ようこそ科学至上主義の少年よ   作:54

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だめだ、難産が続きます。
早く無人島に行きたい。
キャラ崩壊起こしていないか心配すぎる。



コンビニ前で

 入学式の後、一通り施設の説明を受けた千空たちはその場で解散となった。

 各々、好きな下校時間を謳歌するらしい。ちらほらと今から遊びに行く約束をしているのが見える。

 8割以上の生徒が寮へと入っていく流れに逆らい、千空は踵を返した。なんとなく坂柳から視線を感じたが、今は意識の外に追いやる。

 向かう先はコンビニ。今日食べるための食品と生活に必要な消耗品を手に入れるためには、買い出しというのは必要だ。

 小さい頃から一人で暮らしてきた千空からしてみれば、今更家事に抵抗などない。だが長距離通学に、初対面のクラスメイトとの会合。さらには聞きたくもない偉い方の演説スピーチを延々と耳に入れ続けた千空の精神疲労はピークに達しつつあった。

 

(カップ麺でいいか……こればっかりは現代文明様に感謝だな)

 

 千空は本日貰った学生証をポケットの中で感触を確かめつつ、目的地であるコンビニへと足を運んだ。

 

 コンビニに入ってみると見慣れた景色が広がっている。

 当たり前か。別に千空は国外に出てきたわけじゃない。国内のコンビニであれば、どこも似たようなレイアウトで商品が並んでいるはずだ。意味不明な新商品を発売する某学園都市とは違うのである。

 

「ククク、どうやら物価は特別高いわけでもねえなぁ」

 

 156円のカップ麺を手に取って、千空は悪どい笑みを漏らした。

 これで彼の記憶している科学グッズの値段は、外の相場と変わらないことが確定だ。校門前で没収された物品全ての値段を合計し、即座に買い揃えた場合の合計ポイントを弾き出す。

 

(ざっと500万プライベート相当。分かってたが、サーモカメラとかがクッソ高え)

 

 現在の手持ちは10万ppで、全ての物品を買い直すのには到底及ばない。

 そもそも、500万ppを短期間で貯めるには、かなり強引な裏技が無ければ無理とさえ思える。

 

 千空はインスタント食品の陳列棚から、洗剤の陳列棚に移動して考えを深めた。

 

(そもそも、来月も10万ポイント振り込まれるのかも怪しい。教室に2台もカメラを設置しているような学校だぞ? テスト時のカンニング対策にしては大袈裟すぎんだろうが。なんか裏があんのは確定だ)

 

「この学校に科学部でもありゃ手っ取り早く乗っ取るんだがな……入学の手引きには書いてなかったし、こればっかりは仕方ねぇか」

 

 科学部さえあれば、千空先生による「科学大好きっ子に洗脳大作戦」を実行できた。そうすれば宇宙に行くための労働力(マンパワー)もゲットできただろうに。

 

「あ”?」

 

 ふと、洗剤の陳列棚から移動してきた千空の目に、妙なものが視界に飛び込む。

 コンビニの隅に置かれた一部の食料品や生活用品。

 一見、他のものと同じに見えるが大きく異なる点がひとつだけあった。

 

「「無料?」」

 

 誰かと声が被る。

 千空は無料の商品コーナーに夢中で気がつかなったが、どうやら先客がそれを見ていたらしい。

 声の被ってしまった人物を確認しようと面を上げてみた。するとそこには、美醜に詳しくない人間でも可憐だと誉めてしまうだろう容姿をした少女がひとり。千空とその少女はほんの一瞬だけ、お互いの瞳をかち合わせた。

 

「……なに?」

 

 先に切り出したのは、ナイフにも見紛う鋭利さを誇った少女の声である。

 その声に千空は思わず顔をしかめた。

 

「あ〜〜〜、商品だけ見てて気がつかなかったわ」

「そう。だったら、今度からは気をつけなさい」

 

 少女は千空を見るのをやめ、興味の対象だった無料商品を物色し始める。

 千空も大概だが、この少女も少女で大概だ。

 別に愛想良くしてもらおうと思ってはいない。けれど、流石にこの少女のナイフにも見紛う鋭利さにはため息が出そうになった。

 千空は触らぬ神に祟りなしと、その場から離れようとした時である。

 

「悪い。こいつはこういう奴なんだ」

 

 少女の斜め後ろから、ぬるりと体を滑らすように青年が出てきた。

 当然、謎の生物でも見るような目で、いきなり謝罪してきた青年を千空は見る。

 いや、これは千空だからというわけではない。

 千空と少女の会話はあれで終わりを告げていたはずだ。別に互いが後腐れなく、終わらせたのだからそれでいいだろう。

 なのに青年は掘り返すように話しかけてきた。

 なんとも言えない顔色で千空が青年を見つめると、彼はしれーっと視線を横に逸らす。その動作に何故か毒気が抜かれてしまった。

 

