ヒスイ地方に転生したら、人間じゃなかった。   作:ハートフル大好きちゃん

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人間ならそうする

 ポケットモンスターというアニメがある。

 主人公のポケモントレーナー・サトシがいろんな地方を冒険し、さまざまな仲間とともにポケモンマスターを目指すという話だ。

 

 アニメで描かれていた「ポケモン同士は種族を超えて会話が成立する」「人間の言葉を話すポケモンが存在する」という2点について、フタバは飛びながら考えを巡らせていた。

 

 フタバにとってポケットモンスターとはゲームとアニメの中の世界の話である。

 己が誰なのかもおぼろげなのに、そのことは確かにわかっていた。

 

(ポケモン同士が会話できるというなら、俺がアオイ以外のポケモンと話せなかったのはおかしい)

 

 アオイにその疑問をぶつけると『たまたま話しかけた生き物の知性が低すぎて会話にならなかっただけかもしれない』と返されたが、それならそれで何かしらの単語や声くらいは感じ取れるはずである。

 

 しかしフタバには何も聞こえなかった。話しかけてもただ獣の鳴き声が帰ってくるだけだったからだ。

 

 アオイと共にいる時にいろんなポケモンに遭遇したが、それでも会話できたのはアオイだけだった。その時生暖かい目で言われたことをフタバはよく覚えている。

 

『私の種族は会話する能力に優れてるらしいの。というより、相手の感情を読み取るのが得意という感じかしらね。だからその……話せなくてもあまり気にしない方がいいわよ。聞いた感じ、貴方の言ってることは伝わってるみたいだから、ね』

 

 それはアオイなりの精いっぱいの慰めだったが、つまり聞き取り能力に問題があるということなのでワカバはかなり落ち込んだ。

 

 ラルトスは人間と緻密なコミュニケーションが取れるレベルの知性の高いエスパータイプだ。なにより進化系のサーナイトやエルレイドの姿形は、あらゆるポケモンの中で特に人間に近い。

 

(俺が人間だから、限りなく人型に近いポケモン以外とははっきりコミュニケーションが取れないってことか……?)

 

 フタバは煮詰まってきた考えを霧散させた。これ以上は考えても答えが出ない気がする。なにより自分が人間の言葉を話しているつもりでも、人間から見たらただ鳴いているだけにしか見えないという可能性もあるから判断できる材料が少なすぎた。

 

 フタバは時おり休んでは背負った木の実をつつき、木のうろや地面に溜まった水を飲みながら飛び続けた。暗くなれば高木の枝葉の中で休み、目覚めたらまた飛び立つ。そうして無軌道に飛びづつけながら人間を探した。

 

 見渡す限りの森と山、草原が続いた。そしてやがて、崖の近くに1人の男を見つけた。

 帽子を被っている。ニット帽だろうか。

 

 そして様子がおかしい。尻餅をつき、ゆっくりと後ずさっている。

 

 その視線の先にいる1匹の鳥ポケモンを見た瞬間、フタバは急降下した。

 

 

 

 

「ハハ、研究のためと言い訳をしてここまできましたが……これは本当に失敗だったのです」

 

 眼前に迫った死の気配に、口を開くと思わず乾いた笑いがこみ上げる。

 

 普段であれば拠点の外に出るのであれば調査隊員を同伴するのが当然だが、今回ばかりは欲をかいた。

 拠点から人が出払っている僅かな時に色違いであろう金色のコリンクを見つけ、つい追いかけてしまったのだ。

 

 コリンクはいつのまにか見失い、思った以上に拠点から離れていた。

 まずい、と思った時には、すでに背後からムクバードが迫っていた。

 

 ムクバードは中型のとりポケモンだが、その性格は極めて獰猛である。

 縄張りに入った者には容赦せず牙を剥く。その鋭い嘴で何度も貫かれ犠牲となった者も珍しくない。

 

 2尺ほどもある鳥に襲われたら、ただの人間はひとたまりもない。

 

 育ててもいない手持ちのポケモンたちはムクバードに全く歯が立たず、あとはまとめて餌になるのを待つばかりになっていた。

 

 ポケモンは恐ろしい生き物である。そんなことは当然理解している。

 それでも僅かな甘さが今の状況を招いてしまった。

 

(く、ヒノアラシ、ミジュマル……すみません。遠く故郷から連れてきておきながら、このような形で命を終わらせるなど……!)

