され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第五十九話 雷鳴宣言

第五十九話 雷鳴宣言

 

 手を差し出すエニンギルゥドに対し、四つ目の緑竜ジャザベジドがその腕を引っ張った。次の瞬間、鮮血が俺の顔に降りかかった。

 

 竜の首が切断され、宙をくるくると舞う。音を立てて地面に落ちたのは、四つの目に緑の鱗、ジャザベジドの首だった。

 

 俺はなぜジャザベジドの首が切断され、落ちているのか分からず呆然としていた。

 

 ジャザベジドが悪あがきに、手を差し伸べるエニンギルゥドを攻撃する可能性はあった。ジャザベジドを殺さないとした俺もその可能性は考慮していたし、エニンギルゥドも気づいていた。護衛として帯同しているニドヴォルクは、当然初めから警戒していた。

 

 そしてジャザベジドがエニンギルゥドの腕を掴み引っ張った。俺たちはジャザベジドの凶行を止めるべく動いた。しかし次の瞬間、首を落とされていたのはジャザベジドだった。

 首を落としたのは俺やニドヴォルクではない。ましてやエニンギルゥドでもなかった。

 一体誰が、誰がやったのか。

 

 頭を失ったジャザベジドの体から、膨大な血が吹きだす。そして俺やニドヴォルク、エニンギルゥドに降りかかる。

 目の前にジャザベジドの体があるエニンギルゥドは、黒光りする鱗が真っ赤に染まり、まるで火竜のようであった。

 

「ふむ、はずしたか」

 呆然とする俺たちの耳に、小さなつぶやき声が聞こえた。声がしたのははるか足元からだった。

 俺たちが視線を落とすと、そこには小さな生き物がいた。だがその生物を見て、俺は信じられなかった。

 

『人族……だと?』

 ニドヴォルクが驚きに声を振るわせる。

 俺たちの目の前には二本の足で立ち、ぼろ布のような外套を羽織った金髪の人間がいた。

 

 ニドヴォルクの声が懐疑的なのは、彼女も人間を見たのが初めてだからだろう。エニンギルゥドも驚愕に目を見開いている。

 

 エニンギルゥドはかつて、人族に会ってみたいと話していた。しかし実際の人間を見たことはなかったはずだ。だが俺たちの目の前にいるのは、間違いなく人族だった。前世が人間の俺がいうのだから間違いない。

 

 しかしありえなかった。ここに人間がいるわけがない。今俺たちがいるのは賢龍派の縄張りであり、強力な〈異貌のものども〉が跋扈している。人類は未だ咒式を発明しておらず、ここにやってくることなどできないはずだ。

 

『お前は……お前がやったのか?』

「答える義理などないが、答えない理由もないな」

 エニンギルゥドの問いに対して、人間が頷き答える。

 

 俺たちが使っている言語は竜の言葉だ。〈異貌のものども〉の中でも、知性がある豚鬼や犬鬼は簡易版である下位竜言語を理解する。だが人間は竜の言語を知らないはずだ。そもそも竜の言語は、人間には聞き取れない可聴域が含まれている。また発音も一部不可能なはず。しかし目の前にいる人間は、人間の声で流暢に竜の言葉を操った。

 

「確かにそこのゴミを殺したのは我だ。本来の狙いはお前だった。だが我が動いたことに気づいて、お前を助けおった」

 金髪の人間は、地面に転がるジャザベジドの首を蔑みの目で見る。

 

『ゴミ、だと……』

 エニンギルゥドが目を剥いて睨みつける。

「ああ、そうだ。まさしくゴミではないか。賢龍派を裏切り我らの手を取ったくせに、土壇場で裏切りおった。そんなことだから年下の子供に負けるのだ。まぁ、ゴミには相応しい死に様か」

 人間のいいように、エニンギルゥドの目に怒りが宿る。

 

『ではお前もゴミにしてくれる!』

 エニンギルゥドが一喝と共に尾を振り下ろした。

 

『エニン!』

 俺は思わず叫んだ。竜の質量で尾を振るえば、岩さえも打ち砕く。これを人間が食らえばひとたまりもない。原型すら残さず地面に赤い痕が残るだけだろう。ただし、それは本当に人間であった場合だけだ。

 

「ふむ、百歳の子供にしてはなかなかの威力」

 エニンギルゥドが打ちつけた尾の先から、人間の声が響く。見れば人間がエニンギルゥドの尾を、右腕一本で受けていた。ただしその腕は太く巨大化し、金色の鱗に覆われている。

 

『下がれ! エニン!』

 俺は叫びながら口内に組成式を生み出し、息と共に炎を吐き出す。七条の炎が帯となって人間を襲う。化学錬成系第三階位〈緋竜七咆〉の咒式だ。

 

 ナパームの猛火が人間に殺到する。エニンギルゥドは炎から逃れるべく後ろへと下がる。

 炎が人間を飲み込もうとしたが、そのはるか手前で炎がかき消されていく。数式の壁が炎を遮り、分解していっている。〈反咒禍界絶陣〉の咒式だ。

 

「雷竜のくせに炎を吐くか。しかし我の腕を見て、その選択をしたというのなら及第点を与えるべきか」

 俺の炎を分解しながら、人間が涼しい声で話す。

 

 人間は未だ咒式を科学的に解明していないが、先天的に咒式を使用可能な者はいる。しかし竜の咒力で放たれた吐息を、受け切ることなど出来はしない。何よりこの咒力の波長は竜のものだ。

 

『この波長、やはり人間ではないな』

 俺は目の前の男を睨んだ。

 ジャザベジドは黒龍派と繋がりがあった。人の姿をしているが人ではない。

 

「潜入のために人の姿となったが、もはやその必要もなくなったな」

 俺の炎を完全に防ぎきった男が、つぶやくように話す。するとその体が膨れ上がっていく。肌色の皮膚が風船のように膨らんだかと思うと、皮膚が裂けて下から金色の鱗が輝く。

 

 顔が伸びて変形したかと思うと、突き出た口の中には牙が連なる。額からは雷の如き枝分かれした角が何本も逆立つ。頭からは長い首が伸び、太い胴体へと続く。四肢には大きな爪が並び、長い尾が鞭のようにしなる。 

 

 竜。それも体長三十メルトルを超える巨大な竜が、俺たちの前に姿を現した。

 

『我こそは黒龍派に属する雷竜、ガガギアラである』

 雷鳴に似た唸り声で、ガガギアラが名乗る。

 

『我が主の命により、黒銀竜エニンギルゥドの命、貰い受ける』

 ガガギアラははるか上から俺たちを見下ろし、落雷の如き宣言を下した。

 




ではまた来週
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