マイネーム・アルトシュ   作:島夢

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お久しぶりです。

お待たせして申し訳ありませんでした。


今回、いやいやそれはおかしいだろ、とか、そんな行動はとらねぇだろ…。
と、違和感を感じることがあるかもしれませんが、俺はこうなるんじゃないかと思いました。

違和感を感じた方は、是非指摘してくださるとうれしいです。
出来る限り修正したいと思います。


3話 〖余〗

 とても静かな空間。

 白が寝ているのは元より、いつの間にか空まで寝ている...。

 まぁ、異世界に来たりして色々大変だったのだろうと考えたアルトシュはそのまま放置し読書に没頭する。

 それ故にこの宿屋の一室には遠く聞こえる外の喧騒とアルトシュが本をめくる音のみが響く。

 

「…………」

 

 パタン…と、唐突にアルトシュが本を閉じる。そしてアルトシュは部屋に一つしかない扉に目を向ける。

 ―――コンコン、という控えめなノックの音が響く。そこまで大きな音ではない、むしろ小さな音が部屋に響く。

 アルトシュは一瞬だけ空と白に目を向けるが、彼らは安心しきったように眠るだけだ。いや、実際に安心しきっているのだ。

 この世界で殺傷、略奪はできない。だから安心して寝ているのだろう、アルトシュはそう思いつつもここでぐっすりと寝ている兄妹の世界観の切り替えのはやさに少し呆れる。

 

「少し…。無警戒過ぎるだろう…」

 

 実際には『  』二人が安心して眠れるのにはもう一つ理由がある。

 それはアルトシュがいるということ、彼ら二人にとってアルトシュとは見知らぬ土地に突然来てしまっても、そいつが側にいれば安心して眠れる…そのくらい信用、あるいは信頼している者なのだ。

 

「まぁ、よい、よい。我が出るとしよう」

 

 ―――コン、コンコン。

 再び控えめなノックの音が部屋に響く。

 

「はい、どちら様だ? 名を名乗るがよい」

 

 途中で完全に敬語が崩れたがアルトシュは気にしない。自分が敬語を話せないことなどとっくの昔に知っている。それでも敬語を使おうと思ったのは…。相手へ最低限の敬意をはらうためだ。

 それと以前に敬語を使えないことを空と白にからかわれており、ここで敬語を使わないのはなんだか負けた気分になって嫌だったからである。

 

「ステファニー・ドーラというものですわ。昼間の件お話を伺いたいのですが…」

 

 すてふぁにー? 誰だろうか? 割りと本気で考えるアルトシュ。

 だが答えは出ない、出るはずがない。

 ――我が一度覚えたものを忘れるはずがない、それが人名ならば尚更…ならば我ではなく空か白…まぁ、考えるまでもなく空か…。

 

「少し待ってくれ」

 

「はい」

 

 

 扉の向こうからの少女の承諾を聞いたアルトシュは空を起こすために寝ている空に話しかける。

 

 

「空、客だ。起きろ、はやく起きないとお前の性癖をあることないこと付け加えて客に暴露するぞ? 」

 

「唐突に俺の社会生命の危機!? 」

 

「……にぃ…うるさい…」

 

 

 アルトシュの脅迫紛いのモーニングコールに一瞬で意識を覚醒させた空。

 ついでに空が騒いだので起きた白。

 アルトシュは白まで起こすつもりはなかったのだが、起こしてしまったのだから仕方ない。と考えていると空からの恨みがましい視線に気づいた。

 

 

「む? どうしたのだ? 空」

 

「素敵なモーニングコールをありがとうよ! 畜生め! 」

 

「そうか、ではついでにモーニングコーヒーでもどうかな? 」

 

 

 空が叫ぶが、アルトシュは気にした様子はなく、それどころかどこからか出したコーヒーを差し出す。

 

「いらねぇよ! 」

 

「そうか? では我が頂くとしよう。まぁ、客だ。ステファニー・ドーラという名前だそうだ」

 

