でも、初期の爆豪はしょうがないよ。
「時間切れによる勝利……作戦は完璧でしたわね!」
プリプリという擬音がしそうな様子で喜ぶ八百万さん。冷静沈着な雰囲気があったけど、意外と可愛い女の子の一面もあるんだね。
「そうですね、八百万さんのマントと閃光弾のおかげで奇襲も安全に仕掛けれたので、時間稼ぎも成功しましたし、盤石の布陣でしたから」
皆が待つモニタールームへ移動する間に、今回の訓練について話し合っていた。
本来なら私が時間を稼ぐことなく勝利できればよかったんですが、時間の都合上、罠をそこまで張ることが出来なかったので、及第点というところでしょうか。
「あ、羽川さん……だっけ? いやー、手も足も出なかったぜ」
入口前で待っていた上鳴が声をかける。
彼のそばにはヘトヘトで今にも倒れそうな耳郎が壁に持たれかかっていた。
「え、ぐいよー……八百万さん……私の個性、全部潰されちゃったよ」
1500m走を終えたような息も絶え絶えの中、耳郎は話す。
「それに、羽川さんに触られた途端にヘトヘトになっちゃったし……」
もうお手上げと言わんばかりに耳のイヤホンジャックが×マークを作っていた。
『さぁ、4人ともモニタールームに戻ってきてくれ。講評の時間だ!』
軽く談笑しているとオールマイトからの通信が入ったため、耳郎さんに肩を貸してモニタールームへと向かう。
「今戦のベストは羽川少女だ! 相手の個性を把握し、正面から戦うのではなく、時間を稼ぐことを重視した罠の配置や妨害工作など、ヴィラン側も下手な戦闘は抑えたいものだ。このようなケースにも対応しなければいけないのがヒーローというもの。今回は耳郎少女への奇襲が決定打となり、勝利を掴んだ。見事だったぞ、羽川少女!」
少し照れくさそうに頭を下げる羽川。手放しで褒められるのは鬼人君以外ではなかなかないため、少し恥ずかしい。
「それらを踏まえてこの第5戦を振り返ってみよう!」
その後、第5戦の講評は滞りなく終わる。これをもって戦闘訓練は終わりとなった。
「お疲れさん! 緑谷少年以外は大きな怪我も無し! 皆真摯に取り組んで、初めての訓練にしちゃ上出来だったぜ! それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば。皆は着替えて教室にお戻り!」
オールマイトはそう言い残して急ぐように走り去っていった。実際、オールマイトの活動時間は授業時間でギリギリであった。落ち込む爆豪を気にしながらもオールマイトは医務室へと急ぐ。
◆◆◆
「なあ! 放課後は皆で訓練の反省会しねぇか?」
「あ、それいいじゃん! やろうやろう!」
「お、いいな。参加するぜ」
「あ、俺も」
下校時間となり皆が帰る準備をする中、切島が大声で呼びかける。すぐに芦戸が諸手を挙げて参加を表明し、多くが参加する事になった。
「全員参加か? あ、鬼人。お前はどうする?」
せっかくのお誘いを断るのは心苦しいが俺にはやらなければいけないことがあるのでな。
「あー……ゴメン、ちょっと用事が……」
「そうか、引き留めて悪ぃな。じゃあまた明日な」
切島はそう言って参加者を募るため、別の者へ話しかける。
俺はというと、校門前で三つ編みをクルクルと弄り、誰かを待っているような羽川に話しかける。
実は授業が終了した時に話す約束をしていたのだ。
「あのー、そのー……羽川、さん?」
「……なーに? 私には女性の敵のお友達はいないよ」
うぅ、やっぱり怒ってる。どうするべきか、俺は羽川のストレスを減らし彼女の人生を良いものにするための手助けとして存在しているというのに……
どうやって謝ればいいのか皆目見当もつかない。
「その、どう示しをつければ良いのかも……」
あれは軽いジョークだったんだよ! なんて口が裂けても言えない。
自惚れるわけじゃないが、彼女にとって今一番信頼できるのは俺だろう。
多少どころか大いに自意識過剰であろうが、彼のようなハイパー鈍感クソ野郎でいるよりもはるかにマシだ。
そして、そんなヤツが君と付き合ってるって冗談言っちゃたよー、アハハ。
で、済むわけがない。俺なら殺している、そんな腐れ外道。そして、それに近しい行為をしたのは俺だ。死にたい。
「その、峰田が女子と仲良くしているのかなんて聞いてきたからさ、羽川と仲良いって自慢したくて……」
校門前で俺は一体何を言っているんだ。傍から見れば浮気がバレて言い訳をしている男にしか見えない構図だ。
「だから、その、ゴメン。雄英入学出来て、たぶん舞い上がってた」
今の俺じゃあ何を言っても無駄だ。素直に謝ることしか出来ない。
「……」
こちらをジーっと睨むように見つめ、大きくため息をつく。
「鬼人君のそういうところは今に始まったことじゃないし、励ましてくれた時もあったけど……」
「本当にすいません……」
枯れた向日葵のように、頭をたれ続ける俺。
「ハァ……パフェ」
「は、はい?」
「パフェが食べたい気分だなーって」
!!!
