異世界転生・・・そりゃ一度は考えたことはある。
もし自分が超能力者になったらだとか、未知の世界で冒険するとか、現状への不満の有無を問わず誰しも抱いた感情だろう。
だからといって、なんの説明もなしにいきなり放り込まれるような扱いは流石にひどいと思う。おまけに、当然と言えば当然だが、こっちには以前の世界にはあったような娯楽や作品は存在せず知らない連中がテレビに出ているのは結構堪えるものがあった。国名などの例外もあったが今までの常識は捨てたほうがいいかもしれん。
しかし、一番ショックというか衝撃を感じたのは・・・
「個性・・・超能力的存在か・・・それも人口の8割が所持しているときたか」
PCの前で百面相を繰り返す3歳児であるこの俺はこの世界じゃ「
鬼とか名字にあるのかよ、「狭間」だなんてハイカラな名前だなとか考えたりもしたが、そこは受け入れるしかないのだろう。幸い、この世界の親は俺のことをちょっと様子が変くらいに捉えてくれている。
高校生とかになってたら流石に変化に対応することも難しいし、3歳からなら慣れるのも早いだろう。俺の方はこの年になって子供の振りをするのは結構きついが致し方あるまい。軽い赤ちゃんプレイ程度に考えるしかない。
予想はしていたがこちらの世界では以前の常識は通じないようだ。
それも『個性』なるとびっきりの異常が常識として存在しているのだから頭を抱えたくもなる。
「ヒーロー・・・俺にとっちゃ夢の存在が職業になってんのか」
そこには一抹の寂しさを覚える。
俺にとってヒーローってのは光の超人とか仮面のライダーが記憶に強く残っているため、制度的なものに縛られているのがどうにもしっくりこない。
しかし、当然と言えば当然だろう。『個性』などという超能力的力が発現すれば誰だって使いたくなる。俺の世代ですらまだ「第5世代」、歴としては浅いもので、ある時急に発現したものらしい。
恐らくこの世界にも俺の考えるヒーロー像が存在したのだろう。それが身近なものになれば、憧れだったものになることが出来るんだ、生まれて当然の存在だろう。
光があれば影もある。ヒーローが居れば当然悪役が出てきてもしょうがないだろう。それに、ここじゃ物語のように敵が改心したり、ご都合主義のように誰かが助けてくれるわけじゃない。だからヒーローというものを職業として、制度として成り立たせることで、社会の安寧を守っているのだろう。
「となると・・・俺にも出んのか・・・個性」
その事実にはワクワクが止まらない。こちとら夢を捨てた25歳が3歳になってガキの振りしなきゃいかんのだ。これくらいのサプライズは無いと困る。
「およそ4歳ごろまでに両親のどちらか、あるいは複合的な”個性”が発現するのか・・・」
となると今の俺は3歳、あと1年で出るってことか・・・
「俺の母親はあの見た目からして「吸血鬼」とかそれに関連するモノだろう・・・」
「となると親父がどんな個性かで決まるのか・・・」
出来ることなら母親の遺伝子が強いことを祈る。やっぱり吸血鬼という存在には憧れもあるし、いうなれば人間の上位種的存在なのだから優秀な力だろう。
「しっかし、物語シリーズはないか・・・まぁ、期待はしなかったが」
この世界に来てはじめはワクワクもしたが、良いことばかりではなく特に西尾維新と甲本ヒロトの存在がないことは落ち込んだ。
俺に残っていた最後の娯楽と言えるものが二つとも存在ごと無く、だれ一人知らないのはへこむ。
そうしてこの世界への不満も漏らしつつ、俺はこの世界の情報を集める・・・
◆◆◆
時は飛び、4歳の中頃。
まだ個性は出ない。
正直不安を覚える。この世界でも2割ほど無個性と呼ばれる、個性の存在しない人もいるらしく、この日本だけでも適当に考えても1億。1億の2割なんて当たってもおかしくない外れクジ。
こればっかりは神頼みだ。外れたら外れたらで、前回よりも多少は良い人生を送れたらいい。問題はこの世界じゃ、無個性はゴミクズ扱いされていることくらいだが、大丈夫それは経験済みだ。
ま、なるようになるってやつだ。