「すてふぁにー? あぁ…」

 

 

 空がそう言いながらおもむろにケータイを取りだし、撮影した写真を確認した。

 赤い髪と青い瞳の気品のある少女の写真。

 アルトシュはそれをよこから眺めながらボソッと呟く。

 

「あぁ~なるほど……盗撮か」

 

 女の子が空を訪ねてくるなんておかしいと思ったと考えながらうんうんと頷くアルトシュ。

 

「なに一人で納得してんだよ……盗撮じゃねぇって」

 

「あー…我はこの世界の盗撮の罪の重さは知らんが、そこまで心配せずともよいと思うぞ…うむ、お前には我と白がついているからな。ゲームですべてが決まるのなら我らがいれば大丈夫だろう」

 

「だからちげぇって!」

 

「にぃ…だいじょぶ。しろとアル…ついてる…」

 

「便乗しないでくれよリトルマイシスター。あとアル、多分この国に法律は無いぞ」

 

「馬鹿者、我が気づかないと思っていたのか?気づいておるわ」

 

 

 兄妹と会話をしながらアルトシュはふと思う。そういえば、アルと呼ばれたのはこっちに来てはじめてだな...と、アルというのはアルトシュの愛称のようなもので空と白が「いちいちアルトシュっていうのはめんどい」ということでつけられた愛称だ。

 こっちに来て再会できたときは確認の意味もあってアルトシュとちゃんと呼ばれた。

 

 余談だが、アルトシュはこの愛称を結構気に入っており、再会したときにアルトシュと呼ばれて少し悲しい気持ちになったのだが、感情を隠すのが意外と上手いアルトシュは誰にも気づかれなかった。

 

 なにはともあれ、空をからかうのはこれ以上よそう、これ以上やると仕返しが怖いし何より人を待たせている。

 

 

「とりあえず、客待たせてるんだし、入れてやったらどうだ?」

 

「ん? あぁ…そうだな」

 

 空の返答を聞いたアルトシュは扉を明けにいく空を尻目に読書を再開する。

 ―――片手にコーヒーを持って…。

 そのコーヒーを飲みながら思う。あれ?この世界にコーヒーなんてあったっけ?と。

 だがすぐに目の前の本に意識を向け、そんな疑問は消える…。

 

 この本は残り半分で読み終える、だからもう読みきってしまおうと思っているアルトシュはそのまま本に意識を集中させる。

 話の内容は…この世界のバカの代名詞とも言えるあの種族のあの女王の話だ。

 この話が中々に面白い、恐らく、喜劇に分類される話だろう…吸血種(ダンピール)からすれば凄まじい悲劇だが…。

 ちなみに空がステファニーと話しているとき暇だった白が本を読んでいるアルトシュのコロコロ変わる表情を眺めて暇潰ししていたりする。

 

 どれくらいたったのか…。アルトシュは速読も出来るが、読みたい本が膨大な量だったり急いで読まなければならない限りは基本的にゆっくり読む。

 だから意外と分厚いアホの子女王の本を読むのに少し時間がかかってしまった。

 

「ふ~…読み終わった。しかs「俺に惚れろっ!」…我が本を読んでいる間になにがあった…」

 

 

 正直疑問は尽きないが、状況を整理しつつ少し推理ゲームでもしてみよう。アルトシュはそんなことを考えながら思考をはじめる。

 

 そして一秒足らず思考した結果。

 

 空とあのステファニーという少女はゲームしたのだろう、無論、盟約に誓ってな。

 それでいつも通り相手を騙して勝った空は“俺に惚れろ„という要求をした。…うん、流石にどうかと思うが…まぁいいや。

 空の頭のなかでは惚れた弱みとかなんとか考えていて、貢いで貰えるだろうという考えだろうな…。

 まぁ、“俺の所有物になれ„の方が得だろうがな…。

 