「そ、それなら結構美味しいとこ知ってるぞ!」
救いの手を差し伸べてくださるお猫様だ。ありがたやありがたや。
「そう? でも私、お小遣い制じゃないからなー」
「な、なに言ってんだよ! 一応俺にもプライドはあるぜ。もちろん俺が持つよ!」
さっきまでどんよりとした空気で話していた俺だがなんとか垂れた蜘蛛の糸に縋りつく。
「そう? でも悪いなー、奢ってもらうなんて」
あ、遊ばれている……確かに阿良々木君にもちょっと意地悪したり揶揄ったりしてたけど。
「い、いや羽川に施すなんて至上の喜びだよ! 全然気にすんなよ!」
あーもう滅茶苦茶だ。自分でも何言ってんのか訳が分からん。
いや、確かに羽川にパフェ奢ることなんて苦どころか幸福感すら感じるが。
「ふーん……じゃあそうしようかなっ」
どうにか交渉は成功したようだ。ひとまず店に向かって歩き始めたが、これからは意味の無い冗談と見栄を張るのはやめよう。そう心に強く誓った。
◆◆◆
ちょっと、意地悪だったかな……
廊下に布団を敷き、横になる少女は一人今日の出来事を思い出してはもぞもぞと動き、眠れずにいた。
本当はパフェなんて食べたいとは思っていたかったが、彼があんまり落ち込んでるから助け船を出してあげたくなった。あれで気づかないようなら、もっと意地悪していたかもしれない。
……いけないと分かってはいるが、彼が私のために十面相するのがたまらなく愛らしくて、やめられない。自信に満ちた彼や慌てふためく彼、喜びを隠せない顔、そのどれもが愛おしく、それ見たさに揶揄ってしまう。
それに私だって更衣室でいろいろ聞かれたりしたし、いつも調子の良いこといって揶揄ってくるからお互い様だから、ちょっとくらい遊んでもいいよね。
彼はいつも私のことをなんでも知ってると言い、私はそれにお決まりのセリフを返す。彼はこの一連の流れが本当に大好きだ。別に馬鹿にされているわけでもないから怒れないから、こんな時についつい意地悪してしまう。
……そっかぁ、私と仲が良いのを自慢したかったのかぁ。
きっと、彼も私のことを憎からず思ってくれているだろう。これは期待もあるが、多少の確信も持っている。
私だって女の子なんだ、あんな王子様のように助けられたら、孤独から救い上げられたらさ、好きになっちゃうんだから。彼は私を助けてくれた時、出会って間もないのに私といるのは好きだと言ってくれた。
あんなキザでかっこつけたセリフ、フィクションの世界にしかないと思ってた。でも、彼の言葉は今まで私と知り合った人の中で誰よりも誠実で心からの声だった。
こんな私と真摯に向き合ってくれたのは彼が初めてだった。
ゆっくりでいい。一つ一つ確実に、彼との距離を縮めていこう。
彼の心の中の私がもっと大きくなるまで、少しずつでいい。
よくよく考えると今日の出来事は世間一般で言うデートに値するのだろうか。
そう考えると、顔が熱くなってくる。経緯はどうあれ彼と一緒にどこかへ外食したのは初めての経験だ。
思い返せば、外食という経験自体ない私には初めてだらけの一日だったなぁ……
今日の出来事はきっと永遠に忘れないモノになるだろう。