もしかしたらネタ被りあるかも?
陰キャ俺らの集合的概念オリ主をぶち込んだ作品になります。
日常ものになりそうなので刺激的な展開はないです。
ぼざろハマり過ぎて死ぬ。
後藤ひとりは"ぼっち"であった。
ぼっちとは一人。常に誰かと関わりを持つことをせず、一人孤独に過ごす英雄のことである。
彼女は一人、教室の机に流行の音楽バンドのCDを並べる。そして机の横には高々と主張する黒いカバーに入ったギターが立てかけてある。
そう。
後藤ひとりはギタリストである。
並べてあるCDのジャンルはいわゆるロックと呼ばれる音楽ジャンルのものであり、彼女がネットの動画サイトに『ギターヒーロー』の名で上げている内容に通ずるものであった。
なぜ、彼女が誰一人として注目するわけでもないのに音楽関係の品を陳列しているのか。
それは……深い、マントルよりも深い事情があってのことだった。
後藤ひとりは友達がいなかった。
彼女は昔から他人と関わるのがニガテであり、対人スキルはおろか人と向き合って話すことも至難の業であった。
そんな彼女には目標があった。
──誰かに注目されたい。
──チヤホヤされたい。
──あわよくばバンドを組んでみたい。
承認欲求モンスター。
彼女は高校生になり、バンドを組んで、目指すは学校の人気者。そしてなにより──脱『ぼっち』を目指す……コミュ障陰キャネガティブ少女であった。
(今日も誰にも話かけられなかった……)
その結末は言わずもがな。
根暗少女がアクティブに行動できるはずもなく……今日も後藤ひとりの一日が終わりを迎えようとしていた。
そんな、ひとりが常々気になるクラスメイトがいた。
(あの人……私と同じ陰の者特有のオーラを感じる)
クラスの窓際席で机に顔を埋めて寝たふりをしている女。
名を松前こどくという、名前をつけた親の顔を見てみたいぐらいにステキな名前を持つ少女だった。
こどくはひとりと同じく、クラスに馴染もうとはしていない。寧ろ、距離を置くかのように誰かに干渉せずに一人孤独に過ごす人種であった。
(あの人になら……私でも話しかけられそうな気がする……!)
そんなことを毎日考えながら結局話しかけられずに終わる日々が続いているひとり。
心の中では勇気を振り絞って話しかけるところまではいくのだが、最後には諦めてギターを背負い直して帰る支度を始めてしまうのであった。
しかし、今日は少しだけ違っていた。
扉がガラガラと勢いよく開かれる。
「松前さん、一緒に帰りましょ!」
キターンと頭の上に効果音を背負う赤髪の女の子。瞳には挑戦的な気持ちからか、強気な炎が灯っている。
「ア"ッ」
喉に穴が空いたかのような音を漏らすこどく。席から勢いよく立ち上がると赤髪の少女が入ってきた扉とは逆の扉へと全速力で走り飛び出した。
「もう……なんで逃げるのー!」
そんな一コマを見てひとりは盛大に落ち込んだ。
(勝手に同類だと思ってすみませんでした。ぼっちなのは私だけでした。私はキノコ……教室の隅に生えた仲間外れのキノコ……)
ギターを抱えながら椅子にもたれ掛かり、一人白目をむいて泡を噴き出していた。
そして──一方のどうにかこうにか逃げ切れたこどくはというと……
(やっべぇ……なんとか撒いたか。私、何か喜多ちゃんに興味を持たれることしたか?)