 

『ギィィィィィィ』

 

 咆哮とともにムクバードが襲いかかってきた。もはやこれまでと瞼を強く閉じる。

 

 不思議なことに痛みはやってこなかった。その代わりに響いたのは男の低い声だ。

 

『大丈夫か!?』

「ッどなたかいらっしゃるのですか!? ここは危険です! 急いで逃げ」

『俺だよ俺俺。目の前にいる鳥だよ』

 

 思わず瞳を開ける。目の前にいたのは丸い梟だった。

 

 フタバは無機質な瞳で戸惑う人間を見つめていた。

 

「えっ」

『えっ』

「いま、喋って……」

『おうっ。俺はフタバ。よろしく』

「No way!? ポ、ポケモンが喋ったのですか!? はっ、ボクはもう死んでいるのかもしれません。つまりこれは夢? 死後の世界ですか!?」

『あの世はやめてくれよ。良かったな、あんたまだ生きてるぜ……っと、このは!』

 

 突っ込んでこようとするムクバードに向けてフタバはこのはで威嚇する。横槍を入れられたムクバードが怒りで咆哮した。

 

 戦いが始まる。

 

 ムクバードが翼を強くはためかせた。地面の石や木の枝を巻き起こしことで強い「かぜおこし」を発動する。巻き込まれれば石が肉を抉り、木の枝が矢の如く突き刺さるだろう。

 

『鳥同士なのに不利なの納得いかねえな、っ! マジで!』

 

 モクローはくさ・ひこうタイプで、ほとんどの鳥系ポケモンに対して不利だ。ただの「つつく」や「かぜおこし」でも致命傷になりかねない。

 

『キュピィィィィ!』

『このはっ』

 

 かぜおこしと正反対の回転で放ったこのはがぶつかり合い、相殺される。ぴたりと風が止み、ムクバードが一瞬動揺した。フタバはその瞬間を見逃さず突進する。

 

『うおおおおメガトンキックッ』

『ギィッ』

 

 モクローはそんなワザを覚えない。

 ともかく、ワザですらないフタバの鉤爪による蹴りがムクバードの腹にまともに入ったのは事実だった。

 

 吹き飛ばされて体制を立て直したムクバードが嘴をあけた。瞬間、異様な金切り音が放たれた。麻酔なしで歯にドリルで穴を開けたらこんな声が出るかもしれない。

 

『ギイイイイイイイイ』

『ちょ、ぐうううう! 耳塞げないのにその声やめろ!』

「ううっ耳が!「なきごえ」ですらこの威力ですか! ヒスイ地方のポケモンというのは、本当に……!」

『これが「なきごえ」とか嫌すぎんだろッ』

 

 なきごえ。相手の攻撃ランクを1段階下げる。

 ゲームの中ではそれだけの、すくなくとも攻略段階ではすぐに忘れさせられるようなワザである。

 

「危ないっ」

『あっヤバっ』

 

 なきごえが止んで、ふとフタバは目の前を見た。翼を開き戦闘機のごとく突っ込んでくるムクバードが見えた。でんこうせっか。

 

『ちいいいいいっ』

「モクロー!」

 

 フタバはギリギリのところ身をよじり直撃を避けた。それでも左脇を掠めた嘴が刃のごとく肉を切り裂いた。羽毛が徐々に鮮血で染まる。

 

『くそ、痛い。痛すぎるぞこのそらをとぶ要員がよ』

「大丈夫ですか!?」

『擦り傷だっ。まだなんとかなる』

 

 本当に命の危険があるときは瞬間的に痛みすら感じないという。

 

