され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜 作:ホイナン三兄弟
第六十六話
丸い月にうっすらと雲がかかっていた。深い森からは虫の声が静かに響く。
俺たちは焚き火を囲み車座に座っていた。焚き火の側には骨の残骸が転がっている。ウロン・ウロンが取ってきてくれた獲物だ。
竜は毎日食べなくても平気だし、疲れているからいいといったのだが、ウロン・ウロンは大した手間ではないと言って取ってきてくれた。
実際ウロン・ウロンは狩りの名手であり、俺たちが待つほどもなく巨大な牛を仕留めて帰ってきた。
その牛をニドヴォルクが料理してくれる。彼女も心臓を失うほどの深手を負ったばかりであり、無理をしなくていいと俺やエニンギルゥドは言った。しかし強敵を倒したお祝いだといって聞かなかった。
ニドヴォルクの料理はうまく、俺たちは舌鼓を打った。そして全て綺麗に食べ終え、腹が一杯になった。
『さて今更だが、改めて自己紹介といこうか』
食事を終えたウロン・ウロンが俺たちに向き直る。
『土壌竜のウロン・ウロンだ』
改めて名を名乗り、俺たちも名乗り返す。確かに今更だが、ちゃんと挨拶はしておくべきだ。
『さて、お前たちがここに来たのは、ムブロフスカの試練を受けるためだったな』
ウロン・ウロンが本来の目的を話す。そう言えばそうだったと、俺たちは今更ながらに思い出した。色々ありすぎたので、試練のことがすっかり頭から飛んでいた。
『本当はお前らと力試しでもして、テキトーに遊んだ後に合格にするつもりだった。だがガガギアラを倒したお前たちには、今更試練も必要ないだろう』
ウロン・ウロンの言葉に同調するように、ニドヴォルクも頷く。
『しかし、我々はガガギアラに対して、何もしていません』
俺は首を横に振った。俺たちはガガギアラに対して、全くの無力だった。
俺がやったことといえば、ウロン・ウロンをガガギアラの足元に運んだことだけだ。誰でもできる仕事である。
ガガギアラの動きを封じたのはウロン・ウロンであり、止めを刺したのはニドヴォルク。どれだけ贔屓目に見ても、手柄の九割はこの二頭にある。
『いや、起死回生の策を組み立て、実行に移した手腕は見事だった。それぞれがそれぞれの役割を、しっかりとこなしたからこその勝利だ』
ウロン・ウロンが俺とエニンギルゥドに目を向ける。
『圧倒的な強者を前にして、お前たちは勝利を模索し実行してのけた。お前たちならばこの森をしっかりと守ることができるだろう』
ウロン・ウロンが頷く。その評価は嬉しいのだが、少し気になるところがあった。
『この森? どういう意味です?』
『ん? お前、知らずにきたのか』
首を傾げる俺に、ウロン・ウロンが呆れた声を出す。
『試練の報酬とも言える、ムブロフスカの縄張りはここだぞ』
ウロン・ウロンは深い夜の森に目を向ける。
『え? でもここはあなたの縄張りでは?』
『ああ、地面の下はな。地表はムブロフスカの縄張りだ』
ウロン・ウロンの答えに、俺とエニンギルゥドはなるほどと頷く。
ウロン・ウロンは土壌竜、普段は土の中に住んでいる。この深い森を支配する必要はないのだ。
『順番は適当だったんだが、まさか最後に来たところが、目的の縄張りだったとはな』
『やれやれ、ガガギアラを倒すほどの策を考えつくかと思えば、意外なところで抜けている』
ニドヴォルクが呆れた声をあげる。俺としては頭を掻くしかなかった。
そして試練を終えたお祝いが続く。宴は楽しかったが、あまり長く続かなかった。俺はあまりに疲れ、宴もそこそこに眠ってしまったからだ。
俺は喉の渇きに目を覚ました。周囲ではエニンギルゥドやニドヴォルクが、丸くなって眠りについている。ウロン・ウロンもトグロを巻いて眠っていた
俺は皆を起こさぬように立ち上がり、水場を探した。
ここは初めて来た場所だったが、竜の鼻は水の匂いを感じ取れる。森を進むと、難なく湖を発見することができた。
俺は水面に口を付けて、水をごくごくと呑む。波紋に月が揺蕩っていることに気づき、顔を上げた。
見上げた夜空には煌々と満月が輝いていた。
美しい月だった。この月は俺が地球で見ていた月とは違う月だ。しかし月の美しさは、世界が違っても変わらない。
しみじみと月を眺めながら、俺はなぜこの月を眺めているのかを考えた。
隕石に撃たれ、気が付けばこの《され竜》の世界にいた。
おそらく元の世界に戻ることは叶わないだろう。
なぜこの世界に俺はいるのだろうか? 俺の第二の生には意味があるのか? それともなんの意味もないのか?
俺が今歩んでいる竜としての生は、どこに向かっているのか?
考えれば考えるほど、まるで無明の闇を歩いているような気分になってくる。
『眠れないのか?』
不意に後ろから声がかけられ、振り向くとそこにエニンギルゥドがいた。本来は黒い鱗のはずだが、月明かりを受けて銀色に光り輝いている。
『ああ、少しね』
俺は内心を隠し、月を見上げた。前世の記憶があるなど、言っても困らせるだけだ。
『いい月だな』
エニンギルゥドが夜空を見上げながら呟く。俺たちはしばし月を眺め、その美しさに酔いしれた。
『ありがとうな、ヨギ』
『なんだ、藪から棒に』
『君がいなければ旅に出て、こうして月を眺めることもなかっただろう。君はまさに僕を導いてくれた月だよ』
エニンギルゥドに言われ、俺は驚いた。
俺自身はどうすればいいのか分からず、ただその日を過ごすしかなかった。しかし俺のその行動が、エニンギルゥドを導いていたというのだ。
『そうか……』
俺は息を吐いた。
まだ自分の新たな生に、どんな意味があるのかは分からない。しかし迷いながら進んだ道は、誰かを照らしていたのだ。
これから俺の竜としての生が、どうなるのかは予想もできない。しかし悔いのない生を送ろう。
俺はエニンギルゥドと共に、月を眺めながらそう誓った。
とりあえずこれで第一部完です
第二部はまた書き溜まったら掲載します
それではまたどこかで