猫の少女に拠り所を   作:ムカサキ

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はざまテスト

 受験戦争なんて言うがその言葉に違和感を持っていたのを覚えている。

 やってることは大人数の候補生を絞るため厳しい条件を付けて優劣をつけ、合格者を出しているだけのことであり、実際に殴りあうどころか、受験生同士の関わりなどほとんどなく、結局は自分の努力次第で終わるようなものを戦争扱いするのはいかがなものかとは感じていた。

 確かに言葉のインパクトだったり、互いの点数を争う様は戦っているように見えるが、そんな景色は塾くらいでしか見ないだろう。現に俺は見たことがない。

 

 しかし、ことこの世界におけるヒーロー科の受験、特に雄英の受験はまさしく戦争だろう。

 注意点としては、相手は血の通わないロボットであることくらいかな。

 

 

 

 

 雄英高校ヒーロー科の一般入試実技試験当日。

 

 

「……緊張する」

 

 雄英の門前にて微妙に足を震わせる情けない男が一人。俺だ。

 

「いつも自信満々で鬼人君の意外な一面だよね」

 

 その隣で揶揄うような笑みを見せる、三つ編みメガネの美少女。

 中学3年には不釣り合いな戦闘力を見せる彼女に思わず目を奪われるものも少なくない。

 

「う、うるさいな。今後の人生に大小あれど関わんだぞ、緊張もするさ」

 

 もとより大舞台には弱い性分なんだ。学生の時の発表会でもそうだった、いつも頭の中では完璧に計画立てるのに、いざ始まると足が震えやがる。

 切羽詰まってやる方が得意なタイプなのだろうか。

 

「それにしても緑谷の奴、遅刻か? 入試の時くらいは集まる約束したのに……」

 

 どうにも緑谷は3年の初めの頃から急激に忙しくなり一緒に訓練する機会もなかなか作れないほどになり、最近じゃ時々死んだ魚の眼をしていたからよっぽどの事情があるのだろう。

 遅咲きの危険を持った個性に目覚めた彼は当初はとても喜んでいたが、その制御に強く悩んでいた。

 羽川に相談するも緑谷自体、個性について正しく理解していないせいかレクチャーも上手くできなかった。感覚型の個性には流石の羽川もお手上げだった。

 試験を前に緊張のあまり体でも壊したのだろうか……

 

「一応もう入っておくか? 緑谷とは終了後に集まるとして……」

 

「うーん、もうちょっとだけ待ってみない? 置いてくのは流石に可哀想だし……」

 

 相談している時向こうから緑髪を振り回し走る少年が見える。

 

「ごめーん! 遅くなって……どうしても外せない用事があって」

 

 息を切らしながら謝る緑谷だが、試験当日の早朝にどうしても外せない用事ってなんだ? 

 お世話になった人に挨拶でもしていたのだろうか、どうも最近師匠的な人が出来たと言っていたしな。

 

「おせーよ、こっちはもう準備万端だぜ」

 

「まーた、さっきまで緊張で震えたくせに」

 

 いらん事言わなくていいの。

 

 雑談もこれくらいにして、試験を受けるため説明会場へと向かう。誤魔化したわけじゃないぞ。

 

 

 

『今日は俺のライブにようこそー! エヴィバディセイヘイ!』

 

 なんという声量だろう、これに歌下手要素を足して有名なガキ大将になるのか。

 ハイテンションで話すが全くノッてくれない受験生など気にせずそのままのテンションで説明を続ける彼の精神力に脱帽だ。なんという人間強度、友達いないのだろうか。

 

『俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校『校訓』をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った! 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と! “Plus Ultra”! それでは皆、良い受難を!』

 

 その言葉で説明を美しく締める。

 

 割り当てられた試験会場はどうやら羽川たちとは重ならないようで、協力することは不可能だった。

 

 到着した試験会場ではそわそわする受験生や準備体操をするもの、三者三様に受験生たちは開始の合図を今か今かと待っていた。

 当の俺はといえば、個性によって作り出した翼のテストをしていた。久しぶりの運用だ、それもこれだけ広い敷地を飛ぶことなど滅多にないため少しワクワクもしていた。

 

『ハイ、スタートー!』

 

 唐突に告げられる開始の合図に戸惑うものがほとんどの中、一人だけロケットスタートで飛び立つものに困惑する受験生たち。

 

『どうしたぁ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ! 走れ走れぇ! 賽は投げられているぞ!』

 

 その言葉を皮切りに一斉に動き出す。

 こちとら羽川大先生の教えを受けてんだ。突然のスタートにも対応できるように調教されているぜ。

 ちなみに、その調教の中でちょっとだけ嬉しく感じたことに後で恐怖心を覚えたぜ! 

