され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第五十一話 ゴウゼンの餞別

 第五十一話 ゴウゼンの餞別

 

 ムブロフスカの縄張りを受け継ぐ四つの試練。俺たちはその三つ目である五指山の青竜ゴウゼンの元を訪れていた。黒銀竜エニンギルゥドがゴウゼンの試練を受け、そして行き詰まった。

 

 エニンギルゥドが答えを出せないまま、そろそろ三十日が過ぎようとしていた。

 俺はその間、ゴウゼンから宝珠の作り方を教わっていた。そしてある程度コツを掴み、宝珠作りも形になってきたところだった。

 エニンギルゥドが試練を突破したと、宝珠を掲げて俺とゴウゼンの元にやってきたのは。

 

 ゴウゼンが課した試練は宝珠に込められた論理錠を解くというもので、その最終問題は「三点輻輳論理問題」だった。これは絶対的に対立する三つの式を統合するという難問であった。

 これは矛盾した問題であり、普通の方法では絶対に解くことができない。この問題の答えは三つの式を無理やり統合するのではなく、同じ方向に向けることで良いのではないかとする意地悪問題であった。

 

 答えを導き出すのに必要なのは、たった一つの閃き。逆に頭のいい人間ほど引っかかる、いやらしい問題だった。

 エニンギルゥドはゴウゼンの思惑に見事に引っかかり、この問題が解けず苦労していた。

 そしてようやく回答ができたわけだが、俺もゴウゼンも、そして護衛としてついてきている黒竜ニドヴォルクもさほど驚きはしなかった。というのもエニンギルゥドはこの答えにもう何日も前に気づいていた節があったからだ。

 

 エニンギルゥドがすぐに答えなかったのは、俺に宝珠の勉強をする時間をくれるためか、それとものんびりしたかったのかもしれない。

 真相はどうあれ、エニンギルゥドはゴウゼンが課した試練を突破した。これで晴れて俺たちは第三の試練を合格したことになる。

 

『これでお前らともさよならか。まぁ結構楽しかったぜ』

 俺たちとの別れを前にしても、ゴウゼンは気楽だ。だが俺はこの気楽さが嫌いではなかった。

 

 賢龍派の竜は気高く、一度口にした誓いや約束は必ず守る。

 大変結構な事だが、この気高さや真面目さは大きな弱点となる。

 

 一方ゴウゼンは気楽でいい加減、賢龍派の竜には珍しい感覚の持ち主だった。だがこれはこれでいいだろうと俺は思う。堅苦しいばかりでは息が詰まる。

 

 その日の夜、ゴウゼンはお別れの宴を開いてくれた。ニドヴォルクも料理の腕を振るい、俺たちは舌鼓を打った。

 

 翌日、俺たちは日の出と共に出発することとなった。しかし太陽が地平線から顔を出し切っていても、俺たちはまだ五指山に残っていた。ゴウゼンの姿がないからである。

 

『全く、あの者は何をしているのだ!』

 霧が覆う五指山の指の上で、ニドヴォルクがぼやく。

 

 日の出と共に出発することは、昨日のうちにゴウゼンに伝えておいた。しかし日が出てもなお、ゴウゼンは巣穴に篭り姿を見せない。見送りに来てくれるものと思っていたし、こちらとしても挨拶せぬまま出発するわけにもいかない。

 

『もう出発するか?』

 ニドヴォルクが声を荒げる。その時、頭上から声が聞こえてきた。

『お〜い。待ってくれ』

 見上げれば長い体をくねらせ、ゴウゼンが空を飛んでこちらに向かってくる。その右手には白い宝珠を握りしめていた。

 

『いや〜、悪い悪い。待たせたな』

『全くだ、何をしておった』

 頭を下げるゴウゼンに、ニドヴォルクが口を尖らせる。

 

『いや、これを作っていてな』

 ゴウゼンが右手に持つ白い宝珠を見せる。

『これをお前にやろう』

 ゴウゼンが俺に宝珠を差し出す

『はぁ、ありがとうございます』

 俺は宝珠を受け取ったが、なぜわざわざ作ってくれたのか、それがわからなかった。

 

