され竜転生 〜竜に転生して勝ち組と思ったら、され竜の世界だった〜   作:ホイナン三兄弟

9 / 66
 第九話 息子の工夫

 第九話 息子の工夫

 

 朝日が地平線から顔を出すと、ヨギルググは息子のヨギストラを伴い狩場へと出かけた。

 ヨギストラが朝からしきりに狩りに連れて行けとせがむからだ。

 

『父上様。今日は何を狩りに行きますか? なんでも良いですが、やはりここは〈蟻人〉を狙いに行きましょう。昨日は〈蟻人〉の幼虫や蛹を食べ損ねましたからね、今日も〈蟻人〉をいきましょうよ』

 ヨギストラはしきりに〈蟻人〉を狙おうと主張する。おそらく前回の雪辱を晴らしたいのだろう。とはいえ、そもそも〈蟻人〉は百歳未満の幼い竜には手強い相手だ。やめておけと言いたいところなのだが、ここまで言うからには何か考えがあるのだろう。

 

 ヨギルググは仕方なく〈蟻人〉の巣に向かった。

 狩場の山裾を回っていくと、〈蟻人〉の巣が見えてきた。

 ヨギルググは丘の上から〈蟻人〉の巣を見下ろす。岩山に開いた穴からは無数の〈蟻人〉が這い出してきている。岩山の周囲は荒地で隠れるところはない。だが右手側には森が広がっている。

 

『ヨギ、自分だけで行けるか?』

『もちろんです、父上様。見ていてください』

 ヨギストラは胸を張る。そして首を返し巣の反対側へと進んでいく。

 ヨギルググは少し感心した。少なくとも敵の巣に直進しないだけの知恵と工夫はあるらしい。ヨギストラは大きく右へと迂回して森から巣の側面をつくつもりだ。

 

 お手並み拝見と、ヨギルググは丘の上に伏せて高みの見物をきめこむ。

 右手側の森から接近するヨギストラは、正直まだまだだった。木々を踏み荒らし、梢が揺れてしまっている。気配の消し方がなっていなかった。しかし正面から考えなしに突撃した昨日のことを思えば、はるかにマシと言えた。少なくとも考えてはいる。まずは考えて工夫を凝らすこと。それが一歩目だった。

 

 あまりうまいとは言えないが、ヨギストラは森の切れ目にまで進み、〈蟻人〉の巣に接近する。〈蟻人〉はすでにヨギストラの存在に気づいているが、姿を見せてないおかげで、竜であることまでは気づかれていない。

 

 さて、ヨギストラはどう出るか? ヨギルググが丘の上から見下ろしていると、息子は森からパッと飛び出ると〈蟻人〉の群れの中に躍り出た。そして爪や尻尾を振るい〈蟻人〉を薙ぎ払っていく。

 

 ヨギルググは顔を顰めた。これでは前回と同じである。〈蟻人〉と戦うときは背後を取られぬように立ち回り、動き続けることが大事だ。敵のど真ん中に出るなど、最もしてはならないことだった。事実ヨギストラは全方位を〈蟻人〉に取り囲まれてしまっている。

 

 〈蟻人〉に取り囲まれたヨギストラが組成式を紡ぐ。咒式を使うつもりらしい。ヨギストラの周囲から鋼の壁が円筒状に生まれ、ヨギストラを包み込むように聳える。〈斥盾〉の咒式だ。全周囲を壁で包み込み、まるで要塞であった。しかしこれも悪手だ。〈蟻人〉は手に鋭いかぎ爪を持ち、切り立った崖であろうと難なく登る。〈蟻人〉は一斉に円筒状の壁に取り付き、登り始める。強固な盾に立てこもったつもりだろうが、逆に逃げ場をなくしているだけだ。

 

 やれやれ、助けに行ってやるか。

 ヨギルググが立ち上がったそのときだった。円筒状の要塞からヨギストラが自分から這い出し上まで登り切ると縁を蹴って跳躍した。

 飛び上がったヨギストラは空中で身を翻したかと思うと、真下に首を向けて壁を登る〈蟻人〉を捉える。ヨギストラが顎を開く、口に宿すは〈雷霆箭〉の咒式。ヨギストラの口から電撃の奔流が放たれる。