 こんな結果が出た、これでもアルトシュは戦神、つまり神なのだ。全知全能とはほど遠くても、人の身であろうともまがりなりにも神なのだ。これくらいは出来る、『  』に認められるくらいの頭脳はある。

 アルトシュは自分の出した答えの答え合わせの意味を込めて現状を確認する。

 

 冷たい半眼の白、俯いている顔の赤いステファニー、頭の上で疑問符を浮かべる空。

 

 

「うむ、正解のようだな」

 

「………………にぃ、願望、入った?」

 

 

 アルトシュが言うのとほぼ同時に白も言葉を発する。

 そして、数瞬遅れて空の絶叫が響く。

 

 

「あああああああああああああああああああああ」

 

「そう落ち込むんじゃない、我だって彼女いないから」

 

「ま、まさか……まさかそうなのか!?「おい、我のことは無視か?」このチャンスを逃せば一生彼女できないという「まぁ、できるわけないだろうな」俺の浅ましいコンプレックスが「やっぱり気にしてたんだな」この土壇場において判断を曇らせたのか!?「そうだな、判断曇りまくってるな」ば、馬鹿な……そんな、俺がそんなくだらないミスを「くだらないのはお前そのものだ、乙女心をなんだと思っている」アルッ!!さっきから黙って聞いてりゃ「黙って無かっただろう…」そんな屁理屈言うように育てた覚えはありませんよ!?」

 

「急にボケるな、こっちもお前に育てられた覚えがない」

 

 

 空の言葉に一々ツッコミを入れていたアルトシュに空がいきなりキレたと思ったらボケはじめる。

 はたからみて中々にカオスな空間だ。事実、ステファニーは話についてこれていない。

 白は二人の会話を微笑ましげに見ている。

 

「俺が何よりも許せないのはなぁ…お前さっきこういったよな? 」

 

「やっぱり気にしてたんだな。か? 」

 

 空がアルトシュの先程の言葉を言う前にアルトシュは先に予想して台詞をいう。

 それを聞いた空は…。

 

「そうだッ! それだよッ! 気にしてたんだな? 当たり前だろ!お前あと十二年だぞ!? ジョブチェンジまでの時間が残り十二年だッ! そりゃあ気にもするさ! もう残り時間が半分過ぎてるんだよぉぉぉおおおおおおお!!」

 

 空が吼える、男として越えてはならない一線、否、この時間までに超えなければならない一線。

 これができなければめでたく魔法使いへジョブチェンジ達成だ。

 

 だがしかし、空は先に予想するべきだった。目の前にいるのは紛れもなく神…もしくは神であったモノだ。

 つまり、年齢も人間からすればありえない年齢なわけで…。

 

「ふふふ…ハッハハハハハハハッ!」

 

「何が可笑しいんだ…! ッ!?」

 

 

 空は見た、見てしまった、笑いながら俯くアルトシュの表情を...。

 

「お前にはまだ時間がある…そうだろう?」

 

「アル…お前…どうしてそんな諦めた表情を…」

 

「俺には…遅すぎたよ…遅すぎたんだ…(性欲が出来ること自体が)」

 

 

 アルトシュの表情を見た空は覚った。こいつは…俺の親友は…もう賢者すら超越しているッ…! と。

 そしてこのとき空のなかにはアルトシュへの二つの感情が生じた、哀れみと…そして敬意だ。

 

 と、ここで長らく沈黙を保っていた白が口を開く…。

 

 

「にぃ…彼女いらないって……しろがいれば…いいって…言った…。アルも、愛より友情…って…」

 

「「強がってましたあああスンマセンでしたああああッ!!」」

 

「だって妹じゃん!まだ十一歳じゃん!?手出したらポリスメンのお世話になるじゃん!?」

 

「お、俺だって、人間になってしまったのだから欲というものはどうしても出るし、俺もうすでに賢者超えてるとかそういう次元じゃない年齢だし…少しくらい希望を持ってもいいじゃん…」

