならないだろう。大抵の竜が宝珠を使わないのはそのためだ。だがある方法を用いれば、その効果を飛躍的に高めることができる。だがその方法は賢龍派では禁咒とされている。作ることは許されていない。俺は作り方を教えないし、お前が作ることも禁じる』

 ゴウゼンは目を見開いて俺を見る。その視線には、冗談の成分は一切含まれていない。

 

『禁咒を俺は教えるつもりはない。だが禁咒は原理が簡単でな、宝珠作りをしていれば自然と作り方がわかってしまうだろう。だが絶対に作るな。作ればたとえヨギルググの息子であろうと許さん。また作れば賢龍派が察知して、たちどころにお前を殺すだろう』

 ゴウゼンが俺を脅す。だがこれは誇張ではないだろう。賢龍派は竜族最大派閥として君臨している。彼らの手は長く、追われれば逃げ場などないだろう。

 

『だから絶対に作るな。それを誓えるか?』

 ゴウゼンが俺に問う。俺はゆっくりと顎を引いた。

『はい、誓います。賢龍派の禁を犯すような真似は致しません』

 俺の誓いの言葉に、ゴウゼンも頷く。

 

『よろしい。では禁咒がどのようなものかだけは説明しておこう』

 ゴウゼンは前置きして外周部に置かれた宝珠に目を移す。

 

『宝珠は各種鉱物を使用して作られている。だがこの素材なのだが、生物の脳を利用することも可能だ。特に強力な咒力や演算能力を持つ生物の脳であれば、効果が飛躍的に高まる』

 ゴウゼンは俺に目を戻す。

 

『高い演算能力と咒力を備えた脳。たとえば〈古き巨人〉や〈禍つ式〉そして我ら竜の脳だ』

 説明するゴウゼンに対し、俺は頷く。

 原作の《され竜》でも、強力な〈異貌のものども〉脳を宝珠として使用する描写があった。

 

『だが賢龍派閥では、脳を素材として使用することを禁じられている。なぜ禁止されているかわかるか?』

 ゴウゼンの言葉に、俺は頷いた。

『それは……同胞である竜の亡骸に、手を加えることが倫理的に許されないからでしょうか?』

 俺の答えにゴウゼンが顎を引く。

 

『その通りだ。同じ賢龍派は当然として、たとえ派閥が違えど、同じ竜族の遺体を辱めるような真似は許されん』

『ですがゴウゼン。〈古き巨人〉や〈禍つ式〉の脳を利用することは、なぜ禁じられているのですか?』

 俺は当然の疑問を呈す。

 

 〈古き巨人〉や〈禍つ式〉は竜族と敵対している。もちろん生物の脳を道具として利用する嫌悪感は理解できる。だが殺し合いに綺麗事ばかり言っていられない。殺すか殺されるかなのだから、なりふり構っていられないだろう。

 

『お前の言わんとすることはわかる。だが禁じられていることだからするな。白銀龍様には、我らには及びもつかないお考えがあるのだろう』

 ゴウゼンは良識ある賢龍派としての規範を示す。

 

 もちろん俺としても問題はない。同胞の竜のみならず、生物の脳を加工して持ち歩くなどグロテスクすぎる。それにそんなものを使わなくても、ある程度強くなれるだろうと、俺は予想していた。

 

 原作の《され竜》には〈内なるナリシア〉と名付けられた魔杖剣が登場する。これは天才数学者であったレメディウス博士が作り上げた一振りで、強力な咒式干渉力を持っていた。

 レメディウス博士がどのようにして〈内なるナリシア〉を作ったかは不明だが、〈古き巨人〉や〈禍つ式〉、そして竜の脳が使われているという描写はなかった。つまり脳を使わなくても、高い効果は発揮できると言うことだ。

 

 もちろん天才レメディウス博士に追いつくことは難しいだろう。しかしこちらも人間以上の知能を持つ竜の体だ。長い時間をかけて研究すれば不可能ではないはず。

 

『では作り方を教えてやろう』

『よろしくお願いします』

 ゴウゼンの言葉に、俺は頷いた。

 

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