「別にどうってことはねぇ。気にすんな」

「助かる、俺は綾小路清隆だ」

「いや、なんでいきなり自己紹介だよ。唐突すぎんだろ」

 

 千空は綾小路のぐいぐいくる姿勢にドン引きし、頬を引き攣らせる。

 千空は知らない。

 今朝、綾小路は声を掛けるのを躊躇ってしまったために、前の席の小太りクラスメイトと友達になり損なったことを。

 また千空は知らない。

 綾小路は自己紹介をしたくて仕方がなかったことを。

 

「……俺は石神千空だ。よろしくな」

 

 とりあえず、相手が名乗ったのだから自分も名乗っておこう。

 そのくらいのノリの良さを見せた千空に、何故か綾小路は些か嬉しそうにしている。

 訳がわからない。

 これは千空の持論ではあるが、こういう男とのやり取りで気色の表情を浮かべるのはホモか、策士(たぬき)である。とんだ失礼な勘違いをしているが、側から見てもそう思われてしまう会話だった。

 

「あなた、流石に気味が悪いわよ」

 

 千空の気持ちを代弁するかの如く、隣から言葉の矢が放たれた。

 

「今さっき出会ったばかりの相手に、いきなり自己紹介なんて非常識だと思わない?」

「……お前も初対面の相手にボロクソ言ってるのは非常識だと思うけどな」

「そう? 私はただ事実を言っているだけよ。あなたの奇行と違ってね」

 

 犬も食わなさそうな喧嘩を、目を細めて眺める千空。彼の胸中は「面倒くさそうな連中に絡まれてしまった」その想いだけである。

 確かに高校生ともなれば、あらゆる地域から人が集まる可能性が大きい。さらにここは国営機関。全国レベルから選りすぐりの学生が集められていることだろう。

 故に個性的な連中が集まるのは必然とも言える。

 言えるのだが……あまりにも個性的な人間が多すぎる気がした。

 

「っせえな、ちょっと待てよ! 今探してんだよ!」

 

 突如。和やかなBGMを掻き消し、やたらと大きな声がコンビニの中に響き渡る。

 会計で揉め事があったらしい。一人の赤髪の生徒が後ろで待っている他生徒と言い合いをしていた。

 流石に問題ごとが多発しているせいで、千空も投げやり状態だ。適当に隣を見れば、綾小路がじぃと問題の発生源である赤髪の生徒を見つめていた。

 

「知り合いか?」

「ああ。今日、同じクラスにいた。少し行ってくる」

 

 友達作りに飢えている青年は、これみよがしに赤髪の生徒へ寄って行った。

 

「どんな雑頭してんだ、アイツは。ただ学生証忘れた奴がガキみたいに喚いていただけだろうが」

「たしかに理解に苦しむわね。あれが彼の友達を作るための行動というのなら、もはや憐れみを覚えるレベルよ」

 

 え、と千空は隣を見れば、少女がこちらを見つめながら喋っていた。

 綾小路と言いこの少女と言い、なぜ突拍子もなく話しかけてくるのか。

 

「……人のこと言えねぇだろ、テメーも」

「なにか言ったかしら」

「いんや、なんにも」

 

 どうやら、綾小路は綾小路で距離感がバグっているが、この少女も少女で人との付き合い方がバグってるらしい。

 なんでかは知らないが。その後、千空と少女、さらに赤髪の生徒からカップ麺を受け取った綾小路の3人は、仲良くレジに並んだ。

 

 

 

***

 

 

 

 レジで会計を済ませ、コンビニを出た数分後のことである。

 赤髪の生徒——須藤と少女——堀北が言い合いをしたのまでは良かった。

 だが、それ以降がいただけない。

 

「はい、俺たちの荷物がここにはありました。だからどけ」

「いい度胸じゃねぇか、くそが」

 

 コンビニ前でカップ麺を食べようとしていた須藤は、現在、柄の悪い上級生3人に絡まれ中であった。

 段々とヒートアップしていく口論。いつでも抜き放てるよう、須藤は握り拳を固くしてすらいる。

 あの3人の態度が悪いのもあるが、一番の原因はこの須藤という男が短気すぎるところだろう。まさか、あの雑頭の爪の垢を煎じて飲ませたいと思う日が来ようとは千空も思わなかった。

 さてどうしたものかと、場の流れに従い千空は突っ立っている。

 隣で同じく傍観を決め込んでいる綾小路も、特に動く気配はなかった。

 

「おー、怖い。お前何クラスだよ。なんてな。当ててやろうか? Dクラスだろ?」

「だったらなんだってんだ!」

「聞いたか? Dクラスだってよ。やっぱりな! お里が知れるってもんだよなぁ」

「あ? そりゃどういう意味だよ、オイ」

 

