鬼人狭間、12歳ピカピカの6年生だ。
実年齢にして37歳だ。37歳が小学校に行って算数や国語を学んでいるのは傍から見ればどのように見えるのだろうか。確かに見た目はただの小学生だが、心は立派な中年。子供に交じって鬼ごっこしたりするほど心に余裕はない。
もとより、小学生の振りをするだけで疲れるのにおまけに遊びまで付き合っていたらきりがない。別に友達がいないわけではないが、考え方も趣味もまるっきり違うものたちと長時間一緒に居るだけで結構苦しいのだ。
「はざまくん! 今日は何するの? 今度は空手やろうよ! 空手!」
「あー、昨日と同じ」
「えー、また走るのー? もう飽きたよー」
「体力はどんな時でも裏切らない、つけてて損はないんだ。第一、空手やろうにも手本がねえよ」
しかし、そんな中でもできた俺の親友こそ『緑谷出久』だ。
彼は、無個性だった。2割の外れクジ、いやそれよりもっと低いかもしれない最高に運の無い少年。それが彼だ。
3年前、クラスのガキ大将を気取っている奴が彼をいじめているのを見たのがきっかけだった。
その時は無理やり引きはがして事情を聴いたが、うんともすんとも言いやがらねえからこいつのクラスに行っていろいろ聞いてきたがひどいもんだった。
子どもは時に正直で残酷だ。大人は手加減をする、相手が自分の発言で傷を負えば、多少は負い目を感じるからだ。
しかし、子供にはそれがない。例外もいるが、多くは自分たちと変わった存在を見下し、バカにすることでその場の空気を作る。時に恐ろしく感じる。
それと同時に俺には解決不可能だと感じた。
どれだけ緑谷が努力しても彼が無個性だという事実は決して変わらない。
どんなに願って個性が勝手に宿ることなどない。負け組が決まってしまったようなものだ。
なのにこいつは自分がヒーローになることを夢見ている。
たいした努力もせずにただ、こうなれたらいいという願望だけを口にする。
それがたまらなく気持ち悪く、いらいらした。昔の自分と同じだったから。
だから、一緒にヒーローを目指すことにした。見捨てるほど腐っちゃいないし、一人で特訓してても寂しいだけだ。それに実際に取り掛かれば意外とこいつも化けるかもしれない。そう思って始めた。
その予想はあながち外れでもなかった。
「だってはざま君凄い早いもん。全然追いつけないしさ」
「いや、俺学校でほぼ1位だぞ。勝って当たり前だ」
こいつ、最初はただのオタク気質の子供と思っていたが、意外に根性ある。
それに、ヒーローについて考えたりまとめるのが趣味だったのが転じて、自分なりにどう鍛えたらいいかを勝手に勉強して実践する。
所謂行動派オタクってやつだ。
今までは周りから下に見られ続けて、努力する気力すら起きないようだったが、尻たたいて引っ張るヤツがいると大きく変わった。
学校でも少しずつ自信が出てきて、今まではいじめっ子にただ止めるよう懇願してたのがいつの間にか跳ね除けるようになって、感動しちまうぜ。
「ちぇ、じゃあさアレやってよ。文字作るヤツ!」
「いや、なかなかの集中力いるんだぞあれ」
ここでアレアレ言っているのは俺の個性の能力の一つだ。
吸血鬼に備わっているあまたの能力の一つとして俺が使える数少ないもの。
それが具現化能力だ。
俺には植物になりたいなんて願望は無いし、自分の体が変わることへの抵抗が少なからずある。翼はやしたりとかは別だが、人型から離れるイメージがどうしてもわかない。
しかし、代わりと言ってはなんだが、思いつきやすいものが一つあった。それは、血液だ。最初の個性の発現でも起きた大量の吐血。
そして、今まで見たサブカルチャーの数々が俺にたくさんの発想とイメージをくれ、なんとか血液をもとに具現化能力だけは形にすることが出来た。
イメージで言うと、お嬢様吸血鬼が持っている槍。あんな感じだ。
あれを自分の血を媒体として作成する。
現状は手のひらサイズくらいしか作れていないが、いつかはあのくらいのサイズに出来ると確信している。こういうのに一番大切なのは思い込むことらしいからな。
「ハンデだよ、ハンデ」
「変なところで競争したがるな……」
そんな時間を緑谷と過ごす。結構悪くない日常だ。
「そういえば、はざまくんは中学どこにするの?」
「ん? 折寺中学だけど、緑谷は?」
「僕も! よかったーはざまくんが居なかったら、また一人ぼっちだったからさ」
安堵した様子の緑谷。
彼自身が明るくなっても、昔からの雰囲気はどうしても変わらないようだ。ましてや彼のクラスにはあの野郎がいるのも原因の一つだろう。
「かっちゃんも同じだったからさ、ちょっと不安だったんだ」
「またあいつと3年間過ごすのか……緑谷も大変だな」
少し気の毒に思うが、あれはあれで緑谷を強くしてくれるし、なんだかんだで腐れ縁みたいだしな。たまに行きすぎるが。
◆◆◆
折寺中学校、入学式
校長の長ったらしい話も聞き終えて、教室に集まり自己紹介をすることになる。
「それじゃ、まずは爆豪から」
「……爆豪勝己ッス、個性は爆破」
淡々と自己紹介を終え、そのまま席に着く。
入学して早々変なことはしでかさないようだ。
そのまま順番は進み俺の番がくる。
「えー、鬼人狭間です。個性は半人半吸血鬼です。これから1年間よろしくお願いします」
丁寧かつ、コンパクトな挨拶。完璧だろう。一時期はSOSを叫ぶ団の真似をしたくなった時もあったが、やっぱり一番は普通かつ目立たないこと。静かに過ごすのが一番ってもんさ。
「羽川翼です」
バンッ!!!!
クラスの視線が俺に集まる。
さっきまで静かに暮らしたいとか言っていた奴がいきなり席を立つが、致し方あるまい。自分だけが知っているはずの名前をいきなりいう奴が現れたんだ。驚きもする。
「あ、いや、すいません。ちょっと虫が……」
とりあえず誤魔化すが全然落ち着いていない。
「えっと、自己紹介に戻りますね。羽川翼です。個性は……猫みたいなものです」
大声を上げそうになるのを必死で我慢する。
今までは、個性が阿良々木もどきだったりしたが、こんなことは予想だにしていなかった。
しかし、確信せざるをえない。
だって、三つ編みで眼鏡で、猫と関わりがあって、名前が羽川なんて、この世のどこを探してもそんなそっくりさんはいないだろう。
そこには、まごうことなき天才中の天才、猫に取りつかれた少女、羽川翼がいた。