され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第五話 咒式の基礎のお勉強
俺が生まれてから、最初の冬が来て、そして雪解けの季節がやってきた。
生まれて一年の間は、巣穴から出ることを禁じられていた。俺は両親の言いつけを守ったが、体を鍛えるために巣穴を毎日の様に駆け回った。
忙しなく動き回る俺に、両親はほとほと手を焼いた。
父上様は俺が退屈せぬように、咒式で階段やよじ登れる壁を作り、天井に梁を通してくれた。そして母上様は俺が落下しても大丈夫な様に、柔らかい緩衝材を巣穴に敷き詰めてくれた。
俺の体は毎日の様に大きくなり、一歳になる頃には体長が二メルトルほどになっていた。
一歳の誕生日のお祝いは、巣穴から出る許可だった。
両親は言った手前、俺が一歳になるまで巣穴から出すことを許さなかった。しかし誕生日に巣穴から出ていく俺を、両親はどこかほっとした目で見ていた。
おそらくこれで巣穴を駆け回る俺から解放されると思ったのだろう。しかし甘いな、父上様母上様よ。俺が迷惑をかけるのはこれからだ。
外へと解き放たれた俺は、早速野山を駆け回った。そして木にのぼり、岩から岩へと飛び移る遊びを繰り返した。
俺の遊びは、大半は成功した。竜の体は俺の思った通りに動いてくれる。だが時には手痛い失敗も経験した。木から落ちて足の骨を折ったし、着地を誤って岩山を転げ落ち、体中に怪我をした。
毎日怪我をして帰ってくる俺に対し、両親は呆れながらも治癒咒式で治してくれた。
生まれて十年も過ぎると、俺の体は十メルトルほどにまで成長した。
これぐらいの大きさになると、鱗も頑丈になりちょっとやそっとのことでは怪我をしなくなった。
もっとも、竜の体を過信しすぎて、一度高い崖から転げ落ちて、全身の骨を折る大怪我をした。
帰りが遅いことを心配した両親が、俺を探しに来てくれなければ死んでいたかもしれない。
この時ばかりは両親にしこたま怒られ、一ヶ月ほど謹慎をした。そして俺はこの期間を咒式の勉強に充てた。
竜は咒式を無意識に使用できる。俺の両親は二十メルトルを超える巨体だが、本来このような巨大な体はありえない。生物の体は一定の大きさを超えると、自分で自分の体を支えることができなくなるからだ。
ではなぜ竜の様な巨体が成立しているのかというと、全ては咒式のおかげだ。
物理法則を捻じ曲げるような咒式の力で、骨や筋肉を通常ではありえないほど強化し成立させているのだ。
咒式の力があれば、危険な状況に陥っても、回避できる。《され竜》ではチタン合金の鎖を生み出す〈剛鎖〉と鋼鉄の盾を生み出す〈斥盾〉という咒式が使われていた。
崖から落ちそうになった時に、もし〈剛鎖〉の咒式を使用できれば、鎖の先のアンカーを壁に突き刺すことで転落を防げただろう。そして万一転落しても〈斥盾〉の咒式で体を覆えば衝撃を減らすことができる。
とはいえ咒式を使うといっても、俺に咒式の知識はない。作中では不確定性原理だとか作用量子定数だとか色々言われていたが、そこまで丸暗記してない。だが手がかりがないわけでもない。
先ほども言ったように、竜は無意識に咒式を使用している。俺の体が急激に成長しているのも、全ては咒式のおかげだ。
さらに竜は口からは火炎や毒ガス、強酸に電撃といった吐息を吐くことができる。
俺は鱗の色から雷竜であるらしい。実際、口から火を吐こうとすると、小さな火花が最近出る様になった。
口から電撃を吐ける生物なんていないので、これも咒式の力によるものだろう。口から火を吐く時、感覚的に何かをしているのがわかる。おそらく咒式の基礎である不確定性原理や作用量子定数に干渉しているのだと思われる。
原理はわからないが使用できるのであれば、あとは自分のやっていることを確認していけばいい。
幸い俺は竜の体と頭脳を持っている。竜は頭が良く、咒式の発動に必要な計算能力、作中の用語では演算力が桁外れに高いことが作中に書かれている。
そして咒式の発動には咒力という力が必要なことも書かれているが、これも竜は桁外れに高く、人間を軽く超えているとある。
