猫の少女に拠り所を   作:ムカサキ

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はざまプロローグ

「で、結局あの時お前は何をしたんだ」

 

 羽川の看病を続ける合間に、俺は包帯でぐるぐる巻きになった相澤先生と話をすることになった。羽川のことを含めた俺の個性についてらしい。

 

「出来ることはなるべく明確にしておいた方がいい、もしお前の能力が重症患者も治療できるほどのものなら、悪いがリカバリーガールの後釜を考えてもらう必要が出てきた」

 

 この個性社会とは言え、治療系の個性はとてつもなく希少で有名どころで言えばリカバリーガールくらいしか聞いたことがない。そうなれば、ヒーロー志望の人間が彼女に匹敵するモノを持っていればその後釜としてはこれ以上なくピッタシだろう。

 生徒の夢も大事だが、雄英だって立派なヒーロー育成施設であり、国を支える一つの機関だ。子供一人の夢がつぶれるくらいどうってことないくらいには重要なことだ。それに、リカバリーガールの後釜なんて引く手あまたの有望株として認められたということでもあるから、そこまで問題にもならない。

 

「その、大変残念ですけど、俺の個性にはそんな能力はないと思います」

 

「はっきり言ってしまうが、なら羽川はなぜ生き返った? 監視カメラの映像ではあれはリカバリーガールでもどうにもならない傷だった」

 

 それはあなたにも言えることだとは思いますがね。頭蓋骨粉砕って感じでしたけど。

 しかし、やはり言わなければならないか……ひた隠しに出来るようなことじゃないしな。

 

「……俺が羽川にしたのは、治療じゃないんです。『半人半吸血鬼(ハーフヴァンパイア)』の個性で、眷属化を行ったんです……」

 

 それだけで不可能なことが理解した相澤先生は顎に手を当て、少し残念そうにする。

 

「そうか……それじゃあ、おいそれと出来るものでもないか」

 

「そもそも成功確率自体がとてつもなく低いんですよ。多分なんですけど、ブラック羽川が無理くり手繰りせて、なんとか形に収めたようなもので、常人だったら下手すれば出来損ないのゾンビになってもおかしくなかったんです」

 

 起こりうる可能性をすべて話す。これ以上の隠し事は特にならないからな。

 

「それに……勘でしかないんですけど、多分もう成功しない気がするんです」

 

 あれは強烈なまでの想いとブラック羽川の頑張りが実を結んだ結果だと思う。今後、成功するとしても羽川くらいのものだろう。

 

「分かった、リカバリーガールには俺から話をしておく……それと……すまなかった。本来俺は生徒を守る立場にもかかわらず、責任を負わせてしまった」

 

「い、いや、そんなことないです! 相澤先生が体を張って皆を守ったのは承知のことです」

 

 現に、羽川よりも苦しめられたのは相澤先生だろうから。

 

「それでも、羽川を助けたのは紛れもなく、お前だ。だから、そこまで気負わなくていい」

 

「……はい」

 

 最初は無慈悲で厳しい先生だと思っていたが、それは生徒のことを思っての行動だと、彼の優しい表情からやっと気づいた。

 

 

 

 話し合いも終わり、保健室まで移動する間に少し考える。

 顔から火が出るほどにアチアチな経験などしたことのない俺は当然、前世も含めてのファーストキスを経験した。

 それも、本来なら淡い期待と寂しさで終わるだろう初恋で、体験してしまった。

 彼女の照れ隠しを含んだ、小悪魔のようなクスッとした笑みにノックアウトされた俺は、その後に起きた事象の記憶は覚えていられなかった。

 

 ドリーミングな体験をした俺だが気を緩めるわけにはいかない。俺の実力不足が原因で羽川の生死が危うくなったのは事実だ。

 そもそも雄英に入学してまだ1か月も経っていないというのに事件が起きすぎな気もする。そういう星の下に生まれたのか、はたまたヴィラン達の中でなにか大きな動きでもあるのだろうか……

 

 そうなれば、可及的速やかに新たな技の開発を進めねばならないが、どうしても思いつかない。肉体変化は、恐らくだが才能のあたりから丸々ないのだろう。

 しかし、眼力や魅了なども想像が出来ない。頭にイメージすら湧かないようなものでは、完成形を大したものにはならないだろう。特に、俺のような怪異がモチーフとなっているような個性では、感覚的にだが一番想像することが重要な気がするから。残された武器は相も変わらず、物質創造能力くらいだが……

 

 

 

 翌日は臨時休校となり、万が一を考えて学校で様子を見ることになった羽川を見舞いに来たりと、それなりに皆忙しくしており、とてもじゃないが休まる一日とはならなかった。

 

 緑谷・峰田・蛙吹・オールマイトが見舞いに来たときは、流石に部屋の中がブルーな雰囲気にはなっていた。しかし、それぞれ思うところもあったようで、緑谷だけでなく、2人も決心した目つきをしていたため、ただ申し訳ないという気持ちで見舞いに来たのではないと感じた。

 

 ちなみに俺と羽川は雄英に泊まり込みで様子を見ることになった。まぁ、万が一があればどうにかできそうなのは俺だけということもあり、雄英側からのお願いでそうなった。第一、あの家庭ではろくに休息など取れやしないため、羽川にとってもいい休息にはなっただろう。

 ちなみに間違いなど起きてないよ、別におっぱい交渉とかなかったし……

 

 そして特に問題もなく、日光の影響をないようなのでその翌日には通常の学校生活へと戻ることになった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 朝6時、今日はあることがしたくて寝ずに夜を明かした。

 眠っている羽川の頭をぽんぽんと叩き起こすというイケメンにしか許されない行為を行った。

 ……なんだその目は別にいいじゃないか! 実年齢40手前でも今は15の彼氏なんだ、気を引き締めるのとは別にちょっとくらい調子に乗らせてくれ。というか、もうとっくに自分を40代だとは思えなくなった、やっぱり環境って大事だ。

 

「んっ、鬼人……君?」

 

「おはようございます、お嬢様。朝でございます」

 

 なんつって。あなたを小突いたのはルンバじゃなくて人の手ですよ。

 

「おは……よう」

 

 流石の羽川も寝起きはあまり頭が回っていないようで、少しくらくらとしている。それがまた可愛い。ウオオオオオオオオ!!! 