 脇腹が痛い。

 フタバは心臓の鼓動が速くなったのを感じた。嘴の先に着いた血が陽の光でぬらりと光る。目の前のムクバードが笑った気がした。言葉を交わせなくてもわかる。

 

 喰われる。

 

 背筋がゾッとする。かつてアオイと暮らしていた時にたびたび見かけた捕食者の表情にそれはよく似ていた。

 

 くそ、バカか俺は。人に会うために死にかけるなんて本末転倒じゃねえか。なんで助けたんだ。放っておいて他の人間を探せば良かっただろっ。

 

 そんな後悔が一瞬にしてフタバの頭を駆け巡る。ちらりと人間の方を見た。逃げることもなく、フタバの身を案じるような、覚悟を決めた男の顔がそこにあった。

 

「逃げて、ください。その傷で戦い続ければ命に関わります。大丈夫です。ボクもなんとか逃げて見せますから」

 

 その声は震えていた。囮になろうというのか。確信したフタバは覚悟を決めて叫んだ。

 

『目の前に困ってる人がいたら助けるもんだろうが、しっかりしろっ俺』

 

 人間なら、そうする。

 

 己が獣ではなく人間だというのならその証を示せ。戦って証明しろ! 己自身に!

 

『なあっなんかあいつの気の引けるものないかっ。一瞬でいい!』

「い、一瞬ですか」

『なんでもいいからっ石でもなんでも』

『ギュピイイイイイ』

 

 ムクバードか咆哮してかぜおこしを展開した。

 

『俺はあんたを見捨てない! だから頼む! このはっ』

 

 フタバは再びこのはを放った。しかし脇腹の痛みで完璧なワザとはならず、その勢いは徐々にかぜおこしに飲まれていく。

 

 ムクバードが勝ち誇ったように目を細めた。その時だった。フタバと人間の目が合った。

 

 人間の手にはむしくいぼんぐり。

 

『今だ!』

「はいっ!」

 

 のちに「あれほどボクが綺麗にボールを投げられることは今後ないでしょう。まさに奇跡です」とたびたび話題にする一投が、ムクバードの頭を直撃した。

 

『ギイッ!?』

 

 硬いぼんぐりとはいえ中身が虫に食われている以上、ダメージを与えるには至らない。ただし、ほんの一瞬だけ意識に空白ができる。

 

 ムクバードは視線を戻した。ぐるりと見回す。あの鬱陶しい梟がどこにもいない。

 

 どこだ、上か? 太陽を見上げた。

 

『後ろだよこの鳥頭がっ。ガラ空きだぜ』

 

 ムクバードの背に強い衝撃が襲った。二度、三度、つつくの連撃が刺さる。肉を抉る痛みに思わず距離を取った。そして振り向く。

 

 そこには無表情でこちらを見つめる、嘴の先を血に濡らした梟がいた。

 

 ムックルから進化して、世界が変わったような気がした。自分は狩られる側から狩る側になったのだと。

 

 背中を見せて逃げる獲物を空から襲うのはとても気分がよかった。森の隅で草むらに隠れて震える日々のことなど、もはや忘れていた。

 

 そうして今、ムクバードは『恐怖』を思い出した。

 

『アニメ版たねばくだんを喰らえやッ』

 

 フタバは口から石を勢いよく吐き出した。これが相性の悪いひこうタイプへの切り札だった。いわタイプと化したたねばくだんがムクバードに直撃する。

 

 フタバの戦いはサトシのモクローの模倣である。ポケモンとしての本能を持たないフタバができるのは記憶から戦い方を探ることだけだった。

 

『ビィーッ、ビィーッ!』

 

 大ダメージを負ったムクバードは踵を返してぎこちない飛び方で去っていった。野生のポケモンは引き際も心得ている。死ぬまで戦うことなどそうはしない。

 

『あの状態で襲われずに生きていけるかはわからんけどな……っぐう、痛っ、イタタタ』

「無事ですか!?」

『なんとか。ア、気抜いたらめっちゃ痛くなってきた。ヤバいかも……』

 

