され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第五十六話 再戦 その4

 

 第五十六話 再戦 その4

 

 俺は自分より大きな四つ目緑竜ジャザベジドを睨んだ。対するジャザベジドは目や腕の傷を咒式で治療し、腰を低くして身構えた。

 

 ジャザベジドの胸には、赤黒い宝玉が輝いている。〈禍つ式〉の脳で作られている宝珠だ。これがジャザベジドに咒力と組成式を与え、さまざまな咒式の使用を可能としていた。しかしジャザベジドは道具の力に頼りすぎている。もはや俺の敵ではない。

 

 俺の背後には二頭の竜がいた。艶のある鱗をしているのは、黒銀竜のエニンギルゥド。そして漆黒の鱗を持つのはニドヴォルクだ。二頭は戦いには手を出さず、俺とジャザベジドの戦いを見守っている。

 

『ガキが! 舐めやがって!』

 ジャザベジドが叫ぶと、胸にある宝珠が青い光を放ち組成式が溢れ出す。宝珠の補助を受けてジャザベジドが咒式を乱射した。

 

 鋼の槍に鎖、火炎に爆薬、電撃に数式の刃を生み出す。多系統の咒式を連発するジャザベジドだが、そのどれもが俺に致命傷を与えることはなかった。

 

 俺は自分の体を電磁加速する〈電加操身法〉を用いて高速軌道し、ジャザベジドが放った咒式をことごとく回避する。

 

 遠距離咒式を覚えれば、大きな破壊力を生み出せるので無敵になったような感覚に陥る。だが咒式とは勝つための手段だ。強力な咒式を使うことが目的ではない。

 

 どんな咒式を使うかよりどう使うか。

 どう戦うかよりどうやって勝つのか。

 そこが大事だ。

 

 ジャザベジドの咒式は多彩だが、宝珠の補助に頼りきっている。そのため発動のタイミングを見切れば回避することは簡単だった。

 

 俺は咒式を掻い潜り、ジャザベジドに接近する。迎え討つジャザベジドは五指に〈雷電伸長鎗〉の咒式を宿しプラズマの刃を形成した。

 

 俺は突撃しながら口を開き、大量の液体を吐き出した。

 最もこの液体は、酸でもなければ毒物でもない。合成が簡単なただの水だ。

 

 なんでもないただの水は、プラズマの刃に激突した。高温のプラズマに触れた瞬間、水が沸騰して水蒸気爆発を起こす。

 

 高温の蒸気が一斉に広がり、白煙が俺とジャザベジドの体を包み込む。

 ジャザベジドは即座に電波探知に切り替えるが、それは悪手。事前にこうなることを読んでいた俺は、電磁波を錯乱する〈欺波電〉の咒式を使用した。ジャザベジドの探知を逃れつつ、奴が出した電波を逆探知して居場所を特定する。

 

 水蒸気を縫ってジャザベジドの背後から接近。妨害電波に錯乱されているジャザベジドは、俺が近付いていることに気づかない。

 

 俺は背後からジャザベジドの体にのしかかった。

 ジャザベジドの体がうつ伏せに倒れる。俺はジャザベジドの右腕を右足で踏みつけ、左手で首を抑えた。さらに右手をジャザベジドの頭に突きつける。

 

『詰みだ』

 俺はジャザベジドを見下ろし勝利宣言をした。俺の両手には咒式が灯っている。その気になれば同時に首と頭を破壊することが可能だ。

 首を切断され、頭を潰されればいくら竜でも生きてはいられない。

 

『グゥゥゥ』

 ジャザベジドの四つの目が屈辱に歪む。

『こ、殺せ……』

 諦念と共に声が吐き出される。

 

 ジャザベジドは土壌竜ウロン・ウロンの殺害を告白し、敵対派閥である黒龍派とも繋がりを持っている。もはや賢龍派とは呼べず、殺してしまっても問題はない。しかし……。

 

『いや、お前は殺さない。このまま賢龍派に引き渡す』

 俺の言葉に非難の声が飛ぶ。声を荒げたのは勝負を見守っていたニドヴォルクからだった。

 

『何を言っているヨギストラよ! 賢龍派の指示を待つまでもない。その者を殺すのだ!』

 ニドヴォルクの声は鋼鉄のように厳しい。賢龍派に忠実な彼女にとって、もはやジャザベジドは慈悲をかける相手ですらないのだろう。

 

『そうだ、さっさと殺せ』

 俺に組み敷かれているジャザベジドも同じことを言う。だが俺には殺せなかった。

 

 俺もこれまでに、他の生き物を何度も殺してきた。しかしそれは食うためであったし、話すこともできない相手だった。だがジャザベジドは同じ竜で、そして話したこともある相手だ。殺せと言われても、簡単に殺せない。

 

