され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第六十一話 ヨギストラの秘策

 第六十一話 ヨギストラの秘策

 

 エニンギルゥドを担ぎ、俺はガガギアラから逃げた。

 俺の背中の上で、エニンギルゥドが離せと暴れる。ニドヴォルクを置き去りにしたことを怒っているのだ。

 

 俺は背中のエニンギルゥドを無視し、荒野の丘を超えた。そして麓にたどり着くと、背中のエニンギルゥドを放り投げた。

 

『エニン! ニドヴォルクを助けに戻るぞ!』

『ヨギ! なぜニドヴォルクを見捨て……え? 戻る、のか?』

 俺の言葉に、反論しかけていたエニンギルゥドが呆気にとられる。しかし俺たちは戻るしかないのだ。

 

『エニン、まず先に言っておく。お前は死ぬ』

 俺の宣言に、エニンギルゥドは驚きに目を見開いた。しかしこれは純然たる事実だった。ガガギアラの言ったことは間違いない。俺たちにできることは死ぬことのみ。

 

 ガガギアラにとって問題は、賢龍派の勢力圏に入り込めるかどうかだった。そのために奴はジャザベジドと手を組み、利用したのだ。エニンギルゥドに相対するほど接近できた以上、ガガギアラにはもはや障害は何もないのだ。

 

『奴にはお前を確実に殺す算段がある。俺たちがどれだけ逃げようと、お前が死ぬ以外の結末はない』

 俺の言葉を聞き、エニンギルゥドは唾を飲み込む。だが次の瞬間、覚悟と共に目が細められた。

 

『なら、あいつを殺す以外に活路はないということだな』

『そうだ!』

 俺は力強く頷いた。

 

『だがヨギ。倒すと言ってもどうやって倒す? ガガギアラは強いぞ』

 エニンギルゥドは敵の強さを認めた。

 俺たちも修行して強くなった気ではいるが、相手は遥か格上だ。俺たちが何をやっても、足元にも及ばないだろう。

 

『か細いが勝算はある』

 俺は勝つための策はあるとした。もちろん勝率はかなり低い。運頼みのところも大きい。策とも言えないようなものだ。だがこれ以外勝つ方法はない。

 

『これを使う』

 俺はずっと右手に掴んでいたものを、エニンギルゥドに見せた。するとエニンギルゥドは顔を歪める。

 

『これを?』

『これを使えば勝機はある』

 怪訝な顔をするエニンギルゥドに、俺は大きく頷いた。

 

 

 

 ガガギアラは口から血を吐き、右膝をついた。

 胸の鱗は引き裂かれ、流血が続いている。左目も潰され、飛び出た眼球が糸を引いてぶら下がっていた。右腕も折れ曲がり、上腕骨が皮と鱗を突き破り露出している。他にも細かな負傷を数えればキリがないほどであった。

 

 ガガギアラが血と共に息を漏らす。

 片方しかない目が見据えるのは、蹲る黒竜ニドヴォルクであった。

 

 漆黒の夜の如き鱗は、今や血に塗れていた。右足は消し飛ばされ、右腕も焼けて炭化していた。背中には三本の鋼の槍が突き立ち、長い尾は半ばから失われている。頭部には頭蓋骨が覗くほどの負傷があり、胸部は大きく抉られ心臓が露出し停止していた。

 

『まさか五百歳の竜を相手に、ここまで苦戦を強いられるとはな』

 ガガギアラは嘆息をついた。

 年齢差による体力や咒力、経験値で勝てたが、危ういところであった。五百歳でこれなのだから、千年の年月を経た長命竜となっていれば、どれほどの強さを手に入れるのか。将来が恐ろしい才覚であった。

 

『しかし、今ここで我と出会ったことが運の尽きよ』

 話しながらガガギアラは傷の修復をした。胸の傷が塞がり、新たに生み出された眼球には光が宿る。へし折れた腕も骨が元の位置に戻り、ガガギアラは手を開閉して腕の具合を確かめる。

 

『さて、思ったより時間を食ってしまった。どこまで逃げられたかな』

 ガガギアラは標的である、エニンギルゥドが逃げていった方向に目を向けた。

 

 エニンギルゥドはニドヴォルクと戦うと言っていたが、お付きの幼竜が無理矢理連れて行った。エニンギルゥド自身が逃走に賛成していないので、それほど速度は出ていないはずだ。

 

 最もエニンギルゥドが全力で逃げていたとしても関係ない。すでにガガギアラはエニンギルゥドに、座標となる咒式を打ち込んでいた。どれほど遠くに逃げようとも、自分ならば瞬く間に追いつき殺害することが可能だった。

 

 あとは追いつき殺すだけ。ガガギアラが追いかけようとした時だった。

 骸となったはずのニドヴォルクが動いた。

 

