され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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  第五十四話 再戦 その2

第五十四話 再戦 その2

 

 俺は四つ目の緑竜ジャザベジドに対し、怒りの視線を向けた。

 ジャザベジドは、父上様の友である土壌竜ウロン・ウロンの殺害を告白した。これは賢竜派に対する裏切りであり、賢龍派の一員としてジャザベジドを討たねばならなかった。

 

 俺の背後には黒光りする鱗を持つ黒銀竜のエニンギルゥドと、漆黒の鱗の黒竜ニドヴォルクが控えている。

 

 三頭でかかれば、ジャザベジドを倒すなど簡単であろう。しかし俺は二頭の手を借りるつもりはなかった。

 

 何故なら状況に違和感があるからだ。

 俺はジャザベジドを視線に捉えたまま、周囲を再度確認した。少し離れたところでは、巨大なミミズのようなものが地面に横たわっている。

 首を切断された、ウロン・ウロンの頭と胴体だ。

 

 土壌竜は一般的に知られる竜とは、全く異なる体をしているという。また力が強く、同世代では敵なしだったニドヴォルクも一目を置くほどだという。

 

 ジャザベジドは俺よりも年上だが、その力は並の竜と変わらない。年上の土壌竜を倒せるとは思えなかった。

 

 それにジャザベジドも馬鹿ではない。俺やエニンギルゥドに加え、ニドヴォルクが一斉にかかれば負けることはわかっているはずだ。

 

 それでも挑んできたと言うことは、何か勝つための秘策があるということだろう。それを暴くのが、俺の仕事と言えた。

 

『行くぞ!』

 俺はジャザベジドに向かって突進した。途中小刻みに足を入れ替え、ステップを踏んでフェイントを仕掛ける。

 

 俺の陽動に、ジャザベジドの四つの目が迷う様に動く。

 ジャザベジドは四つの目を持っているが、その視線の動きから、攻撃箇所や注意がどこに向いているかを知ることができる。

 

『そこだ!』

 俺は視線からジャザベジドの隙を察知し、体当たりを行った。

『舐めんな!』

 叫ぶと同時に、ジャザベジドが身を翻し、俺の体当たりを回避する。

 

『へぇ、ちゃんと癖を修正してきたんだ』

 俺はジャザベジドと距離をとりながら、感心した声をあげた。

 

 以前のジャザベジドは地道な努力をするよりも、卑怯な方法で簡単に勝つことを選んでいた。

 自分の癖や欠点と向き合い、地道に修正してくるとは思わなかった。

 

『ガキが! 舐めた口をききやがる!』

 ジャザベジドが威勢よく吠える。そして俺に飛びかかってきた。

 

 ジャザベジドが体格の差を活かして俺にのしかかる。年上の相手に力で挑まれると流石に不利だった。しかし俺は慌てない。半歩身をそらすと、左手でジャザベジドの右肩を掴んで左へと逸らす。同時に尻尾で足を払い投げ飛ばした。

 ジャザベジドの巨体が倒れて大地が揺れる。

 

『そっちこそ舐めるなよ!』

 俺も吠える。

 俺とてこの五十年努力していた。特に試練の旅に出てからというもの、毎日のようにニドヴォルクに挑み、エニンギルゥドと戦っている。

 

 天才で知られているニドヴォルクに掴まれれば、竜の巨体が小枝の様に投げ飛ばされる。そして同世代のエニンギルゥドもまた天才児。一度技を見せればおおよそを理解し、二度見せれば技を返し、三度見せればそれ以上に昇華させると言った具合だ。

 

 二頭の天才に挟まれる俺は、必死になって努力した。

 死に物狂いで食いついていかねば、二頭に水を開けられる一方だからだ。

 ジャザベジドも努力していただろうが、身を置いた環境が違いすぎる。

 

『もらった!』

 俺は倒れたジャザベジドの首を狙って噛みつこうとする。

 力試しであれば、噛みつくふりをして終わりだ。しかしこれは練習ではなく正真正銘の殺し合い。喉笛を食いちぎる勢いで噛みつく。だがその時、ジャザベジドの四つの目が見開かれる。

 

『舐めるな!』

 叫ぶジャザベジドの胸から組成式が溢れ出し、右手に吸い込まれていく。俺は咄嗟に身を捻り、後方へと跳躍した。

 跳んで逃げた俺の胸に熱い痛みが走る。

 

 俺は痛みに唸りながら、自分の胸に目を向けた。そこには五条の傷跡があった。竜の硬い鱗が融解し、溶け落ち肉を焼いている。

 

『〈雷電伸長鎗〉だと……』

 俺は驚愕に目を剥いて、鱗を焼き切ったジャザベジドの右手を見た。その指の先一つ一つから、光り輝くプラズマの槍が伸びていた。

 

 俺は信じられなかった。

 ジャザベジドは三百歳級の竜であるため、高位の咒式を使えたとしても不思議ではない。しかしジャザベジドは緑竜。これは毒ガスの使用を得意としている竜だ。

 

 生体系や化学系の咒式ならばともかく、まさか雷竜が得意とする電磁電撃系の咒式を使用するとは思わなかった。

 

