され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第五十五話 再戦 その3
ジャザベジドの胸に俺の爪が食い込み、鱗を切り裂き肉を抉る。
苦鳴を漏らしながら、ジャザベジドが後退する。俺は追撃せずに距離を取るジャザベジドを見送った。
胸に一撃を入れたが、致命傷ではない。なぜならば……。
俺は自分の右手を見た。五本ある爪のうち、二本の爪が欠けていた。
俺の爪はジャザベジドの鱗を切り裂いたが、奴の胸には竜の爪よりも硬い何かが収められている。
俺は自分の爪から、後退したジャザベジドに目を戻す。
胸を切り裂かれたジャザベジドは、右手で血が溢れる胸を押さえていた。その指の隙間からは、光り輝く物体が見えた。
艶のある球形の物体。肉や骨ではない。明らかに手が加えられた物だ。俺はその外観に心当たりがあった。
『それは……宝珠か』
俺はジャザベジドの胸に埋め込まれている、ものの正体を言い当てた。
『なんでぇ、知ってるのか。なら、隠す必要もねーか』
ジャザベジドは右手を下げ、堂々と胸を逸らす。切り裂かれた胸には、光を反射する艶やかな宝玉が収められていた。
硝子質の赤い宝玉の下には、赤黒い物体が拍動するように蠢いている。
『それは脳か?』
俺は宝珠の奥にある、物体の正体を指摘した。
思い返すのは、五指山の青竜ゴウゼンの教えだった。
ゴウゼンは宝珠作りを得意としており、俺も作り方を習った。だがその際、禁じられていたことが一つあった。
『ああ、禍つ式の脳があるんだとよ』
『それは禁術だ』
『らしいな。だが関係ーねーよ。俺は賢龍派を抜けるんだ。掟に従う理由はねー』
ジャザベジドは言ってのける。
賢龍派では宝珠の素材として、高位の〈異貌のものども〉である〈古き巨人〉や〈禍つ式〉の遺体を使用することを禁じている。
もはやジャザベジドにとって、賢龍派の掟は何の価値もないらしい。
『この宝珠スゲーぜ。俺に〈長命竜〉並の力を与えてくれる』
ジャザベジドが誇らしげに胸を張る。だが俺は笑うしかなかった。
『〈長命竜〉の力が、そんなものかよ』
俺は顔を歪めて吐き捨てた。
俺もジャザベジドも、千年の歳を経た竜〈長命竜〉に会ったことはない。だが俺は原作の《され竜》を読んでいるため知っている。
千年も生きた竜はまさに怪物。動く災害と言ってもいい。ジャザベジドは三つの咒式を同時に使用して見せたが、〈長命竜〉が見ればその程度はお遊戯だ。
『だいたい。そんなもんぶら下げて、どこに行くつもりだ』
俺は胸を張り、宝珠を見せつけるジャザベジドにため息を吐く。
宝珠の出所は、おそらくジャザベジドが接触しているという黒龍派だろう。だがそもそも竜族は、宝珠などの道具の使用を良しとはしない。
竜族最強硬派を自認する黒龍派は、賢龍派以上に武を尊ぶ。宝珠を使って強くなった者を、受け入れるとは思えない。
『うるさい、黙れ! 白銀龍直系の血を引くエニンギルゥドを殺せば、幹部として迎え入れることで話がついてるんだ!』
『幹部ねぇ』
俺はつまらないと吐き捨てた。
黒龍派がそのような約束を守るとはとても思えなかった。いや、竜は嘘をつかないので、本当に幹部にはなれるかもしれない。だがその約束は幹部になった後を保証するものではない。幹部に迎え入れた後、捨て駒にされる可能性は十分ある。
『賢龍派でも通用しなかったお前を、黒龍派が迎え入れると、本気で思っているのか?』
『うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ! ベラベラと余計なことを! お前は自分の命の心配だけしていろ!』
ジャザベジドが怒りの声を上げながら、一歩前にでる。
『ヨギ!』
俺の背後でエニンギルゥドが叫ぶ。その隣ではニドヴォルクが、いつでも飛び出せるように身構えている。
『ここは俺に任せてくれ。こいつは俺が倒す』
俺はジャザベジドを睨みつけた。
『倒す、倒すだと! テメェ如きが、俺に勝てるわけねぇだろうが!』
叫びと共に、ジャザベジドが咒式の灯った左手を俺に向ける。ほぼ同時に〈鍛澱鎗弾槍〉の咒式が発動され、タングステンカーバイトの砲弾が放たれる。
原作では、直径百二十ミリの砲弾を放つ咒式だ。しかしこれは人間が使った場合である。竜の膨大な咒力により、口径は数倍に増加している。
直撃すれば竜といえどただでは済まない砲撃。だが俺は砲撃の軌道を見切り、数ミリメルトルの距離で回避して見せる。
『ならこれはどうだ!』
ジャザベジドが息を吸うと、口腔に〈硝硫灼流〉の咒式を灯す。だが俺は同時に化学錬成系第三階位〈爆炸吼〉の咒式を発動、TNTが爆発を起こして秒速六千九百メルトルの爆風が巻き起こる。