『いや、俺はお前を殺さない』

 俺の言葉に、ジャザベジドとニドヴォルクが目を向く。特に苛立ったのがニドヴォルクだった。

 

『何を言っている、ヨギストラよ!』

 ニドヴォルクが声を尖らせる。彼女の目から見れば、俺の選択は怯懦に見えるのだろう。実際その通りだ。俺にはジャザベジドを殺す覚悟がない。

 

『早く殺すのだ! 賢龍派に引き渡しても処刑は免れぬ。何より其奴を生かしておいて、いいことは何もない』

『しかし勝ったのは私です。私に決める権利はあるはず』

 俺が反論すると、ニドヴォルクはグワっと目を見開いた。しかし何も言わず、息と共に開きかけた口を閉ざす。

 

 ニドヴォルクに反抗してしまった。怒っているだろう。あとで謝らねばならない。しかし勝者に敗者を自由にしていい権利があるとするならば、俺は殺さないことを選びたい。

 

 それに賢龍派に引き渡した後。必ず処刑されると決まったわけではない。ジャザベジド次第だが、生き残る道は残っている。

 

『ふざけるな、殺せ! 俺はお前らを殺すつもりだったんだ、どっちかが死ぬ以外、結末はねぇ!』

 ジャザベジドが吠える。だが俺にはわからない。俺たちの間は、何故そこまで拗れてしまったのか。

 

『なぁ、ジャザベジド。聞いてくれ。どうしてこうなった?』

 俺はジャザベジドとの出会いを思い出した。

 

 俺とジャザベジドが出会ったのは、試しの谷だった。ジャザベジドは俺に力試しという名のいじめを行った。目立っていた俺が気に入らなかったのだろう。

 

 正直、褒められた行動ではない。自分より遥かに年下の相手にマウントをとり、早い段階で序列を作っておこうなど小者のすることであろう。

 

 しかし見栄など誰にでもあることだ。ジャザベジドは少し行きすぎていたが、だからと言って死なねばならないことではない。

 

『確かに俺とお前の間には問題があった。だがその発端はつまらないことだった。竜として生を受け数百年も生きたというのに、そんなつまらない理由が元で命を散らしてしまっていいのか?』

 俺はジャザベジドを諭した。

 

 竜としての意地や体面があることはわかる。だが一度死に、そして竜として生まれ変わった俺だから言える。こんなことで死ぬのは間違いだ。

 

 俺の話を聞いていたエニンギルゥドが顔を伏せる。その隣にいるニドヴォルクも目を細めた。

 

 竜は気高い。気高いことが竜の生き様なのだろう。俺の考えは竜の思考からは外れているのかもしれない。だがつまらない意地の気高さに、なんの意味がある。

 

『安易に死を選ぶな』

 俺はジャザベジドに語りかけた。ジャザベジドはしばらく何も言わなかった。だが少しすると、押さえつけている体が震えた。

 

『クッ、クククッ。ハハハハハッ。いや、お前はすげぇな』

 ジャザベジドは笑った。その声はどこかすっきりとしたものがあった。

 

『いや、負けたよ。お前はすげぇ、すげぇよ。俺はお前よりずっと年上なのに、力や技で敵わず、道具を使っても負けちまう。しかもこの上、情けまでかけられちまった』

 ジャザベジドの乾いた声が響く。その四つの目がギロリと俺を睨んだ。

 

『若くて強くて才能があって、その上さらに慈悲深いときている。ならそのお前に負けた俺に、何があるって言うんだよ!』

 ジャザベジドの言葉に、俺は打ち抜かれる。

 確かに情けをかけたつもりだったが、負けた方としてはもはやどうすることもできない。

 

『フン、敗者の弁など聞くに耐えぬ』

 ニドヴォルクは辛辣だが、それは勝った者だからこそ言える言葉だ。

 自分より年下の相手に負け、しかもその上で慈悲をかけられたとしたら、俺は果たしてその手を素直に取れるだろうか?

 

『俺だけじゃぁねぇ、俺の連れだった連中も、俺の仲間ってことで、爪弾きにされてる。俺たちにもう居場所なんてねぇんだよ!』

 ジャザベジドの声は悲痛なものとなっていた。

 

 確かジャザベジドには火竜のザボネストと青竜のボーンダムという取り巻きがいた。彼らもジャザベジドと同様に、迫害を受けているのだ。

 

『お前のそのお優しい慈悲が、俺たちを追い詰めてんだよ!』

 ジャザベジドの言葉が俺の胸に突き刺さる。ジャザベジドはさらに笑う。

 

『あとな、お前はもう一つ間違えている。ニドヴォルクの言う通り、俺を生かしておいたのは失敗だ』

 なんのことだと思ったその時だった。突如俺の体から力が入らなくなり、俺はその場に倒れた。

 

 

 

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