され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第六十五話 竜たちの弔歌

 第六十五話

 

 黒竜ニドヴォルクの口腔から、全てを破壊する〈暴悪冥黒大海嘯〉の咒式が放たれる。対する雷竜ガガギアラには、どうすることもできなかった。

 

 避けようにも土壌竜ウロン・ウロンが体に絡みつき、さらに俺とエニンギルゥドが鎖を手足に巻きつけ全力で引っ張っている。

 

 そして防ごうにも、重力波は簡単には防げない。最後の頼みであった〈反咒禍界絶陣〉も、俺たちとウロン・ウロンの妨害により失われている。

 

 ガガギアラには打つ手は、もはや何一つ残されていなかった。

 

 重力波が雷竜ガガギアラの体を貫く。

 金色の鱗が紙細工のようにひしゃげ、三十メルトルを超える巨体すら圧搾されていく。

 

 超重力に潰されるのは、ガガギアラだけではない。その体に巻き付いている土壌竜ウロン・ウロンも巻き添えとなっている。

 ミミズのようなウロン・ウロンの体も、超重力には対抗することができず潰されていく。

 

 咒式を放つニドヴォルクが片膝をつく。彼女はガガギアラとの戦いで負傷していた。エニンギルゥドの治療により、咒式を放てるところまでは持ち直した。だが完全復活には程遠い。脳が焼き切れるほどの負担となっているだろう。

 

 ニドヴォルクが咒式を維持できず、重力の波が消失していく。しかしもう十分だった。ガガギアラの巨大な体は完全に圧搾されていた。効果範囲から外れていた手足や首、尾の一部が地面へと落ちていく。

 

『なぜだぁ!』

 首だけとなったガガギアラが、目を見開き残された命を絞り出すように叫ぶ。

 ガガギアラには、なぜこうなったのか分からなかっただろう。

 

 ここにいるのは五百歳級と百歳級の竜がそれぞれ二頭。対するガガギアラは千年の年を経た〈長命竜〉であり、戦力的に見て負ける要素はどこにもなかった。

 

 なぜ自分が負けたのかわからないガガギアラを、同じく首だけとなった竜が笑う。土壌竜ウロン・ウロンであった。

 

『まだわからねぇかなぁ』

 ウロン・ウロンが口の端を歪める。

 

『お前の敗因は、この俺をミミズと侮ったことよ』

 ウロン・ウロンが空中でキメ顔をする。そしてガガギアラと共に地面に落ちた。

 

『いや、そこはお前。エニンギルゥド様とヨギストラを、幼竜と侮ったことが敗因だ。とすべきだろうが』

 膝をつくニドヴォルクが、頭痛に顔を歪めながらも指摘する。

 

『ん? そうか?』

 首だけとなったウロン・ウロンがゴロンと転がりながらこちらを向く。土壌竜の体は特殊であり〈原生粘体転活性法〉の咒式を使用して全身を多能性幹細胞に置換している。ほぼ不死身の体であり、頭部だけとなっても生きていけるのだ。

 

 ニドヴォルクが呆れるが、その顔が苦痛に歪む。彼女はガガギアラとの戦いで、死んでもおかしくないほどの重傷を負っているのだ。

 

『大丈夫か』

 エニンギルゥドが駆け寄り治療咒式を再開する。エニンギルゥドの治療は歳の割には見事と言えた。しかしニドヴォルクの体の傷は深い。特に心臓を貫かれ破壊されている。

 

『すまない、心臓だけは手に負えない』

『大丈夫ですよ、エニンギルゥド様』

 ニドヴォルクが巨大な咒式を発動し、心臓を再生する。

 

『ほら、もう大丈夫です』

 心臓を再生したニドヴォルクが立ち上がる。

 失った心臓まで再生するとは、驚きの限りだ。しかし再生したからそれで問題なしというほど簡単な話ではない。だが俺たちを心配させないため、ニドヴォルクは笑って見せる。

 

『おお、すげぇな。昔っから天才だと思っていたが、心臓まで作るのかよ』

 首だけのウロン・ウロンが、見上げながら感嘆の声を漏らす。〈原生粘体転活性法〉の咒式の効果とはいえ、こちらもすごい絵面であるが。

 

『こっちも治してくれよ』

『後でな』

 ウロン・ウロンの頼みに答えながら、ニドヴォルクがエニンギルゥドに目を向ける。

 