 

 

 途端に言い訳をはじめるアルトシュと空。

 もう、アルトシュに至っては一人称を俺に変え、口調すら変化しているくらいの必死さだ。

 アルトシュは目を反らして窓の外に目を向ける。

 向けた視線の先に偶然、二人組がいた。片方はローブを着ていて顔は見えないが豊かな母性の象徴を携えているため女性だろう。

 もう片方は黒い髪に黒いベールで顔を覆っており暗い印象を受ける少女。

 

 

「ん…?」

 

 

 アルトシュはその二人組に…いや、正しくはローブを着た女性に違和感を感じた。

 特に理論的な何か証拠があるわけじゃない。言うなればただの勘だ。

 別に豊かな母性の象徴に目がいったわけではない、断じてない。

 

 ガタッ…という音を立ててアルトシュが立ち上がる、それに気づいて必死に言い訳していた空とそんな空を冷めた目で見ていた白は疑問に思ったのか、空は言い訳をやめ、白は不思議そうにアルトシュを見る。

 

 その視線に気づいたアルトシュは空と白に少し笑いかけながら、心底楽しそうにいい放つ。

 

「少し出かける、下の酒場にいるからある程度時間がたったら迎えに来い」

 

「別に構わんけど、なんでそんなに偉そうなんだ…?」

 

 

 アルトシュは笑みを浮かべたままドアノブにてをかける。

 「あっ…そうだ」と、何かに気づいたようで振り返らずに空と白に…どちらかというと空にアルトシュは問を投げ掛ける。

 

「やるのか?」

 

「ん~、まだわかんね」

 

「そうか」

 

 

 謎のやり取りにステファニーはキョトンとしたいたが、白はわかっているようで少し楽しそうにしている。

 二人は一連の会話を各々別の表情で聞いていた。

 そしてアルトシュはステファニーに向かってこう告げる。

 

 

「まぁ…その、なんだ。これから大変だと思うが、頑張れ」

 

 

 そう言い残してアルトシュは部屋から出ていった。

 一方、言われたステファニーは確かに今現在大変な状況であるが、これからというのはどういうことだろうか…? と思っていた。 

 

 だが彼女は知らない、自分がこれから、この兄妹に大変な目に合わせられ続けるということを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下の酒場に降りてきたアルトシュは、てくてくと普通に歩きながら、適当に空いていた席に座って先ほどの二人の様子を観察してみようと…思ったのだが、その席が一つも空いていない。

 

 

「むぅ……なぜこんなに人が多いのだ…。国取りギャンブルの最中だからか? 座る席すらないとは…。しょうがないな…」

 

 

 アルトシュはそんなことを呟きながら歩き出す。

 カウンターにいる、この酒場の店主の前まで歩いていき、話しかける。

 

 

「店主よ、席がないのだが…」

 

「あん? 確かに席はもう全部うまっちまってるな。どうしても座りたきゃ誰かに相席をたのめばいいんじゃないか?」

 

 

 店主はアルトシュを見もせずにそんなことを言う。

 だがアルトシュは気分を害した風もなく…。ただ一言、「なるほど」と呟いた。

 

 

「教えてくれて感謝するぞ」

 

「へいへい、どういたしまして、今は忙しいからさっさと行けよ」

 

 

 そんな店主の言葉を背に、アルトシュは歩き出す。

 片方はローブを着ていて顔は見えないが豊かな母性の象徴を携えている女性。

 もう片方は黒い髪に黒いベールで顔を覆っており暗い印象を受ける少女の二人組が座っている席へ…。

 

 大体、こそこそと様子を見るなどと、性分ではなかったのだ。こちらの方が我らしい。

 

 そう考えながら席の隣まで行き、黒髪の女性の方へ話し掛ける。

 黒髪の少女とローブの女性は楽しそうに談笑中だったのを中断し、アルトシュを見る。

 

 

「相席、よろしいだろうか?」

 