 すでに俺はゴウゼンから二つの宝珠をもらっている。さらにここで宝珠作りをしていたため、習作として作った宝珠も持っており、鱗の間に幾つか格納している。

 

『その宝珠には三つの咒式が込めてある。発動直前まで式を込めているので、あとは咒力を流し込むだけで発動する』

 ゴウゼンの説明を聞き、俺は宝珠を改めて見た。確かに三つの咒式が発動直前の段階で留められていた。

 込められている咒式の効果に気づき、俺はゴウゼンを見た。

 

『それぞれ一度しか使えぬし、役に立つとも限らん。まぁ、使用する機会がなければ、それに越したことはないがな』

 ゴウゼンが頷く。確かにこれは、使う機会がなければそれでいいものだった。しかし、万が一そんな機会が来れば、保険にはなるかもしれない。

 

『有り難くいただいておきます』

 俺は頭を下げ、宝珠を鱗の隙間に仕舞い込んだ。

 

『よし、俺からの餞別は以上だ。と言いたいところだが、ヨギストラの相手ばかりしていては、少し不公平だな』

 ゴウゼンはエニンギルゥドを見た。試練の最中、ゴウゼンは俺に宝珠作りを教えてくれた。だがエニンギルゥドには、試練の論理錠を与えた以外は何もしていない。

 

『ゴホン。私はエニンギルゥド様に差し上げるものは何も持っておりませんので、言葉を贈ろうかと思います』

 ゴウゼンは咳払いと共に前振りをした。ゴウゼンは宝珠をたくさん持っているが、この手の道具を持ち歩くことを、竜の間ではいい趣味としていない。白銀龍様直系の子孫であるエニンギルゥドが持ち歩けば、眉を顰める竜も出てくるだろう。宝珠を与えないのは、ゴウゼンなりの配慮であった。

 

『エニンギルゥド様。御身にかかる重責、私には想像もつかぬほどと思います。しかしあまり思い詰めぬように。一頭の竜として生まれ落ちた以上、自らの生を謳歌してはならぬという規則はありませぬ』

 側で話を聞いていたニドヴォルクが、わずかに目を伏せる。

 

 ニドヴォルクはエニンギルゥドの護衛であり教師であった。そして常にそばに寄り添う、家族のような存在でもある。

 ニドヴォルクとしては、エニンギルゥドには自由に生きてほしいという願いもあるのだろう。しかし護衛であり教師であるニドヴォルクには言えぬこともある。

 周りが気を遣って言えぬことを、ゴウゼンは代わりに言ってくれているのだ。目を伏せるニドヴォルクの前で、ゴウゼンはさらに言葉を続けた。

 

『最終問題にもしましたが、不可能なことを無理やり統合する必要はありません。方向性が合っているだけでよしとする。そういう答えもあるのです。適当でも良いのです』

 ゴウゼンは語り終えたあと、ニカっと笑みを浮かべた。

 

『と、こんなこと言っておけば、経験豊富な先輩竜のフリはできたかな』

 ゴウゼンは呵呵と笑う。

『その一言がなければ完璧であったぞ』

 ニドヴォルクがつまらなそうに呟く。まぁ最後のはゴウゼンの照れ隠しなのだろう。

 

『肝に銘じておきます』

 言葉を受けたエニンギルゥドは深々と頷く。

 エニンギルゥドがゴウゼンの言うような、自由な生き方をするのは難しいだろう。しかし考えすぎは良くない。

 

 一生を完璧に送れるはずもなく、道を違えることもある。完璧でなくとも、大筋から外れていなければそれで良いとするぐらいの緩さがあってもいいはずだ。

 

『それじゃぁな、残りの旅を楽しめ』

 ゴウゼンは手を振る代わりに、尻尾を振って俺たちを見送った。

 

 




最近更新できず申し訳ありません
ちょっとリアルが忙しかった
来週は更新できると思います
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