猫の少女に拠り所を   作:ムカサキ

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はざまサブリーダー

晴れて中学生になり、これからは受験に向け一層考えていかねばならないと思っていた矢先にこの出来事は脳のリソースを大幅に占拠し、ほかのことは何も頭に入らず、緑谷との訓練も中止することになった。

 

 世界には自分とそっくりな人が3人はいると言われているが、それがある作品の登場人物だった場合、どういう反応ををするのが正しいのだろう。

 

 問題は彼女がそっくりさんなどではなく、紛れもない「羽川翼」だと確信できることだろう。確かに名前が一緒だとか見た目が瓜二つだとかそんな表面上の理由もあるが、一番は俺の持つ個性と「なんとなく」そう思うのが正しいと思ったからだ。

 

 過去に戻った阿良々木君も一目で幼女の彼女を羽川翼だと判断できたように、俺もこれがアニメや絵の世界じゃなく、現実ならこんな顔になるんだろうなとなんとなくだが納得できた。

 

 納得は出来ても理解は全くできないが、「半人半吸血鬼」と「羽川翼」が同じ空間にいるなんて、神様のイタズラと運命の出会い的なことと考えるしかできない。

 まったく、俺は運命を操れるほうの吸血鬼じゃないのに困ったものだ。

 

 ここで発生する問題は彼女の個性についてだ。

 

「猫」のような個性。たぶん、ブラック羽川のことだろう。

 本人でさえよく把握できていないことから、発動すれば人格も変わるのだろう。

 それに、エナジードレインも「障り猫」を知らなければ、猫との関係性だってないからよく分からないのだろう。

 

 長々と話したが、今のおれが第一に優先すべきことは彼女をもっと知り、休日の散歩を増やすことだ。

 

 ここまでの共通点を考えると、そうでないことを願うしかないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

「えー、それじゃ学級委員は羽川で決まりだな。じゃあ次は副学級委員だが、やりたたいやついるか?」

 

 右手を天高く伸ばし、立候補するのは俺だ。

 

「鬼人だけか? じゃあ決定だな」

 義務的に拍手をし、次の委員を決めるため早々に切り上げる教師。

 

 本来なら学級委員のような雑用係などごめんだが、羽川が委員になることは確信していた。何の接点もなしに話しかける勇気などない俺には、これが一番手っ取り早い方法だと思い、いの一番で手を挙げた。

 

 

 

 

「えっと、まぁ改めて鬼人 狭間です」

 

「こちらこそ、羽川翼です。これから1学期の間だけどよろしくね」

 

 おぉ、丁寧な中にフランクさが垣間見える。ガチガチな俺とは大違い、この頃から人間として完成されつつあったのだろう。

 

「ところで……あの、何するの?」

 

 放課後、中学生にはやや不相応な量の資料を教室に運び、残るように言われた俺は羽川に尋ねる。

 

「え? ああ、鬼人君にまずはクラスのみんなを覚えてもらわないとね」

 

「え、なんでそんなことを?」

 

「まずはクラスのみんなのこと知らなくちゃでしょ?」

 

 いや、少なくとも俺が子供の時はそんなことしてるやついなかったが。

 

「私は覚えるようにしてるけど、今まで副委員長やってくれた人たちは覚えてなかったから、一応持ってきたんだけど、いらなかった?」

 

 いや、覚えてないという点では当たってるが、なぜにそんなことを。

 というかもう覚えてるのかよ。

 そういえば、面識のない阿良々木のことすら知っていたんだ。確かに校内唯一の不良ではあったが、いちいち顔まで把握なんてしないだろう。

 

「そ、それは時に任せてって感じで、いいんじゃないか?」

 

「もーだめだよ。中学校でも学級委員長はやることが多いんだから。それに名前と顔を一致させるだけならすぐだよ」

 

 いやしかし、まだ始まって2日目だぞ? 軽く挨拶するために残ったのかと思えば、いきなり詰め込む受験生の気分を味わう羽目になるとは……

 正直、ちょっと羽川を甘く見てた。天才だし、究極的な人間性もあるのはわかっていたが、それを当然だと思っているのも彼女足らしめる問題の一つだった。

 