 思わずフラフラと地面に降り、脇腹を見るといつのまにか一面羽毛が真っ赤だ。どうやら気付かないうちに相当出血したらしい。なんてフタバは他人事のように考える。

 

「モクロー! しっかりしてください!」

『くふ、あんたのコントロール、最高だった、ぜ……』

「気を確かに―――絶対に―――けます」

 

 

 

 

 夢は見なかった。

 ここが現実であるというのなら、夢くらい見せてくれてもいいだろう。

 

『知らない天井ゥ〜』

 

 都合よく記憶に残っているネットミームと共にフタバは目覚めた。

 背中がふかふかしていて、どうやら柔らかい布団の上に乗せられているようだった。

 周囲には甘ったるいのか苦いのか、混ざり合ったような薬の独特な匂いがする。

 

 実際のところ人間が住むような部屋の天井を見るのは、フタバがモクローの身体になってから初めてのことだった。

 

『ぷしゅ……』

『ぴちゃちゃ?』

 

 聞きなれない鳴き声がする。フタバが視線を移すと、布団の裾から乗り出して様子を伺っている2匹のポケモンがいた。

 

「そのコたちはヒノアラシとミジュマルといいます。おはようございます、モクロー。傷の調子はいかがですか?」

『まだちくちく痛むけど、前ほどじゃないさ。治療してくれたんだろ? ありがとう』

「お礼なら後でキネさんに。僕は君を運んできただけですから。それにお礼を言うのはボクの方なのです」

『礼はいいさ。勝手にやったことだからな。それより俺のことはモクローじゃなくフタバって呼んでくれ』

 

 ふと、アオイも同じようなことを言っていたなとフタバは思い出した。

 

「フタバ、ですか」

『友達からそう呼ばれてたからな』

「ふむ、その友達というのはもしやポケモン……いえ、人間ではないのですか?」

 

 フタバは頷くと、人間は驚きを隠さなかった。

 

「なるほど。モクローというのは人間が呼称した名前にすぎませんから……ポケモンたちの間でもお互いを命名する文化があるということなのですね」

 

 人間はそのまま深い思考に入りそうになっていたが、やがておもてを上げると、真っ直ぐにフタバの方を見た。

 

「……おっと、自己紹介が遅れました! ボクはラベンといいます。ポケモンたちのことを詳しく知るため、このヒスイ地方の研究をしているポケモン博士なのです」

 

『ぴちゃーっ』

『ぷしゅ、しゅしゅ!』

 

『よろしくな、ラベン博士。あと……すまんふたりとも、なんて言ってるかわからないんだ』

「わからないのですか?」

『人の言葉を喋れる代わりに他の生き物の声は基本的に聞こえないんだ。どういう理由かはさっぱりだけどな。俺の言葉は一方的に通じてるらしいけど本当かどうかはわからない』

 

『ぴちゃ!』

『ぷしゅ!』

 

 ミジュマルはキリッとした表情で自分の胸を叩き、ヒノアラシは背中から火を噴き上げた。聞こえているというアピールかもしれない。

 

「どうやらこのコたちはわかっているようですね。それに、キミに何を言いたいかもなんとなくわかるのです」

『えっ?』

「あのムクバードとキミが戦い始めた時、すでにミジュマルとヒノアラシは戦闘不能にされた後でした。キミがいなければボクたちはみな命はなかったでしょう。だから、助けてくれてありがとう。と、そう言っているのですよ」

 

 2匹はこくりと頷いた。その表情はなぜかキラキラしているように見える。それに気づいたラベン博士は苦笑した。

 

「……どうやらあのムクバードを倒したキミに、ミジュマルとヒノアラシは憧れてしまったようですね」

『ええ……』

 

 フタバはげんなりした。憧れるならもっと強い最終進化系のポケモンとかにした方がいいんじゃないかと突っ込みたかった。

 

「……ところで、基本的に他の生き物の声が聞こえない、と言っていましたが、もしや聞こえたこともあるのですか?」

『あるよ。名前をつけてくれた友達とだけは普通に喋れたな。感情を読み取る力が強い種族らしいから、そのおかげだろうなと思ってる』

「感情……ですか。それはエスパータイプのポケモンかもしれませんね」

 