 

「目覚めのコーヒーはいかがでしょうか?」

 

 もちろん味はブラックだ。

 

「うん……もらうね」

 

 甘党派の俺にはとてもじゃないが飲めないブラックコーヒーを口に入れると、頭が回り出したのか、顔が真っ赤になる。

 おやおや、寝起きの自分を見られるのは恥ずかしいのだろうか、ういやつよのう。

 

 コーヒーをグイッと一気に飲み干し、すぐさま部屋を出て、どこかへ行く羽川。多分寝覚めと場から離れるためにシャワーにでも行ったのだろう。

 うーん、これって朝チュン的な分類に入るのだろうか……と下らないことを考えていた。

 

 教材などもあらかじめ用意して泊ったため、校門前のマスコミらを回避することに成功した。流石に襲撃事件は隠せるものではないため、校門前にはオールマイト就任時よりもはるかに多くの記者が集まっており、あれを抜けるのは大変だろう。

 当然俺達以外の生徒にも迷惑は掛かるため、全く非はないのだが、少しだけ申し訳なく感じる。

 

 それにしても、雄英の風呂とか施設の完備されぐわいに少しだけこの税金泥棒め! なんて思ったりもした。しょうがないじゃない、高級ホテルとまでは言わないがそれでも俺の家庭よりは確実に上で少し悔しくなったのだから。

 

「おはよう、今日も早いな羽川さん。それに鬼人君も?」

 

 普通の登校時間からだいぶ早めに来た飯田だ。

 あと、やっぱり普段の羽川はこれより早く来ているのか。

 

「おはようございます」

 

「おはようさん。あー、俺と羽川は泊ったから早いとかないな」

 

「鬼人君かい?」

 

 あ、忘れていたが、あの場にいた数名以外は羽川を蘇生したのは俺だということは知らないのだった。大半は重症の羽川を俺がリカバリーガールの下へ連れて行ったのだと思っている。

 

「まぁ、俺もいろいろ用事があってな」

 

「……深くは聞かないほうがいいかい?」

 

「そうだね、流石に言えないから」

 

「そうか、じゃあ忘れよう!」

 

 意外とこいつ、真面目君に見えて変わり者のいい奴だな。

 その後はHRが始まるまで、羽川を労わる皆に囲まれる彼女をボケーっと見ていた。

 

 朝のHRではミイラのような状態で復帰する相澤先生に恐怖と驚きと尊敬を抱いた生徒たちに自分の安否よりも重大なイベントである雄英体育祭が迫っていると告げる。

 学校的イベントに喜ぶもの、襲撃事件の後で大丈夫なのかと心配になるものが騒ぐ。

 

 しかし、警備の数を5倍に増やし、逆に雄英の危機管理は盤石だと示すために開催するとのことだ。それにこの雄英体育祭は俺が知るオリンピックに代わるものらしいため、年に3回しかないチャンスを潰す訳にもいかないということだ。

 こうしてHRは締めくくられ、2週間の猶予を無駄にするなと相澤先生からの激励を受ける。

 

 昼休み、クラスは体育祭の話題で持ち切りとなり、皆戦々恐々としているなか、峰田が話しかける。

 

「あー、羽川、鬼人借りてもいいか?」

 

「良いけど、どうしたの?」

 

「体育祭のことでよ……」

 

 俺の都合は完全に無視のようだ。というか、所有権は羽川が持っているのか? 別に構わないが。

 

「で、なんだ? 体育祭のことって」

 

 やっと会話に参加できた俺が峰田に尋ねる。

 

「……頼む! オイラの特訓に付き合ってくれ!」

 

「いいよ」

 

「鬼人だって雄英体育祭の準備だってしたいのはわかってるけどよ、このままのオイラじゃどうしようもないんだ! ……え?」

 

「いや、別にいいよ。付き合うって」

 

「いや、なんで……そんなあっさり」

 

「なんでって、お前の個性って戦うってなったらだいぶメンドクサイぜ? 俺だって接近戦仕掛けるときは普通にあるしよ。簡単にテリトリーに入れないだろ? お前のもぎもぎ使われたら」

 

 前々から思っていたが、どうしてこいつは自己評価が低いのだろうか? そりゃ轟とか爆豪みたいな無効化できる奴には難しいと思うが、切島あたりだったら完封も可能だと思うが……

 

「でも、流石に限界数が酷いからそこから鍛えないとな……あ、羽川もいいか?」

 

「大丈夫だよ。でも、あれってどのくらい離れないの? 訓練だと青山君たち、鬼人君に切り離してもらったから動けていたけど……」

 

「まぁ、顔面なしで全身覆って何か着ていれば問題ないだろ」

 

 そんなこんなで峰田の特訓に付き合いつつ、俺は自分の新技の開発に勤しむ2週間となった。

 

 そして、雄英体育祭本番を迎えた。

 

 

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