「いや、流石に委員とはいえ全員の名前はちょっと……」

 

「プラシーボ効果だよ。ダメだと思ったらだめだし、出来ると思ったら出来るよ」

 

 プラシーボってそんな便利な言葉だっただろうか。

うぅ、断れない……これが羽川じゃなかったら冗談じゃねえって突っぱねるのだが。まず羽川以外にこんなことしようとするやつ知らんが。

 

「就任して早々、伝説の教師の真似事をする羽目になるとは」

 

「鬼人君は偽教師でも中年でもないよ、私も付き合うからまずは個性はおいて顔と名前は覚えるようね」

 

 何で深夜ドラマのネタを知ってるんだ。

 そういえば阿良々木君もこんな感じでよく残っていたが、こんな感じで雑事とかやっていたんだろうか。彼の苦労なんてわかりたくなかった。

 

 しかし、本来の目的である羽川について知るには時間はあればあるほど良い。これも関係を築くための一つの布石と考えておく。

 

「学級委員ってこんなこともするのか……」

 

「昔は学級全体を6人でまとめていたんだから、楽になったほうだよ」

 

 いや、いつの話だそれ。個性云々よりよっぽど前じゃないか。

 それに、その時代でもいちいち全員の名前を憶えていたとは思えん。

 

「じゃあ、もともと知り合いの人は外すから教えて」

 

「えっと、○○と……○○もだな」

 

 10分ほど、雑談をしつつ暗記に勤しむ。

 

「そういえば、鬼人君の個性って半人半吸血鬼なんだよね」

 

「ああ、そうだけど」

 

 少しの沈黙が続き、別の会話を広げる。

 なんだか気を使われているようで申し訳なく感じる。本来は俺がもっとのめりこんでトークしなければならないのに。

 

「となると、吸血衝動だったりないの?吸血鬼のイメージだと、日光だったりにんにくに弱いとか」

 

「吸血自体は一応できるけど、別に不要であるな。吸血鬼に有名な弱点も特にないし……」

 

 別に俺はリンクする吸血鬼もいなければ、眷属も作る気なんてないから吸血行動をしたことはないし、考えたこともなかった。

 

「そうなんだ。血が関係する個性の人はヴァンパイアフィリアだったりレンフィールド症候群みたいなものが起きやすいっていうから気になってたんだ」

 

「レン……なんだその病気」

 吸血鬼に関係ある俺が知らないのをなぜか知っている羽川に聞き返す。

 

「いわゆる好血病だね。吸血衝動がある人のことを言うんだって。個性が出る前は人が吸血鬼になる病気だって怖がられてたんだよ」

 

 ちょっとだけ、いやかなり、とあるセリフが聞きたくなり、思わず尋ねる。

 

「へぇー、羽川さんってなんでも知ってるな……」

 

「なんでもは知らないわよ、知ってることだけ」

と、彼女は俺が想定していた言葉を返してくれる。

 

 ……ヤバイ、自分で誘発させてなんだが超にやけそうだ。

 こっちにとっちゃご本人登場だなんてレベルのものじゃない。いつかは聞きたいなぁなんて軽く考えてたが、こんなグッドタイミングが起きるなんて。

 

 変に笑み浮かべてると気味悪がられてしまうので急いで話を変える。

 

「羽川さんの個性って猫だったよね。猫みたいなことが出来るってこと?」

 

「うーん、ちょっと説明が難しいんだよね。発動型なんだけど、自分の意識が薄くなっちゃうの」

 

 ふむ。ブラック羽川で確定だな。ほかのことは後々知っていければいいが、あと3日は経たないと休みにならない。問題はそこからだな。

 それに変に聞きすぎるのも良くないしな。

 

 そのまま羽川直伝の暗記方法を実践しながら、くだらない会話を続ける。

これとって中身はない、本当にくだらない話だったが、俺の人生において最も輝いていた時間だった。

 

 

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