 須藤が上級生の胸ぐらを掴みに近寄っていく。

 流石にここが限界か。

 千空はコンビニで買った洗剤二つを取り出して、両者の間に割って入ろうとする。

 が……。

 

「そこまでだ、須——」

「テメェはすっこんでろ!」

 

 瞬殺。

 それは瞬きをするほどの短い時間で、相手を殺す又は無効化したときに用いられる言葉である。

 須藤の暴動を止めようと破って入った千空は、まさしく象に挑む蟻のごとく、軽々と吹っ飛ばされた。

 さしもの須藤も、「え、あ、おい」と声を漏らすしかない。彼からしたら少し力を入れて押しのけた程度の認識でしかないのだ。なのに、思ったより千空は派手に吹っ飛んだ。しかも、どうやら大袈裟にファールを取るような感じじゃない。

 

「ゴ……ゴリラかよ、テメーは」

「なっ、お前が勝手に……つぅか、誰がゴリラだ!」

 

 千空はよろよろと上体を起こしながら、白衣に着いた砂埃を落とす。

 体にダメージはない。見た目は派手に吹き飛んだが、須藤自身が相手を傷つける意思を持っていなかったおかげだろう。千空がミジンコパワーであっただけで、これが綾小路であればしっかりと体をぶれさせることもなかったはずだ。

 面白いものが見えた、と千空と須藤の寸劇を見ていた上級者らは腹を抱えて笑う。

 

「ぶはははっ、まじかよお前ら! 『不良品』同士で仲間割れかよ! いひひひ、仕方ねぇなー! 可哀想なお前らに今日だけはココを譲ってやるよ! 行こうぜ」

 

 千空と須藤がよほど憐憫に映ったらしく、先輩方は笑うだけ笑い去っていった。

 なんにせよ。ようやく意義も価値もない言い合いが終わったようだ。

 

「なんなんだよ、アイツら……クソが」

「まぁ、世の中にはああいう奴らもいるってこった。急に絡まれたことは災難だったが、テメーも喧嘩腰過ぎだ、バカ」

「あぁん!」

 

 須藤は最後まで苛つきを抑えられていないものの、突き飛ばしてしまった千空を一瞥する。

 

「チッ…………おい、お前名前は?」

「あ? 石神千空だ」

「石神か……だったら覚えとけよ、石神。俺はテメェの世話になったとは思ってねぇからな」

 

 須藤の言葉に千空は心底意味が分からなさそうな表情を浮かべた。

 と言うよりは、興味なさそうな表情を浮かべる。

 

「ククク、べ〜〜〜つに構いやしねぇ。恩を売ろうなんざ1ミリも考えてなかったわ」

 

 千空の挑発混じりな声音に、須藤は毒気でも抜かれたのか「そうかよ」と呟き去っていく。学生寮にでも戻るんだろう。

 ずっと静観していた綾小路は、須藤の後ろ姿が見えなくなると、おもむろに千空へ言葉を投げかけた。

 

「唐突に名前を聞くなんて、変な奴だったな」

「そりゃテメーも——んや、もうどうでもいいわ。指摘すんのがめんどくせぇ……」

 

 いきなり自己紹介を始めるわ。堀北という少女といきなり口論するわ。ろくに話したこともない同級生のカップ麺を奢ってやるわ。

 お前も人の事言えないけどな、と思いながらも、千空はげんなりとした表情で返すのがやっとだった。

 千空と綾小路。お互いに視線を合わせること数秒。諦めたように、それぞれが須藤のぶち撒けた具材やらを片付けだしたのは言うまでも無い。

 

 

***

 

 

 部屋に戻ってきた千空はぐるりと部屋を見て回った。

 大体、わずか8畳くらいの広さ。高校生が一人暮らしをする分には十分すぎる内装だろう。千空の自室と比べたってあまり大差ない。まぁ、彼の場合は科学道具を置きすぎて、その分かなり圧迫されたレイアウトだったのだが。

 

 千空はあらかじめ設置されていたベッドに制服と白衣のままダイブする。頭の中で考えるのは、明日から始まる学校生活のことだ。金の勘定なんざ今はしたくはないため、Sシステムについては思慮の外へと追いやる。

 見慣れない天井のシミを数えることもなく、また瞬きすることもなく見つめ続ける千空。

 数分だろうか。それとも数十分だろうか。もしくは一瞬かもしれない。

 彼ひとりしかいないこの部屋で、千空は徐に口を開けてこう呟いた。

 

「……………………よっしゃ、作るか」

 

 善は急げ。

 千空は学生証をポケットの中に入れ、職員室へ足早に向かう。

 




何を作るんだ、こいつは……!?


と、今回はここでおしまい。
アンケートは我らが綾小路と坂柳さんが独走状態です。
彼女、足悪いのにここまで圧倒的差をつけるなんて、もしかしたら隠れたメスライオンなのか。

次話で活躍があるといいね、へけっ!
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