別の意味で泡を噴き出して倒れそうだった。
唐突だが、輪廻転生をご存知であろうか。
転生──人は死ねばあの世へ行くのではなく、次の人生を歩むべく生まれ変わるといった前世とか来世有りきの一説だ。
そして、その転生を実際に体験したのが何を隠そう松前こどくという少女であった。
彼女は後藤ひとりや、赤髪の少女のことを前世でも知っていた。
『ぼっち・ざ・ろっく!』
後藤ひとりが個性豊かな仲間たちとバンドを組み、人としての成長、そして人生を豊かにしていくといったギャグ百合日常作品であった。
つまり、アニメやゲームの世界に転生するという。今やありきたりなジャンルに実際に巻き込まれてしまったのだ。
そんな彼女は赤髪の少女──喜多郁代のことを避けていた。
それはこどくが中学生の時、郁代の存在を認識してしまったその日から彼女は全力で避けてきていた。
こどくはこの作品が好きだった。登場する四人がそれぞれの個性を発揮しながらバランスの良い掛け合いをし、なおかつバンドマンとして成長していく姿を見るのが好きだったのだ。
こどくはそれを邪魔したくなかった。
百合の間に挟まる男、または女。この称号は彼女にとって最も忌むべき不名誉な称であった。
こどくは確かに女だ。だからなんだ。原作メンバーの間に挟まるような暴挙、しようものなら自分は死ねる。そのぐらい原作の四人の関係を尊く思っていた。
だからこそ中学時代、話しかけてきた郁代を無視して……
『松前さん、隣の席になった喜多です。よろしくね』
『プイッ』
無視して……
『なんで無視するの? 私、もしかして避けられてる!?』
『プイッ』
それはもう徹底的に無視をして……
『私、松前さんがお話してくれるまで頑張ってたくさんお話しするね!』
『……プ、プイッ』
その結果が冒頭のあれである。
たまったものではない。正直限界は近かった。
こどくを見かける度に話しかけようとしてきたり、執拗に関わろうとする姿勢を崩さない郁代の態度に……もはや、こどくの体力はゼロに近かった。
(なぜだ! なぜ、あんなにも話しかけてくるッ!)
こどくはひとりとは違う方向でコミュ障であった。一言、郁代に事情を嘘でもいいから話せていればここまで拗れはしなかっただろう。しかし、原作崩壊を過剰に恐れる彼女にはただ無視をするほかなかったのである。
郁代も郁代で無視されればされるほど、必死になる。
喜多郁代という人物は陽キャであった。そして、変なところポジティブであり人を偏見や態度で判断したり見限るような生き方をしない真の陽キャであった。
その彼女がこどくの態度を見れば、あら不思議。嫌われているのかを確認すべく、意地でもコミュニケーションを取ろうとしてくるのである。
この時、奇しくもひとりとこどくの心情は一致していた。
((私の高校生活、どうなっちゃうの〜!!))
そして、公園のブランコに暗く青ざめた彼女達の姿があった。
((……気まずい))
「ギター、居たー!!」
「「ゑ"?」」
かくして、ぼっちのバンドマンとしての人生がここからスタートするのであった。
◇
連れてこられたのはライブハウス『STARRY』。
薄暗いライティングが照らす店内は、ライブ用のステージと飲み物を提供するカウンターの主に二つに分かれていた。
その奥の控室には伊地知虹夏と山田リョウ。そして地下深くの魔境へと迷い込んだ哀れな子羊こと後藤ひとり……と松前こどくはあたふたした混乱の極みであった。
「代わりのギター連れてきたよ!」
「隣の人は?」
「友達みたいだったから一緒に着いてきてもらった」
隣で今にも泡吹いて倒れそうだったひとりの脳内でドーパミンが過剰分泌される。
(ともだち、トモ、ダチ……)
理解すればするほど脳内エンドルフィンが暴走し、幸せ物質が暴れ回る。
「連れてきたギター、涎垂らしてトリップしてるけど」
「あれ? 連れてきた人間違えたかも」
「(脱法)ロックだね」
ひとりの横で胃に穴が空きそうなほどのストレスである意味で脳内トリップしかけているこどくは反応すらしてもらえずに白目を向いていた。
「アハハ……これ、ライブできるのかな?」
「コンビで泡吹いてるの、おもしろ」
少しだけ正気を取り戻したひとりが理解したのは以下の内容であった。
・バンド名『結束バンド』
・明るさで乗り切ろうとする黄色が伊地知虹夏、表情が変わりにくい青いのが山田リョウ
・ボーカル&ギター担当がライブ開始直前に逃げた
そしてひとりに変わりのギターをしてほしいとの懇願を聞いて、ひとりはそれはもう大層に喜んだ。態度には出さずとも心の中でカラフルライトの中心で踊り狂うほどに喜んだ。
しかし、現実は非常である。
