まず初めに語らせてほしい、俺の愚痴……いや、どちらかと言えば後悔だな。
俺という人間がいかに愚かで自惚れていたということを。
吸血鬼としての能力の数々に正直に言えば調子に乗っていた。
人間の力を越えた身体能力、腕一本へし折れても2、3日で治る回復力、吸血鬼としての固有能力。そのどれをとっても、この世界でですら優秀で所謂「強個性」ってやつに分類されるだろう。
そして、その力は自分が最も憧れた存在に近しい能力だから、俺は勘違いをしていた。
愚かにも俺は自分が「
あの最高にカッコ良くてカッコ悪い、正義の味方にさ。
そもそもが間違いだった。
彼のようになろうとしてはいけないし、出来ないものだというのを分かっていなかった。
現実とフィクションに区切りを付けれなかった、まさしく廚二病だった俺にはおあつらえ向きの状況だろうさ。
でもよ、しょうがねぇだろ……こんな体になって、彼女と出会ったらさ……助けたくなっちまうんだよ。目を背けるなんて選択肢は最初っからなかったんだ。
そしたらさ、思い浮かんじまうんだよ。彼みたいにカッコ良くて、ユーモアにあふれてる最高にイカしたヒーローの自分を。
さて……少し長くなってしまったが、そろそろ見てもらおうか……思いあがったバカ野郎を。
マスコミの侵入と委員長決めを終え、皆がどこかで不安な気持ちを抱えてる中、変わらず授業は行われる。次の日、再びヒーロー基礎学の時間となり、教団に立つ相澤先生は『RESCUE』と書かれたプレートを生徒に見せ、説明を始める。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった。内容は災害水難なんでもござれの人命救助訓練だ」
相澤はコスチュームの着用は各自で判断し、訓練場まではバスで移動すると言い放ち、すぐに準備を始めろと生徒たちに告げた。
人命救助か……ヒーローの活動としてはヴィランとの戦闘がフィーチャーされることの方が多いが、ヒーローとしては最も必要な技能だろう。基本的にどんな環境でもある程度は耐え忍ぶ自信はあるが、実際に体験するのは、まぁ当然だが始めてだ。
「救助活動かぁ……私の個性じゃちょっと難しいかも」
「衣類の上ですら発動するもんなぁ……」
確かに、羽川と救助活動の相性はかなり悪いだろう。
衣類の上からですらエナジードレインしてしまうため、その高い身体能力や聴覚を無駄にしてしまう。助けるべき相手の精根を吸いつくしてしまうなど話にならない。
となれば、救助活動の際には基本的にはパートナーが必要となるが、羽川ほど優秀なブレインを救助活動の人員に回すのはなぁ……
個人的にはだが、羽川と八百万は救助された者の看護や手当に当たるのが一番だと思う。彼女たちならば、というか羽川ならあらゆる怪我も的確に対応できるだろう。
しかし、現場での急を要する手当も必要となるだろうし……
「鬼人くーん? 移動しないの?」
気が付けば緑谷のように一人で思案していた。
「あ、ゴメン。ちょっと考えすぎてた」
急いで更衣室へ向かい、慌てて着替えを済ませ、バスが待機している場所へ走る。
「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!」
少々遅れたが、どうにか問題ないようだ。というか、俺と同じくらいに着替え始めたはずの羽川がもうついているのはなぜだ……やはり俺のコスチュームは時間が掛かってしまう。
まぁ、俺のような見た目にこだわった様子のない、非常に機能性に優れたコスチュームだからというのもあるだろう。
うーむ、あれはあれでラインがはっきりしててナイスだが、パジャマ姿も捨てがたいしなぁ……
バスに乗り込み、施設へ向かい始めて数分経てばバス内も賑やかなになり、誰の個性が強いかで話し始める。
注目されるは爆豪と轟だ。緑谷に敗北を喫したと言えど、彼の強さはモニタールームから見てた全員が分かっていた。轟は言う必要ないだろう。
「そういや鬼人の個性も良くわかんねぇよな!」
バスに揺られドナドナ気分を味わっていると後ろの席から上鳴が話しかける。
「障子ほどじゃねぇけど力もすげぇし、素早い。おまけに羽まで生えて、血? 出して武器に出来る」
「確かに、個性の複数持っているような能力の多さだな」
褒められるの滅多にないが、悪い気分にはならない。器用貧乏とも言われている気がしないでもないがな。まぁ、教えといても問題ないだろう。
「あー、単純に言えば弱点の無い吸血鬼かな」
「なるほど……太陽を克服セシ夜の支配者か……」
またまた廚二チックな発言をする常闇だ。俺を同類に引き込もうとしているのだろうか。良いネーミングを思いつけたのか満足げにしている。
「へぇー! 轟もすげぇけど、鬼人も十分チートだな!」
失礼な! かれこれ10年近くは個性の特訓をしてるんだ、運だけじゃないぞ。
その後は、個性がオールマイトと似ていると言われた緑谷が妙に焦っている姿が印象的だったが、爆豪がキレて急に騒がしくなり、相澤が低い声で注意するまで騒がしかった。
大きなドーム状の建物の前でバスが止まる。相澤に引率されて中に入ると、そこには某アトラクションテーマパークに似た光景が広がっていた。テンション上がるなぁー。
「水難事故、土砂災害、火事、etc.……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も、ウソの災害や事故USJルーム!」
そんな説明をしてくれたのは雄英教師であるスペースヒーロー、13号。可愛らしいシルエットの宇宙服に似たコスチュームを着ていて素顔は見えないが、災害救助の場でめざましい活躍をしており、紳士的なヒーローとしても人気が高い人物である。
麗日はファンだったらしく13号の登場に歓声をあげていた。
