され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第五十八話 エニンギルゥドの器
艶のある鱗を持つ黒銀竜エニンギルゥドは、四つ目の緑竜ジャザベジドに手を差し伸べた。
ジャザベジドの四つの目は迷い揺れる。
俺たちと因縁があるジャザベジドは、土壌竜ウロン・ウロンの殺害を告白した。もはや賢龍派とは言えず、裏切り者だった。
殺してしまっても問題はなかったが、俺は殺すつもりはなかった。そして仲間であるエニンギルゥドも、ジャザベジドに死を選ばすに生きろという。
エニンギルゥドが差し出す手を前に、ジャザベジドはその手を取らなかった。しかし彷徨う四つの目を見てもわかるように、ジャザベジドの内心は揺れていた。
自分よりはるか年下の竜の手を取るのは勇気がいる。だがすぐに振り払うこともできなかった。
ジャザベジド自身、今の自分に納得はしていないはずだ。もし一生をやり直すことができるのなら、すぐにやり直しを選択するだろう。
そして今、ジャザベジドはやり直しの機会を目の前にしている。
もちろんエニンギルゥドの手を取ったからと言って、ジャザベジドが本当にやり直せるかは分からない。例えエニンギルゥドの手を取ったとしても、このあと待っているのは苦しい時間だ。
偏見に迫害、糾弾がジャザベジドを待ち構えている。これらの困難を、ジャザベジドが乗り切れるかどうかは未知数だ。いや、正直かなり難しいだろう。
想像を絶する我慢や忍耐を要求されるはずだ。しかしこの困難を乗り越えた時、ジャザベジドは自分が望む自分になれるだろう。
ジャザベジドの四つの目は未だ彷徨う。もしエニンギルゥドの手を取り、尚且つ挫折してしまえば、それこそジャザベジドは生きてゆけぬ。
何よりも自分を信じ抜く、強靭な精神力が必要であった。だがそれが難しい。
ジャザベジドの今の窮状は、突き詰めて言えば自分に責任がある。その自分を信じるなど、果たして出来るかどうか。
迷っていたジャザベジドの目が、エニンギルゥドに注がれる。
『お前……俺がやり直せると、本気で思っているのか?』
『ああ、できる』
呟くようなジャザベジドの言葉に、エニンギルゥドが力強く頷く。
『嘘をつけ! 俺が俺を信じられないのに、なんでお前にわかるんだよ!』
ジャザベジドが吠える。対するエニンギルゥドはケロッとしていた。そして口を開く。
『そうだな、今のは嘘だ』
エニンギルゥドは素直に自分の嘘を認めた。
『私には、あなたがやり直せるか分からない。嘘かと言われれば嘘だろう。だからこの嘘を真実にしよう』
『ああ?』
ジャザベジドが声を荒げる。エニンギルゥドの言っていることは無茶苦茶だった。
『お前、何を言って……』
『できることだけを約束してなんになる!』
ジャザベジドの声に被せる形で、エニンギルゥドが言い切る。
『そうだろう? できることをできると言う。そんなのは簡単だし、ただの合理性だ。できないことをやり遂げ、不確かなものを信じ切る。それが勇気や信念、愛というものなんじゃないのか?』
エニンギルゥドの言葉に、俺は目を見張った。同じく話を聞いていたニドヴォルクも、右手を硬く握り絞めて息を呑む。
エニンギルゥドの言葉に、俺は心動かされた。
エニンギルゥドは白銀龍様直系の子孫として、多くの竜から敬意を払われている。事実天才であり、同世代の竜より抜き出た存在だった。しかし俺にとっては気の良い友であり、それ以上ではなかった。
しかし今、俺はエニンギルゥドに大器を見た。
エニンギルゥドがこの後どのように成長するかは予想できない。だがもしかしたら、エニンギルゥドは竜を導く旗頭となるかもしれなかった。
『ジャザベジド、共に生きよう!』
エニンギルゥドはずっと差し出したままの手を、ジャザベジドにさらに差し出す。
ジャザベジドもエニンギルゥドの言葉には胸を打たれたはずだ。できないことに挑み、信じられない自分を信じてみようという気になっているはず。あとは一歩を踏み出せるかどうか。
迷うジャザベジドの四つの瞳が揺れる。だがある時、僅かに目が見開かれた。そしてスッと細められる。
『エニンギルゥド。お前は確かに、白銀龍様の子孫だ。お前なら本当にできないことでも、やってのけちまうのかもな』
話すジャザベジドの声は低い。その顔は何かを諦めたような漂白された無表情であった。
『俺の答えは……こうだ!』
伏せていたジャザベジドが突然立ち上がったかと思うと、エニンギルゥドが差し出している右手を力強く掴む。次の瞬間、鮮血が舞い俺の顔に降りかかった。
ちょっと今回は短めでした
すみませんがこれでご勘弁を
それではまた来週