どれほどネットで名の知れた有名ギタリストであろうと、誰かと演奏をしたことのないひとりは演奏中リズムを合わせられず、クソ下手な独りよがりな演奏を晒してしまってしまう。そしてその結果にメンタルが壊れたひとりは、ダンボールの中に引きこもりいじけてしまった。
そんなこんなで二人(内一人は揶揄い半分)は懸命にひとりを励まし続けて、なんとか演奏を終え解散。
ひとりとこどくは会話もなく、微妙な距離感にて帰ることとなってしまった。
((……気まずい(テイク2)))
この時、ひとりのテンションは変な方向へと振り切っていた。
バンドに誘われるという幸運。そして初ライブを成功させた達成感。明日からも一緒にバンドができるという事実に……彼女の心内はたいそう絶頂していた。
だからだろうか、普段なら固く閉ざされたひとりの口が要らないことを必要以上に口走った。
「あ、あの……あ、明日から、また、その、よ、よろしくお願いしまちゅ!」
「アッ、ハイ」
こどくはこどくで一人テンションが振り切っていた。前世から知っている夢にまで見た結束バンドの結成場面に出くわし、なおかつ初ライブまで半分偶然とはいえ目撃してしまったのだ。
その衝撃が未だ抜けきれず、半分意識を飛ばしていた。
コミュ障同士の残念な受難は続く。
◇
「第一回、『結束バンド』メンバーミーティングを始めまーす!」
後日、もう一度集まった面々は神妙な面持ちで虹夏の宣言を聞いていた。
「それで、全くバンドに関係ない人が口から血を流してるんだけど」
「えーと、名前はなんて言うの?」
「……こ、こどく……さん、です」
「こどくちゃん……名前、凄いね」
「ぼっちとこどく、フフフ」
各々反応を示す中、口から血を吐いて現状を看過できていない松前こどくの姿があった。
そもそも、こどくにもう一度『STARRY』に来る気はなかった。しかし授業が終わり、帰ろうと下校道を歩いていると背後から気配あり。
振り向けば、俯きながら静かに一定の距離で着いてくるひとりの姿があった。
こどくは恐怖した。
いや、決して音もなく俯きながら着いてくるひとりを怖がったのではなく、今日の結束バンドのミーティングにひとりが参加できないのを恐怖したのだ。
このままこどくが家路につけば、ひとりはその後を着いてくるだろう。そしてそのまま家に入ろうとすれば声をかけられてしまうかもしれない。それは、こどくに対しての死刑宣告。原作キャラと懸命に関わらないように生きてきたこどくに対する最も有効な処刑方法だろう。
仕方なく圧倒的に遠回りして『STARRY』の前まで行き、ひとりを誘導しようと入り口で止まる。しかし一向にひとりが入る気配はなく、結局虹夏達に見つかり中に連行されてしまったのだった。
(……どぼじで)
結局原作と同じ流れに巻き込まれてしまい、途方に暮れるこどくの姿に、後藤ひとりは安心していた。
ひとりはバンドを組めることに喜んでいた。それは事実。しかし一人でライブハウスに入る自信はなく、どうにかこどくと一緒に入ろうと様子を窺っていた。
そしてミーティングを開始した時、緊張で話せないひとりはこどくの様子を覗き見る。
見れば白目を向き、血をスーッと口から垂れ流すこどくの姿。これは自分と同じように緊張して死にかけている図だ、とひとりは共感した。その安心からか二回目の場所、二回目の対面だというのに少しだけ笑顔で席に着くことができていたのだった。
(私だけじゃない……こどくちゃんも頑張ってるんだ。私も話に参加できるようにしないと!)
その様子をリョウがニヤニヤとしながら見つめる。
そしてこの惨状に虹夏はピトーっと冷や汗を流した。
「ハイハイ、と、ともかく何か話しを……あぁー、でも全然仲良くないから何話していいかわかんないや」
「こんなこともあろうかと」
唐突にリョウがカラフルなサイコロを転がす。面の上には不穏なお題の数々。そして、いざ止まったお題は──
「学校のはなしー!!」
虹夏が無理くりに腕を突き上げながら叫んだ。それはもうヤケクソ気味に叫んだ。
このメンバーミーティング、ひとりとこどくの歓迎会も含まれている。こどくはバンドに参加した訳ではないがこの際だ。まとめて自己紹介がてらに話を聞こうという算段であった。もう疲れてきた虹夏は絶賛後悔中だが。
緩やかに開かれた地獄の扉。
ひとりから語られるあまりにも陰な学校生活。リョウは本当に話を聞いているのか何のリアクションも示さずこどくを見つめ、虹夏はあまりの悲しい内容に顔を引きつらせた。
「じ、じゃあ、こどくちゃんは?」
このまま終わっておけばいいものを。こどくは存在感を消して空気中に散布されていたというのに、虹夏によって粒子をかき集められて実体化させられてしまった。
視線がこどくに集まる。
もちろん、こどくは話せない。『あっ』とか『えーと』とか何かしらの言葉が話せるひとりよりもずっと重症だった。