「いいえ、相席は他の人に頼んで頂戴」

 

 

 間髪いれずに即答された。

 まぁ、予想の範囲内だな。と思いながらアルトシュは食い下がる。

 

 

「まぁまぁ、そう言うな。我は少し、お前たちに興味があるのだよ」

 

「ナンパかしら?」

 

 

 黒髪の少女は興味無さ気にしている。

 

 

「いいや、違う」

 

 

 アルトシュはそこで言葉を区切り、周りに聞こえないような、ギリギリ黒髪の少女に届く程度の声でささやくように言う。

 

 

人類種(イマニティ)の町に他種族のものが入っていれば、お前とて、興味もわくであろう?」

 

「ええ、もし本当に入っているなら興味深いわね。」

 

 

 黒髪の少女は表情を変えず、目線も変えず、淡々と言う。

 

 

「でも、もし入っていたとしても、それが私たちに興味があることとなんの関係があるの?」

 

 

 アルトシュは「ほう…」と感心したように声を漏らし、面白そうなものを見つけたように目を細める。

 

 

「でも、そうね…。興味深い話ということに変わりはないわ、次の挑戦者が来るまでの暇つぶしにはなるかもね」

 

 

 挑戦者、と聞いて、アルトシュは(そういえば国取りゲーム中か…)と思い出していた。

 なんにせよ、相席を獲得した。

 

 

「我の名前は…アルトシュだ、親しみを込めてアルと呼ぶがよいぞ」

 

「…まぁ、名乗られたからには名乗り返すのは礼儀ね…。クラミー・ツェルよ、そしてこっちは」

 

「フィール・ニルヴァレンなのですよぉ。少しの間の付き合いでしょうが、よろしくお願いしますぅ」

 

 

 フィールは、アルトシュという名に一瞬だけ反応した。普通ならば気づかないだろう、本当に一瞬だ。

 アルトシュはそれに気付いたが、表情に出さず話を続ける。

 

 

「さて、先程の話の続きでもしようか?」

 

「そうね、次の挑戦者が来るのはまだかかりそうなことだしね」

 

「では、我がさっき即席で考えた、もしこうだったら面白くなりそうだという仮定の話をしよう」

 

「ええ、聞かせて頂戴」

 

 

 クラミーは少しは関心がある、といった感じの表情でアルトシュを見ながら話を聞く。

 アルトシュは細く微笑み、楽しそうにしている。

 

 

「そもそも、だ。この国取りギャンブル、他国が簡単に干渉出来てしまうシステムになっている。まぁ、流石に、直接の参加は出来ぬがな。それに気付くものも多い、人類種(イマニティ)も、そして他種族も含めてな」

 

「へぇ、そうなの、気付かなかったわね」

 

 

 クラミーは無関心そうにそういう。

 それに対し、アルトシュは驚いた顔をして笑い出す。

 

 

「くっはっははは!! 面白い冗談を言う、十点満点中三点やろう。お前のような者がこんなことに気づかぬはずがなかろう」

 

「十点満点中三点って…それ、あんまり面白くなかったってことじゃない」

 

「気にするな、さて、話を戻そう。ここまで言えばわかるだろう?」

 

「どこかほかの種族による介入があって当然、そしてそれが私たちだと?」

 

 

 そう聞かれたアルトシュはその通り、とでもいうように少し笑った。

 肯定、と受け取ったクラミーは「ふー…」と息を吐いてから、細く笑った。

 

 

「そんなわけないでしょう? 私は人類種(イマニティ)よ」

 

「お前はそうだろう、人類種(イマニティ)だ。が…そっちはどうだ? 恐らく、森精種(エルフ)だろう」

 

 

 そっちはどうだ? と、アルトシュはフードをかぶっている少女を指す。

 そして、「そういえば、ほとんど関係がないが…」と前置きしてまた話し出す。

 

 