竜の体を持つ自分なら、咒式を使用できるはずだった。
俺は巣穴にじっと籠り、ひたすら頭の中で咒式理論を思考し続けた。
巣穴でじっと動かない俺を、両親は逆に心配した。しかし俺は食べる時と眠る時以外は、じっと巣穴から動かず壁を見つめて考え続けた。
そして謹慎の一月かけて、ついに咒式の基礎である不確定性原理と作用量子定数を解明した。
俺は自分の理論が完成したことを理解し、口を開けて電撃の吐息を放った。
以前は小さな火花しか出なかったが、今回は電撃の奔流が太い筋となって直進し、巣穴の壁に激突。土の壁を焦がした。
『おい、見たか。おまえ』
『ええ、見たわ。あなた』
咒式を放った俺を見て、両親は歓喜の声をあげた。
『この年でこれだけの電撃が放てる竜なんてそうはいないぞ』
『うちの子は天才よ!』
父上様と母上様がはしゃぎにはしゃぐ。
『いいか、ヨギ。今お前がやったのは咒式というものだ』
父上様が得意げに語るが、もちろん俺は知っている。
『お前はまだ感覚でやっただけだと思うが、咒式を使用するには不確定性原理と作用量子定数というものを理解する必要があってな』
父上様は話しながら、爪でガリガリと巣穴の壁を削り始める。壁には俺が一ヶ月かけて解明した数式と方程式が書かれていた。
父上様、あんた、知っとったんかい……。
俺は一ヶ月かけて、聞けば済むことを考えていたことを知り、その場で卒倒しかけた。
いろいろあったが、俺は咒式の基礎を理解することが出来た。そして謹慎が明けたので、外に出ることにした。
一ヶ月ぶりの外だがいつものように遊びまわるのはまだあとだった。
咒式の基礎を理解したとはいえ、これで咒式が使えるわけではない。咒式には組成式というものが必要だった。
組成式とはいわば咒式の設計図の様なもので、どの様なものをどの方向にどれだけの速度で打ち出すか。ということが描いた方程式のようなものだ。
咒式はこの組成式に咒力を流し込むことで効果を発揮する。俺が一ヶ月かけて考えた不確定性原理や作用量子定数というのは、この組成式の根幹をなす土台であり、この上に何を作るかが重要であった。
俺はまずは身を守るために〈剛鎖〉と〈斥盾〉を使用したい。しかし俺はこの二つの組成式をまるで知らなかった。だが一からすべてを組み立てる必要はない。竜というこのチートボディが様々な問題を解決してくれる。
俺はとにかくイメージした。先端にアンカーのついた鎖が、勢いよく飛び出して目の前の岩に突き刺さる光景を。
すると頭の中で、俺のイメージが組成式となって形作られていく。
通常はこの様な方法で咒式を放つことなどできないのだろう。しかし竜の脳は人間を軽く超える演算力を持ち、桁外れの咒力を持っている。組成式の足りない部分は演算力と咒力で無理やり補う。
念じる俺の前に、光り輝く組成式が浮かび上がった。だがお世辞にも、美しいとは言えない組成式だった。形がそもそもいびつであり、あちこちが欠けている。だが俺は構わず組成式に咒力を流しこんだ。すると鎖が飛び出る。
だが無理やり使ったため、鎖はあらぬ方向に飛んでいく。速度も遅く先端にアンカーは丸く岩に当たって跳ね返された。良く見れば鎖も形が歪でところどころ欠損もあった。
咒式としては大失敗だが、これでいい。先ほど浮かび上がった組成式は記憶した。不完全で穴だらけの式だったが、これを改良していけばいい。
俺は何度も試行して、ついに岩に突き刺さる〈剛鎖〉を発動することができた。さらに〈斥盾〉の発動にも成功する。だが咄嗟に使用するとなれば、瞬間的に組成式を構築する演算力と咒力が必要になる。それに咒式の向きや射出する速度などは、その場その場で変えていかねばならない。瞬時に咒式を制御する制御力が必要となってくる。
とはいえこれで多少の危険があっても、咒式でなんとかなる。心置きなく危険な遊びができるというものだった。
咒式を覚えたため、より危ないことをする様になった俺を見て、両親はさらに呆れていた。
しかし俺としてはここで止まるわけにはいかなかった。
とりあえず今日はここまで
明日も投降します