「どうしたの?」
優しい笑顔で声をかけてくる虹夏の気遣いが今は辛い。
注目されている。話しかけられている。自身の存在が認知されているというだけでもキャパオーバー。こどくは今にも意識を飛ばしてしまいそうなのだ。言葉など紡げるはずがなかった。
その様子にひとりだけは共感する。禿同だ。
思わず内心で「わっかる〜」と首を上下に揺らしていた。
だからこそ、この状況は自分がなんとかしないと!、と思い切って声を出してみた。
「こ、こ、こどくさんも……私、と同じ感じ、でふ」
「コクコクコク」
ひとりの助け舟に激しく首を振るこどく。左右でまとめた緑色の髪が激しく動き、ベチベチとひとりの顔にぶち当たった。
「そ、そうなんだ」
「こどくも面白いね」
「で、でも最近は教室に来る、女の子から逃げてました」
「追われているのか? 助けがいるならいつでも言って、虹夏が行くから」
「私が行くんかーい」
そして、次の話へと勝手に話は進んでいく。
その際こどくは耐えられず白目を向いて項垂れて、ひとりは自身が生み出したイマジナリーギタ男と会話をして固有結界の中に閉じこもった。
「全然結束してなーい!」
「結束バンドだけに」
一通りサイコロが一周した頃、最後にライブの話へと進行する。
ライブの話になるとこどくの意識は一気に覚醒した。そりゃそうだ。インストだけとは言え結束バンド初のライブ。こどくの魂にあの光景は刻まれた。
この時、虹夏の姉である伊知地星歌がこどくの隣に鎮座していた。肘をつきながら彼女達の演奏を微笑を浮かべながら見つめる星歌はこどくの方へと顔を向けることなく声を出す。
「お前は出なくてよかったのか?」
何度も念を押すようだが、この時のこどくは結束バンドのライブを見ることができて興奮状態であった。そしてなにより、今ばかりは全ての思考を放棄して目の前の曲に全神経を集中させていた。
だからこそ星歌の疑問にもほとんど反射的に答えることができていた。
「
この言葉はこどくの生の全てを表していた。彼女にとって、この世界で原作メンバーの日常を眺めていたい。そこに自身が混ざるなど異物でしかない。邪魔だ。
こどくの言葉には無意識にそんな意味が含まれていた。
それを聞いて先達者である星歌が思うところがないわけがなかった。だからといって、音楽に携わりたいといった雰囲気がこどくにはないことも読み取れる。
「私は彼女達のファンなんです」
「それで?」
「わたし……私は彼女達のこれからが見たいんです。ずっと、ずっと見ていたい。聞いていたい。彼女達の音楽という名の物語を(キリッ)」
「(カン☆コーン)!?」
この言葉に星歌は思わず目を見開く。
妹である虹夏が組んだバンドはまだ出来上がったばかりであり、曲も披露するのはこれが初めて。それにも関わらず、一目で結束バンドのポテンシャルに気が付き、なおかつ憧憬すら抱くような瞳で見つめながらの熱い口説き文句。これには音楽家でもあった星歌の胸は思わず高鳴りを隠せない。
「ふっ、なら責任持ってあいつらのバンドを見ていてやってくれ」
今度こそ星歌はこどくへと向き直る。
「ファンとして、友達として、ここのバイトとして……一番近くで、な。そういうことだろ?」
「……は?」
この光景を見ていたPAは後に語る。二人の会話は成立しているようでしていない。その表情は真逆の陰と陽であった、と。
そして場面は戻り、再びミーティング会場。意識を取り戻したこどくは星歌に言われたセリフを思い出して顔を青くした。
(この次のライブって確か……)
そう。喜多郁代が参戦した結束バンド本格始動ライブなのだ。なんてことだ。こどくが最も避けたい人物である郁代が来る。郁代来るよ。逃げようにも星歌との謎の約束によるバイトがある。もし逃げ出せば星歌に見下されながら「お前には失望したよ」と罵られる想像が容易に頭に過ぎる。
もうダメだ……おしまいだ……と、こどくの思考は絶望へと染まった。
「この二人っていつも顔芸しないと気が済まないの?」
「いいね(ツンツン)。この二人、私好きになってきた」
結果としてこのミーティングは、何一つ決まることなく解散となったのだった。
◇
先日、地獄の初バイトを体験したひとりであったが再び難所とも呼べる局面に対峙していた。
「松前さん、バイト始めたんだって?」
「(どこから漏れたんだ、その情報!)コクコク」
またもや郁代に絡まれているこどく。最近の二組では日常と化してきた光景であり、周囲もまた同じ様に慣れたものであった。
クラスメイトがスルーする中、密かに覗き見るひとりにはこどくの状況が痛いほどわかる。終始死にそうな表情をしているこどく。もはや、ひとりには自身の写身にすら思えてならなかった。
(あれキツイんだよなぁ……机の周りで話し出すやつ)