「どこか他の種族、例えば、森精種(エルフ)とかは他種族を奴隷にする、奴隷制度があるらしいな。だからどうということはないが…」

 

 

 クラミーの表情が明確に変わる。

 驚愕の表情へ…。

 

 クラミーは知りすぎている…と思った。

 ただ単にフィールが森精種(エルフ)と気付くだけならば、まだわかる。いや、そもそも人類種(イマニティ)に気づかれること自体が異常事態だが、まだわかる。

 だが、そこからさらに一段か二段ほど飛ばして、フィールとクラミーの関係の話題を持ち出してきた。

 

 ここまで知られていれば、しらばっくれても意味はない。

 むしろ、これ以上しらばっくれても、相手には自分が滑稽に映って相手を楽しませるくらいのことしか出来ない。

 事態がこれ以上悪くなるだけだ。

 ならば…しらばっくれるのはやめにしよう…。そう思った。

 

 

「……そこまで知られているならしらばっくれる必要はないわね……どうやって知ったの?」

 

「む? ただの推理だ。当たっているかは微妙だったがな…。

 まず、ただの利害の一致、協力関係ならば楽しく談笑する必要などない、特に人類種(イマニティ)なんぞ、森精種(エルフ)から見ればさぞ矮小に見えるだろうし…見下しているものがほとんどだ。故に談笑などせんだろう?」

 

 

 どこかから情報が漏れたかと思ったが、推理と来た。

 当たっているか微妙と言ったが、当たっている確信があっていったのだろう。そんな顔をしている。

 よほど自信があったのだろうか?

 もちろん、アルトシュが嘘を言っていて、本当はどこからか情報を手に入れてきただけなのかもしれない。

 だが、嘘をついているようには見えない。

 

 嘘をついているのなら感情を隠すのが上手すぎる。

 嘘をついていないのなら少ない情報で推理しきったことになる…。

 

 どちらにしろ面倒な相手だ。とクラミーは考える。

 

 

「主と奴隷でも仲良く談笑はしないでしょう…?」

 

 

 クラミーは少しでも目の前にいる男から情報を引き出そうと、目の前のアルトシュという名前の男の情報を引き出そうと質問を続ける。

 こいつは、このまま放置すれば拙い…。

 だが相手の情報が圧倒的に少ない。対して、こっちはもうすでにウイークポイントとも言うべき情報を握られている。

 

 

「その通りだな。だが、奴隷、ということはそれなりに長い間一緒に過ごしている可能性が高い。ならば奴隷と主の間に絆が生まれる可能性はある。少々ロマンチックだがな」

 

 

 アルトシュはにやりと笑う。

 

 

「我はそういう物語も大好きだ」

 

 

 あまりこちらに害意はなさそうだ、とクラミーは判断する。

 だが、相手に乗せられないように、そして、こういう奴が相手の時はからめ手などはなしに直球の方がいいと思い、質問を戻す。

 

 

「話の論点がズレてるわ、話を戻しましょう。 貴方はそこまで知って、どうするの…?」

 

 

 周りに言いふらすのか、この事実を踏まえたうえで妨害してくるのか…。クラミーはそう質問をする。

 そして、クラミーは考える、前者ならばまだ…なんとかなるかもしれない、厄介なことには変わりないが…。

 だが、後者は拙い…ほんの少しの情報でここまで推理で辿り着ける頭、もしくは嘘が完璧なまでに見抜けないポーカーフェイスを持ったものが自分たちを潰すために妨害をするのは…本当に拙い。

 

 

「別に? これは仮定の話だろう?」

 

 

 アルトシュは驚いたような顔をして、そう返す。

 何を言っているんだお前は?とでも言いたげで、自分がここで動いて潰す…そんなもったいないことなどしない…そんな顔だ。

 クラミーにはアルトシュの真意がわからない…。

 

 

「もし、本当に我の仮説が当たっていても、我はなにもせんよ。お前たちも面白い“ 未知 „を持っていることだしな」

 

