され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

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 第八話 ヨギルググの憂鬱

 第八話 ヨギルググの憂鬱

 

 ヨギストラの父であるヨギルググは、自身の巣穴で目を覚ました。

 目だけを動かして巣穴の外を見ると、まだ夜は開け切っておらず、空が白み始めているところだった。いつもなら日が完全に上るまで寝ているのだが、どうにも眠りが浅く、早く目覚めてしまった

 

 ヨギルググの側では、妻であるハレルストラが同じく身を横たえて眠っている。彼女は何度も身じろぎをしていた。ヨギルググと同じく、彼女も眠れないのだろう。

 ヨギルググは巣穴の壁を見つめ、息を吐いた。思うのは自身の息子であるヨギストラのことだった。

 

 昨日、ヨギルググは息子を初めての狩りに連れて行った。

 狙った獲物は〈蟻人〉だった。正直に言えば〈蟻人〉は、子供の竜が狙うには少々厄介な相手だった。

 

 〈蟻人〉は一体一体は弱く、踏み潰せばそれで終わりだ。だが連中はとにかく数が多い。油断していれば体にまとわり付かれ、厄介なことになる。

 ヨギルググはそのことをちゃんと理解し、その上で息子であるヨギストラに〈蟻人〉を狩るように指示した。

 

 狩りの当初、ヨギストラは〈蟻人〉を気持ちよく蹴散らしていた。自分を包囲する〈蟻人〉の存在にも気づかずに。

 何体かの〈蟻人〉にしがみつかれ、ヨギストラは足を止めて吐息で薙ぎ払った。だがこれは悪手だった。足を止めたことで〈蟻人〉は一気に体をよじ登り、息子が気づいた時には半身がすでに覆われていた。

 

 体が半分覆われてしまっていたが、まだ挽回の方法はあった。とにかく動き回り、体についた蟻人を振り払えば助かったかもしれない。だが実戦が初めての息子には、その判断ができなかった。

 

 恐怖に駆られ足をもたつかせて倒れてしまった。しかも体を丸めてしまい、もはや反撃することすら出来なくなっていた。

 ヨギストラが助けを求める声を上げ、自分を見ていたことはヨギルググも気づいていた。しかしヨギルググはすぐには助けなかった。

 

 決して息子が憎かったわけではない。本心を言えばすぐにでも助けてやりたかった。だがこれは竜ならば、誰もが通らねばならない道だった。

 竜は他の生物より遥かに強い力を持って生まれる。歳を経た竜を倒すなど〈古き巨人〉か〈禍つ式〉でも無ければ不可能だ。

 

 竜は強い。だがそれは油断をしていなければの話だ。油断をしていれば、どれほど強くとも足元を掬われる。自分にとっては虫ケラのように見えても、相手にも命はあるのだ。殺されるとなれば必死になって挑んでくる。

 

 狩りや戦いといった命のやり取りには、常に死の危険が孕んでいる。親は子供に対して、死が平等であることを伝えねばならなかった。そのために、ヨギルググはあえて危険な〈蟻人〉の巣にヨギストラを向かわせ、襲われてもすぐに助けなかった。

 

 ヨギルググは身を横たえながら再度大きな息をついた。

 息子であるヨギストラのことが心配だった。

 友であるムブロフスカに知られれば、お前は甘いと笑われるかもしれない。だが心配なものは心配だった。ヨギルググにとっては初めての息子であるし、それにヨギストラはどうも普通の子供と違うような気がした。

 

 ヨギストラは非常に活発で、一歳の頃は巣穴を駆け回り、子育てには苦労させられた。だが巣穴から出るな、危険だからするなと注意したことはよく聞き分けた。

 

 十歳の頃には無鉄砲なことばかりして、一度崖から落ちて死にかけたことがあった。その後落ち込んだのか一ヶ月巣穴から出ようともしなかった。あの頃は気を揉んだが一ヶ月後、ヨギストラは子供に似合わぬ威力の吐息を吐いた。咒式の基礎を自分で解明したのだ。

 

 あの時は息子が天才だと本気で思った。しかし息子はそれ以上咒式を使用することはせず、遊ぶために鎖などを作って喜んでいた。

 ヨギルググにはどうにも息子のことがわからなかった。無鉄砲なようで思慮深い。奔放で素直なのは間違いないが、今回の一件でどうなるのかはわからなかった。

 

 おそらく敗北に打ちのめされ、数日は塞ぎ込むことだろう。長く続くようなら、無理矢理にでも外に連れ出さねばならない。

 さて、その時はどうやって連れ出すか……。

 

 ヨギルググは考えながら目を瞑った。その時だった。横たわるヨギルググに、突然重い何かがドンとのしかかった。

 ヨギルググは驚きに声を上げ、瞑った目を開けて自分の体を見た。するとそこには黄色い鱗のヨギストラがしがみついている。

 

『父上様。おはようございます。朝ですよ! さぁ、今日も狩りに連れて行ってください!』

 ヨギストラは溌剌とした笑顔を見せる。ヨギルググは息子の言葉に目を丸くした。隣では、妻のハレルストラが声で目を覚まし、ヨギルググと同じく驚いていた。

 

 ヨギルググはハレルストラと目を合わせた。すると妻は笑った。ヨギルググも笑った。

 やはりうちの子供は普通とは違うらしい。親があれやこれやと気を揉んだというのに、一晩でこれだ。

 

 ヨギルググとハレルストラが笑うと、ヨギストラがなぜ笑われているのかわからずきょとんとしていた。しかし何か楽しいと思ったのかヨギストラも笑い始め、巣穴には笑いがこだました。

 

 

 




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