「今日は何が食べたい?昨日はお肉だったし今日はお魚にする?」
「うーん、今日は鮭かな!あとトマトジュースも!」
実年齢にして26~7歳の三十路近くがこんなことを言わなければいけないのはこの上ない屈辱だがとうに慣れた。
住めば都ともいう、ガキの振りして飯が食えるなら何の問題もない。それに今までは貰えなかった親の愛を賜っているのだから、これくらいは我慢してもいいだろう。
「分かったわ。お母さんは出かけるからお留守番しててね」
そう優しい笑みを浮かべ、安心させるように言う。
初めてこの笑顔を見たときは、異世界にきて慌てふためいていた心も癒されたものだ。
「うん、わかった!」
少々幼稚気味に答える。ダイジョウブ、演劇してるだけ、俺は子供なんだから・・・
昔、声優に憧れた経験を活かし元気に答える。憧れただけなので技術とか何もわからんが。
母さんが買い物の準備をしてると喉に違和感を感じる。
「いってらしゃーい」
母さんが家を出ようとしたその時だった。
ゴホッゴホッゴホッ
乾いた咳ではなく、口の中に水分と鉄の味が広がり、口元を押さえた自分の掌を見て、青ざめる。
血がついていた。それに血交じりの咳が未だ止まず母さんは慌てて俺に駆け寄る。
「ど、どうしたの!!!ち、血が・・・びょ、病院!!!」
「ゴホッ!ゴホッ!う”ぇゲホッお”え”っ」
血がとめどなく口からあふれ出る。呪いでも掛けられたかのように吐血は止まらず、床全体を血で赤く染める。
(なんだこれ・・・25歳から4歳でリタイアとか・・・冗談じゃねえ)
しかし、依然として吐血は止まらず、体の水分が枯れ果てたと思うほど続く。
そのまま俺は気絶し、そのまま病院へ運ばれた。
「うーん。どうやら個性の発現によるものだね、特に病気とかではないから安心していいですよ」
胡散臭い見た目の医者がそう教えてくれた。
それを聞いた母親安堵のあまり泣き出してしまった。
当人である俺は、個性の発現に喜ぶ半面個性が出るだけでこんな目に合うのかと疑問に思う。
「体とか軽くチェックした範囲では吸血鬼に近い個性だね。考えられるとしたら、体の中にある血液を一度完全に排出して、新たに血液を作り出すことで体を作り変えたんだろう」
それを聞いて軽く納得する。どうやら俺が吐き出した血液はその後蒸発したように消えたらしく、吐血を含めて個性の発現となったようだ。
「しかし、ただ吸血鬼の個性だとは言えなくてね。お母様が吸血鬼の個性なんですよね?」
「は、はい。そうです」
頷く母に、自分の顎を撫で、医者は自身の見解を話し出す。
「お母様の個性によれば、太陽の光は健康上良くないとあるのですが、狭間くんにはその影響が出ないようなんです」
吸血鬼だが太陽が弱点にならない・・・そんな存在を俺は2名ほど知っていた。
「どうやらお父様の個性である「超人」が交わり、どちらの特性も持った、そうですね・・・「半人半吸血鬼」のような個性になったようですね」
「半人、半吸血鬼・・・」
人間でも吸血鬼でもない中途半端な存在。
どうやら神様は俺にロリコンの変態になれと言っているらしい。
この世界はご都合主義とかチートは無いと思っていたが、こんなところでパワー使うなんて思っていなかった。
しかし問題は、俺はバインバインな女の子が好みだ。彼のように幼女に飛びついたりブルマ握って掲げたり、眼球舐めようとしたりもしない。
胸を支える仕事もやろうと考えたことはないし、スカートめくりなんてもってのほかだ。いや、スカートめくりはちょっと胸が高鳴りはするが。
でも、そんな彼でも紛れもなくヒーローだった。
カニのツンデレ娘の彼氏で、蝸牛の神様の友達で、バスケ部の元エースの先輩で、漫画家志望のお兄ちゃんで、そして、本物の天才の初恋の男に、俺は憧れていたんだ。
俺はヒーローになる。
別に、誰かを助けたいとかじゃないし、正義感バリバリな男じゃない。
でもさ、俺だって男の子なんだ。目の前で泣いてる女の子くらい助けられるようになりたい。初めて彼を知った時の気持ちを思い出しただけだ。