喜多のバイト談義に他のクラスメイトも集まってきて盛り上がる。こどくは、目から涙を流しながら口の端から控えめに泡を吹き出して倒れていた。
ひとりは自分も経験してきた苦い体験を思い出し震える。ああなっては最後、我ら陰者はただでさえ影が薄いのだ。勝手に盛り上がる周囲に置き去りにされ、会話にも入れず、ただ立ち尽くす木偶の棒と同じとなってしまう。
ひとりは震える心をなんとか落ち着かせて立ち上がる。
あの状況を冷静に分析できるのは自分だけ、そして助け出せるのも自分だけなのだと直感で理解する。
ひとりにはこどくに対して借りがあった。
それは先日のバイトの時、緊張からほとんど戦力にならなかったひとりであったが、それを埋めるが如く、初めてのバイトだというのに慣れた虹夏やリョウを置き去りにしてそつなくバイトをこなすこどくの姿があった。
こどくは前世の記憶を持つ特殊な人間だ。もちろん社会経験も今の高校生よりはある。したがってライブハウスのバイトだろうが仕事は仕事。何が必要で何をすべきかを瞬時に判断し、ある程度の雑務程度なら初見でも効率良くこなすエリート社畜の片鱗を見せつける羽目になったのだった。
そして、各人それぞれの反応はというと。
『私たちとは話せないのに接客はできるんだ……』
『ありがとう、こどく。これで私はバイトの時間に楽ができます』
『ふっ、流石だな。私が見込んだだけのことはある。だが山田、お前は給料無しだ』
接客の時に初めて聞いた声と初めて見せた笑顔に三人ともが頬を赤く染めている光景を見たPAは語る。最近ひとりとこどくを見る星歌が、後方腕組みにたり顔をしていることが多い、とのこと。
この時ひとりは思った。
(私もこどくちゃんみたいに頑張らないと!)
そう、今こそこどくに借りを返す時。
あの四面楚歌の友達を助けられるのは私だけなんだ。
勢い良くギギギギと椅子を引き立ち上がるひとり。その音に教室は静まり返る。
一気に視線がひとりに集まる中、目をギュッと瞑りながらも心を奮い立たせる。
(頑張れ! 負けるなひとり! 行くんだ!)
そしてギターを担いだひとりは……全速力で教室の扉から出ていった。
(ごめんなさい、ごめんなさい! 私にはやっぱり無理です)
勢いのまま走り去った後、辿り着いたのは閉鎖された屋上扉前の謎スペース。
「聞いて下さい、『友を見捨てたエレジー』」
哀しいメロディが静かに流れる。
ひとりは泣きながらギターを奏でて自己嫌悪を重ねていた。
「後藤さんギター上手いのね!」
「ブファ!?」
背後から殺気、もとい郁代が声をかける。
ひとりは弦で指を切りそうになりつつも、なんとか対応してギターを下ろした。
「ど、どうしてここに……こどく、さんと一緒じゃなかったんですか?」
「松前さんならここに居るわよ」
郁代の後ろを見れば白目を向いたこどくが郁代にぶら下がっていた。死体を背負うが如く、ひとりは郁代のバイタリティに驚いた。
「せっかく松前さんと話してたのに他の人に気を取られちゃったから抜け出してきちゃった」
言葉を発した郁代の瞳には謎の闇がグルグルと渦巻いていて、ひとりは笑顔のはずの顔を見ることができなかった。
「それよりも後藤さんギター上手なんだね」
「いや〜それほどでもあると言いますか〜、でへへ」
「後藤さんってちょろいって言われない?」
少し話し込んだ後に、郁代は少し深刻な顔をして語り出す。
「私もね、バンドやってたんだけどね。全然ギターが上達しなくてやめちゃったんだ」
「(聞いてもいないのに自分語りが始まった……)」
どうしていいのかわからないひとりはギターをケースにしまいながら、渋々話を聞いていた。
内容として憧れの人のいるバンドに入ったのはいいが、いざライブをする段階になった時に上達しない自分のことが嫌で無断で逃げてしまったという懺悔だった。
「だからギターの上手な後藤さんが羨ましいなって」
「あの、もしよかったら私もバンドやってるんですけど、その、ボーカルとかやってみませんか?」
こんな話をした後に、嬉しい言葉をかけてくれるひとりのことを優しい人だなと感じながらもやんわりと断る。
土壇場で逃げ出した自分には相応しくないと郁代は感じていた。
しかし、ひとりはここで諦めなかった。ここまで来ればもう引けない。自分と普通に話してくれる人を次も探せるとは思えない。絶対に郁代を勧誘してみせるとある種の使命感に駆られていた。
そして、ひとりはここでジョーカーを切る。
「私たちのバンドがライブをしているライブハウスで、こどくさんがバイトして「行くわ」えっ、アッハイ」
ほとんどコンマ換算で返事を返す郁代にビクッと驚くひとり。それを信じられないと訴えかけるこどくが睨みつけている。
(なんてことしてくれてんだこのボッチ!)