 

 純粋に、本当にそう思っているアルトシュ、そしてクラミーにもそう見える、だが、そう簡単に信じられるはずもない。

 クラミーたちはミスをすれば、大損失間違いなしなのだから…。

 

 

「そんな言葉が信じられるとでも…?」

 

「信じてもらわなくてもいいが…なんならゲームでもして、負けようか?」

 

 

 あっさりとアルトシュはそういう。

 この世界の盟約は絶対。

 ならば、盟約で縛った方がいいかもしれない…。

 

 

「…………」

 

 

 だが、もしゲームをしたとして、嘘をついているとしたら、それを逆手に取られるかもしれない。

 この世界の盟約は絶対。ならばそれは自分にとって最大の武器になるし、それは相手も同じなのだ。

 

 

「そう警戒せずともよい」

 

 

 アルトシュは笑いながらクラミーを見る。

 

 

「クラミー」

 

 

 クラミーの隣にいて、ずっと黙って事の成り行きを見守っていたフィールが口を開く。

 

 

「この方は嘘は言わないと思うのですよぉ?」

 

「フィール?」

 

 

 クラミーは驚いてフィールを見る。

 突然声を出したので、アルトシュも少し驚きながらフィールを見る。

 正直、ここで発言するとは思っていなかったのだ。

 

 

「フィール、と呼んでも?」

 

「ええ、構わないのですよ」

 

「では、フィール、自分で言うのもなんだが、流石に信じすぎではないかな?」

 

 

 アルトシュは確かに警戒せずともよいといったが、突然そんなに信じだしても彼女らがチョロ過ぎて心配になるので一応聞いておく。

 

 

「いいえ、信じすぎてなどいないのですよぉ? アルさんがその名に誓うのならそれだけの価値がありますぅ」

 

「なるほど…ね」

 

「名前…?」

 

 

 にこにこと笑いながらフィールはいう。

 彼女は自分の名前を知っていた。今度からはアル、とだけ名乗った方がいいかもしれない…。そう考えながらアルさん、と呼ばれたことに少し喜びを覚える。

 アルと呼べと言ったのにクラミーにはアルと呼ばれなかったからだ。

 だからフィールにアルと呼ばれて少し満足。

 

 話を戻そう。名前 アルトシュという名前 戦神であり、最強という概念そのものの名称。

 アルトシュも少なからず、アルトシュという名に誇りを持っている。故に、効果のあるものだろう…。

 

 だが、フィールの笑顔にうすら寒いものを感じるのはなぜだろう…?

 アルトシュはそう思いながら、頷く。

 

 

「構わん、これでも最強の名には誇りを持っている、名に誓おう」

 

「『最強』…ですかぁ…。アルトシュさん私のご先祖様は、貴方に殺されかけたそうなのですよぉ? というより、森精種(エルフ)全体が…でしょうけどぉ」

 

「ほう? だがそれは戦時中のことであろう? 戦で殺されかけた、と言われても、そちらも殺そうとしているのだから、お相子だ」

 

「いえ、別にそこじゃないのですよぉ、私がいいたいのは、私のご先祖様は貴方の一撃に、全力で理論を作り出した防御術式を破られそうになったらしいのですよぉ」

 

「ふむ…つまり我が破れなかった…と?」

 

「ええ、貴方の攻撃は、そもそも当たる直前に消滅しましたからぁ…。理由はわからないそうですが…」

 

「そうか」

 

 

 ならば、彼女が言っているのは大戦の最後、余が負ける直前に放った神撃のことだろう。そう考えながらなぜ自分はこんなに怖い笑顔を向けられているのかを考える。

 というか、綺麗な女性の笑顔は結構怖い…。

 

 

「それでですねぇ、私のご先祖様はカイナース様の力もお借りして作り出した術式が通じず、少なからず誇りを傷つけられたのですよ」

 

「ふむ…」

 

 