「えー、訓練を始める前に、お小言を一つ二つ……三つ……四つ……」
13号の増えていく小言の数に困惑しつつも生徒たちは彼の話に耳を傾ける。
彼女の個性は『ブラックホール』。なんでも吸い込みチリにしてしまう個性だが、その個性で災害から人を救い上げている。だが、それは同時に簡単に人を殺せる力でもあると彼は言う。また、今の超人社会は一見成り立っているように見えるが、一歩間違えれば容易に人が殺せるような状況にある。そのような個性を個々が持っている事を忘れないように、と皆に訴える。
「君たちの力は人を傷つける為にあるのでは無い。助ける為にあるのだと思って下さい。以上、ご静聴ありがとうございました」
13号先生のありがたいお言葉に拍手を送る。
「そんじゃあ、まずは…………?」
授業を始めようとした相澤が何かに気づき振り返る。数名の生徒も同じように目を向けると、広場の噴水から黒いモヤが浮かぶ。気づいた生徒が怪しんでいるとき、そのモヤは瞬く間に広がり、モヤの中から人間が顔を覗かせる。
モヤの中からは次々と人間が現れる。
そのどれもが、演技などではない気味の悪い笑みを浮かべており、悪意を抱いていることがわかる。
「動くな! あれはヴィランだ!」
「どこだよ、オールマイト……せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ……子どもを殺せば来るのかな?」
相澤がそう告げるとまだ呆けていた生徒も体中に手を張りつけた男の悪意に満ちた言葉に顔を引きつらせ、本物のヴィランに震える。
「ヴィラン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
「何にせよセンサーが反応してねぇのなら、向こうにそういう事が出来る個性ヤツがいるって事だな。バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
冷静に状況を判断する轟だが、その一言でより緊張が増す。
「13号避難開始! 学校に連絡試せ! センサー対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」
「っス!」
「先生は!? 1人で戦うんですか!?」
緑谷が心配し声を上げる。
皆も同じ気持ちだが、それよりも恐怖が打ち勝っているようで震えるものもいるようだ。
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、生徒を任せたぞ」
「相澤!」
振り返ると、すでに個性を使ったブラック羽川が止める。
「よくわかんにゃいけど……多分あの脳みその男が一番やばい。手のヤツよりもずっと……」
(猫の動物的本能からか……しかし、そう言われてもな)
自分の戦闘スタイルから不可能だと悟りつつも、ヒーローとして生徒を安心させるため、守るため大勢に敵に向かっていく。
相澤がヴィランへ向かってすぐに13号が避難を指示し、動こうとするとき目の前に噴水に浮かんでいた黒いモヤが目の前に現れる。
「初めまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」
目の前に現れたヴィランに生徒の多くは足を止める。この男の発言がハッタリや虚栄の類でないことを分かってしまった。こいつらはオールマイトを殺せるほどの算段と戦力を持っていると言っているのだ。それなのに、唯一対抗できるオールマイトがこの場にいないという現実を理解したくなかった。
ワープの個性、それも大勢を同時に運べるものか……羽川が注意した脳みそもヤバイがこの襲撃の屋台骨はこいつだろう。
ヴィランながらも丁寧な物腰に堂々とした態度。こういう奴には何もさせないのが一番だが、下手に動くことも出来ない。
「その前に俺たちにやられる事は考えてなかったか!?」
爆豪が邪魔で13号は個性を使えない。
「ダメだ! どきなさい2人とも!」
「危ない危ない。そう、生徒といえど優秀な金の卵。散らして、嬲り、殺す」
まずいっ!!! こいつの目的は!!!
全く効いたそぶりもなく、姿を現すモヤが生徒たちを包み込もうと急激に広がる。
13号の『ブラックホール』も必死に吸い込むが、モヤを消えることはなく、ついに生徒ちが包み込まれる。
「羽川ッ!!!」
エナジードレインのことなど忘れ、手を伸ばす。しかし、その手は彼女を掴むことはなかった。
―USJ・火災ゾーン―
「お? 早速来たか! ガキ一人お待ちってか!」
「あぁ? んだよ、女じゃねぇのか」
「いいじゃねぇか! 俺、人間サッカーってやってみたかったんだよなぁ!!」
あぁ、最悪だ……考えればわかることだろ、俺。
あれだけ大見得切って来てんだから、ヴィランがあの程度の数しかいないわけがない。俺たちの分断とヒーロー側への精神に負荷をかけるってことか……
後悔だらけだ。もっとしっかりしてれば……
「どうしたぁ? 怖くて動けまちぇんかぁ!」
「天下の雄英もこの程度か!」
ギャハハハ! と知性の欠片もない笑い方をしやがるバカども。
初めてだ、ここまで殺しても問題ないと思える輩は。
「クソッ、羽川が飛ばされたか見えなかった……」
「ン? こいつバカか? 見えるも何もここで死ぬんだから意味ねぇぜ」
殺すことに抵抗なしか……さっきからどうもテンションたけぇな。
殺すことに快楽見つけてる異常者か慣れてない小悪党か……前者は勘弁してほしいな。ゴミに構ってる暇はねぇ。
広さからして、入口まで飛んで4,5分。ヴィラン次第じゃ死人が出てもおかしくない。羽川も飛ばされた可能性も考えれば、こんな奴らに時間などかけていられない。
「1分だな」
「あぁ?」
ここは挑発決めておこう。
「お前らに構ってあげる時間だよ」
「ヘへへ、面白い冗談だな……ブッコロス!!!」
上等だ。