され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第五十三話 再戦 その1
『お前は、ジャザベジド!』
丘の上に立つ四つ目の緑竜を見て、俺は背筋に戦慄が走るのを覚えた。
ジャザベジドとは五十年前に戦った因縁があり、奴は俺を恨んでいる。いつか意趣返しに来るだろうと予想していたが、まさかここで出会うとは思わなかった。
ジャザベジドがゆっくりと振り返る。その右手には何かを持っていた。ジャザベジドは太陽を背にしているため、逆光で見えにくかったが、目を凝らすと何かの首であることがわかった。
その肌は暗い土色をしており、鱗はなくブヨブヨとしている。だがその顔には大きな牙があり、竜の顔に近い造形であった。
『ウロン・ウロン……』
背後で黒竜ニドヴォルクが呟く。
この場所は父上様やムブロフスカの友である、土壌竜ウロン・ウロンの縄張りだ。
俺はウロン・ウロンと会ったことはない。だが同世代であるニドヴォルクはウロン・ウロンのことをよく知っている。おそらくジャザベジドが持つ首が、ウロン・ウロンなのだ。
俺はジャザベジドが立つ足場に気づいた。ジャザベジドは土色をしたミミズのような体の上に立っていた。その体はあちこちが切り裂かれ、土色の肉や体液を周囲に撒き散らしている。
ウロン・ウロンの体だ。
『ジャザベジド! お前が土壌竜ウロン・ウロンを殺したのか!』
『ああ? 竜だと? こんなもんミミズだろ?』
ジャザベジドはウロン・ウロンの首を投げ捨てた。土色をしたウロン・ウロンの頭が俺たちの前に転がる。
『ジャザベジドよ、それは殺害の告白と受け取っていいのだろうな!』
漆黒の鱗を見に纏う、ニドヴォルクが声に怒気を孕ませながら問いただす。
『ああ、俺が殺した』
『土壌竜は白銀龍様がお認めになった同胞だ。これを殺害したと言うことは、貴様はもはや賢龍派ではない!』
ニドヴォルクの目に怒りの炎が宿る。彼女は口腔に咒式の組成式を灯したが、俺は彼女の前に手を伸ばして制した。
なぜ邪魔をすると、ニドヴォルクが俺を睨む。だが俺は彼女を見返した後、側にいるエニンギルゥドに目を向けた。
視線の意味に気づき、ニドヴォルクは発動しかけていた咒式を停止する。
土壌竜ウロン・ウロンの殺害を認めた以上、ジャザベジドは裏切り者だ。これを誅するのは賢龍派の義務である。しかしニドヴォルクには賢龍派である以上に、白銀龍様直系の子孫であるエニンギルゥドを守ると言う仕事がある。ジャザベジドに構っている暇はない。
何よりこの状況は少々妙だった。ジャザベジドは三百歳級の竜だ。しかしジャザベジドが倒したとするウロン・ウロンは、ジャザベジドよりさらに年上の五百歳級だ。
俺が知るジャザベジドは、年上の竜に勝てるほどの力はない。何か仕掛けがある。
ジャザベジドは俺に敗北した過去があり、誰よりも俺に執着しているはず。ニドヴォルクがジャザベジドに負けるとは思えないが、まずは俺が戦い様子を見るのが妥当だ。
『ジャザベジド。お前とはもう争いたくなかったが、俺が相手をしてやる』
『相手をしてやる、だと! たかだか百歳のガキが、偉くなったもんだな』
『その子供に負けた奴が何を言う。偉そうな口を叩くなら、勝ってから言え』
俺の挑発に、ジャザベジドが四つの目を剥く。
『いいだろう! 死んで後悔しろ!』
ジャザベジドが声と共に跳躍し、俺に飛びかかってきた。
よし、のってきた。
襲いかかるジャザベジドに対し、俺はその場を飛び退いて後退しながら距離を取った。するとジャザベジドは俺を追いかけてくる。
俺はまず、ニドヴォルクとエニンギルドから離れたかった。戦うのはそれからでいい。
『どうした、威勢がいいのは口だけか!』
後退する俺に対し、ジャザベジドが叫ぶ。俺はニドヴォルクやエニンギルゥドから十分離れたことを確認すると、土を踏み締め前に飛び出た。
突如突進してきた俺に対し、ジャザベジドが爪を振るって迎撃する。だが俺はこれを見切り、掠めるほどの距離で回避した。そして頭から飛び込み、ジャザベジドの胸に体当たりする。
ジャザベジドは俺より二百歳年上の竜だ。体も俺より大きく体重も重い。普通に体当たりをしても、跳ね返されるところだろう。
だがジャザベジドは俺に攻撃を回避され、体勢が崩れていた。俺は重心の乱れを正確に見抜き、体当たりをぶつけた。
ジャザベジドの体が揺らぎ、後ろにどうと倒れる。
地響きが起こり森の梢が揺れる。鳥達が驚いて飛び立つが、それ以上に驚いていたのがジャザベジドだった。
ジャザベジドは慌てて起き上がるも、その顔には驚愕が張り付いたままとなっている。
五十年前に俺がジャザベジドと対戦した時、ジャザベジドは俺より遥かに強かった。俺は何度も挑み、泥試合の末に勝利をもぎ取った。
あの戦いからかれこれ五十年。今や俺とジャザベジドの間には、かつてほどの隔たりは無くなっている。いやそれどころか俺のほうがジャザベジドを上回っていた。
『五十年前と、大して変わっていないな。今まで何をしていた?』
俺はジャザベジドを見た。
体格では相手の方が大きいため、俺が見上げる形だ。しかし俺は年上の竜に対し、見下すような視線を向けた。
この五十年間、俺は毎日休まず体を鍛え、毎年ニドヴォルクに勝負を挑んだ。そして試練に出てからは、過酷な旅を続け、幾つもの難関を乗り越えてきた。
すでに俺は五十年前の俺ではない。まだ百歳になったばかりだが、他の竜では経験することもないであろう濃密な時間を過ごしてきた。
この五十年、ジャザベジドがどのように過ごしてきたかは知らない。だが俺とは過ごしてきた時間が違う。
ジャザベジドの顔が引き攣る。今の一撃で、力の差がかつてほどなくなっていることに気づいたらしい。
『どうした? 戦いは始まったばかりだ。それとも威勢がいいのは口だけか?』
俺はジャザベジドを、見上げながらも見下ろしていた。