 

 もう人がゴミのように見えるほど飛行し、空中から敵を捜索する。目当てはもちろん3Pの仮想(ヴィラン)だ。

 

 3体ほどの塊を見つけ、準備に取り掛かる。

 

 あの時のように鋭利な爪で自身の掌を傷つける。流れ出した血は空中に留まり、やがて1Mほどの槍に形成される。

 

「血製『鬼槍』」

 

 3年前は拳大ほどの大きさしか保てなかったこの技も3年の月日と羽川大先生のご指導によりここまでの大きさに出来た。

 

 一気に急降下し、仮想敵へと接敵する。

 

「まずは、一ッ!!!」

 

 相手に動させず一番後ろのヤツの頭を破壊する。

 

『標的発見。ブッコロス!!!』

 

「いや、お仲間がひとりやられてんのよ」

 

 テンプレのようなセリフを吐き臨戦態勢に入る仮想敵だが、2体、3体目も続けざまに攻撃する。

 

「これで9Pか……見た限り3P敵は少ないようだから効率的に動かないとな」

 

 小休止をしていると音を聞きつけたのか1P敵が物陰から現れる。

 既に鉄くずとなった仮想敵の残骸を掴み、思い切りぶん投げる。片手で持ち上げることが出来ないことに吸血鬼との力の壁を感じるぜ。

 

「ラッキー、これで10Pだ」

 

 そしてもう一度飛び、空中からの索敵・強襲を繰り返し、合計で40Pほど稼いだ時、突然地震が起きたようにビルが倒壊し、その中からビル並みの巨大ロボットが大通りに出る。

 

「で、でかいな……巨大ロボか、胸は躍るが……流石にやばいな」

 

 俺の1Mの槍と比べるのもおこがましいほどのBIGサイズの敵に後ずさる。

 

 しかし、その巨大ロボの近くには頭から血を流し倒れている少女が眼に入る。

 その瞬間、俺の足は考えるよりも先に前へと走り出した。

 

「目の前の女の子くらい、助けなきゃなぁ」

 

 ロボの出現によりボロボロとなったビルから瓦礫が少女へ降り注ぐ。

 握っている槍を少女の頭上めがけ投げる。

 

「『群体』」

 

 血の槍はバラバラになり5cmほどの大きさの小さな槍先の集合体となり、少女の頭上で激しくうごめき瓦礫を弾き飛ばす。

 

「手荒になるけど我慢してくれよ!」

 

 槍は元の形に戻り、俺は倒れた少女を担ぎ上げ全力ダッシュで離れる。流石に人一人抱えたまま飛ぶ技術はまだ身に着けてない、これも一つの課題点だな。

 

 しかし、逃走を図る中仮想敵が待ってましたと言わんばかりに出てくる。

 

 思考がフリーズしそうになるの中、少女を真上に放り投げる。

 

「『分解』ッ!!!」

 

 今度は槍を2分割しそのまま頭に突き刺して敵を蹴り飛ばし、女の子をキャッチ。

 

「ナイスキャッチ!」

 

 自画自賛だ。今のワンシーンで考えたらめっちゃかっこよくね? と下らん事が思考を過ぎ去るとき

 

『終了~!!』

 

 プレゼント・マイクの声が試験会場に響き渡る。

 そのバカでかい声に意識を取り戻したのか、少女が唸る。

 

「う、うぅ……一体何が……」

 

 偶然に俺は少女にまるで王子様のような膝つきお姫様抱っこ?のような体勢になっていた。

 

「あ、あー……おはよう?」

 

 ビンタされた。頑張ったのに……よよよ。

 こうして、俺の受験はビンタで幕引きとなった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

雄英高校ヒーロー科の会議室では、雄英の校長や教師陣が出席する重要会議が行われていた。

 

「実技総合成績が出ました」

 

 前方の大画面に受験生の名前と成績が上位からズラリと並ぶ。それを見た教師陣から感嘆の声が複数上がった。

 

「今年は豊作だな、主席は総合P98か。おまけに筆記も全て満点と、何年振りだ?」

 

手元にある受験生たちのそれぞれの結果をまとめた資料を見て目を丸くする。

内申書や調査書などからも不正を行ったものでも偶然の結果でもないと判断できる。

 

「あぁ、それも敵・救助ともに高い数値だ。戦闘だけじゃなく、救護者への処置も完璧だ」

 

「スイッチの切り替えの早さも素晴らしい」

 

手放しに主席の少女を褒め称え、文句なしの1位だと教師たちは感心する。

 

「しかし、次席の少年も敵Pのみでこの得点か」

 

「爆破の反動で飛んだ時はマジかって思ったぜ」

 

「時期が違えば十二分に主席候補になりえるんだがな」

 

「それは3位の子もそうだぞ、俺はこっちの方が好印象だな。最後はビンタって、オチまで用意してるとはな」

 

若干、芸人的な要素を見出される少年もいた。

 

「まぁ、飛行能力を持つ個性はそう多くはない。爆豪君も飛べこそするが、周囲への安全性に欠けるし、鬼人君の方は隠密行動にも向いている」

 

「攻撃性では爆豪君に軍配は上がるが、救助活動なども含めれば評価は変わってくるな」

 

ワイワイと好き勝手に騒ぎながら講評を行う教師陣だが、ひときわ印象に残っている受験生がいた。

 

「しっかし、目玉はあの0P敵を倒した少年だな」

 

「アレに立ち向かったのは過去にも居たけど…ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」

 

「思わず、YEAH!って言っちまったぜ」

 

「そのあと腕も足もボロボロになっていたけどな」

 

ただ感心するだけではなく、少年の問題点も重々承知しての注目と感動だった。

なにせ、自分の体を壊してでも誰かを救おうとした行動は、ビジネス的風潮の強まっているヒーロー社会に身を置く当事者たちにとって、眩いものだった。

 

そして、次の注目者へと話題は変わり、会議は続く。

 

 

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