『ま、だだ……行かせは、せん。行かせは、しな、いぞ……』

 口から血を吐きながらも立ち上がろうとするニドヴォルクに、ガガギアラは呆れた。

 

『心臓を潰されてまだ動くのか? 咒式で心臓を作っているのか? 重力系だけでなく生体系も使いこなすとはな』

 恐るべき才能、そして執念と言えた。

 

『だがお前は後だ。何、標的を始末すればすぐにお前も後を追わせてやる』

 ガガギアラが飛行咒式を発動しようとしたその時だった。

 飛び立ちかけたガガギアラが動きを止めた。そして驚きに目を丸めた後、笑いながら細める。

 

『喜べ、ニドヴォルクよ。もう追いかけたりはせぬ』

 ガガギアラは口角を上げながら話した。

『向こうから来てくれた』

 ガガギアラが視線を向けた先には、土埃が舞い上がっていた。目を凝らして望遠咒式を発動すれば、地平線の彼方から二頭の竜がこちらに向かってくるのが見える。

 

 艶のある黒い鱗の黒竜と、黄色い鱗の雷竜であった。

 ガガギアラがエニンギルゥドに打ち込んだ座標咒式は、やってくる二頭の竜と同じ場所を示している。つまり向かってくる二頭は、逃げたはずのエニンギルゥドとお付きの幼竜で間違いない。

 

『馬鹿な、どうして戻って……』

『ハハッ、健気ではないか。お前を見捨てられないとよ』

 呆然とするニドヴォルクに対し、ガガギアラは笑った。

 

 仲間を見捨てぬその姿勢は評価しようと思う。しかし明らかな間違いだった。

 

 子供のエニンギルゥドをなぜ殺さねばならないのか、その真意をガガギアラは聞かされていない。おそらく将来的にエニンギルゥドが、黒龍派の障害になると予想されたのだろう。

 

 だがだとすればエニンギルゥドには、どんなことがあっても生き抜く義務が生じる。自分が生存することにより、将来的に賢龍派が優位に立てるかもしれないからだ。

 

 例え自らの信念を曲げることとなったとしても、全体のために生き残る。それが上に立つ者の義務である。エニンギルゥドは確かに同世代の竜よりも優れているかもしれないが、自らの立場を理解していないようだった。

 

 こちらに向かってくる二頭の竜。ガガギアラは巨大咒式を放ち、遠距離のうちに消し飛ばすこともできた。しかし戻ってきた勇気に免じて待つこととした。

 

 戻ってきた二頭の竜たちは、倒れ伏すニドヴォルクに駆け寄った。

 

『ニドヴォルク無事か!』

 黄色い鱗の雷竜が声をかける。

『馬、鹿……者。何、故……戻って、きた……』

 ニドヴォルクは息も絶え絶えとなりながらも、雷竜を叱りつける。

 

 傷だらけのニドヴォルクを見て、雷竜が苦しげに目を細める。一方エニンギルゥドは目を怒らせ、ガガギアラを睨みつけた。

 

『ヨギ、ニドヴォルクの治療を頼む。その間、私が時間を稼ぐ』

 エニンギルゥドが身構える。

『いけま、せん! エニ、ンギルゥド、様! お逃げ……ください!』

 ニドヴォルクは血を吐きながらも、エニンギルゥドに懇願した。だが今更逃げてももう遅い。

 

『ヨギ、ストラ……エニン、ギルゥド様を……止めて』

 ニドヴォルクが懇願するも、雷竜は動かずニドヴォルクの治療を開始する。

 その治療咒式はガガギアラの目から見てもなかなかのものであった。

 

 咒力が低いため一瞬で回復とはなっていない。しかし高い知識ときめ細かな制御力により、的確に出血箇所を塞ぎ、神経や筋肉を修復している。

 下手に時間をかければ、ニドヴォルクが復活するかもしれなかった。

 

 しかしこれは不要な杞憂であった。何故ならば百歳の幼竜が何をしようとも、長命竜の前で時間稼ぎなどできるはずもないからだ。

 

 身をたわめたエニンギルゥドが飛びかかってくる。

 ガガギアラが迎撃に動こうとした瞬間、エニンギルゥドの体から白い霧が立ち上り視界を覆う。先ほども使用した、視界と電波探知を錯乱させる霧だ。

 

『ふん。同じ手が通用すると思うたか!』

 ガガギアラは一喝とともに、電磁気の力で突風を生み出して霧を吹き飛ばした。

 霧に隠れて背後から接近していたエニンギルゥドの姿は丸見えとなる。

 

『終わりだ』

 ガガギアラは右の五指にプラズマの刃を宿す。そして抜き手でエニンギルゥドの胸を貫いた。

 

『エニンギルゥド様!』

 ニドヴォルクの叫び声が響き渡った。

 




ではまた来週
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