そこまで言ってラベン博士ははっとしたように一度言葉を切った。

 

「ああ、失礼しました。ポケモンというのはポケットモンスター……キミたちのような生き物を、我々人間は便宜的にそう呼んでいるのです」

「なるほどなあ」

 

 フタバは自分がモクローと呼ばれていることも、ポケモンという言葉の意味も知っていたがややこしくなりそうなので相槌を打つにとどめた。

 

 すると、部屋の奥から桃色の髪をした女性が現れた。

 

「あら、目が覚めた? 起きたばかりで申し訳ないけどモクローちゃん、傷の具合を見せてもらうわね」

「彼の名はフタバというそうです。フタバくん、紹介いたしますね。彼女が君の治療を担当しているキネさんです」

『おうっ、フタバって呼んでくれ。助けてくれてありがとうな。キネさん』

 

 キネの外見はポケモンセンターにいるジョーイたちによく似ていた。しかし纏う服の雰囲気はややレトロっぽさを感じる。

 

 ここはどの地方なんだろう。とてもまともな人間の町があるようには思えないが、とフタバは今まで飛んできた景色を思い浮かべた。

 

「まあ! 喋れるポケモンがいるだなんて。ラベン博士が幻覚を見てたわけじゃなかったのね」

「……ボクってそんな信用ないんでしょうか?」

「そういうわけじゃないけれど……」

 

 困ったように頭をかいたラベン博士を一瞥すると、キネは苦笑いしながらフタバの方を見た。

 

「ラベン博士ね、あなたを連れてここに駆け込んできた時は本当に必死だったのよ。あれほど取り乱してた博士は見たことがなかったわ。そのくらい極限状態だったから……あなたが喋れるって聞いて、本当かなって思ってたの」

『この通りめちゃくちゃ喋れるぜ。良かったな博士』

「なんとか研究家としての面目は保てそうで、なによりです」

 

 ラベン博士は大きくため息をついた。それを見てフタバとキネはくすりと笑った。

 

 

 

 

 キネがフタバの傷の治りが順調であることを確認した後、ラベン博士は語った。

 

 ここがヒスイ地方と呼ばれる、人間にとってはほとんど未開の地であること。そしてここはコトブキムラと呼ばれる、人間が定住する数少ない場所であることを。

 

 そしてフタバもまた、目覚めたら急にポケモンになっていて、自らに人間だった時の記憶がおぼろげながら残っていること。だからポケモンでありながら人間と話せるのであろうことを話した。

 

 そしてこのようなポケモンが過去にいなかったか、とも。

 

 それを聞いたラベン博士は否定することもなく、顎に手を当ててじっくりと考える素振りを見せた。

 

「フタバくん。キミの身に起きている現象について……それはボクには見当がつきません。人間がポケモンに変化したという噂話もありますが、それはただの伝承にすぎないのです。科学者であるボクには事実が全てです。ゆえにキミのように、人間がポケモンになったという例を確認したことはありません」

『そんなすぐに答えにたどり着けるとは思ってないさ』

 

 ラベン博士はまっすぐにフタバの目を見つめた。

 

『ですが今、ここにキミが存在するという事実がある以上、それには必ず何か原因があるはずです。どうです? それを解き明かすため、ボクにも協力させてもらえませんか」

『助けてくれるのか?』

「もちろん! 困っている“恩人”を助けない人など、いるわけがないのです」

 

 そう言うとラベン博士は柔らかい笑みを浮かべた。

 フタバははっとした。無性に心が温かくなる。

 

『そっか、恩人か』

「キミは人間なのでしょう?」

『……ああ、そうだな。ありがとう。ラベン博士』

「そのお礼を受け取るのは、謎を解明してからにするのです。それがボクたち、研究家というものですからね! ……恰好つけすぎでしょうか?」

 

 そうしてラベン博士は照れくさそうに笑った。

 フタバも笑った。ポケモンである今の自分の顔は、うまく笑えているだろうか。

 

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