 

 ヨギストラは電撃咒式をほとんど使っていない。そのため精度が甘く威力も弱い。だがこの場合は精度も威力も必要なかった。ヨギストラが狙うは自ら生み出した鋼の壁だ。壁にはびっしりと〈蟻人〉がしがみついている。

 ヨギストラの電撃が〈斥盾〉の盾に激突し、電流が鋼を伝い盾に取りつく〈蟻人〉を感電させた。

 

 空中に飛び上がったヨギストラは、身を回転させ落下しながら着地体制をとる。それと同時に〈斥盾〉の咒式を解除する。鋼の盾が消え去り、ボタボタと〈蟻人〉が地面に落ちる。

 地面に落ちた〈蟻人〉はまだ生きていた。しかし感電し、身動きが取れない。ヨギストラは着地と同時に尾を振るい、動けぬ蟻人たちを薙ぎ払った。

 

 うまい!

 ヨギルググはただただ感心した。

 〈蟻人〉は数が多く厄介な相手である。だが連中の恐ろしさは、数が多いことではない。〈蟻人〉の最も恐ろしい点は、感情がないことだ。

 

 〈豚鬼〉なども数が多いことで知られているが、連中はそれぞれに心を持ち、感情がある。それゆえ自分よりはるかに強い敵を前にすれば、恐怖に駆られ逃げ出す。一体が逃げれば三体が続き、三体が逃げれば十体が後退する。数が多くとも感情があれば全てを倒す必要はない。三割も倒せばあとは勝手に逃げていく。しかし蟻人は違う。

 

 奴らは個としての自我がほとんどなく、敵を前にすれば歩むのをやめない。仲間の屍を踏み越えてでも押し寄せるのが奴らの怖さだった。だがどんな長所も場合によっては短所となりうる。

 

 歩みを止めないことが〈蟻人〉の恐ろしさだが、逆に考えれば連中は決して足を止めない。壁があれば必ず登ってしまう。ヨギストラは〈蟻人〉の習性を読み切り、逆に利用したのだ。

 感電した〈蟻人〉をヨギストラがなぎ払う。今の攻防で全体の三割ほどが殲滅した。まだ〈蟻人〉は多く残っているが、もはや〈蟻人〉はヨギストラの敵ではない。先ほどと同じことを繰り返せばいいのだから。

 ヨギルググはゆっくりと〈蟻人〉の巣へと向かった。そして到着したころにはヨギストラはすっかり〈蟻人〉を倒し終えていた。

 

『よくやったな』

『はい、やれました!』

 ヨギルググが労うと、ヨギストラは明るい笑顔を見せる。その笑みはなんとも愛嬌があった。

 

『どれ、巣穴を掘り出すのは手伝ってやろう。巣を壊さずに掘り出すのにはコツがいるからな』

 ヨギルググは山裾に開いた穴に歩み寄り、炎の吐息を吹き込む。これで中に残っている〈蟻人〉は退治できたはずだ。あとは慎重かつ大胆に土を掘り、巣を取り出す。

 

『おっ、なかなか大きいな』

 ヨギルググが地面から〈蟻人〉の巣を取り出す。六角形が連なる巣の中には、幼虫や蛹がぎっしりと詰まっていた。

 

『大きいが自分で持てるか?』

 ヨギストラの前に巣を置いて尋ねる。

 手伝ってもいいが、これはヨギストラが自分でとった最初の獲物だ。自分で持ち帰る権利がある。

 

『はい、持てます』

 ヨギストラは元気よく頷くと〈蟻人〉の巣を咥えた。そして意気揚々と自分たちの巣穴に戻る。

 息子が大きな獲物を持って帰ったのを見て、妻であるハレルストラは大層喜んだ。

 

 

 




明日のお昼にもたぶん更新します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。