『エニンギルゥド様、お怪我はありませんか』

『ああ、皆のおかげで怪我は一つもないよ』

 エニンギルゥドが話しながら俺を見る。俺の胸にはまだ小さな傷が残っていた。

 ニドヴォルクと違い心臓は無事だったが、胸を貫かれたので傷口は大きい。俺の傷を見て、ニドヴォルクが目を細める。

 

『ヨギストラよ、無茶をしたな』

『何、そうでもないさ』

 俺は笑って返す。ガガギアラは強く、俺たちは全滅してもおかしくはなかった。危険を犯さなければ、どのみち死ぬ状況だったのだ。こうして生きていられたのだから、大金星と言えるだろう。

 

『あまり無茶をするなよ』

 ニドヴォルクが咒式を使用し、俺の胸の傷を塞ぐ。鱗も再生され、もうどこに傷があったのかもわからない。

 

『俺は?』

 ウロン・ウロンが足元で呟く。

『わかったわかった。手を貸してやる』

 ニドヴォルクが呆れながら治療咒式を発動する。ウロン・ウロンの短くなった首が、ウニョウニョと伸びていく。そして十メルトルほどで止まった。

 

『これだけあれば十分だ。あとはそのうち咒力が回復すれば伸びるだろう』

 本来よりもだいぶ短く細いが、ウロン・ウロンは新たに再生した体を気に入っているようだった。

 

『さて、残る問題は。これをどうする?』

 ウロン・ウロンが周囲を見回す。破壊の痕が残る大地には、雷竜ガガギアラの首や手足、そして四つ目の緑竜ジャザベジドの遺体が転がっていた。

 

 ガガギアラは派閥が違う敵であり、ジャザベジドも黒龍派に与した裏切り者だ。ここに打ち捨てて行っても問題はない。しかし……。

 

『弔うべきだろう』

 俺はすぐに提案した。すると六つの瞳が俺を見る。

 

『しかし、連中は敵だったものだぞ』

『それに派閥も違うから、弔い方も違うしなー』

 ニドヴォルクとウロン・ウロンが難色を示す。

 

『死ねば敵も味方もないでしょう。同じ竜として、朽ち果てていく姿を見るのは忍びない』

 俺の言葉に、ニドヴォルクとウロン・ウロンは口を閉ざす。二頭も迷っている。派閥が違う敵であるため、弔うという行為は賢龍派に対する敵対行動ともとれるからだ。

 

 彷徨う視線は答えを求めるように、エニンギルゥドの元に向かった。

 視線で答えを求められ、エニンギルゥドは少し迷いの間を見せた。だがしばらくすると目が座り小さく頷く。

 

『うん。ジャザベジドは裏切ったとはいえ、私の命を助けてくれた。そしてガガギアラは敵であっても強い竜だった。強者には敬意を払うべきでしょう』

 エニンギルゥドの一声に、ニドヴォルクとウロン・ウロンが頷く。

 

『しかし弔い方法はどうする。賢龍派のやり方でやるのはまずいだろ』

『古い弔の方法を取るとしよう。それならば派閥は関係あるまい』

 ニドヴォルクが簡潔に答えを示すと、それならいいだろうとウロン・ウロンが頷く。 

 

 

『では遺体を一つの場所に集めて積み上げてくれ』

 ニドヴォルクの指示のもと、俺たちはガガギアラとジャザベジドの遺体を集めた。そして遺体の前で横に並ぶ。

 

『では年長の私から』

 ニドヴォルクが一歩前に出る。

 

『ガガギアラ、そしてジャザベジドよ。その魂は天に帰れ。灰となって空を駆け、風となって大地を走れ』

 ニドヴォルクが言い終えると、口の隙間から息を吐くように、優しく炎を吹き出す。炎はガガギアラとジャザベジドの体に燃え移る。

 

 次にウロン・ウロンが前に出て、同じように炎を吐いて火を足していく。そして三番目にエニンギルゥドが前に出て、火葬の火を足した。

 

 竜の炎で仲間を弔う。古い時代はこうした弔いがあったらしい。最後に俺も前に出て、弔いの炎を吐く。

 

 二頭の遺体が燃え、一条の煙が蒼穹に立ち昇る。燃えた灰が空を舞い、風が攫っていく。

 死した二頭の魂が駆けていけるようにと、俺は目を瞑り祈った。

 

 瞼を閉じる俺の耳に、旋律が聞こえた。ニドヴォルクの声だ。彼女は弔いの唄を歌っていた。

 俺たちは唄に耳を傾けながら、ガガギアラとジャザベジドを弔った。

 




次回で第一部完です
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