 何がいいたいのかいまいちよくわからん…。

 そう思いながら何を言いたいのか考え込むアルトシュ。

 

 

「ところで、こんな話を知っていますかぁ?」

 

「?」

 

 

 唐突な話題変更、なんだろう?と思い疑問符を浮かべるアルトシュにフィールは目を薄く開けながらスッーと心が凍えるような声で言う。

 

 

森精種(エルフ)はほかの種族から粘着質で恨みは何十代かけても晴らすと噂されているそうですよぉ?」

 

 

 ――ゾクッと来た。

 正直、『俺』というアルトシュは怖すぎてちびりそうだった。【我】というアルトシュも背筋が寒くなった。だが、〖余〗は……

 

 戦神は…。

 

 唐突にアルトシュの雰囲気が変わる。

 明確に何かが変わる…。

 

 

『……面白い、先祖の恨みとやら、この世界の盟約に則って、ゲームで晴らして見せよ小娘。〖余〗は何時如何なる時であろうとも貴様のゲームを受けよう』

 

 

 そして発する言葉は、力を持っていた。

 圧倒的に、ただただ強さを持っていた。

 騒がしかった酒場が一気に静寂に包まれ、皆、一瞬で呑まれた。

 どこか、人を惹きつける魅力を持った、強さ。

 

 強い、そんな単純な感想しか出てこないほど純粋な強者の風格。

 

 アルトシュは心底楽しそうに、獰猛に笑っている。

 

 

 

 

『挑むがよい、だが識れ、憎悪を喜び、憤怒を貪り、叛逆を赦す、その愚かさを愛でるのが余だ。

 

 そして、その上で示す。

 

 気の赴くまま―――――――ただ蹂躙するが『強者』だと』

 

 

 憎悪せよ、憤怒せよ、叛逆せよ、儚い願いを賭し、知恵と想いの限り、愚かに挑むがよい。

 その想いこそ…その愚かさこそ……

 

 

 フィールはアルトシュの背に十八枚の翼を幻視した。

 通常、あるはずがないその翼…本当に幻だったのか…。

 

 

 

『楽しみにしておくぞ』

 

 

 そう言い終わったアルトシュからは空間が悲鳴を上げるような存在感は消えていた。

 そしてアルトシュは宿の方に続く扉から出てきた、空、白、そしてステファニーの方へ向かう。

 

 

「アルトシュ、なんかしたのか?」

 

「いや? 別になにもしていないが…?」

 

 

 言葉から力が無くなった。

 同じ人物から放たれていて、声帯も変わっていないのに、別人のようにも見える。周りの者たちそんな錯覚を覚えた。

 

 

「ほら、宿を手に入れたのだろう? 行くぞ」

 

「まぁ、いいか…」

 

 

 そう言いながら、アルトシュを加えた、空たちは酒場から出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィー?」

 

 

 フィールはクラミーの言葉でハッと我に返る、どうやら少し放心していたようだ…。

 

 

「フィー、楽しそうね」

 

「え? そんなことないのですよぉ? あんなに怖い思いしたのに」

 

「だって、笑っているもの」

 

 

 言われて気付いた。自分の口角が少し吊り上がっていることに…。

 何故? 何故笑ったのか…?

 純粋に怖いと思った。自分より遥かに強いとも思った。勝てない、とすら思った。

 でも…。

 

 

「楽しい…のですかねぇ…。正直、とても怖かったのですよぉ? あんなのとゲームだなんてとんでもない…。私たちには、やることはたくさんあるのです。でも」

 

 

 それでも…。

 

 

 

 

 

 

 

―――少し、ほんの少しですけど…いつか挑戦してみたいと…そう思ってしまったのですよねぇ…。







 アルトシュにも幾何かの力が残っております。

 実は初めての三人称、一人称と混ざり、よくわからなくなってしまっていますが、これからよくしていきたいと思います。

 

 感想待ってます。

遅くなるかもしれませんが次回も頑張ります。
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