爆風は生まれたばかりの王水を弾き飛ばす。吹き飛ばされた王水は、ジャザベジドの顔に降りかかった。
自分が使用した〈硝硫灼流〉の咒式をもろに浴びたジャザベジドは、悲鳴をあげて顔を手で覆う。王水がジャザベジドの緑の鱗を溶かし、白煙が周囲を覆う。
俺は白煙を縫ってジャザベジドに接近した。ジャザベジドの四つの目のうちの一つが、俺を見つける。
接近されまいと、ジャザベジドはプラズマの刃を纏った右手を振るう。しかし苦し紛れの攻撃。俺は正確に攻撃を見切り五指に宿った〈雷電伸長鎗〉の刃を回避する。
そして危険な右手を左手で押さえつけると、電磁電撃系第一階位〈電加〉で右腕を加速し爪で突きを放つ。狙うはジャザベジドの胸にある宝珠ただ一つ。
一点突破を狙った爪が、赤黒い宝珠に迫る。だがその時ジャザベジドが左腕を伸ばし、爪を腕で受けとめる。
俺の爪はジャザベジドの左腕に食い込み、爪の先が腕を貫通する。
腕を犠牲に宝珠を守ったジャザベジドが、力任せに右腕を振り払う。
プラズマの刃を避けるため、俺は後ろへと飛び退いた。
ジャザベジドは荒い息を吐く。その顔は酸で焼かれ、四つある目のうち二つが潰れ白濁していた。俺の爪に貫かれた左腕からも、ボタボタと血を流している。
竜であっても重傷だが、それでもジャザベジドは戦意を失わない。流血する左腕を俺に向けて〈鍛澱鎗弾槍〉の咒式を放つ。
反動で傷口が広がり、腕がちぎれかける。だが痛みを堪えて放った砲弾は、地面を砕き森の木々を吹き飛ばすも、俺に当たることはない。
俺が砲弾の軌道を見切り、最小限の動きで回避しているためだ。
『なんでだ、なんで当たらねぇ』
ジャザベジドが砲弾を連発するも、俺は冷めた目で砲弾を回避していく。
『無駄だ、もうそれは当たらん』
俺はあくびが出そうになった。ジャザベジドはそれでも砲撃を止めないが、傷を負った腕が反動に耐えきれず、砲弾が明後日の方向に飛んでいく。もはやかわすまでもなくなった。
ジャザベジドは悪態をつき、今度は口を開いて〈硝硫灼流〉の咒式を使おうとする。だが俺は即座に〈爆炸吼〉の組成式を灯す。
『また顔に王水を浴びたいのか?』
俺が指摘してやると、ジャザベジドが開けた口を閉ざした。俺の〈爆炸吼〉が、王水を吹き飛ばす未来がわかったのだ。
『何故だ、何故こうなる。これだけ咒式が使えて何故勝てない!』
ジャザベジドは後手に回る今の状況を理解できず、ただ嘆く。
『それがわからないから、お前は勝てないんだ』
俺は呆れるしかなかった。
複数系統の咒式の使用は、確かに脅威だった。ただしそれはジャザベジドが使用する全ての咒式を、完璧に理解していたらの話だ。
『お前は咒式の理解が足りないんだよ』
俺は苛立ちながら教えてやった。
ジャザベジドの咒式は、胸に埋め込まれた宝珠から組成式を借りたものでしかない。そのため細かな調整や変更ができず、発動までのタイミングや咒式の速度まで全て同じなのだ。
咒式は組成式を丸暗記し、咒力を注ぎ込めば一応は発動する。だがそれでは使いこなしたことにはならない。式の一つ一つを理解し、状況に応じて変更やアレンジを加えなければ意味がないのだ。
俺は試練の旅の最中、行く先々で竜たちの教えをこい、必死になって勉強をした。それもこれも、全ては咒式を使いこなすために必要だからだ。
『前にも指摘したが、お前はこだわるところを間違えてるんだ』
俺は五十年前、ジャザベジドと戦った時のことを思い出した。
当時のジャザベジドは、力試しで卑怯な振る舞いをしていた。ジャザベジドは実践的だと嘯いていたが、根底にあったのはただ負けたくないだけの卑しさだった。
『その宝珠を使うのは構わない。だが本気で勝ちを目指すのであれば、宝珠の組成式を自分で覚えるべきだったな』
俺はジャザベジドの胸で光る宝珠を指さす。
竜は宝珠のような道具の使用を、良しとはしていない。何故ならそんなものを使わなくても、竜ならば強くなれるからだ。
宝珠の咒式というお手本があれば、努力次第で咒式を覚えることは十分可能だったはずだ。そして宝珠は補助としてのみ使用する。これができていれば、今のような結果にはならなかっただろう。
『もう一度聞こう。この五十年、何をしていた?』
俺はジャザベジドを睨みつけた。
ところで皆様、され竜に24巻読まれました?
発売されてだいぶ時間がたっているのでいいかなと思うのですが、され竜24巻235pあたりに出てきた竜って、誰だと思います?
そしてどっちがどっちだと思います?
これの解釈で話の筋が変わるんですよねぇ。
どう解釈したもんか