『どうした! これは殺し合いだ。咒式を使うのは規則違反だとか眠たいこと抜かすなよ!』

 ジャザベジドが左手を俺に向ける。胸から組成式が溢れ出して左手に収束。直後高速の砲弾が放たれる。タングステンに覆われた砲弾は、原作でもお馴染みの化学鋼成系第四階位〈鍛澱鎗弾槍〉の咒式だ。

 

 俺は連射される砲弾を回避しながら、ジャザベジドの右へと回り込む。そこに緑竜の口が開かれる。またしても胸から組成式が溢れ、開かれた口腔で収束。膨大な液体が放たれる。

 

『ヨギストラ! 避けろ!』

 背後からエニンギルゥドの声が飛ぶ。俺は化学鋼成系第一階位〈斥盾〉の咒式で鋼の盾を生み出し、一瞬の防壁としてその場を飛び退く。

 

 ジャザベジドの吐いた液体に盾が触れると、白煙が上がり鋼鉄の盾がボロボロに溶けていく。

 

『これは王水を生み出す〈硝硫灼流〉の咒式か!』

 俺は驚愕の目をジャザベジドに向けた。

 その右の五指にはプラズマの刃が光り、左手には砲弾の咒式が紡がれている。ジャザベジドはこの二つの咒式に加え、王水すら生み出したことになる。

 

 どれも低位とは呼べぬ強力な咒式ばかり。しかもこれらの咒式は決して緑竜が得意とする系統ではない。

 ジャザベジドを見ると、四つの目には自らの優位を確信する笑みがあった。

 

 歳を重ねた竜であれば、複数の系統を使えても不思議ではない。だが三百歳級のジャザベジドに、これだけの咒式を同時に操る力はないはずだ。つまりどこかで詐欺をされている。

 

 俺は四肢を地面につけ、身構える。注意すべきは右手と左手と口。そして胸だ。

 

『おっ、来るか?』

 ジャザベジドが口腔に〈硝硫灼流〉の咒式を灯す。そして発動寸前の〈鍛澱鎗弾槍〉の咒式を宿した左手を構える。

 

 広範囲にばら撒ける王水で攻撃し、避けたところに砲弾を叩き込む必殺の構えだ。

 対する俺は身をさらに低くし、四足獣の構えを取る。この構えの長所は突進力と瞬発力に優れること。そして短所は横に跳べないことだ。

 

 とにかく前へと進み降り注ぐ〈硝硫灼流〉を回避し、〈鍛澱鎗弾槍〉を避けて接近せねばならない。どちらが早く正確か、それが勝負の分かれ目だった。

 

 俺は静かに息を吐き、ジャザベジドを見る。ジャザベジドも四つの目を細め、俺の動きを窺っていた。

 

 ジャザベジドは視線の動きという、わかりやすい癖を修正してきている。だが攻撃の予兆を全て消し去ることなどできない。攻撃へと移動する動作が必ず存在するはずだ。

 

 俺は全神経を集中した。ジャザベジドの視線に呼吸、わずかな身じろぎや重心の移動を見逃さずに注視する。

 

 ジャザベジドの四つの目の瞳孔がわずかに拡大し、呼吸する胸がほんの少し膨らむ。

 

 〈硝硫灼流〉の咒式が来る!

 

 俺は全身の筋肉をバネの様に動かし前へと跳んだ。直後ジャザベジドの胸が大きく膨らみ、息と共に大量の王水が放たれる。

 

 吐き出された濃硝酸と濃塩酸の混合液が、俺の頭上に撒き散らされる。だが飛び出した俺の方が一瞬早い。降り注ぐ飛沫が俺の鱗を溶かすもダメージはない。

 

 〈硝硫灼流〉の咒式を回避した俺に、ジャザベジドが左手を向ける。タングステンカーバイトの砲弾が、音速を超える速度で放たれた。だがほぼ同時に俺も咒式を発動。自分自身の体を伝導体として、前方に強力な磁力を生み出す。磁力に体が引かれ俺の体が電磁加速する。

 

 これぞ俺が編み出した咒式〈電加操身法〉だ。

 急加速した俺の体をジャザベジドは捉えきれず、砲弾は俺の鱗を掠めるのみ。

 

 二つの咒式を掻い潜り、俺はジャザベジドに接近する。だが緑竜の四つの目に焦りはない、湛えるは必殺の笑み。

 

『これがあることを忘れたか!』

 ジャザベジドは右の腕を振るった。その五指にはプラズマの刃が輝いている。

 

 広範囲の王水に高速の砲弾攻撃。さらに高温のプラズマの刃と、ジャザベジドの咒式に隙はない。

 五つの刃が俺の左から迫る。だがその時、直進していた俺の体が直角に曲がり、右方向に回避した。

 高温のプラズマは、空気分子を蒸発させるのみ。

 

 ありえない急角度の回避に、ジャザベジドの四つの目が驚愕に見開かれる。

 

 〈電加操身法〉は、俺の体を伝導体として電磁加速する。だがその真骨頂は、電磁力を用いた体術にある。電磁力で体を操ることで、通常ではあり得ない身のこなしを可能とするのだ。

 

『そこだ!』

 プラズマの刃を回避した俺は、お返しとばかりに右腕を振るった。狙うはジャザベジドの胸、先ほどから組成式が出ている場所だ。

 

 俺の爪がジャザベジドの体に食い込み、鱗ごと肉を抉る。

 血と共に緑の鱗が舞い散った。

 

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