(やりましたよ、こどくちゃん! 私にも勧誘できました!)
見つめ合えば伝わる思いなどコミュ障陰キャ同士にはあるはずもなく、お互いに顔を合わせながらも気持ちは真反対の思いを抱いていた。
「もう二人とも仲良さそうでズルいわ!」
お互いに意味のわからないことを言われてしまい反応できなかったのであった。
◇
「逃げたギター!」
「ごめんなさーい!」
との台詞を残して処刑場へと連行された郁代は、震えながら刑の執行を待っていた。
郁代は移動中に薄々は感じていた既視感を確信へと変え、途中逃げようとしたところを無情にも見つかってしまい『STARRY』へと連行されたのだった。
郁代にとって結束バンドのメンバー山田リョウは特別であった。きっかけは些細なことだったかもしれないが自分の『普通』とは違う、『特別』に惹かれたのだ。
そして、それはこどくにも当てはまる。
中学時代に出会ったこどくは今とはまるで違う人物であった。
文武両道、品行方正、まるで高嶺の花を体現したかのような存在であった(キターン・アイ!)。
確かに前世の記憶を持つこどくにとって中学校での生活はイージー過ぎた(もちろん人間関係は除く)。勉強も授業で聞かされれば思い出して復習できる。運動も特に特筆することはなく普通の運動神経であり、体育では目立った活躍はしていないが運動音痴というわけでもない。
ようするに学校生活を友達はいないけれど、通常の高校生よりは水準が上の『特別』な活躍を無意識にしていたのだった。
しかし、なぜか郁代と話す時だけド陰キャのコミュ障へと成り下がってしまうのだが……そこに目を瞑って鑑みれば──喜多郁代にとって、身近な『特別』であった人とは松前こどくその人のことであった。
山田リョウが娘になりたい存在であるならば、松前こどくは妹になりたい存在。
そんな意中の相手でもあるこどくはというと、今は一人で接客をしていた。
四人が原作同様揃った光景を目にして、こどくはかつてないホクホク顔でご満悦であった。
口からはニチャニチャと気持ちの悪い音を漏らしながら普段の仕事の倍はこなしていた。
「な、なんだかこどくちゃんが、言い表せない顔でこっち見てるんだけど」
「こどくは本当に個性的。正直メンバーに欲しい」
「でも、誘ったら泣きながら土下座してきたから無理だよ」
郁代が来ることを懸念していたこどくであったが、いざ揃ってみるとやはり嬉しいものであり、自身はバイトの作業で距離を取っていれば何の問題もないことに今さら気づいたのだった。
そして、なんやかんやあって郁代は結束バンドに参加することになり無事にメンバーが揃うことになった。
「これからは毎日ここで会えますね!」
「ブヴォェェ!」
「あー! こどくちゃんがゲ◯吐いたー!」
「(わかる……わかるよ、こどくちゃん)」
「これはライブ前パフォーマンスで使える」
ここからがコミュ障陰キャ二人の、愛あり、涙あり、友情ありの感動ギャグ物語が始まる……はず!
つづく?
松前こどく
俺らの代表。今回は星歌さん意外と話してない。泡とゲ◯しか出さない無能。
後藤ひとり
オリ主の一番の味方であり敵。
オリ主が居ることにより精神的バックアップが取れ、ほんの少し余裕が生まれた。
伊知地虹夏
いつものツッコミ役の黄色いの。
山田リョウ
青いヤベェ奴。
喜多郁代
俺らの最大の憧れであり最大の敵。避けられ続けて少しだけ病んだ。
憧れは最も理解から遠い感情だよ。
伊知地星歌
後方保護者面のお姉ちゃん。
PA
この作品の常識人ポジション?